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親子?
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「私は4歳の時、今の両親の許にきました。私はぼんやりとしてですけれど、母と暮らした小さなアパートのことを覚えています。
だけど、必要があって戸籍を取ったとき、そこに母の名前はありませんでした。それどころか、私は、今の父と母の実子として届けられていたんです。
驚いた私は、戸籍を見せて父に説明を求めました。父は最初とぼけていましたが、やがて言いにくそうに、
『そうか、志乃は義姉さんのことおぼえとったか。そんならしゃーないな。このとこは気付かんかぎりこっちからは言わんと思とったけど。
特別養子と言うてな、表の戸籍に残らない形で引き取ったんさ。
もっとも、それ以前に志乃には戸籍自体がなかったんやけどな』
と打ち明けてくれたんです」
「戸籍が……ない?」
光一は志乃の言葉に驚いてそう聞き返した。
「そうです。母は、届けを出ぬまま私を育てていたと言うんです。
でも、赤ん坊の時はともかく、このままでは学校にも行けない。それで母は、自分の妹夫婦に私を預けることにしたんです。その時、今の父と母である妹夫婦は今後のことも考えて、表向きには実の母の名前が完全に消えてしまう、特別養子の方法を採ったそうです」
「なぜ……」
「分かりません。ただ、母はそれからたった半年で不慮の死を遂げました。幼かった私は、原因も状況も聞かされぬまま、姪として内輪だけの葬儀に参列しただけで。それからも何もそのことについて知らされることはありませんでした。ただ……」
「ただ?」
「ただ、しつこく聞いた私に父はぽつりと『義姉さんの娘やとわかったらお前も危なかった』と漏らしただけです」
急に消えたという事は、やはり美奈子は何らかの事件に巻き込まれていたのだろうか。出奔理由は、おそらく志乃を守るため。そして、守り抜いた志乃がたどり着いた先が自分だったとは。あの、美奈子の複雑な表情は、おそらく……
「美奈子もさぞびっくりしているだろうな。私とおまえがこんな事になって。
すまん、お前の父親はたぶん私だ」
光一はそう言って志乃に頭を下げる。
「ウソ……」
「当時私と美奈子は半同棲状態だったし、あの時ちょうどあいつのアパートの更新時期が迫っていてな、それを機に一緒に住もうと荷造りをしている矢先だったんだ。当然そういう関係でもあった。
当時まだ携帯なんて普及してなくてな、しばらく連絡がないからと部屋に行ってみたらもぬけの殻。慌てて彼女の仕事場に連絡したら、
『急に郷里(くに)に帰らなければならなくなったから辞める』
と電話で連絡があったそうだ。おかしいとは思ったが、本人がそんな電話をかけてきたと言われれば、捜索願も出せなくてな。
その上、そっちのご両親には距離があるから正月休みを利用して挨拶に伺うつもりで、まだ行ってなくてな、実家が伊勢にあることは知っていたが、連絡はもちろん美奈子が取っていて、詳細な住所も電話番号も知らなかったから、それ以上どうしようもなかった。
友人たちにも、
『お前それ、体よく振られたんだぜ』
と言われた。
そして私は、探すことを諦めたんだ」
もっと必死になって探していれば、助けられたかもしれない、光一は今更ながらに臍を噛む思いだ。
だけど、必要があって戸籍を取ったとき、そこに母の名前はありませんでした。それどころか、私は、今の父と母の実子として届けられていたんです。
驚いた私は、戸籍を見せて父に説明を求めました。父は最初とぼけていましたが、やがて言いにくそうに、
『そうか、志乃は義姉さんのことおぼえとったか。そんならしゃーないな。このとこは気付かんかぎりこっちからは言わんと思とったけど。
特別養子と言うてな、表の戸籍に残らない形で引き取ったんさ。
もっとも、それ以前に志乃には戸籍自体がなかったんやけどな』
と打ち明けてくれたんです」
「戸籍が……ない?」
光一は志乃の言葉に驚いてそう聞き返した。
「そうです。母は、届けを出ぬまま私を育てていたと言うんです。
でも、赤ん坊の時はともかく、このままでは学校にも行けない。それで母は、自分の妹夫婦に私を預けることにしたんです。その時、今の父と母である妹夫婦は今後のことも考えて、表向きには実の母の名前が完全に消えてしまう、特別養子の方法を採ったそうです」
「なぜ……」
「分かりません。ただ、母はそれからたった半年で不慮の死を遂げました。幼かった私は、原因も状況も聞かされぬまま、姪として内輪だけの葬儀に参列しただけで。それからも何もそのことについて知らされることはありませんでした。ただ……」
「ただ?」
「ただ、しつこく聞いた私に父はぽつりと『義姉さんの娘やとわかったらお前も危なかった』と漏らしただけです」
急に消えたという事は、やはり美奈子は何らかの事件に巻き込まれていたのだろうか。出奔理由は、おそらく志乃を守るため。そして、守り抜いた志乃がたどり着いた先が自分だったとは。あの、美奈子の複雑な表情は、おそらく……
「美奈子もさぞびっくりしているだろうな。私とおまえがこんな事になって。
すまん、お前の父親はたぶん私だ」
光一はそう言って志乃に頭を下げる。
「ウソ……」
「当時私と美奈子は半同棲状態だったし、あの時ちょうどあいつのアパートの更新時期が迫っていてな、それを機に一緒に住もうと荷造りをしている矢先だったんだ。当然そういう関係でもあった。
当時まだ携帯なんて普及してなくてな、しばらく連絡がないからと部屋に行ってみたらもぬけの殻。慌てて彼女の仕事場に連絡したら、
『急に郷里(くに)に帰らなければならなくなったから辞める』
と電話で連絡があったそうだ。おかしいとは思ったが、本人がそんな電話をかけてきたと言われれば、捜索願も出せなくてな。
その上、そっちのご両親には距離があるから正月休みを利用して挨拶に伺うつもりで、まだ行ってなくてな、実家が伊勢にあることは知っていたが、連絡はもちろん美奈子が取っていて、詳細な住所も電話番号も知らなかったから、それ以上どうしようもなかった。
友人たちにも、
『お前それ、体よく振られたんだぜ』
と言われた。
そして私は、探すことを諦めたんだ」
もっと必死になって探していれば、助けられたかもしれない、光一は今更ながらに臍を噛む思いだ。
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