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ダウンタウン物語
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恐ろしいばかりの速度で走っていく『動く建物』(それが電車、さらには山手線と言うのだと後から知りますが)の窓から見る景色は、高さの大小はありますが長く四角い建物ばかり。お城の櫓(やぐら)のようにも思えますが、それもこんなに乱立していては遠くはちっとも見えません。ただ、その建物の隙間からちらちらとひときわ高く、雲を突くような高い建物が見えます。
【あれは、お城ですか?】
と私が聞くと、
【お城って、江戸城跡?】
マスミはそう言って首を傾げてから日本語で、
「あれって、外堀が皇居の外苑になってるんだっけ?」
とチエに日本語で言った後、
【見えない見えない、こことぜんぜん方向ちがうもん】
と答えました。
『動く建物』はしばらく走っては止まり、そこで人を吐き出してはまた新たに詰め込むということを繰り返しながら進んで行きます。つくづく妙な建物です。
しかし、私にとってそれ以上に不可解だったのは乗ってくる人たちでした。ほとんどが黒目黒髪だというのに、魔を纏っている人がいないのです。そのころの私はまだ未熟で、あまり強くない魔は見えなかったのですが、これだけたくさんの人がいるのですから、一人ぐらい私でも分かる魔の強い人がいてもいいはず、なのに該当する人は一人も居ません。
黒目黒髪はオラトリオでは魔の象徴です。尊敬する祖父も今でこそ年を重ねてその髪は白く変わっていますが、元々はファビイの様に美しく黒く光っていたのだと言います。ちなみに、ファビィと言うのは夜行性のモンスターで、ネコを大きくしたと言えばニホンの方にも解ってもらえるでしょうか。(作者注:まぁ、豹もどきです。ビクトールは豹を知りませんので)
そうして私たちはいくつか目の駅で『動く建物』-電車を降りました。鬼門、『自動カイサツ』も無事通り抜け、シブヤよりいくぶん小じんまりした出口を出ました。
ここの建物も四角くて白いものが多いですが、シブヤよりは若干小振り。『戦車』もやっぱり走っていますが、その数はずっと少なく、双方向。
【シブヤより小じんまりとしているんですね】
【そりゃ、ここは庶民街だもんね】
私のぼそっとしたつぶやきに、チエが笑ってそう答えました。
しかし、その風景は少々細い路地を抜けると一変しました。道の両側すべてが商店-今度はそのほとんどが食材をおいてある店で、店の中からあふれかえった商品が、路地にまで置かれています。ここは庶民街と言うよりは商人街では? と思いつつその品数と、何よりももう日もとっぷりと暮れているのに、昼のように明るいその街を私は呆然と眺めていました。
【何? これが欲しいの?】
それをマスミは(立っていたのがお菓子を売る店の前だったので)私がお菓子を欲しているのだと勘違いしたらしく、私が立っているすぐ前のものを手に取ると中に進んでいき、会計を済ませて私に手渡して、
【でも、ご飯が先よ。後でね】
と言いました。その言種が何やら頑是ない子供に言い含めるようだったので私は、
【それぐらいのことは解っています】
と、少々むくれながら答えました。実際、当時の私はまだまだ子供でしたし、私がマスミたちの歳をかなり上に見ていたのと同様に、マスミたちも私の歳を実際の11歳より低く見ていたようです。
とりあえず手渡されたお菓子を持ちながら、もやもやとしたまま歩き進め、店の波をあらかた抜けきったところで、マスミの家である洋食店、『山猫亭』にたどり着いたのでした。
【あれは、お城ですか?】
と私が聞くと、
【お城って、江戸城跡?】
マスミはそう言って首を傾げてから日本語で、
「あれって、外堀が皇居の外苑になってるんだっけ?」
とチエに日本語で言った後、
【見えない見えない、こことぜんぜん方向ちがうもん】
と答えました。
『動く建物』はしばらく走っては止まり、そこで人を吐き出してはまた新たに詰め込むということを繰り返しながら進んで行きます。つくづく妙な建物です。
しかし、私にとってそれ以上に不可解だったのは乗ってくる人たちでした。ほとんどが黒目黒髪だというのに、魔を纏っている人がいないのです。そのころの私はまだ未熟で、あまり強くない魔は見えなかったのですが、これだけたくさんの人がいるのですから、一人ぐらい私でも分かる魔の強い人がいてもいいはず、なのに該当する人は一人も居ません。
黒目黒髪はオラトリオでは魔の象徴です。尊敬する祖父も今でこそ年を重ねてその髪は白く変わっていますが、元々はファビイの様に美しく黒く光っていたのだと言います。ちなみに、ファビィと言うのは夜行性のモンスターで、ネコを大きくしたと言えばニホンの方にも解ってもらえるでしょうか。(作者注:まぁ、豹もどきです。ビクトールは豹を知りませんので)
そうして私たちはいくつか目の駅で『動く建物』-電車を降りました。鬼門、『自動カイサツ』も無事通り抜け、シブヤよりいくぶん小じんまりした出口を出ました。
ここの建物も四角くて白いものが多いですが、シブヤよりは若干小振り。『戦車』もやっぱり走っていますが、その数はずっと少なく、双方向。
【シブヤより小じんまりとしているんですね】
【そりゃ、ここは庶民街だもんね】
私のぼそっとしたつぶやきに、チエが笑ってそう答えました。
しかし、その風景は少々細い路地を抜けると一変しました。道の両側すべてが商店-今度はそのほとんどが食材をおいてある店で、店の中からあふれかえった商品が、路地にまで置かれています。ここは庶民街と言うよりは商人街では? と思いつつその品数と、何よりももう日もとっぷりと暮れているのに、昼のように明るいその街を私は呆然と眺めていました。
【何? これが欲しいの?】
それをマスミは(立っていたのがお菓子を売る店の前だったので)私がお菓子を欲しているのだと勘違いしたらしく、私が立っているすぐ前のものを手に取ると中に進んでいき、会計を済ませて私に手渡して、
【でも、ご飯が先よ。後でね】
と言いました。その言種が何やら頑是ない子供に言い含めるようだったので私は、
【それぐらいのことは解っています】
と、少々むくれながら答えました。実際、当時の私はまだまだ子供でしたし、私がマスミたちの歳をかなり上に見ていたのと同様に、マスミたちも私の歳を実際の11歳より低く見ていたようです。
とりあえず手渡されたお菓子を持ちながら、もやもやとしたまま歩き進め、店の波をあらかた抜けきったところで、マスミの家である洋食店、『山猫亭』にたどり着いたのでした。
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