上 下
2 / 16

治基の誕生

しおりを挟む
 治基の元の主の名は高橋元気。名前の通り元気だった少年は、8歳の時に『生まれた』治基(このときには名前などなかったが便宜上こうさせていただく)に彼の両親が元気という名を冠したことを後悔する位に苦しめられた。
 小さな体に幾度もメスを入れ、副作用もいとわず体力が保つ限りの抗ガン剤治療をし、巷であれが良いとの噂があれば真っ先に飛びついた。
 しかし、それで治まってもしばらくすると転移し、別の場所から現れる。そして最初に『治基』を確認してから7年後の15歳で、元気はその短い生涯を終えた。

 ただ治基に否がある訳ではない。治基はそれこそ本能として自分たちという亜種を守るため耐え難い白血球の攻撃や抗ガン剤や温熱療法に耐え、手術という外的要因にも巧みに仲間をを忍ばせて転移を繰り返し逃げ切ったのだ。たといその結果が元気の死であったとしても。

 元気の死後、治基は神の使いという奴に呼び出された。呼び出されたと言えば語弊があるかもしれない。気が付いたらいつの間にかその自称神の使いの前にいたと言った方が正しい。
「お、オレは悪くねぇぞ! あいつのためにオレが犠牲になれってぇのかよ!!」
てっきり元気を死なせたことに対する罰を受けるのだと思った治基は自称神の使いにそう食ってかかった。
「そういきり立つな。まだ儂は何も言っておらんぞ。
まぁ、そのぐらいの勢いがなければ儂もお前さんを選んでおらんがの」
「選ん……で?」
「そう、お前さんは選ばれたんじゃよ。お前さんにはこれから……とは言え3年後ぐらいにはなるがの、儂の言う仕事をしてもらう」
自称神の使いは淡々と治基にそう告げた。
「仕事?」
だが、こんな細胞レベルの自分に一体何ができるというのだろう。首を傾げる治基に、
「そうだ。お前さんにはお前さんのようにちとひねくれた亜種細胞、つまりはガン細胞だな。それを説得して普通細胞に戻す仕事をしてもらう」
と仕事内容を説明する自称神の使いだが、
「は? なんだそりゃ」
治基はそれを聞いて鼻(とは言えどこが鼻か分かったものではないが)で笑った。全く意味が分からない。

 確かにガン細胞は元々は普通の細胞の変異体だ。だが、それを治す方法がこともあろうに薬も熱ももちろん外科処置さえも使わずに『説得して』治す?……さすがに一細胞の治基であってもその無謀さに呆れて口(この際、どこが口かとは聞かないでやって欲しい)がふさがらない。

「昨今、そうした亜種細胞が多すぎるのだよ。
まぁな、大して睡眠もとらず、ストレス塗れでお前さんたちを妙な方向に誘導するような食い物ばっか食っててはのぉ、それも仕方ないといえばそうなんだが……」
自称神の使いはそう言ってため息をつく。
「亜種のやっかいなところは、本体が元気であればあるほど進行が速い。つまり、若いもんから先にくる。
これはさすがに由々しき事態だと神も仰せられてな」
 自称神の使い曰く、神様という奴は本来非常になま温く……もとい、忍耐強く人間たちを自分たちの意志で行動させてるらしいが、交通事故にガンにと最近の生命の逆ざや現象はそれにあまりあるものらしい。事故は突発的で神の理を崩すことになることが多く介入しにくいが、病ならば長期戦なのでなんとかできると、白羽の矢が立ったのが亜種細胞の存在だった。

 己が生きることに貪欲だったために主を失った後悔の念を持つ。何より、元ガン細胞だったのだ。かつての自分と同じ『者』には親近感もわくし、なにより相手方に説得力があるというのだ。
「と言う訳でじゃ、さっそくお前さんには人間ととして転生してもらうぞ」
「ふぇ、オレ人間になるのか?」
驚いて目を(どこが目だという指摘は一切受け付けない)丸くする治基に、
「そうだ、説得するには同じ人間でないとな。では、人間としての新しい人生に行ってこい」
とニヤリと笑う自称神の使い。
「ちょ、ちょう待てよ、まだ説明終わってないだろ、解んねぇんだけど!!」
という治基の叫びは全く無視して、自称神の使いはパチンと指を鳴らすと、治基は音もなく出てきた黒い渦の中に飲み込まれていった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!

芽狐
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️ ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。  嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる! 転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。 新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか?? 更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

孕ませねばならん ~イケメン執事の監禁セックス~

あさとよる
恋愛
傷モノになれば、この婚約は無くなるはずだ。 最愛のお嬢様が嫁ぐのを阻止? 過保護イケメン執事の執着H♡

男女比1/100の世界で《悪男》は大海を知る

イコ
ファンタジー
男女貞操逆転世界を舞台にして。 《悪男》としてのレッテルを貼られたマクシム・ブラックウッド。 彼は己が運命を嘆きながら、処刑されてしまう。 だが、彼が次に目覚めた時。 そこは十三歳の自分だった。 処刑されたことで、自分の行いを悔い改めて、人生をやり直す。 これは、本物の《悪男》として生きる決意をして女性が多い世界で生きる男の話である。

異世界でネットショッピングをして商いをしました。

ss
ファンタジー
異世界に飛ばされた主人公、アキラが使えたスキルは「ネットショッピング」だった。 それは、地球の物を買えるというスキルだった。アキラはこれを駆使して異世界で荒稼ぎする。 これはそんなアキラの爽快で時には苦難ありの異世界生活の一端である。(ハーレムはないよ) よければお気に入り、感想よろしくお願いしますm(_ _)m hotランキング23位(18日11時時点) 本当にありがとうございます 誤字指摘などありがとうございます!スキルの「作者の権限」で直していこうと思いますが、発動条件がたくさんあるので直すのに時間がかかりますので気長にお待ちください。

処理中です...