48 / 65
作戦会議(愛情の反対は?)
しおりを挟む
「そいで、こいつの手帳にこれが挟まってた」
それから先輩はそう言って一枚のチケットを僕たちの前に振りかざした。で、それを覗き込んだセルディオさんが
「色彩の天使、寺田彰幸展ですか……来週の火曜日が最終ですね」
と、チケットを読み上げる。これには先輩はもちろん、僕まで驚いた。
「げっ、お前なんで読めんだよっ」
「何故なんでしょうね、普通に読めましたが。美久もオラトリオの魔道書をすんなり読みこなせてたじゃないですか。それと同じことです」
「そう言われれば、そうですね」
セルディオさんの説明にあっさり納得してしまった僕に先輩は、
「同じな訳あるかっ!! まぁいい、話が進まねぇ」
と吠えながら頭を抱える。大体、パラレルワールド自体通常理解のキャパオーバーしてるんだもん、もう何でもアリで良いんじゃない?(良くない?)
そして僕が、
「でも、寺田彰幸って中司さんの弟さんですよね。色彩の天使っていうことは画家なんですか」
と聞くと、
「ああ、けど書くんじゃなくって貼り絵らしいが、ただそれはまるで写真のような精巧さらしい」
と、先輩は頷きながらそう答えた。
膨大な色調の中から的確にピックして陰影まで描き出してしまうその集中力は、サヴァンシンドロームの特化した芸術性の表れだと。
「で、なぜこのチケットをこの方が持たれていたんでしょう」
「弟が送りつけてきた……なんてことはねぇわな」
「ないでしょうね」
「母親でしょうか」
男たちがチケットを眺めながら首を傾げていると、
「きっと、自分で手に入れたんだわ。彰教ちゃん、本当はお母様に会いたいのよ」
谷山先輩が中司さんを見下ろしながらぽつりとそう言った。
「そうですか? 僕に中司さん『アレの話はするな!!』って怒鳴ったんですよ」
僕が思わず彼を赤ちゃんにしてしまうほどの剣幕だったんだから。
「ううん、きっとそう」
それでも、谷山先輩は寧ろ確信に満ちた顔でもう一度そう言った。それを見て先輩が
「そうかもしれねぇな」
と彼女の言葉に同意する。
「先輩までそう思うんですか」
納得できない僕に先輩は、
「だってそうだろ、宮本、愛情の反対語って何だか知ってっか」
と、質問を質問で返してくる。
「憎悪ですか?」
「ブッブー、ハズレ」
「じゃぁ、何なんですか」
愛情の反対は憎しみじゃないの? 完全にギブ状態の僕に、
「マザーテレサ曰く、無関心だとよ」
と、したり顔で答える。
「言われてみればそうですね、憎悪は愛情の裏返しかもしれませんが、方向性は同じ」
それを聞いて、セルディオさんもそう言って納得顔で頷いた。そう言われても僕はいまいち納得できないんですけど。
「そうさ、ムキになって否定する時点で、こいつは母親を求めてるって暴露してるのさ」
そんなもんですかね。本気で嫌ってるって可能性もないですか?
それから僕たちは明日の朝、問題の寺田彰幸展の会場近くのどこかで中司さんを元の姿に戻して彼を会場に連れて行くことを話し合った。
「これで明日のあらましは決まったな。じゃぁ、そう言うことで解散。もう帰って良いぜ」
すると先輩はにっこり笑ってそう言った。
「どこに帰れって言うんですか」
と、憮然としてそう聞く僕に、
「お前のアパートに決まってるだろ。お前、このままここに泊まる気だったのか?」
と、あきれ顔で先輩がそう返した。
「僕の安アパートじゃ、セルディオさんと二人では寝られないですよ。それに疲れがとれなかったら、明日の朝対逆魔法唱えられないですよ」
ホントは同じ顔の二人であのアパートに戻って誰かに見られたくないだけだけど。僕がそう言うと先輩は、
「んなもん、どっかホテルにでも泊まれ。会場近くに泊まってれば明日も楽だぞ」
と気楽に言う。
「誰がお金を出すんですか」
と僕が言うと先輩は、
「決まってる、お前だ」
と即答する。それに、
「えーっつ、そんな!」
と不満の声を上げる僕に、
「そんなじゃねぇ。元はと言えばお前のせいだろ」
先輩はそう言って僕とセルディオさんをマンションから放り出した。
ホントなら出さなくて良いホテル代、しかも二人分。ラブホなら少しは安くなるだろうけど、男同士、しかも同じ顔のセルディオさんとなんか絶対に行きたくない。ホント、とほほな気分だ。
僕は、手近なホテルをモバイル検索して、予約の電話を入れた。
それから先輩はそう言って一枚のチケットを僕たちの前に振りかざした。で、それを覗き込んだセルディオさんが
「色彩の天使、寺田彰幸展ですか……来週の火曜日が最終ですね」
と、チケットを読み上げる。これには先輩はもちろん、僕まで驚いた。
「げっ、お前なんで読めんだよっ」
「何故なんでしょうね、普通に読めましたが。美久もオラトリオの魔道書をすんなり読みこなせてたじゃないですか。それと同じことです」
「そう言われれば、そうですね」
セルディオさんの説明にあっさり納得してしまった僕に先輩は、
「同じな訳あるかっ!! まぁいい、話が進まねぇ」
と吠えながら頭を抱える。大体、パラレルワールド自体通常理解のキャパオーバーしてるんだもん、もう何でもアリで良いんじゃない?(良くない?)
そして僕が、
「でも、寺田彰幸って中司さんの弟さんですよね。色彩の天使っていうことは画家なんですか」
と聞くと、
「ああ、けど書くんじゃなくって貼り絵らしいが、ただそれはまるで写真のような精巧さらしい」
と、先輩は頷きながらそう答えた。
膨大な色調の中から的確にピックして陰影まで描き出してしまうその集中力は、サヴァンシンドロームの特化した芸術性の表れだと。
「で、なぜこのチケットをこの方が持たれていたんでしょう」
「弟が送りつけてきた……なんてことはねぇわな」
「ないでしょうね」
「母親でしょうか」
男たちがチケットを眺めながら首を傾げていると、
「きっと、自分で手に入れたんだわ。彰教ちゃん、本当はお母様に会いたいのよ」
谷山先輩が中司さんを見下ろしながらぽつりとそう言った。
「そうですか? 僕に中司さん『アレの話はするな!!』って怒鳴ったんですよ」
僕が思わず彼を赤ちゃんにしてしまうほどの剣幕だったんだから。
「ううん、きっとそう」
それでも、谷山先輩は寧ろ確信に満ちた顔でもう一度そう言った。それを見て先輩が
「そうかもしれねぇな」
と彼女の言葉に同意する。
「先輩までそう思うんですか」
納得できない僕に先輩は、
「だってそうだろ、宮本、愛情の反対語って何だか知ってっか」
と、質問を質問で返してくる。
「憎悪ですか?」
「ブッブー、ハズレ」
「じゃぁ、何なんですか」
愛情の反対は憎しみじゃないの? 完全にギブ状態の僕に、
「マザーテレサ曰く、無関心だとよ」
と、したり顔で答える。
「言われてみればそうですね、憎悪は愛情の裏返しかもしれませんが、方向性は同じ」
それを聞いて、セルディオさんもそう言って納得顔で頷いた。そう言われても僕はいまいち納得できないんですけど。
「そうさ、ムキになって否定する時点で、こいつは母親を求めてるって暴露してるのさ」
そんなもんですかね。本気で嫌ってるって可能性もないですか?
それから僕たちは明日の朝、問題の寺田彰幸展の会場近くのどこかで中司さんを元の姿に戻して彼を会場に連れて行くことを話し合った。
「これで明日のあらましは決まったな。じゃぁ、そう言うことで解散。もう帰って良いぜ」
すると先輩はにっこり笑ってそう言った。
「どこに帰れって言うんですか」
と、憮然としてそう聞く僕に、
「お前のアパートに決まってるだろ。お前、このままここに泊まる気だったのか?」
と、あきれ顔で先輩がそう返した。
「僕の安アパートじゃ、セルディオさんと二人では寝られないですよ。それに疲れがとれなかったら、明日の朝対逆魔法唱えられないですよ」
ホントは同じ顔の二人であのアパートに戻って誰かに見られたくないだけだけど。僕がそう言うと先輩は、
「んなもん、どっかホテルにでも泊まれ。会場近くに泊まってれば明日も楽だぞ」
と気楽に言う。
「誰がお金を出すんですか」
と僕が言うと先輩は、
「決まってる、お前だ」
と即答する。それに、
「えーっつ、そんな!」
と不満の声を上げる僕に、
「そんなじゃねぇ。元はと言えばお前のせいだろ」
先輩はそう言って僕とセルディオさんをマンションから放り出した。
ホントなら出さなくて良いホテル代、しかも二人分。ラブホなら少しは安くなるだろうけど、男同士、しかも同じ顔のセルディオさんとなんか絶対に行きたくない。ホント、とほほな気分だ。
僕は、手近なホテルをモバイル検索して、予約の電話を入れた。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
婚約者すらいない私に、離縁状が届いたのですが・・・・・・。
夢草 蝶
恋愛
侯爵家の末姫で、人付き合いが好きではないシェーラは、邸の敷地から出ることなく過ごしていた。
そのため、当然婚約者もいない。
なのにある日、何故かシェーラ宛に離縁状が届く。
差出人の名前に覚えのなかったシェーラは、間違いだろうとその離縁状を燃やしてしまう。
すると後日、見知らぬ男が怒りの形相で邸に押し掛けてきて──?
虐げられた令嬢、ペネロペの場合
キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。
幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。
父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。
まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。
可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。
1話完結のショートショートです。
虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい……
という願望から生まれたお話です。
ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。
R15は念のため。
前略、旦那様……幼馴染と幸せにお過ごし下さい【完結】
迷い人
恋愛
私、シア・エムリスは英知の塔で知識を蓄えた、賢者。
ある日、賢者の天敵に襲われたところを、人獣族のランディに救われ一目惚れ。
自らの有能さを盾に婚姻をしたのだけど……夫であるはずのランディは、私よりも幼馴染が大切らしい。
「だから、王様!! この婚姻無効にしてください!!」
「My天使の願いなら仕方ないなぁ~(*´ω`*)」
※表現には実際と違う場合があります。
そうして、私は婚姻が完全に成立する前に、離婚を成立させたのだったのだけど……。
私を可愛がる国王夫婦は、私を妻に迎えた者に国を譲ると言い出すのだった。
※AIイラスト、キャラ紹介、裏設定を『作品のオマケ』で掲載しています。
※私の我儘で、イチャイチャどまりのR18→R15への変更になりました。 ごめんなさい。
【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です
葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。
王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。
孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。
王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。
働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。
何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。
隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。
そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。
※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。
※小説家になろう様でも掲載予定です。
【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った
五色ひわ
恋愛
辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。真実を確かめるため、アメリアは3年ぶりに王都へと旅立った。
※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話
頭が花畑の女と言われたので、その通り花畑に住むことにしました。
音爽(ネソウ)
ファンタジー
見た目だけはユルフワ女子のハウラナ・ゼベール王女。
その容姿のせいで誤解され、男達には尻軽の都合の良い女と見られ、婦女子たちに嫌われていた。
16歳になったハウラナは大帝国ダネスゲート皇帝の末席側室として娶られた、体の良い人質だった。
後宮内で弱小国の王女は冷遇を受けるが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる