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母性本能

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 谷山先輩はさっきのベビーキャリーもどきから書類ファイルを取り出して、そこに両手のついたコップと、小さな白いキューブを入れた。
「それ、なんですか?」
「ほ乳瓶と粉ミルク。ココならお湯も貰えるし、まだ買う物もあるしね。
本当はどうなのか判らないけど、見た目だけで考えると8ヶ月ぐらいだと思うから、こっちが手を添える形より自分で持たせる形の方が、気分良く飲んでくれるのよね。乳首を付けずにコップとしても使えるしね、目盛りもついてるから、計量カップとしても使えるし」
僕の質問に谷山先輩は、中司さんの頬をくりくりしながらそう答える。そう言えば、一番上の兄のとこのセリちゃん(姪)が似たようなのを持ってたような気がする。にしても、四角い粉ミルクねぇ。お味噌汁にもフリーズドライとかあるけど、やっぱ何か妙。
「まだ、何か買うんですか?」
「とりあえず今着る服を買っただけだし、さっきの宮本君みたいなこともあるんだから、予備は絶対に要るわ。それに、お風呂の後の果汁とか、そうそう、鮎川のベッドに寝かせる訳にもいかないから、布団も買わなきゃね」
そういう谷山先輩は心なしかとても楽しそうだ。でも、僕には何だかそれが少し危険なことのような気がした。
 確かにさっきみたく不測の事態は起こるかも知れないけど、僕の今の体調を考えると、要ってもそれも明日の午前中まで。それに、それぐらいまでに中司さんが元に戻ってくれないと、人一人が忽然と消えてる訳だから、中司さんの側がいないことに気づいて大騒ぎになる可能性が高い。
 だけど、谷山先輩が買ってきたのは、おむつもお徳用の大入りパックだし、ミルクも旅行用のではなかった。それは、たった一時間ほどの間にもう中司さんと離れ難くなっているってことだ。
 僕が対逆魔法を唱えたとき、谷山先輩は逆に冷静でいられるんだろうか……
 お店の最上階にある食堂で、元気にミルクを飲んでいる中司さんに向かって、
「美味しい? 彰教ちゃんはホントに良い子だね」
と、慈愛に満ちた顔で囁く谷山先輩を見ながら、僕はそう思った。
 
 



 
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