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第二章それぞれの未来(みらい)
日本語の電話 -marineside
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「お姉ちゃんは……今幸せ?」
それから急に、明日香は私に水を向けてきた。
「うん、幸せだよ。じゃないと、電話もかけられなかったかな。
会社のボス……ジェラールっていうんだけど、その人と一緒に暮らしてるの。子供もね、彼の前の奥さんとの子供なんだけどね、二人いるんだ。ってか、あの子たちがいたから、私たち一緒にいるようになったんだ。
私がこの町にたどり着いた時、彼、奥さんを亡くしたばっかでね、子供たち……アンヌとテオドールを抱えて途方に暮れてたよ。とくにテオドールはあの子たちと同い年でね、余計ほっとけなかったのよ。で、仕事に関係なく面倒見てたら、懐かれちゃって……ジェラールの家に帰るようになっちゃったのよね」
照れながらそういう私に、
「あはは、そうなの? お姉ちゃんらしいよね。じゃぁ、みんなにお姉ちゃんから連絡があったって伝えとくよ」
明日香はそう言って電話を切ろうとする。
「あっ、ダメ! みんなには内緒にしといて。特に、パパには」
「何でさ」
明日香は慌てて内緒にしてほしいと言った私に、不満そうな声を上げた。
「家を出て12? 3年だっけ? それだけ音信不通だったんだもん、パパに知れたら殴られるだけじゃ済みそうにないし、今更カナダまで迎えに来られてもさぁ……」
私の生活もあるしと言うと、
「カナダまで迎えに? まさか! でも、パパならありそうよねぇ。でも、今のパパなら大丈夫だよ、たぶん」
私は正直ホントに迎えに来られるかと思って心配してるのに、明日香はそう言って笑い飛ばした。
「でも、お願い。明日香だけの秘密にしておいて」
「はいはい、解った解った」
明日香はそう言って電話を切った。
私が明日香に急に連絡を取りたくなったのは、子供たちの消息を知りたいのももちろんだけど、私が今幸せであると伝えたかったのかもしれないなと思った。
私はそれから時々明日香と連絡を取るようになった。お互いのパートナーや子供たちの話に盛り上がれる普通の姉妹に戻れたことが本当に嬉しかった。
そして、最初の電話から1年半くらいたった日のことだった。昼、仕事の最中にアンヌから電話がかかってきた。
【ママン、今アスカだと思うの、日本語みたいな言葉で電話があって……しかも泣いてるし、意味解んなくて。あっちにかけなおしてみてくれる?】
明日香とは時間が合わないので、普段はほとんどメール。たまに電話するのは、両方の時間の合う明け方だ。しかも、泣いているというのが気にかかる。
私は明日香に電話を入れてみた。でも、呼び出し音ばかりでつながらない。携帯にもかけてみる。あの子のは秀一郎が仕事で海外に行くことも多いので、国際電話対応のタイプだったはずだから。……こちらは話し中だ。
そうこうしている内に、着信音が事務所に響いた。
「もしもし!」
明日香の声だ。
「もしもし、明日香?」
「ああ、お姉ちゃん!やっとつながった……」
明日香は安堵の声を上げた。
「最初慌ててて私、日本語でしゃべってたのにも気づかなかったみたいで……そのうちアンちゃんが電話切っちゃうしさ。」
「それ、アンヌが私にたぶんあんただと思うからかけ直せって、ここに電話してきたのよ。でも、全然つながらないし。どうしたのかと思ったわよ」
「だから、2回目はちゃんと『Canpany call please!』って連呼したわよ。そしたら、解ってくれて、ここの番号教えてくれた」
「あんた仮にもYUUKIの次期社長夫人でしょうが、いくらネイティブと接してないって言ったって、そのブロークンな英語は何とかならないの?」
私は吹き出しながらそう言った。すると明日香は怒りながらこう返した。
「私だって、普段ならもう少しマシに話せるわよ! でも、そんなバカ話をしてる暇なんてないの。パパが……倒れたの」
――パパが倒れたの――
一瞬、私の周りの時間がすべて止まった気がした。
「ねぇ、今度は本当に危ないのよ。お願い、すぐに帰ってきて。……お姉ちゃん、聞いてる!?」
私は手に持っていた受話器を力なく取り落していた。遠くの方で明日香の声が夢みたいに響いた。
それから急に、明日香は私に水を向けてきた。
「うん、幸せだよ。じゃないと、電話もかけられなかったかな。
会社のボス……ジェラールっていうんだけど、その人と一緒に暮らしてるの。子供もね、彼の前の奥さんとの子供なんだけどね、二人いるんだ。ってか、あの子たちがいたから、私たち一緒にいるようになったんだ。
私がこの町にたどり着いた時、彼、奥さんを亡くしたばっかでね、子供たち……アンヌとテオドールを抱えて途方に暮れてたよ。とくにテオドールはあの子たちと同い年でね、余計ほっとけなかったのよ。で、仕事に関係なく面倒見てたら、懐かれちゃって……ジェラールの家に帰るようになっちゃったのよね」
照れながらそういう私に、
「あはは、そうなの? お姉ちゃんらしいよね。じゃぁ、みんなにお姉ちゃんから連絡があったって伝えとくよ」
明日香はそう言って電話を切ろうとする。
「あっ、ダメ! みんなには内緒にしといて。特に、パパには」
「何でさ」
明日香は慌てて内緒にしてほしいと言った私に、不満そうな声を上げた。
「家を出て12? 3年だっけ? それだけ音信不通だったんだもん、パパに知れたら殴られるだけじゃ済みそうにないし、今更カナダまで迎えに来られてもさぁ……」
私の生活もあるしと言うと、
「カナダまで迎えに? まさか! でも、パパならありそうよねぇ。でも、今のパパなら大丈夫だよ、たぶん」
私は正直ホントに迎えに来られるかと思って心配してるのに、明日香はそう言って笑い飛ばした。
「でも、お願い。明日香だけの秘密にしておいて」
「はいはい、解った解った」
明日香はそう言って電話を切った。
私が明日香に急に連絡を取りたくなったのは、子供たちの消息を知りたいのももちろんだけど、私が今幸せであると伝えたかったのかもしれないなと思った。
私はそれから時々明日香と連絡を取るようになった。お互いのパートナーや子供たちの話に盛り上がれる普通の姉妹に戻れたことが本当に嬉しかった。
そして、最初の電話から1年半くらいたった日のことだった。昼、仕事の最中にアンヌから電話がかかってきた。
【ママン、今アスカだと思うの、日本語みたいな言葉で電話があって……しかも泣いてるし、意味解んなくて。あっちにかけなおしてみてくれる?】
明日香とは時間が合わないので、普段はほとんどメール。たまに電話するのは、両方の時間の合う明け方だ。しかも、泣いているというのが気にかかる。
私は明日香に電話を入れてみた。でも、呼び出し音ばかりでつながらない。携帯にもかけてみる。あの子のは秀一郎が仕事で海外に行くことも多いので、国際電話対応のタイプだったはずだから。……こちらは話し中だ。
そうこうしている内に、着信音が事務所に響いた。
「もしもし!」
明日香の声だ。
「もしもし、明日香?」
「ああ、お姉ちゃん!やっとつながった……」
明日香は安堵の声を上げた。
「最初慌ててて私、日本語でしゃべってたのにも気づかなかったみたいで……そのうちアンちゃんが電話切っちゃうしさ。」
「それ、アンヌが私にたぶんあんただと思うからかけ直せって、ここに電話してきたのよ。でも、全然つながらないし。どうしたのかと思ったわよ」
「だから、2回目はちゃんと『Canpany call please!』って連呼したわよ。そしたら、解ってくれて、ここの番号教えてくれた」
「あんた仮にもYUUKIの次期社長夫人でしょうが、いくらネイティブと接してないって言ったって、そのブロークンな英語は何とかならないの?」
私は吹き出しながらそう言った。すると明日香は怒りながらこう返した。
「私だって、普段ならもう少しマシに話せるわよ! でも、そんなバカ話をしてる暇なんてないの。パパが……倒れたの」
――パパが倒れたの――
一瞬、私の周りの時間がすべて止まった気がした。
「ねぇ、今度は本当に危ないのよ。お願い、すぐに帰ってきて。……お姉ちゃん、聞いてる!?」
私は手に持っていた受話器を力なく取り落していた。遠くの方で明日香の声が夢みたいに響いた。
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