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第36話 発露に願う
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あんなに求めた温もりと腕の力の心地よさに、好奇心がどんどん上回っていく。
(少しだけなら………)
和真の腕の中でもぞもぞと小さく身動ぎをして、どうにか和真の顔を見上げる。
「何だ?」
どこかふて腐れたような表情。
いつだって理性的で、冷酷な所もある人なのに。
(和真でも、こんな子どもみたいな顔をする事があるんだ)
「ふふっ」
「おい」
思わず漏れた笑いを慌てて隠す。
だけど遅かったようで、睨め付ける視線に亜樹は首をすくめて縮こまった。
「お前は反省しろ、まったく」
「ごめん、でも違うから。和真が珍しくて、ちゃんと反省はしてるから、だから───」
せっかく許してもらえたのに。
反省してないと思われて呆れられたくなくて、慌てて言葉を連ねていく。
「分かったから、落ち着け」
そんな亜樹の様子がよほど必死に見えたのだろう。
耳に聞こえてきたのは、宥めるようなそんな言葉だった。
和真の武骨な指が亜樹の前髪をかき上げるように梳いていく。
真っ直ぐに重なった和真の目に、苛立ちを含んだ色は感じられず。
亜樹はホッと胸をなで下ろした。
「それで? どうして、こんな事をした?」
少し硬質な響きを持ちつつも、投げかけられた素朴な疑問。
その問い掛けに亜樹がコクリと唾を飲み込んだ。
「……お金が…欲しかった……」
今までのように戻れるならば、嘘を吐こうとも隠したいとも思わなかった。
だから素直に告げた言葉に和真が盛大に眉をひそめた。
「金が必要なら、俺に言えば良いだろう」
確かにそうすれば、こんな事には成らなかっただろう。
「だけど、それだと意味がなくて……俺の力で和真を喜ばせたかったから…ちゃんと自分で稼いだお金で買いたかった……」
(力も、知識も、経済力も、ぜんぜん和真に敵わないけど、それでも俺だって大切な人を自分で幸せにしたかった……)
だから、頑張りたかったのだ。
「買いたかった?何を?」
「…和真の誕生日プレゼント……いつも貰ってばかりだから、せめて誕生日ぐらいは、俺が和真を幸せにしたくて……」
「……」
ただそれだけの願いを込めて。
「上手く行かないどころか、結局イヤな思いをいっぱいさせちゃって、ごめん……」
でも、そう願った気持ちだけは嘘じゃない。
その事だけは信じて欲しい、と亜樹は和真の顔から目を離さなかった。
「はぁーっ」
もう今日だけで何度目になるかも分からない盛大な溜息が和真の口から漏れる。
「お前は本当に馬鹿か?そんな金でプレゼントされて喜ぶ恋人が居ると思うのか?」
「……ごめんなさい、本当にもうやらないから」
「あぁ、そうして貰いたいな」
項垂れた頭を上からぐしゃぐしゃと撫でる和真の掌に押されて、和真がどんな顔をしているのかは見えなかった。
でも、呆れたような声音と掌の感触はホッとして、また視界がぼやけてしまう。
瞬いた亜樹の目から涙が目尻を伝って零れていく。
「もう泣くな」
グイッと雫を拭う指先に、泣ける事の幸せを感じながら亜樹はそっと指先を絡めた。
その指が和真の方へ引き寄せられ、唇がそっと触れてくる。
動きを追いかけるように上向きになった亜樹の顔。
重なるように和真の顔が降りてきて、そのまま亜樹の唇に和真のそれが重なった。
唇で唇を柔らかくなぞる動きに促されて。
亜樹の綻んだ唇の隙間から舌が差し込まれる。
そして与えられる温もりや感触は、一昨日までの心が跳ねるようなものだった。
【END】
(少しだけなら………)
和真の腕の中でもぞもぞと小さく身動ぎをして、どうにか和真の顔を見上げる。
「何だ?」
どこかふて腐れたような表情。
いつだって理性的で、冷酷な所もある人なのに。
(和真でも、こんな子どもみたいな顔をする事があるんだ)
「ふふっ」
「おい」
思わず漏れた笑いを慌てて隠す。
だけど遅かったようで、睨め付ける視線に亜樹は首をすくめて縮こまった。
「お前は反省しろ、まったく」
「ごめん、でも違うから。和真が珍しくて、ちゃんと反省はしてるから、だから───」
せっかく許してもらえたのに。
反省してないと思われて呆れられたくなくて、慌てて言葉を連ねていく。
「分かったから、落ち着け」
そんな亜樹の様子がよほど必死に見えたのだろう。
耳に聞こえてきたのは、宥めるようなそんな言葉だった。
和真の武骨な指が亜樹の前髪をかき上げるように梳いていく。
真っ直ぐに重なった和真の目に、苛立ちを含んだ色は感じられず。
亜樹はホッと胸をなで下ろした。
「それで? どうして、こんな事をした?」
少し硬質な響きを持ちつつも、投げかけられた素朴な疑問。
その問い掛けに亜樹がコクリと唾を飲み込んだ。
「……お金が…欲しかった……」
今までのように戻れるならば、嘘を吐こうとも隠したいとも思わなかった。
だから素直に告げた言葉に和真が盛大に眉をひそめた。
「金が必要なら、俺に言えば良いだろう」
確かにそうすれば、こんな事には成らなかっただろう。
「だけど、それだと意味がなくて……俺の力で和真を喜ばせたかったから…ちゃんと自分で稼いだお金で買いたかった……」
(力も、知識も、経済力も、ぜんぜん和真に敵わないけど、それでも俺だって大切な人を自分で幸せにしたかった……)
だから、頑張りたかったのだ。
「買いたかった?何を?」
「…和真の誕生日プレゼント……いつも貰ってばかりだから、せめて誕生日ぐらいは、俺が和真を幸せにしたくて……」
「……」
ただそれだけの願いを込めて。
「上手く行かないどころか、結局イヤな思いをいっぱいさせちゃって、ごめん……」
でも、そう願った気持ちだけは嘘じゃない。
その事だけは信じて欲しい、と亜樹は和真の顔から目を離さなかった。
「はぁーっ」
もう今日だけで何度目になるかも分からない盛大な溜息が和真の口から漏れる。
「お前は本当に馬鹿か?そんな金でプレゼントされて喜ぶ恋人が居ると思うのか?」
「……ごめんなさい、本当にもうやらないから」
「あぁ、そうして貰いたいな」
項垂れた頭を上からぐしゃぐしゃと撫でる和真の掌に押されて、和真がどんな顔をしているのかは見えなかった。
でも、呆れたような声音と掌の感触はホッとして、また視界がぼやけてしまう。
瞬いた亜樹の目から涙が目尻を伝って零れていく。
「もう泣くな」
グイッと雫を拭う指先に、泣ける事の幸せを感じながら亜樹はそっと指先を絡めた。
その指が和真の方へ引き寄せられ、唇がそっと触れてくる。
動きを追いかけるように上向きになった亜樹の顔。
重なるように和真の顔が降りてきて、そのまま亜樹の唇に和真のそれが重なった。
唇で唇を柔らかくなぞる動きに促されて。
亜樹の綻んだ唇の隙間から舌が差し込まれる。
そして与えられる温もりや感触は、一昨日までの心が跳ねるようなものだった。
【END】
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