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第1章
夢現の巫女
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「あー… これはこれは王宮の警備団の皆さま。ですよね。」
サルドナは脇へユミィは後ろへ。速やかに自分の体勢を整えたレグルスが言う。
王宮の警備団?
「いかにも。我々はシャイネス国 王宮直属のエリア警備団である。先ほどこちらに強い光を放った物体が落ちていったという報告を受けて参った。辺りを散策したがめぼしいものは見当たらん。君たち、何か知らんかね。」
どうやらこちらの国の由緒ある警備団だったようだ。
鎧の真ん中に施された王冠の飾りは国のマークだろうか。それとも警備団のマークかな?可愛い。
「ん?」
鎧なんて厳ついものに不釣り合いな可愛い装飾を見続けていたら、先ほどレグルスと会話をしていた方と目が合ってしまった。
「君…。見覚えのない服装をしているな。異国の品を輸入するのはシャイネス国関門所(かんもんどころ)の審査を通過せねばならない決まりであるぞ。まさか知らないなんてことはあるまいな。」
たしかにわたしの格好は、緑地に黄色の花柄のトップスと白のショートパンツ。靴は編上げで、歩きやすいようにローヒールのパンプスだし、レグルスやユミィのように袖がひらひらした着物っぽいような服ではない。
「えーー…と、その…」
とりあえずわたしの今まで居た世界とここはまったく別の世界なんだってことはわかった。理解するどうこうより信じられない事実の多さにもう認めるしかないんだろう。それはわかった。
しかし、コミュニケーションをとったレグルス達ならともかく今出会ったばかりの強面の方々になんて説明できようか。
「関門所の許可のない輸入品を持ち込んだ場合、王宮の謁見の間にて、関門所所長と王宮執務官5人との事情聴取並びに適切な刑執行を行なうこととなっておる。」
事情聴取のあとそのまま刑執行?
こわすぎる。
連行されたら終わりみたいなものじゃないか。
どう考えたってわたしの存在は怪しい。疚しいことがなくたって、この世界にとっては異物と同じ。服もうまく誤魔化すことはできないし解決策がない。どうしたらーー
「……お待ちください。わたしは王宮直属魔法執行部教授アドンレス様の弟子、レグルスと申します。魔法使いです。」
「ほぉ。アドンレス教授の。」
レグルスの言葉に警備団のリーダー(かな?)が反応した。
「はい。彼女はわたしがアドンレス様の代わりにこちらの世界に呼び出した『夢現(ゆめうつつ)の巫女』でございます。」
「夢現の巫女とな…」
「はい。この国の未来を見通す力をもつ者でございます。ですので、アドンレス様のご指導なくこの者を謁見の間に連れて行くのは………」
レグルスはすごく物々しく。
わたしのことをとんでもなく大層な人間のように紹介しているが、そんなテキトーなこと言ってーー
「素晴らしい!!!!」
リーダーが声をあげた。
「夢現の巫女。伝説でしか聞いたことのないあの異なる地の者を呼び出すことに成功したというのか!!!君、素晴らしいぞ!!!」
なんかめちゃめちゃ喜んでいらっしゃるーーー??!!!!
「魔法執行部に連れて行ってしまったら、我々の目に見えるのはもう滅多にないであろう。せっかくのご縁だ!巫女よ、ぜひ我らの前で未来を占ってはくれまいか!」
なぁぁぁぁぁ!!!!?
先ほどまで以上に冷や汗が止まらない。未来を占えといわれても、占いなんて雑誌で読む星座占い、ニュースでみる血液型占いくらいしかわからない。大好きだけれど自分で占う側になったことなどないのだ。
でもきっと、レグルスの魔法でなんとかーー
なるか?ならないか?もう!どうしたらいい???!
くいくいっ
ずっと黙っていたユミィがわたしの服の裾を引っ張ってきた。
小声で話しかけてくる。
「カズハ。レグルス見て。」
言われた通り、間にサルドナとユミィを挟んだ少し先のレグルスをちらりと見ると
だらだらだらだらだらだら…
めっちゃ冷や汗ーーーー!!!?
「ちょいちょい、レグルスさん。あんた冷や汗なんてかいてる場合?!どうすんのよ!!」
「仕方がないだろう。なんかテキトーに偉そうなこと言っておけば帰るだろうと思ったんだから。」
そんな浅い考えで口先だけで話を進めないでくれる!??
レグルスはもう役に立たない。尋常じゃない冷や汗が彼の自信の無さとテンパり具合を物語っている。わたしがなんとか誤魔化して帰ってもらわないと!!!
「あ、あの、先ほどもこいつが申しましたけれどアドンレス様…?のご許可なくここでわたしがお仕事をするわけには…」
「こんな若い娘が夢現の巫女?」
「しかし見慣れぬ服を着ている」
「犯罪者を庇っているだけではないのか?」
「いや。こいつらが全員犯罪者の可能性も」
「たしかに、こんな山奥で一体何をしていたというのか」
「伝説の存在だ。そう簡単に信じるわけには」
あーだのこーだの
なんと、警備団リーダーのお喜び虚しく他の団員からはボソボソと批判の声が聞こえてくる。
このままじゃまずい。
わたしだって捕まりたくなんかないし、ここで嘘をついた罪だって加算されるんだろうし、何よりサルドナとユミィまでもが怪しい目で見られてしまう…!わたしの天使が!!レグルスはもう知らん。
こうなったらーー
「む?巫女よ。どうした?」
「はい。少しばかり準備がございまして。」
がさごそ
稽古バッグの中を漁るわたしにリーダーが話しかけてくる。もしこの異世界パワーに持ち物を消されていなければ…
よし!あった!!!!!
探し物が見つかった。
これでなんとか勝機がうまれた!
「おい?」
「ねぇレグルス!あんた得意魔法は?」
突然のわたしの行動と質問に不思議そうな顔をしながらもレグルスは答えてくれた。
「……この場にない物を出現させることができる。長くは続かないがな。」
「なるほど。じゃあ、テーブルを出して。どんな物でもいいから。」
「巫女?」
レグルスとのやり取りを聞いてリーダーが声をかけてくる。
「こちらのレグルスにテーブルを出現させる魔法を使ってもらいます。そして。わたしは今からこのカードを使って、あなたの未来を占います。」
「「カズハ??!」」
サルドナとユミィが心配そうな声をあげる。そりゃそうだ。わたしが巫女なんかじゃないことはわかりきっている。
たぶんきっと、ほぼ騙し討ちなんだけど…何もしないよりはマシでしょう。
このタロットカードを使って警備団リーダーのことを占う!占い師になりきってやる!役者なめんな!!!
レグルスが右手に全神経を集中させる。
親指、人差し指、中指…と順に指先に眩しい光が集まったかと思えば、力が凝縮されたかのようにひとつひとつが強い光の輪となり指輪のように嵌った。
レグルスが左手を支えに右手を挙げ、振り下ろしたその瞬間ーーーー
目の前にわたしの腰の高さくらいの猫脚テーブルがコトンと現れた。
ーーって!
「感動したけど!けども!魔法ってなんかこうもっと詠唱とか言っちゃってさぁ!バーンとかきらーんとか効果音とあとすっごい光が放たれたりするもんなんじゃないの??!ねぇ!なんか物足りないっ!!」
「うるせぇなぁ。得意魔法なんだから詠唱なんて要らねーんだよ。」
「そんなもんなの??!」
がっかりだ!!
「さて、巫女よ。見事テーブルが現れたぞ。さっそく頼む。」
「あ、はい!」
稽古用バッグからポケットウェットティッシュを取り出して手を拭く。
テーブルの周囲をゆっくりと手を叩きながら歩く。これで空気の浄化はよし。
一度目を閉じて精神統一。お腹の中の空気を全部出して、深く吸ってしっかり吐いて。深呼吸。
がんばれ。やればできる!!!
タロットカードを裏返しの状態でテーブルの上に出し、両手でグルグルと混ぜる。
今回はリーダーの未来を占うから、リーダーにも混ぜてもらう。
「えっと…具体的に何を占いましょうか。」
「そうだな。では、私の給料は今後上がるかどうかを。」
わたしの問いに考える間もなく即答する。前からの悩みなの?それともテキトー?しかも意外にゲスい内容。
まぁ、いいか。うん、所得の問題って人生に与える影響大きいもんね!うん!
質問に集中して更にカードを混ぜ、リーダーのタイミングで終了してもらう。
「このカードの山を好きなだけ切って、左手でお好きなように3つの山にわけてみてください。」
「うむ。」
シャっ
シャっ
シャっ
…………
トン
トン
トン
「なんか…」
「…うん」
「「「地味!!!!」」」」
「カズハ、なんか物足りないぞ!」
「うるさいわね!占いの邪魔よ!」
サルドナから野次が飛ぶ。
警備団の方々からも地味だ地味だと訴えられる。
こんなもんでしょ普通!!!
「では、この3つの山を最初に並べた順番とは逆から1つの山に戻してください。これも左手で。」
「うむ。」
「今度は右手で。山の上から1枚とってテーブルに置いたらもう1枚はその上に重なるように置いてください。」
「うむ。」
これはシンプル・クロス・スプレッド。少ないカードで占うから、わたしにもできるはず。
「できたぞ。」
リーダーは1枚目(現在の状況) に『正義』のカードを。
2枚目(質問の答えを妨害するもの)に『運命の輪』のカードを置いた。
「………」
「……………」
カードの絵柄が現れ、みんな一様に息を飲む。
ぺら
わたしは徐ろにタロットカードの本を捲った。
すぐに結果を言うと思っていたらしく、リーダー以外のみんなが驚き顔でわたしの背後から本を覗き込んでくる。
「なんだ、その本」
「これはバイブルです!聖書です!由緒正しき神のお導きです!たった今あなたの選んだカードを受けて、神からのお言葉がこの本に舞い降りたのです!」
あたかもとんでもない代物のようにタロットカードの入門書を紹介する。みんな文字読めなくて良かった。
ど素人がカードの意味なんて暗記してるわけないじゃない!!!!
「なんと!」
「さすが夢現の巫女!そんな本をお持ちとは!」
「神の本とな!」
周りがちょっとわたしを信じてきたっぽい雰囲気。
このまま押し切ることができればーー
「うむむむ。そうじゃなぁ。
正義のカード、意味は公正・平等。仕事としては責任を持っている立場にいることや副業と本業が両立できていることなんかを指す。お主…なにか、警備団とは違ったことも行っておるのかの?」
「カズハなんで急にババァになったんだ?」
「さぁ…」
サルドナとユミィの小声の会話が聞こえてくる。あと一歩の信用度をあげるために稽古バッグから濃い紫色のヴェールを取り出して口元にかけてみた。
口調にしろ小道具にしろ、その方が占い師っぽいじゃない。なりきってなんぼなのよ。
「な…なぜそれを…?」
「カードが全てを伝えておるぞ。」
急に焦り始め、まるで部下たちの視界の中から消えたいとでもいうかのように背を丸め縮こまってしまったリーダー。
何か疚しいことでもあるんだろうか。
「先を見ようか。お主が次に置いたカードは運命の輪。このカードの意味は突然やってくる運命の変化。仕事面は…ふむ。天職に出会う、か。もしや、お主。副業の方に心が揺れているのではないのか?」
「!!!!」
「え、まさか」
「団長??!」
こんな信ぴょう性もない『隕石降ってきました報告』に、王宮直属警備団の団長が出てくるなんて思わなかったからリーダーって呼んでみたけれど、なんと彼は団長様なのだろうか???
「……実は俺は。警備団に入団しなければ教師になりたかったのだ。」
彼は語る。
エリア警備団第三部署リーダーとして任を受けたものの(やっぱり団長じゃなかった)休日にはこっそりと町の子供達に勉強を教えていたのだと。
警備団入団前から行っていたボランティアだが仕事が決まったからといって辞めることはできなかったそうだ。
無償のため、学校に通えない子供達もやってくる。子供社会は学校で培う。学校に通っていない子が、自分の教室で友達をつくり、小さな社会で成長していく姿を見るのがとっても楽しいのだと。
「男の子には警備団式訓練の簡略化したものをアレンジし、心身ともに強くなるよう育てた。女の子には警備団キャンプの道具を貸し、男手が無くてもサバイバルで生き残れるよう知恵を与えた。いつしか、これは警備団候補生を生む塾と化しているのではないかと教育方針に悩んだりもした。しかし、すべて生きる術だ。子供たちは目をキラキラさせて学んでくれていた。」
だんだん自分が本業よりも力を入れていることに気が付いた。
「なるほど。人生の転機。天職との出会い。給料が上がるかどうか…。これはもしかしたら、本業に本腰を入れれば更に出世するかもしれないし、転機を受け入れ転職することで給料は下がるけどもお主の幸福度が上がるという暗示なのかもしれぬなぁ。」
わたしは彼の言葉とカードの結果を照らし合わせ、占い師を貫く。
リーダーは暫く1人で考えこんでしまったが、やがてゆっくりと口を開いた。
「巫女…感謝する。俺は、また一からやり直すべきなのかもしれない。この気持ちのまま警備団のリーダーでいてもこいつらに迷惑をかけるだけだ。幸い給料が下がっても養う家族はまだ居ない。」
警備団側からは不安げな声があがる。
みんな彼を慕ってついてきているのだ。彼もそれをわかっているから今日まで退団することはなかった。背負っている責任も重い。葛藤がある。
「俺は…………どんな生活をしている子供も教育を受ける資格はあると思っている。だから俺は!学習塾を開業し、教師をすることにするぞ!」
そう名言をしてエリア警備団第三部署リーダースロウさん(名前を聞いた)は部下を引き連れて去っていった。
覚悟を決めた目をしていた。
声は力強かった。
しかし………
「ど素人占いなのに、1人の人生を変えてしまった…」
とんでもない重さにわたしの顔は青ざめる。
「いいんじゃねーの?」
「え?」
「結果的に決めたのはあのおっさんだし。あんだけキラキラして帰ったんだ。後悔はしないだろうよ。お見事じゃねーの素人占い。」
自分より強い存在の前で占い師になりきっていた緊張から解かれ。
ぶるぶる震える心の隙間にレグルスの不意な笑顔が突き刺さり、うっかり泣いてしまいそうだった。
なんか…一つの舞台の公演を終えた後みたいな達成感。
わたし、やったんだ。
知らない世界で、自分の力で、自分と友達を守った。
所詮は付け焼き刃な占いとなりきり老婆だったけど、なんか…すっごい嬉しい。
スロウさん…どうか素敵な人生を!!!
「ところでカズハ、何でこんなカード持ってたの?」
「占いマニア役の稽古中だったのよ。」
役づくりも馬鹿にできないな!!!
サルドナは脇へユミィは後ろへ。速やかに自分の体勢を整えたレグルスが言う。
王宮の警備団?
「いかにも。我々はシャイネス国 王宮直属のエリア警備団である。先ほどこちらに強い光を放った物体が落ちていったという報告を受けて参った。辺りを散策したがめぼしいものは見当たらん。君たち、何か知らんかね。」
どうやらこちらの国の由緒ある警備団だったようだ。
鎧の真ん中に施された王冠の飾りは国のマークだろうか。それとも警備団のマークかな?可愛い。
「ん?」
鎧なんて厳ついものに不釣り合いな可愛い装飾を見続けていたら、先ほどレグルスと会話をしていた方と目が合ってしまった。
「君…。見覚えのない服装をしているな。異国の品を輸入するのはシャイネス国関門所(かんもんどころ)の審査を通過せねばならない決まりであるぞ。まさか知らないなんてことはあるまいな。」
たしかにわたしの格好は、緑地に黄色の花柄のトップスと白のショートパンツ。靴は編上げで、歩きやすいようにローヒールのパンプスだし、レグルスやユミィのように袖がひらひらした着物っぽいような服ではない。
「えーー…と、その…」
とりあえずわたしの今まで居た世界とここはまったく別の世界なんだってことはわかった。理解するどうこうより信じられない事実の多さにもう認めるしかないんだろう。それはわかった。
しかし、コミュニケーションをとったレグルス達ならともかく今出会ったばかりの強面の方々になんて説明できようか。
「関門所の許可のない輸入品を持ち込んだ場合、王宮の謁見の間にて、関門所所長と王宮執務官5人との事情聴取並びに適切な刑執行を行なうこととなっておる。」
事情聴取のあとそのまま刑執行?
こわすぎる。
連行されたら終わりみたいなものじゃないか。
どう考えたってわたしの存在は怪しい。疚しいことがなくたって、この世界にとっては異物と同じ。服もうまく誤魔化すことはできないし解決策がない。どうしたらーー
「……お待ちください。わたしは王宮直属魔法執行部教授アドンレス様の弟子、レグルスと申します。魔法使いです。」
「ほぉ。アドンレス教授の。」
レグルスの言葉に警備団のリーダー(かな?)が反応した。
「はい。彼女はわたしがアドンレス様の代わりにこちらの世界に呼び出した『夢現(ゆめうつつ)の巫女』でございます。」
「夢現の巫女とな…」
「はい。この国の未来を見通す力をもつ者でございます。ですので、アドンレス様のご指導なくこの者を謁見の間に連れて行くのは………」
レグルスはすごく物々しく。
わたしのことをとんでもなく大層な人間のように紹介しているが、そんなテキトーなこと言ってーー
「素晴らしい!!!!」
リーダーが声をあげた。
「夢現の巫女。伝説でしか聞いたことのないあの異なる地の者を呼び出すことに成功したというのか!!!君、素晴らしいぞ!!!」
なんかめちゃめちゃ喜んでいらっしゃるーーー??!!!!
「魔法執行部に連れて行ってしまったら、我々の目に見えるのはもう滅多にないであろう。せっかくのご縁だ!巫女よ、ぜひ我らの前で未来を占ってはくれまいか!」
なぁぁぁぁぁ!!!!?
先ほどまで以上に冷や汗が止まらない。未来を占えといわれても、占いなんて雑誌で読む星座占い、ニュースでみる血液型占いくらいしかわからない。大好きだけれど自分で占う側になったことなどないのだ。
でもきっと、レグルスの魔法でなんとかーー
なるか?ならないか?もう!どうしたらいい???!
くいくいっ
ずっと黙っていたユミィがわたしの服の裾を引っ張ってきた。
小声で話しかけてくる。
「カズハ。レグルス見て。」
言われた通り、間にサルドナとユミィを挟んだ少し先のレグルスをちらりと見ると
だらだらだらだらだらだら…
めっちゃ冷や汗ーーーー!!!?
「ちょいちょい、レグルスさん。あんた冷や汗なんてかいてる場合?!どうすんのよ!!」
「仕方がないだろう。なんかテキトーに偉そうなこと言っておけば帰るだろうと思ったんだから。」
そんな浅い考えで口先だけで話を進めないでくれる!??
レグルスはもう役に立たない。尋常じゃない冷や汗が彼の自信の無さとテンパり具合を物語っている。わたしがなんとか誤魔化して帰ってもらわないと!!!
「あ、あの、先ほどもこいつが申しましたけれどアドンレス様…?のご許可なくここでわたしがお仕事をするわけには…」
「こんな若い娘が夢現の巫女?」
「しかし見慣れぬ服を着ている」
「犯罪者を庇っているだけではないのか?」
「いや。こいつらが全員犯罪者の可能性も」
「たしかに、こんな山奥で一体何をしていたというのか」
「伝説の存在だ。そう簡単に信じるわけには」
あーだのこーだの
なんと、警備団リーダーのお喜び虚しく他の団員からはボソボソと批判の声が聞こえてくる。
このままじゃまずい。
わたしだって捕まりたくなんかないし、ここで嘘をついた罪だって加算されるんだろうし、何よりサルドナとユミィまでもが怪しい目で見られてしまう…!わたしの天使が!!レグルスはもう知らん。
こうなったらーー
「む?巫女よ。どうした?」
「はい。少しばかり準備がございまして。」
がさごそ
稽古バッグの中を漁るわたしにリーダーが話しかけてくる。もしこの異世界パワーに持ち物を消されていなければ…
よし!あった!!!!!
探し物が見つかった。
これでなんとか勝機がうまれた!
「おい?」
「ねぇレグルス!あんた得意魔法は?」
突然のわたしの行動と質問に不思議そうな顔をしながらもレグルスは答えてくれた。
「……この場にない物を出現させることができる。長くは続かないがな。」
「なるほど。じゃあ、テーブルを出して。どんな物でもいいから。」
「巫女?」
レグルスとのやり取りを聞いてリーダーが声をかけてくる。
「こちらのレグルスにテーブルを出現させる魔法を使ってもらいます。そして。わたしは今からこのカードを使って、あなたの未来を占います。」
「「カズハ??!」」
サルドナとユミィが心配そうな声をあげる。そりゃそうだ。わたしが巫女なんかじゃないことはわかりきっている。
たぶんきっと、ほぼ騙し討ちなんだけど…何もしないよりはマシでしょう。
このタロットカードを使って警備団リーダーのことを占う!占い師になりきってやる!役者なめんな!!!
レグルスが右手に全神経を集中させる。
親指、人差し指、中指…と順に指先に眩しい光が集まったかと思えば、力が凝縮されたかのようにひとつひとつが強い光の輪となり指輪のように嵌った。
レグルスが左手を支えに右手を挙げ、振り下ろしたその瞬間ーーーー
目の前にわたしの腰の高さくらいの猫脚テーブルがコトンと現れた。
ーーって!
「感動したけど!けども!魔法ってなんかこうもっと詠唱とか言っちゃってさぁ!バーンとかきらーんとか効果音とあとすっごい光が放たれたりするもんなんじゃないの??!ねぇ!なんか物足りないっ!!」
「うるせぇなぁ。得意魔法なんだから詠唱なんて要らねーんだよ。」
「そんなもんなの??!」
がっかりだ!!
「さて、巫女よ。見事テーブルが現れたぞ。さっそく頼む。」
「あ、はい!」
稽古用バッグからポケットウェットティッシュを取り出して手を拭く。
テーブルの周囲をゆっくりと手を叩きながら歩く。これで空気の浄化はよし。
一度目を閉じて精神統一。お腹の中の空気を全部出して、深く吸ってしっかり吐いて。深呼吸。
がんばれ。やればできる!!!
タロットカードを裏返しの状態でテーブルの上に出し、両手でグルグルと混ぜる。
今回はリーダーの未来を占うから、リーダーにも混ぜてもらう。
「えっと…具体的に何を占いましょうか。」
「そうだな。では、私の給料は今後上がるかどうかを。」
わたしの問いに考える間もなく即答する。前からの悩みなの?それともテキトー?しかも意外にゲスい内容。
まぁ、いいか。うん、所得の問題って人生に与える影響大きいもんね!うん!
質問に集中して更にカードを混ぜ、リーダーのタイミングで終了してもらう。
「このカードの山を好きなだけ切って、左手でお好きなように3つの山にわけてみてください。」
「うむ。」
シャっ
シャっ
シャっ
…………
トン
トン
トン
「なんか…」
「…うん」
「「「地味!!!!」」」」
「カズハ、なんか物足りないぞ!」
「うるさいわね!占いの邪魔よ!」
サルドナから野次が飛ぶ。
警備団の方々からも地味だ地味だと訴えられる。
こんなもんでしょ普通!!!
「では、この3つの山を最初に並べた順番とは逆から1つの山に戻してください。これも左手で。」
「うむ。」
「今度は右手で。山の上から1枚とってテーブルに置いたらもう1枚はその上に重なるように置いてください。」
「うむ。」
これはシンプル・クロス・スプレッド。少ないカードで占うから、わたしにもできるはず。
「できたぞ。」
リーダーは1枚目(現在の状況) に『正義』のカードを。
2枚目(質問の答えを妨害するもの)に『運命の輪』のカードを置いた。
「………」
「……………」
カードの絵柄が現れ、みんな一様に息を飲む。
ぺら
わたしは徐ろにタロットカードの本を捲った。
すぐに結果を言うと思っていたらしく、リーダー以外のみんなが驚き顔でわたしの背後から本を覗き込んでくる。
「なんだ、その本」
「これはバイブルです!聖書です!由緒正しき神のお導きです!たった今あなたの選んだカードを受けて、神からのお言葉がこの本に舞い降りたのです!」
あたかもとんでもない代物のようにタロットカードの入門書を紹介する。みんな文字読めなくて良かった。
ど素人がカードの意味なんて暗記してるわけないじゃない!!!!
「なんと!」
「さすが夢現の巫女!そんな本をお持ちとは!」
「神の本とな!」
周りがちょっとわたしを信じてきたっぽい雰囲気。
このまま押し切ることができればーー
「うむむむ。そうじゃなぁ。
正義のカード、意味は公正・平等。仕事としては責任を持っている立場にいることや副業と本業が両立できていることなんかを指す。お主…なにか、警備団とは違ったことも行っておるのかの?」
「カズハなんで急にババァになったんだ?」
「さぁ…」
サルドナとユミィの小声の会話が聞こえてくる。あと一歩の信用度をあげるために稽古バッグから濃い紫色のヴェールを取り出して口元にかけてみた。
口調にしろ小道具にしろ、その方が占い師っぽいじゃない。なりきってなんぼなのよ。
「な…なぜそれを…?」
「カードが全てを伝えておるぞ。」
急に焦り始め、まるで部下たちの視界の中から消えたいとでもいうかのように背を丸め縮こまってしまったリーダー。
何か疚しいことでもあるんだろうか。
「先を見ようか。お主が次に置いたカードは運命の輪。このカードの意味は突然やってくる運命の変化。仕事面は…ふむ。天職に出会う、か。もしや、お主。副業の方に心が揺れているのではないのか?」
「!!!!」
「え、まさか」
「団長??!」
こんな信ぴょう性もない『隕石降ってきました報告』に、王宮直属警備団の団長が出てくるなんて思わなかったからリーダーって呼んでみたけれど、なんと彼は団長様なのだろうか???
「……実は俺は。警備団に入団しなければ教師になりたかったのだ。」
彼は語る。
エリア警備団第三部署リーダーとして任を受けたものの(やっぱり団長じゃなかった)休日にはこっそりと町の子供達に勉強を教えていたのだと。
警備団入団前から行っていたボランティアだが仕事が決まったからといって辞めることはできなかったそうだ。
無償のため、学校に通えない子供達もやってくる。子供社会は学校で培う。学校に通っていない子が、自分の教室で友達をつくり、小さな社会で成長していく姿を見るのがとっても楽しいのだと。
「男の子には警備団式訓練の簡略化したものをアレンジし、心身ともに強くなるよう育てた。女の子には警備団キャンプの道具を貸し、男手が無くてもサバイバルで生き残れるよう知恵を与えた。いつしか、これは警備団候補生を生む塾と化しているのではないかと教育方針に悩んだりもした。しかし、すべて生きる術だ。子供たちは目をキラキラさせて学んでくれていた。」
だんだん自分が本業よりも力を入れていることに気が付いた。
「なるほど。人生の転機。天職との出会い。給料が上がるかどうか…。これはもしかしたら、本業に本腰を入れれば更に出世するかもしれないし、転機を受け入れ転職することで給料は下がるけどもお主の幸福度が上がるという暗示なのかもしれぬなぁ。」
わたしは彼の言葉とカードの結果を照らし合わせ、占い師を貫く。
リーダーは暫く1人で考えこんでしまったが、やがてゆっくりと口を開いた。
「巫女…感謝する。俺は、また一からやり直すべきなのかもしれない。この気持ちのまま警備団のリーダーでいてもこいつらに迷惑をかけるだけだ。幸い給料が下がっても養う家族はまだ居ない。」
警備団側からは不安げな声があがる。
みんな彼を慕ってついてきているのだ。彼もそれをわかっているから今日まで退団することはなかった。背負っている責任も重い。葛藤がある。
「俺は…………どんな生活をしている子供も教育を受ける資格はあると思っている。だから俺は!学習塾を開業し、教師をすることにするぞ!」
そう名言をしてエリア警備団第三部署リーダースロウさん(名前を聞いた)は部下を引き連れて去っていった。
覚悟を決めた目をしていた。
声は力強かった。
しかし………
「ど素人占いなのに、1人の人生を変えてしまった…」
とんでもない重さにわたしの顔は青ざめる。
「いいんじゃねーの?」
「え?」
「結果的に決めたのはあのおっさんだし。あんだけキラキラして帰ったんだ。後悔はしないだろうよ。お見事じゃねーの素人占い。」
自分より強い存在の前で占い師になりきっていた緊張から解かれ。
ぶるぶる震える心の隙間にレグルスの不意な笑顔が突き刺さり、うっかり泣いてしまいそうだった。
なんか…一つの舞台の公演を終えた後みたいな達成感。
わたし、やったんだ。
知らない世界で、自分の力で、自分と友達を守った。
所詮は付け焼き刃な占いとなりきり老婆だったけど、なんか…すっごい嬉しい。
スロウさん…どうか素敵な人生を!!!
「ところでカズハ、何でこんなカード持ってたの?」
「占いマニア役の稽古中だったのよ。」
役づくりも馬鹿にできないな!!!
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見習い騎士にさえなれそうもない長男レオニードは廃嫡後は冒険者として生き抜く決意をする。
「ゴミスキルでも美味しい物を狩れれば満足だ」そんな彼は前世の料理で敵味方の胃袋を掴んで魅了しまくるグルメギャグ。
伯爵家の次男に転生しましたが、10歳で当主になってしまいました
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自動運転の試験車両に轢かれて、死んでしまった主人公は異世界のランガン伯爵家の次男に転生した。
転生後の生活は順調そのものだった。
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フェンリルさんちの末っ子は人間でした ~神獣に転生した少年の雪原を駆ける狼スローライフ~
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真白山脈に棲むフェンリル三兄弟、末っ子ゼフィリアは元人間である。
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そう、最強は末っ子ゼフィなのであった。知らないのは本狼ばかりなり。
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スノードームを覗きこむような輝く氷雪の物語をお届けします。
※今回はバトル成分やシリアスは少なめ。ほのぼの明るい話で、主人公がひたすら可愛いです!
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