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第32話 恋人とペット
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「大丈夫、今日だけ、あっ、この一回だけ」
今まで他の誰かの代わりに、何度も呼んできた名前なのに、もう今ではたった一度も呼びたくないほどに、嫌悪されているなんて思いたくなかった。
「亜樹!」
亜樹の言葉を防ぐようについに和真が声を張り上げた。
「とりあえず話しをさせろ」
低い声音で告げてくる言葉の意図は分からない。
ただハッキリとそう言われてしまえば、亜樹は口を閉ざす以外になかった。
「何で他のやつを思いながら、お前の名前を呼ぶ必要がある?」
さらに困惑を増したような和真の様子に、亜樹が諦めて口元に小さな笑みを浮かべた。
「……そうだよね」
(そんな事、したくないよね……前と違って仕方なく置いてるだけだろうし…)
捨てきれていない事にさえ気が付いていなかった期待は、あとどれくらい残っているんだろう。
どれだけ傷付けば、和真の傍でただただ穏やかに居られるだろうか。
「ごめん、わがまま言って、ちゃんと、やるから」
真っ直ぐに見上げた和真の目がわずかに大きくなる。
ノロノロと脚を開いて萎えてしまった中心に手を伸ばそうとした亜樹の手を和真が止めた。
「恋人に戻りたいんじゃないのか?」
「大丈夫、もうわがまま言わないから」
「違う、そんな事は聞いていない」
よく聞け、と重なった視線は困惑だけが占めていた。
怒らせたり、困らせたり。
ここ数日の間に、何回答えを間違えて和真に迷惑をかけただろう。
「恋人に“戻りたい”のかって言っているだろ」
だから、ちゃんと考えて。
間違えないように答えを出したいのに、和真が何を言っているのか分からなかった。
「誰が戻るの?」
ひどく混乱している様子は和真にも伝わっているのか。
「亜樹、お前は、俺の、恋人に、戻りたくないのか?」
まっすぐに視線を重ねられたまま、和真が一語ずつ区切りながらハッキリと言葉を伝えてきた。
「……戻る、俺が、恋人に?」
繰り返した言葉がゆっくりと頭の中へ染み込んでくる。
「俺、和真の恋人だった?」
「あぁ」
「他の誰かじゃなくて、俺が?」
喜んで良いはずの言葉だった。
だけど頭に染み込んできた言葉に、疲弊した心は戸惑うばかりだった。
「一昨日、ちゃんと言葉にもしたはずだけどな」
それは覚えていた。
「だって、声も表情も、俺のじゃない、って……」
だからこそ、そう言われた事が辛かった。
「お前が自分自身の事をペットだと言い出したんだろう。俺は今までお前をペットとして呼んだ覚えはないからな」
そうなれば別人って事になるだろ、っと和真が大きく溜息を吐いた。
だけど、さっきまでとは違って「そうだろ?」と重ねられた和真の視線には、拒絶するような冷たい色はない。
それどころか答えを促すような仕草は、どこか受け入れてくれているようにも見える。
たったそれだけで、しぶとく胸の奥が締め付けられるようで、それを押し出すように言葉を吐いた。
「……だって、もう和真は俺を要らないと思って……要らないのに、一度俺を受け入れちゃったから…捨て猫拾った人みたいに捨てきれなくて困ってるのかと思って」
「俺は要らないと言った覚えはないぞ」
亜樹のその訴えに和真がまた不機嫌そうな雰囲気を醸し出しながら、ハッキリとそう言った。
今まで他の誰かの代わりに、何度も呼んできた名前なのに、もう今ではたった一度も呼びたくないほどに、嫌悪されているなんて思いたくなかった。
「亜樹!」
亜樹の言葉を防ぐようについに和真が声を張り上げた。
「とりあえず話しをさせろ」
低い声音で告げてくる言葉の意図は分からない。
ただハッキリとそう言われてしまえば、亜樹は口を閉ざす以外になかった。
「何で他のやつを思いながら、お前の名前を呼ぶ必要がある?」
さらに困惑を増したような和真の様子に、亜樹が諦めて口元に小さな笑みを浮かべた。
「……そうだよね」
(そんな事、したくないよね……前と違って仕方なく置いてるだけだろうし…)
捨てきれていない事にさえ気が付いていなかった期待は、あとどれくらい残っているんだろう。
どれだけ傷付けば、和真の傍でただただ穏やかに居られるだろうか。
「ごめん、わがまま言って、ちゃんと、やるから」
真っ直ぐに見上げた和真の目がわずかに大きくなる。
ノロノロと脚を開いて萎えてしまった中心に手を伸ばそうとした亜樹の手を和真が止めた。
「恋人に戻りたいんじゃないのか?」
「大丈夫、もうわがまま言わないから」
「違う、そんな事は聞いていない」
よく聞け、と重なった視線は困惑だけが占めていた。
怒らせたり、困らせたり。
ここ数日の間に、何回答えを間違えて和真に迷惑をかけただろう。
「恋人に“戻りたい”のかって言っているだろ」
だから、ちゃんと考えて。
間違えないように答えを出したいのに、和真が何を言っているのか分からなかった。
「誰が戻るの?」
ひどく混乱している様子は和真にも伝わっているのか。
「亜樹、お前は、俺の、恋人に、戻りたくないのか?」
まっすぐに視線を重ねられたまま、和真が一語ずつ区切りながらハッキリと言葉を伝えてきた。
「……戻る、俺が、恋人に?」
繰り返した言葉がゆっくりと頭の中へ染み込んでくる。
「俺、和真の恋人だった?」
「あぁ」
「他の誰かじゃなくて、俺が?」
喜んで良いはずの言葉だった。
だけど頭に染み込んできた言葉に、疲弊した心は戸惑うばかりだった。
「一昨日、ちゃんと言葉にもしたはずだけどな」
それは覚えていた。
「だって、声も表情も、俺のじゃない、って……」
だからこそ、そう言われた事が辛かった。
「お前が自分自身の事をペットだと言い出したんだろう。俺は今までお前をペットとして呼んだ覚えはないからな」
そうなれば別人って事になるだろ、っと和真が大きく溜息を吐いた。
だけど、さっきまでとは違って「そうだろ?」と重ねられた和真の視線には、拒絶するような冷たい色はない。
それどころか答えを促すような仕草は、どこか受け入れてくれているようにも見える。
たったそれだけで、しぶとく胸の奥が締め付けられるようで、それを押し出すように言葉を吐いた。
「……だって、もう和真は俺を要らないと思って……要らないのに、一度俺を受け入れちゃったから…捨て猫拾った人みたいに捨てきれなくて困ってるのかと思って」
「俺は要らないと言った覚えはないぞ」
亜樹のその訴えに和真がまた不機嫌そうな雰囲気を醸し出しながら、ハッキリとそう言った。
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