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本来あるべき姿
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それで、残った僕たちも帰ることになり、
「できれば界渡りをしたあの場所にしてもらえませんか。その方が座標軸を特定しやすいので」
というセルディオさんの言葉に従って会社に向かう事になった。
だけど、セルディオさんは社員証を持ってないことに気づいて、
「セルディオさん、IDカード持ってない……」
と言うと、
「会社に着いたら鮎川様を象りますよ。さすがに会社のトップにまでIDを求める輩はいないでしょ」
と余裕の笑みで答える。だけど、すぐに会社に向かうのかと思うと、
「あ、その前にメルヘンのジャンボプリンパフェを食べませんか。昨日は私一人で食べました故、今日はご一緒に」
セルディオさんはいきなりそんなことを言い出した。
「イヤですっ! 昨日の今日ですよ、僕あのお店二度といけなくなっちゃうじゃないですか」
僕はぶんぶんと首を振ってそう答えた。
「私はこれで食べ納めなのです。よろしいではないですか」
すると、セルディオさんはそう言って笑う。
「そんなこと言って、またこっそりくるんですよね」
僕のフリをするんだったら、魔術師のローブで来るのは止めてくださいねと言った僕に、
「いいえ……もうニホンには参りません。オラトリオに戻ったその時に、美久とのこのルートも断ち切るつもりです」
セルディオさんは首を振りながら真顔でそう返した。
「どうしてですか、折角仲良くなれたのに」
そして驚いてそう尋ねた僕に、
「どうしてですか……それが本来あるべき姿だからですよ」
セルディオさんは軽くため息をつきながらそう言った。
「でも、セルディオさんたちも僕たちも入れ替わらなければ生きていたかどうかわからないんでしょ? それは縁があるってことなんじゃないですか?」
「確かに界渡りを敢行したのはこの私ですし、ニホンだからこそ殿下のお命は助かった、それは本当にそうだと思っています。だから、界渡りの禁忌を冒したことを後悔も恥じてもおりません。
ですが、私たちは同じ魂です。本来触れあってはならぬもの。此度のようにすべてが丸く収まったのは、奇跡です。
しかし、それに乗じてこのようにいつまでも馴れ合っていては、いつか必ず災いが降り懸かります」
食い下がる僕に、セルディオさんは凛とした調子でそう言った。少し取り越し苦労のような気もするけど、言わんとするところはよくわかる。
「つまり、『禍福は糾える縄の如し』だと言うんですね」
と、言った僕に、
「何ですか、それ」
セルディオさんは首を傾げた。
「日本の古い諺ですよ。幸せすぎることの裏側には必ず悲しみが潜んでいるって意味です。少しニュアンスは違うかもしれませんが」
そして、僕の説明に、セルディオさんは得心したように頷いた。
「本来あるべき姿に戻る……だけなんですね。そうですよね、僕がいろんな魔法を使えたところで、結局こんな大騒ぎになってしまう」
そう、僕が中司さんを赤ちゃんにしなければ、セルディオさんも地球に来なくてもよかったんだから。
「私にしても、ニホンの考え方はとても勉強になります。ですが、、しっかりと機械文明の発達していないオラトリオでは実用化できないことが多い。結局臍を噛んで城内のラボに立ち尽くすことも多いのです」
セルディオさんもセルディオさんで、地球の技術力をオラトリオに取り込むことに限界を感じている。
本来ならば見ることもできない異世界。そこに行くことができただけでも、僕たちは充分ラッキーなんだろうと思う。
「じゃぁ、寂しいですけど、これでお別れですね」
僕は右手を差し出して握手を求めたが、彼はそれをとろうとせず、
「ええ、だからその前にメルヘンのジャンボプリンパフェを……」
殊更に『最後』を強調してメルヘンに行こうとする。
「それとこれとは話は別です。明日からの僕のスイーツライフに支障がでちゃいますからね」
それをぴしゃっと断った僕に、セルディオさんが
「そんなぁ」
と抗議の声を上げるけど、
「じゃぁ、サントノアレのシュークリームで手を打ってもらえませんか」
「サントノアレですって!」
僕がサントノアレのシュークリームと言うと、その身を乗り出して食いついてきた。もう、セルディオさんってば、日本の一体何を研究してたんだか。
「実はあのチョコ生ダブルシューも気になっていたんですよ。よろしいです。あれなら界渡りした部屋でも食べられますし、10個で手を打ちましょう」
「えーっ、10個も食べるの?」
「あのジャンボプリンパフェに匹敵するには、それくらいはないと。ま、まさか高くて買えないとか……」
あれだけのものですから、お高いでしょうからと、セルディオさんは肩を落としたので、僕は噴き出すのをこらえた。そりゃ、ペーのサラリーマンの頃ならともかく、秘書課に配属されてからは、正直良いのかなって思うくらいお給料増えたから余裕だよ。でも、あれを10個も食べたら鼻血出たりしない? アレ、チョコの量ハンパないよ。
けど、ま、いっか……地球とオラトリオの魔法使いの打ち上げってことで。
僕はサントノアレでチョコ生ダブルシューを25個(そのときお店にあるだけ)買い込むと、セルディオさん2人会社の応接室に向かった。
セルディオさんは無糖の紅茶を飲みながらシュークリームを結局12個食べ、
「では、ごきげんよう。鮎川様、薫様によろしく」
と、手を振るとそれが来た場所であるという、会議用のホワイトボードの中に消えていった。
「できれば界渡りをしたあの場所にしてもらえませんか。その方が座標軸を特定しやすいので」
というセルディオさんの言葉に従って会社に向かう事になった。
だけど、セルディオさんは社員証を持ってないことに気づいて、
「セルディオさん、IDカード持ってない……」
と言うと、
「会社に着いたら鮎川様を象りますよ。さすがに会社のトップにまでIDを求める輩はいないでしょ」
と余裕の笑みで答える。だけど、すぐに会社に向かうのかと思うと、
「あ、その前にメルヘンのジャンボプリンパフェを食べませんか。昨日は私一人で食べました故、今日はご一緒に」
セルディオさんはいきなりそんなことを言い出した。
「イヤですっ! 昨日の今日ですよ、僕あのお店二度といけなくなっちゃうじゃないですか」
僕はぶんぶんと首を振ってそう答えた。
「私はこれで食べ納めなのです。よろしいではないですか」
すると、セルディオさんはそう言って笑う。
「そんなこと言って、またこっそりくるんですよね」
僕のフリをするんだったら、魔術師のローブで来るのは止めてくださいねと言った僕に、
「いいえ……もうニホンには参りません。オラトリオに戻ったその時に、美久とのこのルートも断ち切るつもりです」
セルディオさんは首を振りながら真顔でそう返した。
「どうしてですか、折角仲良くなれたのに」
そして驚いてそう尋ねた僕に、
「どうしてですか……それが本来あるべき姿だからですよ」
セルディオさんは軽くため息をつきながらそう言った。
「でも、セルディオさんたちも僕たちも入れ替わらなければ生きていたかどうかわからないんでしょ? それは縁があるってことなんじゃないですか?」
「確かに界渡りを敢行したのはこの私ですし、ニホンだからこそ殿下のお命は助かった、それは本当にそうだと思っています。だから、界渡りの禁忌を冒したことを後悔も恥じてもおりません。
ですが、私たちは同じ魂です。本来触れあってはならぬもの。此度のようにすべてが丸く収まったのは、奇跡です。
しかし、それに乗じてこのようにいつまでも馴れ合っていては、いつか必ず災いが降り懸かります」
食い下がる僕に、セルディオさんは凛とした調子でそう言った。少し取り越し苦労のような気もするけど、言わんとするところはよくわかる。
「つまり、『禍福は糾える縄の如し』だと言うんですね」
と、言った僕に、
「何ですか、それ」
セルディオさんは首を傾げた。
「日本の古い諺ですよ。幸せすぎることの裏側には必ず悲しみが潜んでいるって意味です。少しニュアンスは違うかもしれませんが」
そして、僕の説明に、セルディオさんは得心したように頷いた。
「本来あるべき姿に戻る……だけなんですね。そうですよね、僕がいろんな魔法を使えたところで、結局こんな大騒ぎになってしまう」
そう、僕が中司さんを赤ちゃんにしなければ、セルディオさんも地球に来なくてもよかったんだから。
「私にしても、ニホンの考え方はとても勉強になります。ですが、、しっかりと機械文明の発達していないオラトリオでは実用化できないことが多い。結局臍を噛んで城内のラボに立ち尽くすことも多いのです」
セルディオさんもセルディオさんで、地球の技術力をオラトリオに取り込むことに限界を感じている。
本来ならば見ることもできない異世界。そこに行くことができただけでも、僕たちは充分ラッキーなんだろうと思う。
「じゃぁ、寂しいですけど、これでお別れですね」
僕は右手を差し出して握手を求めたが、彼はそれをとろうとせず、
「ええ、だからその前にメルヘンのジャンボプリンパフェを……」
殊更に『最後』を強調してメルヘンに行こうとする。
「それとこれとは話は別です。明日からの僕のスイーツライフに支障がでちゃいますからね」
それをぴしゃっと断った僕に、セルディオさんが
「そんなぁ」
と抗議の声を上げるけど、
「じゃぁ、サントノアレのシュークリームで手を打ってもらえませんか」
「サントノアレですって!」
僕がサントノアレのシュークリームと言うと、その身を乗り出して食いついてきた。もう、セルディオさんってば、日本の一体何を研究してたんだか。
「実はあのチョコ生ダブルシューも気になっていたんですよ。よろしいです。あれなら界渡りした部屋でも食べられますし、10個で手を打ちましょう」
「えーっ、10個も食べるの?」
「あのジャンボプリンパフェに匹敵するには、それくらいはないと。ま、まさか高くて買えないとか……」
あれだけのものですから、お高いでしょうからと、セルディオさんは肩を落としたので、僕は噴き出すのをこらえた。そりゃ、ペーのサラリーマンの頃ならともかく、秘書課に配属されてからは、正直良いのかなって思うくらいお給料増えたから余裕だよ。でも、あれを10個も食べたら鼻血出たりしない? アレ、チョコの量ハンパないよ。
けど、ま、いっか……地球とオラトリオの魔法使いの打ち上げってことで。
僕はサントノアレでチョコ生ダブルシューを25個(そのときお店にあるだけ)買い込むと、セルディオさん2人会社の応接室に向かった。
セルディオさんは無糖の紅茶を飲みながらシュークリームを結局12個食べ、
「では、ごきげんよう。鮎川様、薫様によろしく」
と、手を振るとそれが来た場所であるという、会議用のホワイトボードの中に消えていった。
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