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拉致られた?
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「あ、あの……下ろしてください」
確かに一刻も早くホテルを出たかったのは事実だけど、お姫様だっこはちょっと勘弁してほしい。しかも、天使のような容貌をしていたとしても、彼は全く見ず知らずの男性だ。『天使の皮を被った悪魔』かもしれないもの。それに対して天使様は、まったく歩く速度を落とさないで、
「なぜですか?」
と聞く。
「お嬢さんは逃げなきゃならないんでしょ。僕も逃げなきゃならない。利害は一致してます」
と何とも優雅な微笑みを浮かべながら駐車場を目指す。
そして、3ナンバーの国産車の前で一旦私を下ろすと、ドアを開け、助手席のシートを可能な限り後ろに下げて再び私を抱えあげた。よく考えたら、コレ、相当ヤバいんじゃない? 私は今更ながらに逃げ出そうともがいた。
「どこに連れていくんですか!」
「暴れないでください、落ちたらもっと怪我しますよ。
そうですね、どこに行きます?
とりあえず病院に行きましょう。どこに行くかはその時決めましょうか」
天使様は暴れる私を再度がっちりと抱え込むとそう言った。
「ただ捻っただけだから、病院なんて良いですよ」
病院? 大袈裟な。こんなの、湿布貼って大人しくしてればいいのよ。
「ダメです! 今見ましたけど、お嬢さんの足、既に腫れてきてますよ。
それに、捻挫をバカにしちゃいけない。骨折と違って歩けるからって無理に歩いたら、骨と筋の間に隙間ができるんです。そうなったら、もう元には戻らない」
それに対して、天使様は即答でだめ出しをした。
「隙間ができたらどうだって言うんです」
そんなの別に外から見えないし。私がそう言うと天使様は、
「普通にしているなら何にも問題はないですよ、でも長時間歩いたり、立ちっぱなしで作業すると痛んできます。
五体満足に生んでもらった身体でしょう? なら、大切に使いましょう」
なんて説教を垂れながら有無を言わせず、私を助手席に押し込んで自分も乗り込むと、すぐに発進した。これじゃ、拉致じゃない。
でも、天使様はそこから何分も行かないコンビニに車を停めると、喉でも乾いたのだろうか、
「ちょっと待っててくださいね」
と言って一人で車を降りてしまった。
このとき確かに、国産車の助手席では左足に力が入らないと難しいとは言え、どうしてもと思えば私は逃げられたはずだ。
でも、結局私は待った。どうせ逃げたところでこの足だ、すぐに追いつかれてしまうだろうし、私にはこの天使様がなんだか悪い人にはどうしても思えなくて。
しばらくして戻ってきた天使様の手には小さなビニール袋が二つ握られていた。一つは私の予想通り飲み物で、
「コーヒー大丈夫?」
と言われて頷いた私に手渡されたのは、甘いカフェオレだった。
「あ、ブラックとかの方が良かった? 僕、いつもこういうのしか飲めなくて、つい同じもの買っちゃったんだけど」
と言う彼が持っているのも、同じものだった。
「いえ、コーヒーなら何でも飲みますよ」
カロリーが気になるからいつもはブラックだけど、甘い方が本当は好き。
そしてもう一つには、サンダルが入っていた。
「病院でテーピングしてもらって、このサンダルでなら松葉杖ついて歩けるでしょ」
「あ、ありがとうございます」
「それから、何か服を買いに行きましょう」
「へっ」
だけど、何故に服が要る? 私が天使様の言葉に首を傾げると、
「帯をしていると、椅子の背に身体を預けられないでしょ。そしたら足、きつくないですか」
と逆に質問してきた。
「いいえ、普段からよく着物は着ますから」
「そうですか、でもその着物はちょっと……」
この着物の何がいけないのだろう。それに対して天使様は、
「えっ、僕たち一緒に逃げるんでしょ。だったら、その着物は目立つし、もっと逃げやすい格好をした方が」
と、真顔で言う。
逃げやすい格好って……そりゃ、確かに逃げなきゃって言ったのは私だけど、それはお見合い場所からであって、別に国外逃亡とかするつもりはさらさらないんだけど。
それにしても、天使様は何で逃げようとしてるんだろう……そう考えたとき、私はある重要なことに気づいた。
……私、天使様の名前も知らないんだってことに。
確かに一刻も早くホテルを出たかったのは事実だけど、お姫様だっこはちょっと勘弁してほしい。しかも、天使のような容貌をしていたとしても、彼は全く見ず知らずの男性だ。『天使の皮を被った悪魔』かもしれないもの。それに対して天使様は、まったく歩く速度を落とさないで、
「なぜですか?」
と聞く。
「お嬢さんは逃げなきゃならないんでしょ。僕も逃げなきゃならない。利害は一致してます」
と何とも優雅な微笑みを浮かべながら駐車場を目指す。
そして、3ナンバーの国産車の前で一旦私を下ろすと、ドアを開け、助手席のシートを可能な限り後ろに下げて再び私を抱えあげた。よく考えたら、コレ、相当ヤバいんじゃない? 私は今更ながらに逃げ出そうともがいた。
「どこに連れていくんですか!」
「暴れないでください、落ちたらもっと怪我しますよ。
そうですね、どこに行きます?
とりあえず病院に行きましょう。どこに行くかはその時決めましょうか」
天使様は暴れる私を再度がっちりと抱え込むとそう言った。
「ただ捻っただけだから、病院なんて良いですよ」
病院? 大袈裟な。こんなの、湿布貼って大人しくしてればいいのよ。
「ダメです! 今見ましたけど、お嬢さんの足、既に腫れてきてますよ。
それに、捻挫をバカにしちゃいけない。骨折と違って歩けるからって無理に歩いたら、骨と筋の間に隙間ができるんです。そうなったら、もう元には戻らない」
それに対して、天使様は即答でだめ出しをした。
「隙間ができたらどうだって言うんです」
そんなの別に外から見えないし。私がそう言うと天使様は、
「普通にしているなら何にも問題はないですよ、でも長時間歩いたり、立ちっぱなしで作業すると痛んできます。
五体満足に生んでもらった身体でしょう? なら、大切に使いましょう」
なんて説教を垂れながら有無を言わせず、私を助手席に押し込んで自分も乗り込むと、すぐに発進した。これじゃ、拉致じゃない。
でも、天使様はそこから何分も行かないコンビニに車を停めると、喉でも乾いたのだろうか、
「ちょっと待っててくださいね」
と言って一人で車を降りてしまった。
このとき確かに、国産車の助手席では左足に力が入らないと難しいとは言え、どうしてもと思えば私は逃げられたはずだ。
でも、結局私は待った。どうせ逃げたところでこの足だ、すぐに追いつかれてしまうだろうし、私にはこの天使様がなんだか悪い人にはどうしても思えなくて。
しばらくして戻ってきた天使様の手には小さなビニール袋が二つ握られていた。一つは私の予想通り飲み物で、
「コーヒー大丈夫?」
と言われて頷いた私に手渡されたのは、甘いカフェオレだった。
「あ、ブラックとかの方が良かった? 僕、いつもこういうのしか飲めなくて、つい同じもの買っちゃったんだけど」
と言う彼が持っているのも、同じものだった。
「いえ、コーヒーなら何でも飲みますよ」
カロリーが気になるからいつもはブラックだけど、甘い方が本当は好き。
そしてもう一つには、サンダルが入っていた。
「病院でテーピングしてもらって、このサンダルでなら松葉杖ついて歩けるでしょ」
「あ、ありがとうございます」
「それから、何か服を買いに行きましょう」
「へっ」
だけど、何故に服が要る? 私が天使様の言葉に首を傾げると、
「帯をしていると、椅子の背に身体を預けられないでしょ。そしたら足、きつくないですか」
と逆に質問してきた。
「いいえ、普段からよく着物は着ますから」
「そうですか、でもその着物はちょっと……」
この着物の何がいけないのだろう。それに対して天使様は、
「えっ、僕たち一緒に逃げるんでしょ。だったら、その着物は目立つし、もっと逃げやすい格好をした方が」
と、真顔で言う。
逃げやすい格好って……そりゃ、確かに逃げなきゃって言ったのは私だけど、それはお見合い場所からであって、別に国外逃亡とかするつもりはさらさらないんだけど。
それにしても、天使様は何で逃げようとしてるんだろう……そう考えたとき、私はある重要なことに気づいた。
……私、天使様の名前も知らないんだってことに。
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