愛する人のためにできること。

文字の大きさ
上 下
2 / 21

私にできること

しおりを挟む
 物語を思い出してから5日経った

 ジーク様とリアトリスの仲を深めるために手を尽くすと決めたものの、具体的に何をするのかは何も決めていない。今はちょうど1年目の夏の長期休暇中で家にいるが、あと3日ほどで学園に戻ることになる。それまでに戻ってからのことを考えておかなければならない

 まず、物語のことを思い出してみる

 舞台は私が今通っている学園で、ヒロインが入学してきた時点で始まる。
 ジーク様とは学園内で迷子になっているところを助けてもらう、それが出会いだ
 そのあと、生徒会は成績順で選ばれるため優秀なヒロインは副会長がジーク様である生徒会に入ることになり、日常生活や夜会などで関わることが増え、仲を深めていくのだ
 そして、最後にあのエミリアの断罪シーンが終わった後に将来を誓い合ってハッピーエンドだ

 私の役目はヒロインをいじめること。
 最初は罵る程度だったのだが、ジーク様とヒロインの関わりが増え、自分からどんどん離れていくのに耐えられなくなったためにどんどん行動はエスカレートして行き、水をかけたり、頑張ってヒロインが自分で作ったり攻略対象の誰かにもらったドレスにジュースをかけたり、階段から突き落としたりなどをしてヒロインの邪魔をするのだ
 だが、私は気づかなかった。その行動が逆にジーク様とヒロインの仲を発展させるきっかけになると。

 ーーじゃあ、私はリアトリスを虐めればいいの?本来の流れ通り

 いいえ、それはダメだわ。と冷静になった今ならわかる。虐めること自体もダメだけれど、それ以上にお父様のお顔を汚してしまうことになる。
 昔から愛を持って厳しく育ててくださったお父様。昔は、ずっと私を愛しておらず、ただ我がヴァンガー家の駒にするためだけに厳しく育てられているのだと思っていた。
 けど、今ならわかる。お父様は私を愛してくださっている。ここ3日間も物語のショックで引きこもっていたのだが、心配してくれていたみたいだ。少しわかりづらいけど
 だから、私はそんなお父様の邪魔になってしまうような行為をするわけにはいかない
 それにお父様だけでなく、婚約者であるジーク様のお顔にも泥を塗ってしまうのだ。それだけは、絶対にしたくない
 幸い、物語でいえば今はまだ始まったばかりで、私はリアトリスに暴言を吐き始めたところ。人にも見られてもいない。間に合ってよかったと思う。暴言を吐くことが許されることというわけではないけれど、まだ私が物語の中ですることのなかではマシな方だろう。

 家にもジーク様にも迷惑をかけず、2人の仲を深めることができる方法…ダメだわ、何も思いつかない

 ああ、そういえば、この長期休暇の間にもジーク様とリアトリスの仲を深める出来事があったはずだ。
 確か、ジーク様が街に出かけた時にたまたまリアトリスと会い、一緒に店を周るというものだったはずだ。

 ーージーク様はなぜ街に出かけたのだったかしら?…思い出せないわね

 ただ、今日までに起こったことなのか、残りの3日間の間に起こることなのか、もしくは今現在起こっていることなのか。それはわからないけれど、2人が一緒に歩いて、笑いあっているところを考えただけで、泣きそうになる。胸が締め付けられたように痛む。息が、苦しい。

 ーーなぜ、なぜなの。なぜ、私はこんなにも愛しているというのに、貴方は私を愛してくださらないの。

 自分の中にいる醜い私が、そう訴える。
 わかっている、私が愛されない理由なんて。私の未来を知った時点で、わかってしまった。

 思い出さなければ、やってきたであろう未来。
 思い出して愛されるよう頑張っても、きっと、絶対、愛されない現実。

 全て私の自業自得。全ては私のわがままのせい。

 それをわかっていて、愛されたいとどこかで願ってしまう私は、醜い。

 ーー愛されないとわかっているから振られるその時までとなりで歩くことを願ったというのに、それ以上のことを望んでしまう私は、とてもわがままね。

 醜い私は振られて当然。
 優しくて明るく、人を惹きつける魅力のある彼女は幸せになる資格がある

 だから、彼女とあの人は幸せにならなければならない。それがこの世界の法則

 2人が幸せになるまで、私のなかの醜い私には蓋をしよう。
 私は、2人の幸せのためだけに存在する、道具なのだから。

 だから、2人の邪魔にならないよう、ジーク様には必要最低限しか話さないようにしよう。リアトリスと一緒にいても無視しよう。
 醜い私の蓋が、開いてしまわないように。



 きっとそれが、今の私にできることだから。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

兄がいるので悪役令嬢にはなりません〜苦労人外交官は鉄壁シスコンガードを突破したい〜

藤也いらいち
恋愛
無能王子の婚約者のラクシフォリア伯爵家令嬢、シャーロット。王子は典型的な無能ムーブの果てにシャーロットにあるはずのない罪を並べ立て婚約破棄を迫る。 __婚約破棄、大歓迎だ。 そこへ、視線で人手も殺せそうな眼をしながらも満面の笑顔のシャーロットの兄が王子を迎え撃った! 勝負は一瞬!王子は場外へ! シスコン兄と無自覚ブラコン妹。 そして、シャーロットに思いを寄せつつ兄に邪魔をされ続ける外交官。妹が好きすぎる侯爵令嬢や商家の才女。 周りを巻き込み、巻き込まれ、果たして、彼らは恋愛と家族愛の違いを理解することができるのか!? 短編 兄がいるので悪役令嬢にはなりません を大幅加筆と修正して連載しています カクヨム、小説家になろうにも掲載しています。

あなたは誰にもわたさない

蒼あかり
恋愛
国一番の美しさを誇るフランチェスカは、今宵もまた夜会で令嬢達からひどい仕打ちを受けていた。彼女を慕い、彼女の愛を欲するがあまり、その身を亡ぼす若い令息たち。そんな彼女に対し、執着にも似た想いを募らせ、彼女を見守り続けるフロイド子爵。いつしかその想いは狂愛と呼べるものへと変化していく。  王命により夫婦となってもなお、ふたりの想いが交わることは無く、変質的な愛を刻み続けていくのだった。  ただ、変態的な愛を書きたかっただけで、話の内容に意味はありません。  人から見たら引いてしまうような愛し方しかできない男女のお話しです。  途中「気持ち悪」って思ってもらえたら、作者的には大成功です。  どうか、自己判断でお読みください。

【完結】苦しく身を焦がす思いの果て

猫石
恋愛
アルフレッド王太子殿下の正妃として3年。 私達は政略結婚という垣根を越え、仲睦まじく暮らしてきたつもりだった。 しかし彼は王太子であるがため、側妃が迎え入れられることになった。 愛しているのは私だけ。 そう言ってくださる殿下の愛を疑ったことはない。 けれど、私の心は……。 ★作者の息抜き作品です。 ★ゆる・ふわ設定ですので気楽にお読みください。 ☆このお話は完全フィクションです、創作です、妄想の作り話です。現実世界と混同せず、あぁ、ファンタジーだもんな、と、念頭に置いてお読みください。 ☆作者の趣味嗜好作品です。イラッとしたり、ムカッとしたりした時には、そっと別の素敵な作家さんの作品を検索してお読みください。(自己防衛大事!) ☆誤字脱字、誤変換が多いのは、作者のせいです。頑張って音読してチェックして!頑張ってますが、ごめんなさい、許してください。 ★小説家になろう様にも公開しています。

自称ヒロインに「あなたはモブよ!」と言われましたが、私はモブで構いません!!

ゆずこしょう
恋愛
ティアナ・ノヴァ(15)には1人の変わった友人がいる。 ニーナ・ルルー同じ年で小さい頃からわたしの後ろばかり追ってくる、少しめんどくさい赤毛の少女だ。 そしていつも去り際に一言。 「私はヒロインなの!あなたはモブよ!」 ティアナは思う。 別に物語じゃないのだし、モブでいいのではないだろうか… そんな一言を言われるのにも飽きてきたので私は学院生活の3年間ニーナから隠れ切ることに決めた。

愛されない妻は死を望む

ルー
恋愛
タイトルの通りの内容です。

例え愛される事などないと分かっていても私は─

まな
恋愛
その日はまだ春になったばかりの涼しい風が、酷く懐かしい風が吹いていました── 気が付けば私は婚約者と婚約した日に婚約者の家を訪ねていました。私は春が嫌いでした。何故ならお母様の命日ですから。今日はお母様の命日。私が一番嫌いな日。お母様の命日の日になると何時も思う事がありました。お母様は命日の日に何を思っていたのかと。私を産んで、自らの命をも捨てて本当に良かったのでしょうか?、と自問自答していた日々。ですがその日々が私の幼き頃の悩みをあの方はいとも簡単にまるで大丈夫だよ、と私を暖かく包んむように私の心の悩みを取り省いてくださった。 あの方は私を、誰にも頼れなかった幼い私を救って下さった。初めて、 『大丈夫だよ。君は悪くないよ。寂しかったね。辛かったね。もう我慢しなくても良いんだよ。独りで抱え込まなくても、君の周りには頼れる人がいるから。だから、独りで抱え込まないで、独りで抱え込む方が何倍も悲しいから。独りは、ね。とっても寂しいんだよ。』 使用人の咲空以外から、それも出会って間もない私と幾つかしか変わらない少年が言った言葉でした。私はいとも簡単にその少年に恋をしました。お父様に必死でお願いしてやっと叶った婚約。ですが私はこの後、無理を言ったのがいけなかったのかそもそもあの方を好きになってしまったこと自体が罪なのかと後悔することになることをその時は全く考えていませんでした。

英雄になった夫が妻子と帰還するそうです

白野佑奈
恋愛
初夜もなく戦場へ向かった夫。それから5年。 愛する彼の為に必死に留守を守ってきたけれど、戦場で『英雄』になった彼には、すでに妻子がいて、王命により離婚することに。 好きだからこそ王命に従うしかない。大人しく離縁して、実家の領地で暮らすことになったのに。 今、目の前にいる人は誰なのだろう? ヤンデレ激愛系ヒーローと、周囲に翻弄される流され系ヒロインです。 珍しくもちょっとだけ切ない系を目指してみました(恥) ざまぁが少々キツイので、※がついています。苦手な方はご注意下さい。

前世で処刑された聖女、今は黒薬師と呼ばれています

矢野りと
恋愛
旧題:前世で処刑された聖女はひっそりと生きていくと決めました〜今世では黒き薬師と呼ばれています〜 ――『偽聖女を処刑しろっ!』 民衆がそう叫ぶなか、私の目の前で大切な人達の命が奪われていく。必死で神に祈ったけれど奇跡は起きなかった。……聖女ではない私は無力だった。 何がいけなかったのだろうか。ただ困っている人達を救いたい一心だっただけなのに……。 人々の歓声に包まれながら私は処刑された。 そして、私は前世の記憶を持ったまま、親の顔も知らない孤児として生まれ変わった。周囲から見れば恵まれているとは言い難いその境遇に私はほっとした。大切なものを持つことがなによりも怖かったから。 ――持たなければ、失うこともない。 だから森の奥深くでひっそりと暮らしていたのに、ある日二人の騎士が訪ねてきて……。 『黒き薬師と呼ばれている薬師はあなたでしょうか?』 基本はほのぼのですが、シリアスと切なさありのお話です。 ※この作品の設定は架空のものです。 ※一話目だけ残酷な描写がありますので苦手な方はご自衛くださいませ。 ※感想欄のネタバレ配慮はありません(._.)

処理中です...