23 / 32
たかが夢、されど夢
しおりを挟む
そして、目覚めてから一年半が経った。あれから私は電気づくりの方法を何度も繰り返し書いた。最初の内は疲れすぎるからとそのことに難色を示していた周囲も、一年を過ぎた頃からそれを生温い目で見守ってくれるようになっていた。たった一人を除いて……
「おまえまたそんなもん書いてんのか」
といって、ノートを取り上げ、隙あらば捨てようとするのは、私の兄。でも、残念でした。取り上げられたって、もう全部頭に入っちゃってるよ、お兄ちゃん。
どれだけ資料を集めても、転移するのはどうせこの身一つだ。結局は記憶だけが頼り。だから、完璧に覚えるまで何度も書いたんだからね。
「んなもん書いたところで、また夢に戻れる訳ゃないんだから……」
で、お兄ちゃんはノートを取り上げた後、渋い顔で決まってそう言う。どんなに夢見がよくっても、それは所詮夢。戻れっこないのだと。ただ、他の人が言わないそのことをお兄ちゃんが言うのは、逆に私ならやりかねないと思っているからだろう。
幽霊としてングリーアスに行っていたんだから、幽霊になればまた行ける……要するに自殺の心配をしているのだ。でも、私はそんなことをする気はない。確かにそうかもしれないけど、もし死んでもあっちに行けなかったとしたら? ホント、死んでもしにきれないじゃない。
ま、お兄ちゃんが心配するのもわからなくはないんだ。正直な話、ここのところのわたしの体調はあんま良くない。ちょっとした気温の変化ででも熱がでるようになっているから、温度湿度一定の自室から出られない状態になっている。さながらクリーンルームで精密機械を作っているよう。ま、精密ってことで言えば、人間もかなり精密にできてはいるよね……話がそれちゃった。まぁ、そう遠くない内に、私の地球での人生は終わるんじゃないかなと。
だから、私はそれまでに一目でいいからジル・サンダーに会いたいのだ。せめて、
「雷作るの手伝えなくてゴメン」
だけでも言いたい。
……だぁーっ、もう! 私はあの薄紫の瞳のヘタレワンコが好きなんだよっ!! 悪いか。
私がそれを自覚したのはこっちに帰ってきてからだけどね。ま、それ以前に自覚してたとしてもどうにもならないのは変わらなかったけど。
そんなことを悶々と考えていたら、いつの間にか眠っていたみたいだ。窓の外が暗くなってる……ん? 違う、これ木の扉だ。why? 私の部屋の窓ってばごく普通のガラスサッシだったはずだけど。
……ってか、この扉チームサンダーボルトの工房のじゃ…… うん、そうだよ! この扉工房のだ!!
私がそう思ったとき、工房の扉がキィと懐かしい音を立てて開いた。扉の向こうにいるのは……ジル・サンダー! って、ことはつながったの? 何で今? ま、いいや。とにかく閉まらない内に行かなきゃ。
私は、渾身の力で車椅子を抜け出すと、工房の扉の先に飛び込んだのだった。私の後ろで、
「みのり!」
と叫ぶお母さんの声がする。ゴメン、今度は戻ってこれないかもしれないけど、私、行ってくるわ。
……そして、私の意識は闇に刈り取られた。
「おまえまたそんなもん書いてんのか」
といって、ノートを取り上げ、隙あらば捨てようとするのは、私の兄。でも、残念でした。取り上げられたって、もう全部頭に入っちゃってるよ、お兄ちゃん。
どれだけ資料を集めても、転移するのはどうせこの身一つだ。結局は記憶だけが頼り。だから、完璧に覚えるまで何度も書いたんだからね。
「んなもん書いたところで、また夢に戻れる訳ゃないんだから……」
で、お兄ちゃんはノートを取り上げた後、渋い顔で決まってそう言う。どんなに夢見がよくっても、それは所詮夢。戻れっこないのだと。ただ、他の人が言わないそのことをお兄ちゃんが言うのは、逆に私ならやりかねないと思っているからだろう。
幽霊としてングリーアスに行っていたんだから、幽霊になればまた行ける……要するに自殺の心配をしているのだ。でも、私はそんなことをする気はない。確かにそうかもしれないけど、もし死んでもあっちに行けなかったとしたら? ホント、死んでもしにきれないじゃない。
ま、お兄ちゃんが心配するのもわからなくはないんだ。正直な話、ここのところのわたしの体調はあんま良くない。ちょっとした気温の変化ででも熱がでるようになっているから、温度湿度一定の自室から出られない状態になっている。さながらクリーンルームで精密機械を作っているよう。ま、精密ってことで言えば、人間もかなり精密にできてはいるよね……話がそれちゃった。まぁ、そう遠くない内に、私の地球での人生は終わるんじゃないかなと。
だから、私はそれまでに一目でいいからジル・サンダーに会いたいのだ。せめて、
「雷作るの手伝えなくてゴメン」
だけでも言いたい。
……だぁーっ、もう! 私はあの薄紫の瞳のヘタレワンコが好きなんだよっ!! 悪いか。
私がそれを自覚したのはこっちに帰ってきてからだけどね。ま、それ以前に自覚してたとしてもどうにもならないのは変わらなかったけど。
そんなことを悶々と考えていたら、いつの間にか眠っていたみたいだ。窓の外が暗くなってる……ん? 違う、これ木の扉だ。why? 私の部屋の窓ってばごく普通のガラスサッシだったはずだけど。
……ってか、この扉チームサンダーボルトの工房のじゃ…… うん、そうだよ! この扉工房のだ!!
私がそう思ったとき、工房の扉がキィと懐かしい音を立てて開いた。扉の向こうにいるのは……ジル・サンダー! って、ことはつながったの? 何で今? ま、いいや。とにかく閉まらない内に行かなきゃ。
私は、渾身の力で車椅子を抜け出すと、工房の扉の先に飛び込んだのだった。私の後ろで、
「みのり!」
と叫ぶお母さんの声がする。ゴメン、今度は戻ってこれないかもしれないけど、私、行ってくるわ。
……そして、私の意識は闇に刈り取られた。
0
お気に入りに追加
65
あなたにおすすめの小説
元侯爵令嬢は冷遇を満喫する
cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。
しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は
「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」
夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。
自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。
お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。
本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。
※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
婚約破棄された悪役令嬢。そして国は滅んだ❗私のせい?知らんがな
朋 美緒(とも みお)
ファンタジー
婚約破棄されて国外追放の公爵令嬢、しかし地獄に落ちたのは彼女ではなかった。
!逆転チートな婚約破棄劇場!
!王宮、そして誰も居なくなった!
!国が滅んだ?私のせい?しらんがな!
18話で完結
絶対婚約いたしません。させられました。案の定、婚約破棄されました
toyjoy11
ファンタジー
婚約破棄ものではあるのだけど、どちらかと言うと反乱もの。
残酷シーンが多く含まれます。
誰も高位貴族が婚約者になりたがらない第一王子と婚約者になったミルフィーユ・レモナンド侯爵令嬢。
両親に
「絶対アレと婚約しません。もしも、させるんでしたら、私は、クーデターを起こしてやります。」
と宣言した彼女は有言実行をするのだった。
一応、転生者ではあるものの元10歳児。チートはありません。
4/5 21時完結予定。
転生したら悪魔になったんですが、僕と契約しませんか?
らる鳥
ファンタジー
病院の一室で死を待つばかりだった僕は、ある日悪魔に出会った。
どうしても死にたくなかった僕に、存在する事に飽いていた彼は、ある提案を持ち掛ける。
本編は完結済みです。
オマケをポツポツ足して行く予定。
オマケの章より下は蛇足ですので、其れでも構わない方のみ読み進めて下さい。
更新は不定期です。
この作品は小説家になろう様にも投稿します。
もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
公爵家長男はゴミスキルだったので廃嫡後冒険者になる(美味しいモノが狩れるなら文句はない)
音爽(ネソウ)
ファンタジー
記憶持ち転生者は元定食屋の息子。
魔法ありファンタジー異世界に転生した。彼は将軍を父に持つエリートの公爵家の嫡男に生まれかわる。
だが授かった職業スキルが「パンツもぐもぐ」という謎ゴミスキルだった。そんな彼に聖騎士の弟以外家族は冷たい。
見習い騎士にさえなれそうもない長男レオニードは廃嫡後は冒険者として生き抜く決意をする。
「ゴミスキルでも美味しい物を狩れれば満足だ」そんな彼は前世の料理で敵味方の胃袋を掴んで魅了しまくるグルメギャグ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる