ふたたびの……

神山 備

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家族に……

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「厚かましいとは思ってます。
でも、でも私……この家にずっと居たいんです」
と言う美郷に、
「そりゃ、構わないさ」
亮平は向き直って美郷の頭をなでた。
自分の家だと思ってくれと言ったのは他ならぬ亮平なのだから。
「自分の家なんだから。気兼ねなくずっと居てくれていいんだ。
ただ、嫁に行ったとしても、実家として遊びにくればいいじゃないか」
と続けた亮平に、
「私、お嫁になんて行きません」
と返す美郷。その言葉に、
「ここにいたって、年寄りの面倒を看る位しかないぞ」
と亮平が笑う。
「綿貫さんは年寄りなんかじゃないです。
それに、私に出て行けって言うんですか!」
と美郷は感情的な声を上げた。
「だから自分の家なんだから……」
気を遣うなという亮平に、
「私はただの同居人です。今はここに住まわせてもらってますけど、ここを去ってしまったらもう何の縁(ゆかり)もありません」
と言い放つ美郷。
「そんなことはない! 美郷さんは大切な家族だよ」
それに対してそう言った亮平に、
「でもそれは本物じゃない……
だけど……そう言ってくださるんでしたら、私を本当の家族にしてください」
と言って美郷は亮平にすがった。美郷はもう40の齢を越えている。それは今更養子縁組の意志ではないだろう。だとすれば……
「君はかなり酔っぱらってるようだね」
美郷の発言に、ため息混じりに亮平がそう答える。
「私、酔ってなんかいません」
確かに、酒の勢いを借りていることは認めるが、これは美郷がずっと思っていた本音中の本音だ。それを聞いた亮平は、
「なら、美郷さん……君は、自分の言ってる事が解っているのか!?」
と言って、ため息を吐いた。
「解ってます」
そして、そう即答した美郷に、
「いや、解ってなんかいないよ。
僕はもう68だ。僕になんか寄り添ったって、早晩僕は君を残して逝くだろうし、それよりも認知症になって、君に下の世話までさせる方が先だ。そんな奴のどこが良いんだ」
と吐き捨てるように言う。
「綿貫さんはそんな風にはなりません」
「いや、なるよ」
亮平の母も、男の自分など全く太刀打ちできない位しっかりしていたが、寄る年波には勝てず、晩年には甥や姪の顔すら覚えてはいなかった。それが歳を取るということだ。
「それに、縦しんば僕と結婚したとしても、君の期待に添うような夫婦生活はできないよ。長く保たないし、何よりもう子供を持つ気はない。
かなえですら、成人はともかく結婚まで見届けられる自信はないんだ」
「セックスだけが夫婦の要素じゃないでしょ?」
「だが、その善し悪しで結婚生活が終わることもよくある話だ。
君は自分の血を分けた子を持ちたくはないのかい?」
確かに不惑は超えたが今の医学ならまだ子供を望めない年齢ではないのだから。そう言った亮平に、美郷は、
「だとしたって、好きでもない人の子供なんて要りません」
と、言い切ったが、その途端急に不安気な顔になり、
「ごめんなさい……私、私の気持ちばっかり押しつけて……綿貫さんもこんな子供みたいな私に押し掛けられたら迷惑ですよね。
今言ったことは忘れてください。やっぱりちょっと酔っぱらってるみたいです」
と、亮平から手を離し、自分のベッドに入ると、
「お休みなさい」
と、半泣きの顔で挨拶する。それを見た亮平は、
「君は、僕をどこまで試したら気が済むんだ。
僕も君を初めて会った時から、君に惹かれていた。だが、こんなジジイに懸想されていると知ったら君の方がどん引きするんじゃないかと思って今まで、気持ちを封印してきたんだぞ。
本当に、こんな年寄りでいいのか?」
とついに白旗を揚げた。たとえ疑似親子としてでもいいから、ずっと一緒にいたいと思っていたのは亮平も同じだったのだ。それに対して、
「年寄りじゃありません、私は、綿貫さんが良いんです」
年寄り年寄りって言い過ぎですと、美郷がふくれっ面になる。その美郷の答えを聞いた亮平がくすっと笑った。
「もう降参だ。美郷さん、覚悟はいいね、僕の死に水をとってもらうよ」
「……えっ……えっ?……はいっ!」
亮平の些か色気のないプロポーズに少し戸惑った美郷は、その意味が分かって破顔し、頷いた。

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