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新来会者
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翌週には用事があり行けなかった私たちは、その次の週、早速教会の礼拝に出席した。
「ようこそ。よくいらっしゃいました」
玄関先で受付の女性がそう挨拶した後、
「この教会は初めてですか?」
と聞いてきた。結婚式と前夜式には来たけれど、教会らしい教会は今日が初めてだ。
「はい」
と私が頷くと、
「では、お手数ですがこちらの用紙に礼拝が終わるまでで良いですので、ご記入願えますか?」
と、週報と書いてある礼拝の式次第、聖書・賛美歌とともに、一枚の用紙をバインダーに挟んだ状態で私に差し出した。アンケートのようだった。
来会のきっかけ、信仰歴(何故こんな質問事項があるのか、このときは解らなかったが、この教会が始めてでも、転勤や旅行などで別の教会に通っているということの方が、実は多いのだということを後で聞いた)聖書を読んだことがあるか、メッセージがどうだったかと、事細かに記入するようになっている。
「冴子、頼むな」
すると、篤志は事務屋のクセに、さっさと私に放り投げてきた。
「私だってわかんないわよ」
と、むくれて私が返すと、それを聞いていた受付の女性が、
「そんなに堅苦しく考えないで。これは集会の案内を差し上げるためのものですから、とりあえずご連絡先だけでけっこうです」
と付け加えた。見ると、用紙の末尾にも同じことが書いてあった。
それを持って私たちは礼拝堂の一番後ろの座席に座った。
しばらくすると、がやがやと幾人もの子どもたちが礼拝堂に入ってきた。母子室で行われていた子ども礼拝が終わったのだ。出席しているのはほとんどが信者の子弟で、終了後親の所に一旦来るのだ。
それから程なくして博美さんが礼拝堂に姿を現した。
「菅沼さん、来てくれたの!」
私たちを見つけると彼女はそう言って破顔した。このままハグでもされてしまいそうな勢いだ。そして、
「ねぇねぇ、そんなところにいないで一緒に座りましょう」
といって、前から2番目の席を勧める。確かに長椅子は三人掛けだったけれど。相変わらずぶっ飛んでいる。
「お母さん、、新しく来てくれた人を困らせちゃだめだよ」
そこに来た長身の女の子が博美さんを窘める。ああ、この子が先輩の娘さんの明日美さんか。若い頃の先輩によく似ている。明日美さんは私たちの方を向くと、
「お父さんの会社の人なんですよね。初めて来て、いきなり前の方じゃどん引きしちゃいますよね」
と言って笑った。
「だって、全然知らない人が座るよりいいでしょ」
それに対して博美さんは小さな子どものようにむすっと頬を膨らませていた。まるで親子が逆転しているような感じだ。親が頼りないと子供がしっかりすると言うが、明日美さんと博美さんはそうやって母一人子一人支え合ってきたのだろう。
「お嬢さんと一緒に座らなくていいんですか?」
と私が聞くと、
「あの子はお義父さんたちと座るから、いいの」
と返してきた。だが、全く知らない人が横に来るよりは良いかと、彼女の言う席に移動した後、程なくして先輩のご両親がお姉さんと共に入ってこられた。明日美さんが喜々として真ん中少し後ろの席に導くのを見ながら、
「あ、衛のお父さんとお母さんとお姉さんなの」
と博美さんが言った言葉に私たちは固まった。「おとうさん」という音に私達はてっきり博美さんのご両親のことかと思っていたが、それは先輩のご両親で、先輩が亡くなった後彼らもまた通い始めているるのだという。
やっぱり来ちゃいけなかったかもと思いつつ、私は目が合った彼らに無言で頭を下げる。すると、彼らも同じように無言で頭を下げた。そして、その表情に怒りや苛立ちがないのをみてとりあえず安堵する。
案外、彼らの事が目に入ってこない前の席でよかったのかも知れないと思いながら、その日の礼拝が始まった。
「ようこそ。よくいらっしゃいました」
玄関先で受付の女性がそう挨拶した後、
「この教会は初めてですか?」
と聞いてきた。結婚式と前夜式には来たけれど、教会らしい教会は今日が初めてだ。
「はい」
と私が頷くと、
「では、お手数ですがこちらの用紙に礼拝が終わるまでで良いですので、ご記入願えますか?」
と、週報と書いてある礼拝の式次第、聖書・賛美歌とともに、一枚の用紙をバインダーに挟んだ状態で私に差し出した。アンケートのようだった。
来会のきっかけ、信仰歴(何故こんな質問事項があるのか、このときは解らなかったが、この教会が始めてでも、転勤や旅行などで別の教会に通っているということの方が、実は多いのだということを後で聞いた)聖書を読んだことがあるか、メッセージがどうだったかと、事細かに記入するようになっている。
「冴子、頼むな」
すると、篤志は事務屋のクセに、さっさと私に放り投げてきた。
「私だってわかんないわよ」
と、むくれて私が返すと、それを聞いていた受付の女性が、
「そんなに堅苦しく考えないで。これは集会の案内を差し上げるためのものですから、とりあえずご連絡先だけでけっこうです」
と付け加えた。見ると、用紙の末尾にも同じことが書いてあった。
それを持って私たちは礼拝堂の一番後ろの座席に座った。
しばらくすると、がやがやと幾人もの子どもたちが礼拝堂に入ってきた。母子室で行われていた子ども礼拝が終わったのだ。出席しているのはほとんどが信者の子弟で、終了後親の所に一旦来るのだ。
それから程なくして博美さんが礼拝堂に姿を現した。
「菅沼さん、来てくれたの!」
私たちを見つけると彼女はそう言って破顔した。このままハグでもされてしまいそうな勢いだ。そして、
「ねぇねぇ、そんなところにいないで一緒に座りましょう」
といって、前から2番目の席を勧める。確かに長椅子は三人掛けだったけれど。相変わらずぶっ飛んでいる。
「お母さん、、新しく来てくれた人を困らせちゃだめだよ」
そこに来た長身の女の子が博美さんを窘める。ああ、この子が先輩の娘さんの明日美さんか。若い頃の先輩によく似ている。明日美さんは私たちの方を向くと、
「お父さんの会社の人なんですよね。初めて来て、いきなり前の方じゃどん引きしちゃいますよね」
と言って笑った。
「だって、全然知らない人が座るよりいいでしょ」
それに対して博美さんは小さな子どものようにむすっと頬を膨らませていた。まるで親子が逆転しているような感じだ。親が頼りないと子供がしっかりすると言うが、明日美さんと博美さんはそうやって母一人子一人支え合ってきたのだろう。
「お嬢さんと一緒に座らなくていいんですか?」
と私が聞くと、
「あの子はお義父さんたちと座るから、いいの」
と返してきた。だが、全く知らない人が横に来るよりは良いかと、彼女の言う席に移動した後、程なくして先輩のご両親がお姉さんと共に入ってこられた。明日美さんが喜々として真ん中少し後ろの席に導くのを見ながら、
「あ、衛のお父さんとお母さんとお姉さんなの」
と博美さんが言った言葉に私たちは固まった。「おとうさん」という音に私達はてっきり博美さんのご両親のことかと思っていたが、それは先輩のご両親で、先輩が亡くなった後彼らもまた通い始めているるのだという。
やっぱり来ちゃいけなかったかもと思いつつ、私は目が合った彼らに無言で頭を下げる。すると、彼らも同じように無言で頭を下げた。そして、その表情に怒りや苛立ちがないのをみてとりあえず安堵する。
案外、彼らの事が目に入ってこない前の席でよかったのかも知れないと思いながら、その日の礼拝が始まった。
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