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【番外】残念天使
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天野英雄は残念なイケメンだ。中学からのニックネームは「残念天使」
透き通るような金髪に、宝石のような青い瞳。男のくせにビスクドールのような容姿を持つ彼は、惜しげもなく笑顔を振りまき、誰にでも丁寧な言葉遣いで接する。
そんなどっかの執事みたいな彼がモテない訳がなく、入学当初、彼の同中でない女の子たちはそれこそ彼の一挙手一投足に黄色い声をあげたほどである。それを同中の生徒たちは生暖かい目で見るという日々がしばらく続くが、程なくして彼女らは彼が同中のみんなから「残念天使」と呼ばれている理由を知る。
高校初めての英語の授業のことである。教師は真っ先に完全に机に顔を突っ伏していた見た目ネイティブの彼を指したのだが、彼はその容姿に反して全くといって英語ができなかったのである。
それもそのはず、天野英雄はその形こそ外国人だが、アメリカ人の父の死後、母と帰国してからは日本語オンリーの生活をしていた。
また、5年前に母は再婚したのだが、その相手は寿司屋。親の代からの職人気質の新しい父は当然ながら英語に明るくはなく、日常会話には和製英語ですら飛び交わない。
更には-これが一番の要因なのだが-英雄は女性に対して極度にヘタレだったのだ。そのスキルのなさは、現在5歳の彼の妹葵にも劣るという。
クラスでみんなでいるときにはまだしも、女性とのツーショットなんて以ての外。彼との接触を願って放課後それとなく二人きりになろうとした女子が、途端に固まって動かなくなった彼を見て慌てて外に助けを呼びに走ったこと三度。
ここに、女子の間では、『天野英雄は観賞用』という暗黙の了解ができあがっていったのである。
しかし、入学から半年、それを覆す事態が起こった。何とその英雄が恋をしたのである。相手は同じクラスの田中一子。決して美人という訳ではないがさりとて不細工でもない。中肉中背のいかにも平均的な女生徒である。
英雄が一子に恋をしたきっかけを英雄は頑として誰にも言わなかった。また、一子の方も、
「勝手にデビくんが懐いてきたんだもん、私には分かんないわよ」
と挙動不審で言うだけで、何も語ろうとしない。どうやらそれも相当ヘタレな理由なのだろう。
ただ、それからの英雄は一子とだけはツーショットにもなれるし、それどころか彼女の周りを蝶か蜂のごとくぶんぶん飛び回るようになった。
このピュアな少年の恋を、クラスメイトたちは挙って面白がり(ゴホン!)否、応援し、一子はたちまち外堀を埋められることに。ここに一組のクラスもとい、学年公認のカップルが誕生したのである。
そして今、件の一子は英雄が見つけた将来の夢のために、共にM大を受験という無謀な賭に巻き込まれようとしていた。
「うがーっ、サイン・コサイン・タンジェントって何なのよ! スターじゃないんだからサインなんかしないんだからね、私は!!」
そんな妙な雄叫びを吐きながら、一子は今日も苦手な数学の問題集と格闘中だ。あたし、ヨッコこと佐藤容子を含めたクラスのみんなは生暖かい目でそれを見ているのである。
みんなは内心、(一子、みんなに外堀埋められたって言いながら、あんた結構天野君に惚れてんじゃない。でなきゃそんなにマジになって勉強しないでしょ)
と思っているのである。
透き通るような金髪に、宝石のような青い瞳。男のくせにビスクドールのような容姿を持つ彼は、惜しげもなく笑顔を振りまき、誰にでも丁寧な言葉遣いで接する。
そんなどっかの執事みたいな彼がモテない訳がなく、入学当初、彼の同中でない女の子たちはそれこそ彼の一挙手一投足に黄色い声をあげたほどである。それを同中の生徒たちは生暖かい目で見るという日々がしばらく続くが、程なくして彼女らは彼が同中のみんなから「残念天使」と呼ばれている理由を知る。
高校初めての英語の授業のことである。教師は真っ先に完全に机に顔を突っ伏していた見た目ネイティブの彼を指したのだが、彼はその容姿に反して全くといって英語ができなかったのである。
それもそのはず、天野英雄はその形こそ外国人だが、アメリカ人の父の死後、母と帰国してからは日本語オンリーの生活をしていた。
また、5年前に母は再婚したのだが、その相手は寿司屋。親の代からの職人気質の新しい父は当然ながら英語に明るくはなく、日常会話には和製英語ですら飛び交わない。
更には-これが一番の要因なのだが-英雄は女性に対して極度にヘタレだったのだ。そのスキルのなさは、現在5歳の彼の妹葵にも劣るという。
クラスでみんなでいるときにはまだしも、女性とのツーショットなんて以ての外。彼との接触を願って放課後それとなく二人きりになろうとした女子が、途端に固まって動かなくなった彼を見て慌てて外に助けを呼びに走ったこと三度。
ここに、女子の間では、『天野英雄は観賞用』という暗黙の了解ができあがっていったのである。
しかし、入学から半年、それを覆す事態が起こった。何とその英雄が恋をしたのである。相手は同じクラスの田中一子。決して美人という訳ではないがさりとて不細工でもない。中肉中背のいかにも平均的な女生徒である。
英雄が一子に恋をしたきっかけを英雄は頑として誰にも言わなかった。また、一子の方も、
「勝手にデビくんが懐いてきたんだもん、私には分かんないわよ」
と挙動不審で言うだけで、何も語ろうとしない。どうやらそれも相当ヘタレな理由なのだろう。
ただ、それからの英雄は一子とだけはツーショットにもなれるし、それどころか彼女の周りを蝶か蜂のごとくぶんぶん飛び回るようになった。
このピュアな少年の恋を、クラスメイトたちは挙って面白がり(ゴホン!)否、応援し、一子はたちまち外堀を埋められることに。ここに一組のクラスもとい、学年公認のカップルが誕生したのである。
そして今、件の一子は英雄が見つけた将来の夢のために、共にM大を受験という無謀な賭に巻き込まれようとしていた。
「うがーっ、サイン・コサイン・タンジェントって何なのよ! スターじゃないんだからサインなんかしないんだからね、私は!!」
そんな妙な雄叫びを吐きながら、一子は今日も苦手な数学の問題集と格闘中だ。あたし、ヨッコこと佐藤容子を含めたクラスのみんなは生暖かい目でそれを見ているのである。
みんなは内心、(一子、みんなに外堀埋められたって言いながら、あんた結構天野君に惚れてんじゃない。でなきゃそんなにマジになって勉強しないでしょ)
と思っているのである。
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