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治基の誕生
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治基の元の主の名は高橋元気。名前の通り元気だった少年は、8歳の時に『生まれた』治基(このときには名前などなかったが便宜上こうさせていただく)に彼の両親が元気という名を冠したことを後悔する位に苦しめられた。
小さな体に幾度もメスを入れ、副作用もいとわず体力が保つ限りの抗ガン剤治療をし、巷であれが良いとの噂があれば真っ先に飛びついた。
しかし、それで治まってもしばらくすると転移し、別の場所から現れる。そして最初に『治基』を確認してから7年後の15歳で、元気はその短い生涯を終えた。
ただ治基に否がある訳ではない。治基はそれこそ本能として自分たちという亜種を守るため耐え難い白血球の攻撃や抗ガン剤や温熱療法に耐え、手術という外的要因にも巧みに仲間をを忍ばせて転移を繰り返し逃げ切ったのだ。たといその結果が元気の死であったとしても。
元気の死後、治基は神の使いという奴に呼び出された。呼び出されたと言えば語弊があるかもしれない。気が付いたらいつの間にかその自称神の使いの前にいたと言った方が正しい。
「お、オレは悪くねぇぞ! あいつのためにオレが犠牲になれってぇのかよ!!」
てっきり元気を死なせたことに対する罰を受けるのだと思った治基は自称神の使いにそう食ってかかった。
「そういきり立つな。まだ儂は何も言っておらんぞ。
まぁ、そのぐらいの勢いがなければ儂もお前さんを選んでおらんがの」
「選ん……で?」
「そう、お前さんは選ばれたんじゃよ。お前さんにはこれから……とは言え3年後ぐらいにはなるがの、儂の言う仕事をしてもらう」
自称神の使いは淡々と治基にそう告げた。
「仕事?」
だが、こんな細胞レベルの自分に一体何ができるというのだろう。首を傾げる治基に、
「そうだ。お前さんにはお前さんのようにちとひねくれた亜種細胞、つまりはガン細胞だな。それを説得して普通細胞に戻す仕事をしてもらう」
と仕事内容を説明する自称神の使いだが、
「は? なんだそりゃ」
治基はそれを聞いて鼻(とは言えどこが鼻か分かったものではないが)で笑った。全く意味が分からない。
確かにガン細胞は元々は普通の細胞の変異体だ。だが、それを治す方法がこともあろうに薬も熱ももちろん外科処置さえも使わずに『説得して』治す?……さすがに一細胞の治基であってもその無謀さに呆れて口(この際、どこが口かとは聞かないでやって欲しい)がふさがらない。
「昨今、そうした亜種細胞が多すぎるのだよ。
まぁな、大して睡眠もとらず、ストレス塗れでお前さんたちを妙な方向に誘導するような食い物ばっか食っててはのぉ、それも仕方ないといえばそうなんだが……」
自称神の使いはそう言ってため息をつく。
「亜種のやっかいなところは、本体が元気であればあるほど進行が速い。つまり、若いもんから先にくる。
これはさすがに由々しき事態だと神も仰せられてな」
自称神の使い曰く、神様という奴は本来非常になま温く……もとい、忍耐強く人間たちを自分たちの意志で行動させてるらしいが、交通事故にガンにと最近の生命の逆ざや現象はそれにあまりあるものらしい。事故は突発的で神の理を崩すことになることが多く介入しにくいが、病ならば長期戦なのでなんとかできると、白羽の矢が立ったのが亜種細胞の存在だった。
己が生きることに貪欲だったために主を失った後悔の念を持つ。何より、元ガン細胞だったのだ。かつての自分と同じ『者』には親近感もわくし、なにより相手方に説得力があるというのだ。
「と言う訳でじゃ、さっそくお前さんには人間ととして転生してもらうぞ」
「ふぇ、オレ人間になるのか?」
驚いて目を(どこが目だという指摘は一切受け付けない)丸くする治基に、
「そうだ、説得するには同じ人間でないとな。では、人間としての新しい人生に行ってこい」
とニヤリと笑う自称神の使い。
「ちょ、ちょう待てよ、まだ説明終わってないだろ、解んねぇんだけど!!」
という治基の叫びは全く無視して、自称神の使いはパチンと指を鳴らすと、治基は音もなく出てきた黒い渦の中に飲み込まれていった。
小さな体に幾度もメスを入れ、副作用もいとわず体力が保つ限りの抗ガン剤治療をし、巷であれが良いとの噂があれば真っ先に飛びついた。
しかし、それで治まってもしばらくすると転移し、別の場所から現れる。そして最初に『治基』を確認してから7年後の15歳で、元気はその短い生涯を終えた。
ただ治基に否がある訳ではない。治基はそれこそ本能として自分たちという亜種を守るため耐え難い白血球の攻撃や抗ガン剤や温熱療法に耐え、手術という外的要因にも巧みに仲間をを忍ばせて転移を繰り返し逃げ切ったのだ。たといその結果が元気の死であったとしても。
元気の死後、治基は神の使いという奴に呼び出された。呼び出されたと言えば語弊があるかもしれない。気が付いたらいつの間にかその自称神の使いの前にいたと言った方が正しい。
「お、オレは悪くねぇぞ! あいつのためにオレが犠牲になれってぇのかよ!!」
てっきり元気を死なせたことに対する罰を受けるのだと思った治基は自称神の使いにそう食ってかかった。
「そういきり立つな。まだ儂は何も言っておらんぞ。
まぁ、そのぐらいの勢いがなければ儂もお前さんを選んでおらんがの」
「選ん……で?」
「そう、お前さんは選ばれたんじゃよ。お前さんにはこれから……とは言え3年後ぐらいにはなるがの、儂の言う仕事をしてもらう」
自称神の使いは淡々と治基にそう告げた。
「仕事?」
だが、こんな細胞レベルの自分に一体何ができるというのだろう。首を傾げる治基に、
「そうだ。お前さんにはお前さんのようにちとひねくれた亜種細胞、つまりはガン細胞だな。それを説得して普通細胞に戻す仕事をしてもらう」
と仕事内容を説明する自称神の使いだが、
「は? なんだそりゃ」
治基はそれを聞いて鼻(とは言えどこが鼻か分かったものではないが)で笑った。全く意味が分からない。
確かにガン細胞は元々は普通の細胞の変異体だ。だが、それを治す方法がこともあろうに薬も熱ももちろん外科処置さえも使わずに『説得して』治す?……さすがに一細胞の治基であってもその無謀さに呆れて口(この際、どこが口かとは聞かないでやって欲しい)がふさがらない。
「昨今、そうした亜種細胞が多すぎるのだよ。
まぁな、大して睡眠もとらず、ストレス塗れでお前さんたちを妙な方向に誘導するような食い物ばっか食っててはのぉ、それも仕方ないといえばそうなんだが……」
自称神の使いはそう言ってため息をつく。
「亜種のやっかいなところは、本体が元気であればあるほど進行が速い。つまり、若いもんから先にくる。
これはさすがに由々しき事態だと神も仰せられてな」
自称神の使い曰く、神様という奴は本来非常になま温く……もとい、忍耐強く人間たちを自分たちの意志で行動させてるらしいが、交通事故にガンにと最近の生命の逆ざや現象はそれにあまりあるものらしい。事故は突発的で神の理を崩すことになることが多く介入しにくいが、病ならば長期戦なのでなんとかできると、白羽の矢が立ったのが亜種細胞の存在だった。
己が生きることに貪欲だったために主を失った後悔の念を持つ。何より、元ガン細胞だったのだ。かつての自分と同じ『者』には親近感もわくし、なにより相手方に説得力があるというのだ。
「と言う訳でじゃ、さっそくお前さんには人間ととして転生してもらうぞ」
「ふぇ、オレ人間になるのか?」
驚いて目を(どこが目だという指摘は一切受け付けない)丸くする治基に、
「そうだ、説得するには同じ人間でないとな。では、人間としての新しい人生に行ってこい」
とニヤリと笑う自称神の使い。
「ちょ、ちょう待てよ、まだ説明終わってないだろ、解んねぇんだけど!!」
という治基の叫びは全く無視して、自称神の使いはパチンと指を鳴らすと、治基は音もなく出てきた黒い渦の中に飲み込まれていった。
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