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第27話 動乱に立ち向かうことになる。

Chapter-51

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 俺と姉弟子がその場に到達した時、すでに血なまぐさい状況になっていた。

 俺達はブリュサンメル上級伯の令状を持って駅馬車の駅で馬を乗り継ぎ、最後の乗り継ぎ駅になるところからは馬を傷つけることを避けて飛翔魔法で飛んできた。
 飛翔魔法は、今まで本格的に目的を持って使ったことはなかったが、師匠のところにいた頃から鍛錬は欠かしていなかったので、姉弟子に遅れを取ることもなくその場に着いた。

「うっ────」

 血みどろの兵士の遺体が転がっているのを見て、俺は一瞬、胃の中のものがこみ上げてくる感触を覚える。それをなんとか抑え込んだ。

 人類の諍いと無関係な平和な世界など存在しないことは、前世の頃から理解しているつもりだったが、現実にを初めて目の当たりにして、流石に同様と嫌悪感は隠せなかった。

「大丈夫か?」
「ええ、……はい、大丈夫です」

 俺の様子を気にした姉弟子が声をかけてくるが、俺は努めて平静を装って、答える。

 斃れていたのは南部開拓領連合、つまり叛乱軍の兵士だった。
 すでに地図の上では、叛乱軍はエバーワイン男爵領に侵入していたが、エバーワイン男爵麾下の兵団は山麓の森林地帯には攻め返さず、開けたところに出てきたところをクロスボウや長弓で狙い、損耗を強いていた。

 それに対し、山岳超えをしてきた叛乱軍は、挑発を続けているものの、味方兵団の兵士は、安易に挑発に乗って接近戦に出ることはせず、バリケードを設置して、その後ろに籠もっている。

 叛乱軍がどれだけの兵力をここに投入したかはわからないが、数の上でエバーワイン男爵兵団のほうが劣ることは充分考えられる。
 だが、長弓やクロスボウなどの長射程の射撃武器の数が少なく、エバーワイン男爵兵団の待ち伏せ戦法に対し押し込む力がない。

 結果、現状、エバーワイン男爵領側は、いたずらに被害を出さずに膠着状態に持ち込んでいた。

 我が岳父ながら大した戦術眼だと言えるだろう。
 いや、確か以前キャロが、エバーワイン男爵家にも武功に秀でた人間がいると言っていたな。その人物が軍師の役割をしているのかもしれない。

「さて、どうするか、このままでも上級伯やローチ伯の援軍が届くまでは持ちこたえられそうだが」

 姉弟子が、俺を振り返るようにして訊ねてきた。

「いえ、ひとまず追っ払いましょう。こちらの戦力が増強されたことを示すんです」
「戦力、な」

 俺は真剣な顔で言ったが、姉弟子は不敵な様子で笑って、どこか肩を竦める様にした。
 増強された戦力、それは現時点では俺と姉弟子の2人でしかない。

「ええ、充分でしょう?」
「まあな」

 俺が口元で笑って言うと、姉弟子も苦笑してそう言った。

「じゃあ、始めるとしますか」
「解った」

 俺は、姉弟子の返事を聞くと、

「カンスシオスネス・サーチ」

 と、気配探知の魔法を、山麓の森林地帯に向けて飛ばした。
 山岳超えをしてきた兵団が、密集している場所を炙り出す。

 流石に、街道──と言っても、獣道に毛が生えた程度のものだが──は避けているようだ。
 茂みの深い部分から。攻勢に打って出るチャンスを伺っているようだった。

 なるほど、向こうも全くのバカではないのか。
 エバーワイン男爵兵団の緊張が切れたところで、一点突破を図るつもりか。

 ただ、向こうも悠長に構えていられるわけではない。
 時間が経てば、こちらへブリュサンメル上級伯の兵団から増援が到着してしまう。

 俺と姉弟子は、攻勢を狙っている敵兵団と向かい合っている、エバーワイン男爵兵団の射撃部隊の背後に、まずは降り立った。

「これは、アルヴィン・バックエショフ閣下。それにキャロッサ閣下も」

 兵士達は現れた俺達の姿にざわついていたが、指揮官と思しき青年が、俺の姿を確認すると、そう声をかけてきた。

「状況は、あまり良くないようですね」

 俺は訊ねるように言う。

「ええ。弩弓や長弓で待ち伏せする戦術をとったのはいいのですが、防衛線が広がりすぎています。一点に強行突破を図られたら危うい状況です。それに、領都の防衛兵力からも現在の防衛線に兵力を抽出してしまっています」

 憂い気な表情で、青年指揮官は俺達にそう説明してきた。

「どうやら、この正面をその突破口にしようとしているようですよ」
「そんなことが、わかるのですか?」

 俺が言うと、指揮官は驚いたように訊ね返してきた。

「ええ、気配探知の魔法で、森の中を少し探ってみました」
「なるほど、魔法にはそう言うものもあるのですね」

 俺の説明に、指揮官は納得したようにそう言った。

「ちょっと、俺と姉弟子で追っ払いますね」
「お2人でですか!?」

 俺の言葉に、指揮官は素っ頓狂な声を上げる。

「俺と姉弟子が、誰の弟子かぐらいはご存知でしょう?」
「ええ、まぁ」
「多少数が多いところで、雑兵なんてどうでもなりますよ」
「ですが……」

 止められかけたが、俺は軽く、

「じゃあ、ちょっと行ってきます」

 と、まるで前世で近所のコンビニにでも行くかの様子で、手を振り、姉弟子と2人、木製のバリケードからその前へと歩き出した。

 ある程度──茂みとバリケードの中間点から更に少し進んだところで、バシッ、と弾けるような音がした。
 弓を射掛けられたらしい。俺もその想定はしていたが、姉弟子の方が早かった。矢がシールドの魔法に弾かれた。

「流石に飛び道具が皆無ってことはないか」

 俺はつぶやくように言う。

「始めるぞ」

 姉弟子はそう言うと、発動体の腕輪を着けた右腕を掲げるようにし、

「ウィンド・カッター」

 と、略詠唱で無数の風の刃を生み出して、茂みのある森の中に撃ちかけた。
 バサバサバサッと、茂みや森の樹の葉が飛び散る。と同時に、そこに隠れていた敵の兵士が逃げ惑った。
 俺の手前、手加減はしたようだが、致命傷には至らないという程度で、裂傷は充分に負うレベルの威力で発射したようだった。

 その逃げ惑う兵士の中に、あちらの指揮官らしい、やたら装飾のついた兜を被った男を見つける。
 俺は無詠唱のクイックで水の弾丸を生み出し、その指揮官の胸甲めがけて放った。

「ぐぅっ!」

 悲鳴が聞こえた。死なない程度に加減はしたが、逆に言えば死なない程度にしか加減していない。一時的に身動きは取れなくなったはずだ。骨の2・3本はいったかもしれない。

「俺達が何者か解っているんだろう、さっさと逃げるか、投降することだ! その気がないなら、これ以上の手加減はしないぞ!」

 俺は声を張り上げ、敵兵達にそう脅す。

「畜生、魔女の弟子の化け物どもめ!」

 前に出ていた俺めがけて、4人の兵士が剣を構えて突撃してきた。
 俺は、警告はしたぞ。

「アクア・ブリッド」

 略詠唱で6発の水の弾丸を生み出し、その集団に向かって撃ち込む。
 向こうも刃を向けてきたんだ、今度は手加減などしていない。
 当たりどころが悪ければ即死でもおかしくない。

 水魔法を使ったのは、爆炎系や雷系の魔法で山火事を起こしたくなかっただけだ。
 こいつらに対する慈悲はない。

 だが、4人のうち1人が水の弾丸をすり抜け、俺めがけて剣を突き立てようとしてくる。

 ガキィンッ

 愛用の盾で、その切っ先を弾き返しつつ、無詠唱のクイックモーションでゼロ距離から────

 ドバンッ

「ぐぁっ!」

 俺が撃つより早く、その兵士が、横方向に吹っ飛んだ。
 姉弟子が援護してくれたようだ。苦笑するように不敵に笑っている。

ラウド・ボイス拡声

 俺は、広域に拡声する魔法を発動させてから、声を張り上げる。

「俺はアルヴィン・バックエショフだ。姉弟子のシャーロット・キャロッサもいる。何者だかわかるな、アドラーシールム西方の魔女ディオシェリルの弟子2人だ! 相手になって欲しいならいくらでも、何人でもまとめて相手になってやる。ただし今回は、手加減できないぞ! 命が惜しいなら投降するか、エバーワイン男爵領内から出ていけ! 応じないなら、こちらから仕掛けるぞ!」
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