愛する人のためにできること。

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戒め

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 ついに長期休暇が明けてしまった

 私はドレスに着替えると、鏡の前に座ってサリーに身支度を整えてもらう。
 手を出さないという戒めのために、髪型を縦ロールをやめて特に手をつけず流したままにしてもらう。化粧も前はバチバチでとても濃かったが、ほとんど手を施さず薄めにつけてもらった。

 以前の私ならしばらく会えなかったジーク様に会えると大喜びしていただろう。
 だが自分の結末を知ってしまった今は、ジーク様とリアトリスが仲睦まじくしておられるところを見てしまうだろうという憂鬱な気持ちと、ジーク様に会えるという喜びが混ざって複雑なよくわからない気分だ
 鏡の中に映る自分の表情も、なんだかよくわからない顔をしている

 さらに今日はパーティーがある
 エスコートは婚約者であるジーク様だ、ファーストダンスも踊るだろう。
 もちろん好きな方と一緒ということは嬉しいのだが、ジーク様は私のことを好んでおられないと知っていて共に行動するのは苦しいし悲しい。
 それにはっきりとは覚えていないが、今回のパーティーでも何かが起きるはずだ。
 何が楽しくて好きな人が別の女性と仲良くしておられるところを見なければならないのだ

 ーーいっそのこと、物語通り邪魔してやろうか

 そう思ってしまったが、私はリアトリスに手を出さないと決めたのだ。絶対にしない。

 それに、私はジーク様の手助けをするとも決めたのだ。ダンスを終えたらすぐに立ち去るとしよう。それから、好きでもない人から名前呼びをされるのもあまり嬉しいことではないだろうから“殿下”とお呼びしよう

 ーー全ては、あの方の幸せのため

 そう言い聞かせて、膝の上で両手をギュッと握り自分の醜い感情を隠した







 学園生活は殿下は学年が違うしリアトリスともクラスが違うので特に何も起きず、終了した。髪をおろし化粧を薄くしたためか、周りは少しざわついていて視線がいつもより多かったくらいだ。今はパーティーのためにドレスに着替えている

 今までの学園生活では、休み時間になるたびに殿下のところへ行き他の女性たちを威嚇していたのだが、私は手を出さないと決めたために行かなかった。なので今日は一度も殿下とお会いしていない。ということは、私の知らない間に殿下は他の女性たちと仲良くお話ししているかもしれないということで。学年が違う時点でそんなことは前からあっただろうがその機会が増えたということだ

 ーーいつも会いに来る私が訪れないことを不思議に思っているかもしれない

 それは自惚れ過ぎかと思う。
 私には興味がないのだ、今日一日一度も会っていないことも特に気にしないだろう。

 そう考えて途端に悲しくなる
 私は他の女性たちと関わるということをとても気にしているけど、殿下は私が急に会いに来なくなったことを気に咎めもしない。

 『なぜ』と再び考えそうになり、その気持ちを鎮める。
 そのことについては、以前十分に悩んだ。これ以上うじうじしているわけにはいかない。
 今までわがままに過ごしてきたのだ。冷静になった今、私はヴァンガー家の長女として相応の態度をとらなければ、と気を引き締め全身の映る鏡の前へ立つ。

 今日は紺碧の、下にゆくにつれて濃くなるグラデーションのかかったドレスだ。露出もレースも少ない。
 物語を思い出す以前に用意していたドレスは、濃いピンクにレースがふんだんに使われており、露出の多いものだった。
 私には似合わないと今ならわかるが、あの時は殿下に褒めていただこうと、見惚れてほしいと必至だったのだ。だが、今となってはその必要もないのであまり目立たず派手でないものを選んだ。その方が私には似合うだろうと

 最後にクォーツのブレスレットを左腕につける。10歳の誕生日に殿下からいただいたものだ。覚えていらっしゃらないだろうが

 ーーあの時の殿下は可愛かった

 『お誕生日おめでとう、エリー』と言ってこのブレスレットを私の左腕につけると、私の目を見て何か決心されたような顔になり私の頬に柔らかいものをあてた。一瞬何が起きたのか分からず動きが止まったがすぐにキスだと気づき驚いてその顔を見てみたら、爆発するんじゃないかと思うくらいに耳まで真っ赤にさせて『見るな』と言って狼狽えていた

 あの時にはもう私に興味などなかったのだろうか。婚約を破棄するほどに嫌われていたのだろうか。

 そう考えて何も知らなければよかった、と思った。知らぬが仏とはこういうことなのだろう。

 庭園を歩く時に握ってくれた手、人の前ではあまり変えないが私の前ではコロコロ変わる表情、触るとフワフワしていて気持ちがいい髪、少し小さめの耳、『エリー』と呼んでくれた声。
 全てが愛おしい。

 ーーでも、その行動は過去で、無理をしていたのですね

 泣きそうになった。でももう行かねばならないのに、泣くわけにはいかない。
 私は両手をグッと握りしめ涙を堪えると、背筋を伸ばし顔をあげ、門の前で待つ殿下の元へむかった
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