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恋のカウントダウンが始まる

密談は場所を選びましょう

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 ダイサクがシナ子から返事を伝えたのは、夏休み明け間もない学食。
「良い人そうだけど、あたしには合わないかなってさ」
と、当たり障りなく結果を告げたダイサクに、
「なんで、なんでさ。あんなに盛り上がってたじゃん」
とダイサクに食い下がる法学。
「知んないよ、そんなの」
それに対してダイサクはそう言ってため息をつく。天衣ティエンフェイすら知らない法学のために一応待ち合わせ場所に行くには行ったが、彼らを会わせたらすぐに消えたので、その後の事は何も知らない。

「じゃぁさ、他にいいいないの。
そうだ合コン、合コンしようぜ!」
そして、シナ子に脈がないとなると、さっさと次の出会いの場を要求する法学に、
(その態度がギラギラしてるって言われるんだよ)と内心ダイサクは思いつつ、
「ダメダメ、大体今回だってテンテンちゃんにムリヤリお願いしたぐらいなんだからさ」
と言うと、
「けっ、友達甲斐のない奴。
自分はテンテンちゃんテンテンちゃんって言っときながら……」
と、法学は口を尖らす。ダイサクが、
「だから、今日は俺のおごりにしたじゃん」
と言いながら箸を渡すと、
「当然だ。勝手に抜け駆けした慰謝料としては、こんなの安すぎる位だ」
法学は相変わらず不機嫌な顔のまま、好物のイベリコ豚丼をかき込んだ。

 しかし、事態はこれで終わりではなかった。この顛末をサークルの先輩である小野友輝(おのゆうき)が見ていたのだ。
 後期最初のサークルの日、ダイサクは先輩たちに囲まれた。因みに、何のサークルかと言えば、囲碁だ。一時期アニメ化されてぐっと競技人口が増えたこともあったが、それも一時のこと。ブームが去った今、女共は爺むさいと敬遠して、女子メンバーはいない。
「ダイサク、お前彼女いるんだって?」
ダイサクは早々と就活を終えた4年の井上 正彦いのうえ まさひこに開口一番そう言われた。
「ど、どこで聞いたんですか、そんな話。いませんよ」
ダイサクはしどろもどろでそう返事する。だが、
「ウソつけ、ならなんでお前法学に飯なんかおごってんだよ。いるんだろ、ホントは」
と返されて、ダイサクは言葉に詰まる。学食には友輝ゆうき先輩もいたっけな。(こっちは小声でしゃべってんのに、法学の声デカかったもんな)しまった、学食で話するんじゃなかったと後悔したが、もう後の祭りだ。
「そ、それは……」
とそれでも話すのをためらっていると、三年の真殿 公平まどの こうへいに、
「テンテンちゃんだっけ? さっさと吐いちまいな、楽になるぜ」
と言われて、
「バイト先のオーナーの娘ってだけで、まだ彼女とかじゃないですよ。
商店街の祭りの時一緒に回っただけです、以上!」
半ばやけくそ気味にそう報告する。しかし、
「へぇ、バイト先の子か。美人か?」
と、先輩たちの質問は続く。
「……どっちかと言えば、可愛い感じ……かな?
あ、大輔と法学は知ってますよ。
な、テンテンちゃんって可愛いよな」
それに対して、ダイサクは照れながらそう答えた。自分としては天衣は他の誰よりも可愛いと思っているが、先輩たちがそう思うかどうかは別だ。
「おう、どっちかというと可愛いって顔だな」
「明るくてハキハキしたいい娘ですよ」
と、法学と大輔のそれぞれが説明するも、
「そんなんじゃ分かんなねぇよ。
ダイサク、写真もってねぇのか?
おう、それより連れてこい」
と言われ、
「そんなの付き合ってもないのに写真なんか持ってないですよ。連れてこいだなんて、カンベンしてください。
テンテンちゃんが見たいんだったら、ウチの店に来てください。夕方以降なら、学校から帰ってますから」
ダイサクは慌てて先輩たちにそう返す。
 余計なことを言われて、天衣に距離を置かれてしまう気もするが、サークル仲間が挙って店に来てくれたとあれば、開さんたちは喜んでくれそうで、玉爾さんと二人、頼んでもいないものまで出してくれそうだ。結果的に神神のファンが増えるなら、それはそれで良い。
「んなこと言って、お前自分の店に利益誘導するつもりだろ。
ま、いきなり俺たちが押し掛けて、折角のダイサクの春がおじゃんになったら、俺たちも寝覚めが悪いしな。
よっしゃ、その代わり大学祭に彼女を連れてこい。
これは命令だぞ」
しかし、正彦は手をヒラヒラと振りながらそう言い放った。
「えーっ!」
(店に来るのと変わんないじゃん。どうせ、質問責めにするに決まっとるんやで。
ああ、嫌われなきゃいいけど……)
ダイサクは先輩が対局を始めてから、こっそり大きなため息をついたのだった。
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