上 下
12 / 13

結局、ペナルティーじゃん!

しおりを挟む
 軽っぽ上司に強制的に眠らされ、目覚めたのは朝。心なしか喉が痛い。そう言えばヨッコがメールで『風治った?』って書いてたから、風邪引いて寝込んでたってことになってるんだろう。
 ま、いっか。それより早くしないと『あいつ』が来ちゃうな……あれっ、『あいつ』って誰だろう。

 私は首を傾げながら階段を下りる。すると、ちょうどキッチンから出てきたお母さんに、
「おはよう。一子、まだ調子が悪いの?」
と聞かれた。ああ、ちゃんと元に戻ってる! なんか当たり前のことが本当に嬉しい。
「おはよ、ううん別に」
「熱も下がったわね。じゃぁ、早くご飯食べちゃいなさい。昨日、あんた一日昏々と寝てたもんだから、英雄君心配して朝迎えに来るって言ってたから」
ん? ひでおくんって誰? そう思った私の頭にふっとデビッドの顔が浮かぶ……まさかね。
 そうしてご朝ご飯を食べてるとチャイムが鳴った。
私はまだ途中だったけど、
「ごちそうさま」
と言って立つ。お母さんも病み上がりだと思って何も言わなかった。

 そして、玄関先にいたのは、私と同じ制服を着た、緩やかなウェーブのかかった金髪で碧眼の男の子。
「おはようございます。昨日は大変でしたけど、今日は大丈夫ですか」
そんな相変わらずクソ丁寧な朝の挨拶を聞く間に、
<天野英雄:県立高校2年、得意科目:数学、苦手科目:英語、家業:寿司屋、家族:両親と5歳の妹……>と何かが頭から沸いてくるように元天使の人間としての設定? が記憶に追加される。それによると、デビッド改め天野英雄君は、一年の時から私のカレシらしい。私は、
「よろしくお願いします」
という英雄君に、
「今更、よろしくお願いしますはおかしいよ。
という訳で、こっちもよろしく」
と言って笑った。

「あの、人間の英雄は昨日このようなモノを持ち帰っているのですが、一子様はどうされますか」
学校に向かいながら新米高校生英雄君がそう言って見せたのは、進路調査票。しかも、その第一志望にはM大……M大って、偏差値Aランクだよ。
「あんたさぁ、どうでも良いけど一年も付き合ってる設定で今更一子様はないと思うよ」
「は、はぁ。ではどう呼べばよろしいんでしょうか」
どう呼べばって……そこから始める? もう、何が経験すれば解るよ。設定グズグズじゃん。
「別に呼び捨ててくれていいけど、いきなりそれじゃハードル高いか。一子さんううん、一子ちゃんでいいよ」
それは何となく新しく追加された記憶の英雄君がそう呼んでいたような気がしたからだ。
「一子ちゃんですか。そう言えばイシマエル様もそんな風に呼んでましたね」
すると、英雄君は嬉しそうにそう言った。そうか、何となくそう呼ばれた記憶があったのは、イシマエル、お前のせいか。
「しっかし、デビくん(これも刷り込まれた私の記憶にあった)M大受けるの? ここ偏差値バリ高だよ」
「そうなんですか? だけど、『神は越えられぬ試練をお与えにはならない』ですから、多少困難ではあっても、頑張ればできないことはないでしょう」
そして、私の言葉に、元天使は爽やかな顔でそう言い切った。けど、私はパスだな。

 そのとき、いきなり耳元で声がした。
「一子ちゃん、今パスって思ったでしょ。
ダメダメ、頑張ってもできないってことはないこともないけどね、大抵は頑張りゃできるんだよ。出来ないのは最初からみんな諦めてるからだよ。
それに、僕、君にデビちゃんのお守りを頼むって言ったじゃん。だから、君もM大志望ね」
は? 私がM大!? と思ってキョロキョロすると、そこには昨日の軽っぽ上司イシマエル様の姿が。しかも……
「く、首だけ!」
「騒がない、騒がない。今日はちょっと寄っただけだから、全身出さなくてもいいかなって。
それにさ、当然だけど僕の姿他の人にはみえないからね、ただ驚いてるだけだったらデビちゃんがいるからいいけど、指指したら一子ちゃん変な子に見られるよ。
ほんじゃ、2人で助け合って受験乗り切ってね。目標があるから、清い高校生恋愛ライフ満喫できるでしょ。
じゃぁね~」
ビックリして、あたふたしている私に、イシマエル様は勝手にそうまくし立ててすっと消えてった。
しかし、ちょっと寄っただけだからって、首だけってどんなホラーだ。
「どうかしました?」
と心配そうに私の顔を覗き込む英雄君に、
「あれ、今イシマエル様が(首だけ)いたんだけど、あんた見えなかった?」
「ええ、わたくしには……」
英雄君には見えなかったのか。『他の人には見えない』って言ってたもんね。私はそれでデビッドが本当に人間になっちゃったんだと改めて理解した。
「で、何か?」
イシマエル様が現れたと言えば言ったで、一体何の話かと不安そうに聞く英雄君に、
「私にもM大受けろって」
と私がブスっとした顔で答えると、
「えっ、一子さ……あ、一子ちゃんも一緒に受験してくださるんですか? 嬉しいです。一緒に頑張って、必ず合格しましょうね」
と破顔し、手を取って小躍りした後、自分が私の手を握っていることに気づいて慌てて離すと、
「す、すいません」
と挙動不審になる。何ともピュアな反応に、庇護欲をかき立てられるよ。こんな子放っておける訳ないじゃん。この調子だったら、素直に勉強しまくって、絶対合格すると思うし。
 だからって、成績中の上のこの私がM大? もう、2年の2学期だよ。今からって、どんだけ勉強しなきゃなんないのよ!
 イシマエルの鬼! 悪魔!! 何が損をさせないよ、こんなのペナルティーと一緒じゃんよ!!

「あんにゃろ~!!」
私はどこにも持っていけない怒りをそばにあった街路樹にぶつけるしかなかった。

            ーおわりー 



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

天使と死神

茶野森かのこ
ファンタジー
怠け者な天使と優秀な死神、二人が仕事でバディを組むお話です。 天界にある、世界管理局。そこでは神様の下、天使と死神がこの世界の為に働いていた。 天使と死神には、それぞれ役割があり、持つ力が異なる。 死神は奪う力を持ち魂を天界に連れ、天使は天界の管理や神様のサポート等をこなしていた。 ある日、下界にある鞍生地町の神社から神様が失踪した。神様の邪魔が入らないと分かると、悪魔は次々と人を襲い始めた。悪魔は人の負の感情を好み、それを奪い尽くされると人は命を落としてしまう。 早く神様を探さなくてはならない。 そこで白羽の矢が立ったのが、天界では優秀と有名な死神の青年フウガと、怠け者で有名な天使の青年アリアだった。 二人は、神様探しの傍ら悪魔に対抗すべく、共に仕事をこなす事に。 森のような神社、神様と桜の人、変わっていく町の中で変わらないもの。 次第に、自分の存在理由を感じ始めるアリアと、与えられた役割以上の気持ちを知り始めるフウガ。 そんな二人のお話です。

エンジェリカの王女

四季
ファンタジー
天界の王国・エンジェリカ。その王女であるアンナは王宮の外の世界に憧れていた。 ある日、護衛隊長エリアスに無理を言い街へ連れていってもらうが、それをきっかけに彼女の人生は動き出すのだった。 天使が暮らす天界、人間の暮らす地上界、悪魔の暮らす魔界ーー三つの世界を舞台に繰り広げられる物語。 著作者:四季 無断転載は固く禁じます。 ※この作品は、2017年7月~10月に執筆したものを投稿しているものです。 ※この作品は「小説カキコ」にも掲載しています。 ※この作品は「小説になろう」にも掲載しています。

婚約者の浮気相手が子を授かったので

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ファンヌはリヴァス王国王太子クラウスの婚約者である。 ある日、クラウスが想いを寄せている女性――アデラが子を授かったと言う。 アデラと一緒になりたいクラウスは、ファンヌに婚約解消を迫る。 ファンヌはそれを受け入れ、さっさと手続きを済ませてしまった。 自由になった彼女は学校へと戻り、大好きな薬草や茶葉の『研究』に没頭する予定だった。 しかし、師であるエルランドが学校を辞めて自国へ戻ると言い出す。 彼は自然豊かな国ベロテニア王国の出身であった。 ベロテニア王国は、薬草や茶葉の生育に力を入れているし、何よりも獣人の血を引く者も数多くいるという魅力的な国である。 まだまだエルランドと共に茶葉や薬草の『研究』を続けたいファンヌは、エルランドと共にベロテニア王国へと向かうのだが――。 ※表紙イラストはタイトルから「お絵描きばりぐっどくん」に作成してもらいました。 ※完結しました

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

女傭兵と聖女は機械天使教を設立する

ブレイブ31
ファンタジー
勇猛な女傭兵と、聖なる力を宿した聖女が、己の宿命に翻弄されてひとつの体に融合してしまう。彼女たちはそれぞれの過去と信念を背負いながら、祖国を追われ、機械の国「メカストリア」にたどり着いた。そこは歯車と蒸気の音が響く機械文明が支配する場所。だが、彼女たちはこの異国で新たな信仰の道を切り開くことになる。 聖なる魔法と機械の技術を巧みに操り、「機械と天使の調和」を説く信仰を広まっていく彼女たちの元に集まってきたのは、由緒正しき正義の心を持つ騎士と、謎めいた悪魔。彼らもまたそれぞれの目的と野望を秘め、思惑が交差しながら不安定なパーティを組むことになる。 異なる目的のために集まった仲間たちの間には、時に友情、時に反発、そして淡い恋愛感情が生まれていく。融合した女傭兵と聖女は、その揺れる感情の中で己の意思を貫けるのか? そして、彼女が築こうとする信仰の結末は新たな希望をもたらすのか、それともさらなる混沌を招くのか……。 想いが絡み合う中で、運命に抗いながら新たな絆を築いていく彼らの物語が今、始まる。 あらすじの内容になる設立編はすでに完成しています。毎日夕方に1話づつ更新予定です。

追放された最強ヒーラーは、美少女令嬢たちとハーレム生活を送る ~公爵令嬢も義妹も幼馴染も俺のことを大好きらしいので一緒の風呂に入ります~

軽井広@北欧美少女 書籍化!
ファンタジー
白魔道師のクリスは、宮廷魔導師団の副団長として、王国の戦争での勝利に貢献してきた。だが、国王の非道な行いに批判的なクリスは、反逆の疑いをかけられ宮廷を追放されてしまう。 そんなクリスに与えられた国からの新たな命令は、逃亡した美少女公爵令嬢を捕らえ、処刑することだった。彼女は敵国との内通を疑われ、王太子との婚約を破棄されていた。だが、無実を訴える公爵令嬢のことを信じ、彼女を助けることに決めるクリス。 クリスは国のためではなく、自分のため、そして自分を頼る少女のために、自らの力を使うことにした。やがて、同じような境遇の少女たちを助け、クリスは彼女たちと暮らすことになる。 一方、クリスのいなくなった王国軍は、隣国との戦争に負けはじめた……。

(完結)お姉様を選んだことを今更後悔しても遅いです!

青空一夏
恋愛
私はブロッサム・ビアス。ビアス候爵家の次女で、私の婚約者はフロイド・ターナー伯爵令息だった。結婚式を一ヶ月後に控え、私は仕上がってきたドレスをお父様達に見せていた。 すると、お母様達は思いがけない言葉を口にする。 「まぁ、素敵! そのドレスはお腹周りをカバーできて良いわね。コーデリアにぴったりよ」 「まだ、コーデリアのお腹は目立たないが、それなら大丈夫だろう」 なぜ、お姉様の名前がでてくるの? なんと、お姉様は私の婚約者の子供を妊娠していると言い出して、フロイドは私に婚約破棄をつきつけたのだった。 ※タグの追加や変更あるかもしれません。 ※因果応報的ざまぁのはず。 ※作者独自の世界のゆるふわ設定。 ※過去作のリメイク版です。過去作品は非公開にしました。 ※表紙は作者作成AIイラスト。ブロッサムのイメージイラストです。

処理中です...