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結婚狂想曲(ウエディング ラプソディ)

中原シナ子の小動物観察日記 後編

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  それは、私が断ったってことを彼氏モドキ君が法学君に伝えたときに事件は起こった。テンテンと彼氏モドキ君のことが彼の先輩たちに知られてしまったのだ。ま、んな話を学食なんかでする彼氏モドキ君も悪いんだよ。

 それはともかくとして、それの何が事件かというと、彼らの所属しているサークルが囲碁研究会という、思いっきり『悪徳不動産業者』に似つかわしい地味~なところで、先輩たちのほとんどが彼女いない歴=年齢だから、後輩の幸せをやっかみ半分、あわよくばおこぼれにあずかろう半分で、学祭にテンテンを呼べと言い出したからだ。テンテンが全力否定する位だから、当然彼氏モドキ君は告白なんてしてない訳で……それでもそんなことを言ってらんない彼氏モドキ君は、テンテンを学祭に誘い、二人きりになりたくないテンテンは私たち専門学校の同級生を誘った。 でも、ちょうど運悪くと言うか良くというか、その日はN大も学祭で、おまけに「RIAL BAMP」がシークレットライブをやるって噂が前日に流れたもんだから、テンテン以外の子(もちろん私もよ)みんなそっちに流れちゃったのよね。ま、ライブが終わる頃を見計らってこっちに来いって言われて、結局合コン状態になっちゃったけどね。
 そこでテンテンと彼氏モドキ君はそこで晴れて恋人認定されて、まんざらでもない感じだったんだけどなぁ……

 当然、私たちは次の日に先を争って彼氏モドキ君とのその後を聞いたのだが、彼氏モドキくんはテンテンを送ってすぐに帰ったという。だがその後、
「姉ちゃんガンバレだもんね~」
とイミフなことを口走り、にへらと相好を崩したと思ったら、咳払いをして、
「何でもない」
と黙り込む。おまけに、授業が終わったら超ハイスピードで帰っちゃうし……一体あの子に何があったんだ? 確かめようと思っても、テンテン家ってお店にしか電話がないから、営業中はできないし、だからってお店が終わるような時間に電話するのもねぇ……
「明日こそ、絶対吐かせるぞ」
と誓い合って私たちはその日帰って行ったのだったが……

 翌日、授業が終わってテンテンが取り出したのは真新しいピッチ。それを夢見がちに見ながら、
醸兄じょうにぃがメールしろって言うから……」
と、とろけるような表情のテンテンに、私たちは一様に首を傾げた。ジョーニィって、何者? 日本人なのか? ま、テンテン本人も日本の血は全く入ってないけど。あの子って、日本人より日本人っぽいから忘れちゃうけど、お父さんが中国人だし、お母さんは韓国人だもね。
 それはどーでも良いんだよ! とにかく、テンテンのメールで、そのジョーニィが駅に迎えに来ると聞いた私たちは抵抗するテンテンをモノともせずに、挙ってそのジョーニィを拝みに行った。

 だけど、テンテンの地元-希望が丘駅で待っていたのは、どう見てもネイティブ日本人なワンコ系イケメン。ただ、
「おかえり。天衣」
と手を広げてどうぞこの胸に飛び込んでくださいオーラを出していたりはしたけど。テンテンはそれを軽くスルーして、
「ただいま」
とだけ言うと、私たちに向かって、
「じゃぁね」
と言う。ジョーニィはそこでやっと私たちの存在に気付いたようで、
「お友達?」
とテンテンに尋ねる。テンテンがすっごく不機嫌な顔でそれに頷くと、ジョーニィは、
「初めまして、天衣の婚約者の篠宮醸です」
色気ダダ漏れの笑顔で私たちに自己紹介。あれっ、シノミヤ? やっぱ思いっ切り日本人じゃん。後で聞いたらそれは醸兄ちゃんという意味で、近所の酒屋の息子-幼なじみなのだそう。
……いや、問題はソコじゃない! ソコじゃなくって……
「「婚約者!!」」
婚約者って、何ぞや。一斉にどよめいた私たちに、
「結婚式にはみんな来てくれるよね」
とさわやかに言うジョーニィ改め醸兄。だが、それを聞いたテンテンはいつの間に取り出したのか、鞄の中に入っているはずの下敷きで醸兄の頭をジャンピングショット。パコんと間の抜けた音が構内に響く。それに対して醸兄は、
「ひどいな、天衣は俺のプロポーズ受けてくれたんじゃないの?」
と、これまた色気大安売りの笑顔でテンテンの顔をのぞき込む。
 テンテンよ、たった3日で何がどーしてこうなった……

 翌日改めて仕切り直してそう聞いた私たちに、
「何がどうして? それあたしが一番聞きたいの!」
って、テンテンは逆に質問してきたのだった。

 その後、テンテンの恋のキューピット認定された私は、何度も彼らの新居に呼ばれることになり、そこには何故か法学君もいて、ミョーな腐れ縁になってしまうのは、また別の話……

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