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僕が治ちゅの
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「だからね、僕が治ちゅから、ママはおうちいるの」
治基はそう言うと、桃子の胆嚢に意識を集中させる。そこには、仲間を増やすべく頑張る亜種細胞が。治基が、
『なぁ、お前頑張んのはいいけどさ、仲間増やしても
待ってるのは大元が死んじまうだけだぜ』
と声をかけると、
『えっ、そうなの? そりゃ困るわね』
と桃子の声で些か間延びした返事が返ってきた。どうやら細胞の声も自動的にその本人の声に変換されるらしかった。まぁ、亜種細胞の言葉が字幕となって現れても、まだ文字の読めない治基にはお手上げなのだが……
そして、まだ治療を開始していない桃子の亜種細胞は当然人間側の攻撃を受けたことがなく従順で、あっという間に更正してしまい、初めての説得作業はあっけなく終了した。そこで治基が徐に目を開けると、心配気な母の顔が飛び込んできた。
「だいじょぶよー、もう、治ったのー」
治基はドヤ顔で桃子にそう言った。
「治った?」
しかし、いきなり治ったと言ったところで、桃子が信用するはずはない。
「そうよー、もうママのポンポンにムイないのー」
だからといって現状2歳児の治基には、これ以上の言い回しはできない。何度も治ったと繰り返していると、桃子は少し涙目になりながら、
「ありがとね、はるちゃん」
と言いながら優しく治基の頭を撫でた。どうやら母親から離れたくないための駄々こねだと思われたらしい。
(おい、ジジイ。俺ができるのはここまでだ。やっぱできねぇじゃねぇかよ)治基は気持ちの持って行き場がなくなり、子ども部屋でガンガンと積み木を積み上げ始めた。
やがて、桃子と彼女の母親(つまりは治基の祖母)のやりとりが聞こえてきた。桃子はさすがに祖母にはガンのことは言えない様子だ。その方が都合がいい、どうせ桃子の身体に亜種細胞は存在しないのだから。
治基だって下手に半世紀以上生きている彼女に心配はかけさせたくない。
そして、ベッドの空きの連絡を受けて桃子は精密検査を受けた。果たして結果は……
「誤診だったかなぁ、どこにもガン細胞がみつからないんですよ」
と、担当医師からしょげ顔での報告だった。桃子はその申し訳なさそうな顔を見ながら、
「いえいえ、なかったらそれで」
喜びを露わにしてそう答えた。
「無駄に検査させてしまいましたね」
医師はなおもそう頭を下げる。
「手術しなくて良かったんですもん。それでじゅうぶんです」
それに対して桃子はそう返したが、内心では、
(ごめんなさい、実はガンはありました。でもウチの息子が治したんです)
言いたくなるのを必死で堪えていた。言ったところで信じてはもらえないだろうし、下手に騒ぎ立てたら、思いこみで処理されるならまだしも、妙な宗教団体の勧誘だとかに間違われても困る。それに、今は治してくれた息子を抱きしめて褒めてやりたい。
桃子は迎えにきた夫を急かして急かして家路につき、玄関先で待ちかまえていた治基に、両手を広げて
「ありがとうね、ママ無事に帰ってきたよ」
と、ハグを求める。
だが、当の息子はニコニコはしていたものの、
「ねっ、僕の言う通りだったでちょ」
とまるで当然のことのように言うと、
「だからねー、僕のお願い聞いてほちいの」
パパには内緒ねーと言いつつ、子ども部屋に引き込んでしまった息子に寒気を覚えた。
そして、
「ママ、ぼくのお仕事てちゅだって」
と言われたとき、桃子は思わず、
「あなた一体誰? 私のはるちゃんを返して!」
と息子の顔をした何かに叫んでいた。
治基はそう言うと、桃子の胆嚢に意識を集中させる。そこには、仲間を増やすべく頑張る亜種細胞が。治基が、
『なぁ、お前頑張んのはいいけどさ、仲間増やしても
待ってるのは大元が死んじまうだけだぜ』
と声をかけると、
『えっ、そうなの? そりゃ困るわね』
と桃子の声で些か間延びした返事が返ってきた。どうやら細胞の声も自動的にその本人の声に変換されるらしかった。まぁ、亜種細胞の言葉が字幕となって現れても、まだ文字の読めない治基にはお手上げなのだが……
そして、まだ治療を開始していない桃子の亜種細胞は当然人間側の攻撃を受けたことがなく従順で、あっという間に更正してしまい、初めての説得作業はあっけなく終了した。そこで治基が徐に目を開けると、心配気な母の顔が飛び込んできた。
「だいじょぶよー、もう、治ったのー」
治基はドヤ顔で桃子にそう言った。
「治った?」
しかし、いきなり治ったと言ったところで、桃子が信用するはずはない。
「そうよー、もうママのポンポンにムイないのー」
だからといって現状2歳児の治基には、これ以上の言い回しはできない。何度も治ったと繰り返していると、桃子は少し涙目になりながら、
「ありがとね、はるちゃん」
と言いながら優しく治基の頭を撫でた。どうやら母親から離れたくないための駄々こねだと思われたらしい。
(おい、ジジイ。俺ができるのはここまでだ。やっぱできねぇじゃねぇかよ)治基は気持ちの持って行き場がなくなり、子ども部屋でガンガンと積み木を積み上げ始めた。
やがて、桃子と彼女の母親(つまりは治基の祖母)のやりとりが聞こえてきた。桃子はさすがに祖母にはガンのことは言えない様子だ。その方が都合がいい、どうせ桃子の身体に亜種細胞は存在しないのだから。
治基だって下手に半世紀以上生きている彼女に心配はかけさせたくない。
そして、ベッドの空きの連絡を受けて桃子は精密検査を受けた。果たして結果は……
「誤診だったかなぁ、どこにもガン細胞がみつからないんですよ」
と、担当医師からしょげ顔での報告だった。桃子はその申し訳なさそうな顔を見ながら、
「いえいえ、なかったらそれで」
喜びを露わにしてそう答えた。
「無駄に検査させてしまいましたね」
医師はなおもそう頭を下げる。
「手術しなくて良かったんですもん。それでじゅうぶんです」
それに対して桃子はそう返したが、内心では、
(ごめんなさい、実はガンはありました。でもウチの息子が治したんです)
言いたくなるのを必死で堪えていた。言ったところで信じてはもらえないだろうし、下手に騒ぎ立てたら、思いこみで処理されるならまだしも、妙な宗教団体の勧誘だとかに間違われても困る。それに、今は治してくれた息子を抱きしめて褒めてやりたい。
桃子は迎えにきた夫を急かして急かして家路につき、玄関先で待ちかまえていた治基に、両手を広げて
「ありがとうね、ママ無事に帰ってきたよ」
と、ハグを求める。
だが、当の息子はニコニコはしていたものの、
「ねっ、僕の言う通りだったでちょ」
とまるで当然のことのように言うと、
「だからねー、僕のお願い聞いてほちいの」
パパには内緒ねーと言いつつ、子ども部屋に引き込んでしまった息子に寒気を覚えた。
そして、
「ママ、ぼくのお仕事てちゅだって」
と言われたとき、桃子は思わず、
「あなた一体誰? 私のはるちゃんを返して!」
と息子の顔をした何かに叫んでいた。
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