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突然の訃報
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それはいつも変わりない連休の朝だった。私たち家族は遅めの朝食兼昼食を摂っていた。電話が鳴った。
「ママ、でんわだよ」
電話をとった次男の健斗が私に電話を持ってやって来た。
「誰から?」
「美加ちゃん」
それはかつての会社の同僚、高田美加だった。未だに独身を貫いている彼女は、自分には子供はいないんだからおばさんだなんて呼ばせないと、私の子供たちにも『美加ちゃん』と呼ぶように強要するような奴だ。
「もしもし? 休みの日なのに何か用?」
私がそう言って電話に出ると、美加は電話口で大きく息を吐いてから、
「ねえ冴子、落ち着いて聞くのよ」
と言った。でも、そう言う美加自身がそうとう慌てている感じだ。
「何よ、いきなり」
「今朝、寺内さんが亡くなったの」
私は事態が全く飲み込めないで、しばらく口をぱくぱくと開けたり閉じたりした後、ようやく
「寺内さんって、あの寺内衛さん?」
と聞いた。
「そうよ、営業の寺内さん。事務所で倒れてて亡くなっているのをが発見されたらしいわ」
「ウソ!」
「ウソじゃないわ。とにかくお通夜とか告別式とかまた連絡入れるから。篤志さんにもそう伝えて。じゃぁ、そういう事だから。他にも回さないといけないから切るね」
美加はそう言って電話を切った。
「高田がなんだって?」
電話を切って蒼い顔をしている私に夫篤志がそう聞いた。
「先輩が死んだって」
寺内さんは会社以前に大学時代のサークルの先輩でもあった。社内結婚した夫の篤志に、名前を冠せず先輩と言う時にはたいてい彼のことだった。
「先輩が死んだ? 嘘だろ? 金曜日に、『休み明けに一気に形にしたいのがあるから』って張り切っていたんだぜ」
「今朝、事務所で死んでいたって。後のことは、追って連絡するからって」
「マジかよ、それ」
私は美加の言ったことを事務的に篤志に伝えた。あまりに突然のことに篤志も驚きを隠せない。
葬儀のことは、夕方になってやっと美加から連絡があった。
「えーっと、お通夜が明日の夜7時半からで、告別式が次の日の朝11時ね。場所は……〇〇教会? 冴子、〇〇教会って知ってっか?」
私は黙って頷いた。そこは17年前、先輩が結婚式を挙げた場所だった。
「ああ、冴子が場所知ってるって。俺が定時にでれば間に合うから、途中で冴子拾ってお通夜の方に出させてもらうわ。えっ、分かった。ほい、高田が電話代わってくれって」
そして、連絡事項を言い終えた美加は篤志に私に代われと言ったらしい。篤志は私の手の上にそう言ってポンと子機を乗せた。
「冴子、大丈夫?」
「何が」
「ムリしなくて良いからね。なんなら、地図ファックスしようか? 教会の方から会社に送ってもらってるから。それで篤志さん一人で行ってもらえばいいじゃん」
長い間先輩を思い続けたことをよく知るこの友人は、別れた奥さんの方が信者である教会で告別式をすることを気にかけてくれているのだ。
「良い、大丈夫」
そうだ、だからと言って私は先輩の今の妻でも愛人でもない。菅沼篤志という男の妻だ。先輩がかつての奥さんとよりを戻そうが何をいう権利もない。
だけど……どうしてあの人なのだろう。どうして、私ではいけないのだろう。
何度も自問自答したその問題をまた心の中で蒸し返して唇を噛みしめた私に篤志は、
「辛いだろうけど、ちゃんとお別れはしてこないとな。あとで後悔するから」
と、私の頭に手を乗せてそう言った。
「ママ、でんわだよ」
電話をとった次男の健斗が私に電話を持ってやって来た。
「誰から?」
「美加ちゃん」
それはかつての会社の同僚、高田美加だった。未だに独身を貫いている彼女は、自分には子供はいないんだからおばさんだなんて呼ばせないと、私の子供たちにも『美加ちゃん』と呼ぶように強要するような奴だ。
「もしもし? 休みの日なのに何か用?」
私がそう言って電話に出ると、美加は電話口で大きく息を吐いてから、
「ねえ冴子、落ち着いて聞くのよ」
と言った。でも、そう言う美加自身がそうとう慌てている感じだ。
「何よ、いきなり」
「今朝、寺内さんが亡くなったの」
私は事態が全く飲み込めないで、しばらく口をぱくぱくと開けたり閉じたりした後、ようやく
「寺内さんって、あの寺内衛さん?」
と聞いた。
「そうよ、営業の寺内さん。事務所で倒れてて亡くなっているのをが発見されたらしいわ」
「ウソ!」
「ウソじゃないわ。とにかくお通夜とか告別式とかまた連絡入れるから。篤志さんにもそう伝えて。じゃぁ、そういう事だから。他にも回さないといけないから切るね」
美加はそう言って電話を切った。
「高田がなんだって?」
電話を切って蒼い顔をしている私に夫篤志がそう聞いた。
「先輩が死んだって」
寺内さんは会社以前に大学時代のサークルの先輩でもあった。社内結婚した夫の篤志に、名前を冠せず先輩と言う時にはたいてい彼のことだった。
「先輩が死んだ? 嘘だろ? 金曜日に、『休み明けに一気に形にしたいのがあるから』って張り切っていたんだぜ」
「今朝、事務所で死んでいたって。後のことは、追って連絡するからって」
「マジかよ、それ」
私は美加の言ったことを事務的に篤志に伝えた。あまりに突然のことに篤志も驚きを隠せない。
葬儀のことは、夕方になってやっと美加から連絡があった。
「えーっと、お通夜が明日の夜7時半からで、告別式が次の日の朝11時ね。場所は……〇〇教会? 冴子、〇〇教会って知ってっか?」
私は黙って頷いた。そこは17年前、先輩が結婚式を挙げた場所だった。
「ああ、冴子が場所知ってるって。俺が定時にでれば間に合うから、途中で冴子拾ってお通夜の方に出させてもらうわ。えっ、分かった。ほい、高田が電話代わってくれって」
そして、連絡事項を言い終えた美加は篤志に私に代われと言ったらしい。篤志は私の手の上にそう言ってポンと子機を乗せた。
「冴子、大丈夫?」
「何が」
「ムリしなくて良いからね。なんなら、地図ファックスしようか? 教会の方から会社に送ってもらってるから。それで篤志さん一人で行ってもらえばいいじゃん」
長い間先輩を思い続けたことをよく知るこの友人は、別れた奥さんの方が信者である教会で告別式をすることを気にかけてくれているのだ。
「良い、大丈夫」
そうだ、だからと言って私は先輩の今の妻でも愛人でもない。菅沼篤志という男の妻だ。先輩がかつての奥さんとよりを戻そうが何をいう権利もない。
だけど……どうしてあの人なのだろう。どうして、私ではいけないのだろう。
何度も自問自答したその問題をまた心の中で蒸し返して唇を噛みしめた私に篤志は、
「辛いだろうけど、ちゃんとお別れはしてこないとな。あとで後悔するから」
と、私の頭に手を乗せてそう言った。
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