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時限爆弾スイッチON

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「ねぇ、いい加減その子に服を着せないと。それに、指を吸い始めたわ、お腹空いているのよ」
それまで黙ってたから気づかなかったけど、奥の方の椅子に谷山先輩が座っていた。その顔色は僕に違わず蒼い。僕はそれまで夢だと思っていたことが現実だと解っただけだけど(それでも衝撃的ではあるけどね)、いきなりパラレルワールドだのドッペルゲンガーだと言われた谷山先輩の衝撃はそれ以上だろう。理解の範疇をはるかに超えているって話だ。
「そう言ゃもうすぐお昼だしな。それに、おしめだけはしとかないと、赤ん坊は所構わずだろ。包んでるのは本人のもんだが、汚しちまったら、元に戻った時に着せるもんがなくなっちまうからな。何気にコレ、ア〇マーニだし。不測の事態になったら、いきなり代替えとかできねぇ」
それを受けた先輩の言葉に、一同が無言で頷く。
「そうですね、美久、そろそろ動けますか」
「え、ええ」
セルディオさんの言葉に僕は頷いた。何度も魔法を使って慣れてきたからなのか、それともガザの実は乾燥している方が効果があるのか、僕は少しふらつくもののガソリンを作ったときよりずっと症状は軽いと感じていた。
「大丈夫です」
と僕が返事をすると、
「これからだが、ビクトールにはこいつに化けてもらって俺と一緒に社外に出る。そんで、お前は薫が体調不良だから送っていく体でこいつをうまく連れて出てくれ。赤ん坊のモノを買って俺のマンションで合流だ」
と、先輩は僕にそう言った。でも、セルディオさんが中司さんに化けるってそう簡単に……まてよ、エリーサちゃんがマシューに化けられたんだから、魔法使いのセルディオさんも同じことができるのか。
「では、鮎川様参りましょう」
セルディオさんはそう言って、念を込める。すると、先輩たち二人ははぎょっとして目を瞠った。そして、
「おっ、さすがだな。ソックリだ」
って先輩が感心した様子で言うけど、僕の目にはちっとも変わらないそのまんまのセルディオさんの姿。首を傾げていると、
「美久には私と同等の魔力があるので、まったく不意打ちならともかく、それでも本来の姿を感じ取ってしまうのではないでしょうか」
と、セルディオさんが説明してくれた。そして彼は、
「それって、つまらないでしょう? 私もそう思います」
と言って先輩に続いて応接室を一旦は出たところで立ち止まり、
「あ、必ず今から40分以内にあなた方もここを出てくださいね」
と言った。
「えっ、何で40分?」
さらに首を捻る僕に、
「実はこの方にSleepの魔法をかけてあるんです。今から40分後にそれの解除魔法がかかるようにしておきますから。本来なら出たところで直接解除できれば良いんですけど、別々に行動をと言うことなので。美久、くれぐれも40分以内にここを出てしまってくださいね」
としつこく念を押す。
「どうして?」
「でないとたぶんこの方、大泣きされますよ。たぶんあなたがかけたのはこの前ミシェルに施したアレですよね」
「はい、そうですよ」
「でしたらこの方があなたのしたことを解ってではないと思いますが。
この方はは私(ということはもちろん美久も)のことが生理的にお嫌いな様なので」
「そうそう、こいつわざわざ目で追っかけてまで泣いてたもんな」
セルディオさんの言葉に対して、先輩が吹き出すのをこらえながらそう続ける。
「それは僕たちが女みたいな顔をしてるからですよ。中司さんはすごく女嫌いですから」
僕はむくれながらそう返した。
「ま、ぐだぐだ言っててもしゃーねぇ、作戦開始だ」
先輩はそう言って中司さんもどきのセルディオさんにわざと大きな声で、
「本当に今日はありがとうございました。で、今後の日程について……」
と話しながら、彼を先導して歩き始めた。

 






 
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