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第10話 もう要らない
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ギシリッと椅子が鳴る音が続き、ようやく和真の身体が真っ直ぐに亜樹の方へと振り返った。わずかな期待が湧き上がり、亜樹が縋るような思いで和真の動きを目で追いかける。
(いつもみたいに苦笑して、お願い、手を差し出して……)
そんな縋る思いに反して。
「どうして、謝るんだ?浮気はしていないんだろ?」
耳に届いた和真の声音は、相変わらず冷たいモノだった。
「なら、謝る必要はないだろ。浮気じゃないなら、構わないしな。お前の好きなようにすれば良い」
突き放すような言葉に、亜樹の胸がキリリと痛み。喉がカラカラに渇いていく。
「…ど、こ、いくの……」
立ち上がって歩き出した和真を引き止めたくて、必死に伸ばした指先で和真の腕に触れようとすれば。触れられる事さえ厭うように、和真の手が亜樹の指を払いのけた。
昨日まで『おいで』と呼んでくれた腕だった。それが今では触れる事さえ許してくれなくて、目を見開いた亜樹に向かって和真が冷ややかな笑みを向けていた。
「俺も好きなようにする」
「……好きな、ように、って……?」
「浮気じゃなければ、他の奴とも寝ても良いんだろ?それなら、久しぶりにお前以外の奴を抱いてみるのも面白そうだ」
薄っすらとした冷たい笑みと共に吐き出された言葉に、亜樹は切れ長の眼を見開いた。
(───!!)
自分だけが許されていたはずの和真の腕に、自分の知らない誰かがこの後、抱かれていて。自分だけに向けてくれていたあの瞳で、知らない誰かを和真が見るのだ。
(あの声で、俺以外の、誰かの名前を呼ぶの……?)
想像するだけで心が痛かった。心臓の拍動すらも苦痛に感じる程に、心が痛かった。
(あぁ、だから。だから和真が浮気って……)
分かっていなかった。何一つ。
(気持ちは和真のものだから、お金の代わりに抱かれる事に大した意味なんて無いと思ってた)
そんな単純な話しじゃないのに、分かっていなくて。和真をひどく傷付けた。
服の上から胸を押さえつけ、ズルズルと力なく床の上に座り込む。それでも、必死に伸ばした指先でどうにか和真の服を掴んでいた。縋りつくような指先だけは、白くなる程に硬く握り締められている。
今さら分かっても遅かった。気が付いた間違いはあまりにひどくて、どうすれば良いか、今の亜樹には分かっていなかった。それでも、傍に居たかった。
「離せ、亜樹」
ようやく名を呼んでもらえたのに。その声音は余りにも冷たい響きを持っている。
「……いや……だ……や、だ……」
竦みそうな身体を必死に動かして、何度も首を振り。行かないで欲しいのだと、制止と謝罪を繰返す。
そんな中でも、顔を見上げて和真の視線に気付いてしまえば、もう縋りつく事さえ無理だった。
(和真は、俺の事は……もう、要らない……ん、だ……)
蔑むような冷たい視線に身体が小さく震え出し、指先からもずるずると力が抜けていく。
(いつもみたいに苦笑して、お願い、手を差し出して……)
そんな縋る思いに反して。
「どうして、謝るんだ?浮気はしていないんだろ?」
耳に届いた和真の声音は、相変わらず冷たいモノだった。
「なら、謝る必要はないだろ。浮気じゃないなら、構わないしな。お前の好きなようにすれば良い」
突き放すような言葉に、亜樹の胸がキリリと痛み。喉がカラカラに渇いていく。
「…ど、こ、いくの……」
立ち上がって歩き出した和真を引き止めたくて、必死に伸ばした指先で和真の腕に触れようとすれば。触れられる事さえ厭うように、和真の手が亜樹の指を払いのけた。
昨日まで『おいで』と呼んでくれた腕だった。それが今では触れる事さえ許してくれなくて、目を見開いた亜樹に向かって和真が冷ややかな笑みを向けていた。
「俺も好きなようにする」
「……好きな、ように、って……?」
「浮気じゃなければ、他の奴とも寝ても良いんだろ?それなら、久しぶりにお前以外の奴を抱いてみるのも面白そうだ」
薄っすらとした冷たい笑みと共に吐き出された言葉に、亜樹は切れ長の眼を見開いた。
(───!!)
自分だけが許されていたはずの和真の腕に、自分の知らない誰かがこの後、抱かれていて。自分だけに向けてくれていたあの瞳で、知らない誰かを和真が見るのだ。
(あの声で、俺以外の、誰かの名前を呼ぶの……?)
想像するだけで心が痛かった。心臓の拍動すらも苦痛に感じる程に、心が痛かった。
(あぁ、だから。だから和真が浮気って……)
分かっていなかった。何一つ。
(気持ちは和真のものだから、お金の代わりに抱かれる事に大した意味なんて無いと思ってた)
そんな単純な話しじゃないのに、分かっていなくて。和真をひどく傷付けた。
服の上から胸を押さえつけ、ズルズルと力なく床の上に座り込む。それでも、必死に伸ばした指先でどうにか和真の服を掴んでいた。縋りつくような指先だけは、白くなる程に硬く握り締められている。
今さら分かっても遅かった。気が付いた間違いはあまりにひどくて、どうすれば良いか、今の亜樹には分かっていなかった。それでも、傍に居たかった。
「離せ、亜樹」
ようやく名を呼んでもらえたのに。その声音は余りにも冷たい響きを持っている。
「……いや……だ……や、だ……」
竦みそうな身体を必死に動かして、何度も首を振り。行かないで欲しいのだと、制止と謝罪を繰返す。
そんな中でも、顔を見上げて和真の視線に気付いてしまえば、もう縋りつく事さえ無理だった。
(和真は、俺の事は……もう、要らない……ん、だ……)
蔑むような冷たい視線に身体が小さく震え出し、指先からもずるずると力が抜けていく。
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