212 / 229
二部 番外編:怖がりな蓑虫
怖がりな蓑虫 5
しおりを挟む
「ほらお湯を掛けるぞ」
いつものように宮の浴室の中。洗い場にあるベンチのような大理石製の石段に腰を掛けて、脚の間にレフラの身体を座らせる。
恐らくいつもの3人から、この時期によく報告にあがる詰所の怪談話を聞いてしまった、といったところだろう。
『小さな子どもでもないんですから、自分でやります』
いつもならそう言って、ギガイが洗おうとする都度にささやかな抵抗を見せるレフラが、今日はいたく聞き分けが良い。ギガイの言葉のままに、素直に目を閉じた姿は、無防備でいたいけな姿に見えていた。
本人に言えばムキになる上に、身構えられると知っているから言わないが。いつもは自分を律しがちのレフラから、時折垣間見える不安定さや幼さが、ギガイの庇護欲を駆り立てるのだ。
(必死に取り繕っていたが、宮の入口に居たのも1人が怖くなって私の帰りを待っていた、というところだろうしな)
そんなレフラの姿に、思わず口許が綻んでしまう。ギガイはレフラに気付かれないように、音を立てずにクツクツ笑った。
そんな風に観察をしたり思い出していたせいで、わずかに間が空いてしまったのか。
「ギガイ様?」
目を閉じたまま素直に待っていたレフラから、不安げな声が聞こえてくる。手を横へ彷徨わせて、ギガイの脚に触れればホッと安堵する様子が見て取れた。
「あぁ、悪かった。今からかけるぞ。そのまま目を瞑っていろ」
後ろに備え付けられた湯が溜まった槽の中から湯を掬う。レフラの顔にかからないよう気を配りながら、頭の上からゆっくりとかけていく。そのまま手早く髪を洗い上げてやれば、水を切った直後にレフラが目を開いて、ギガイの方を振り返った。
たった今まで触れていたのに、姿が見えないせいで不安になってしまったのだろう。ギガイの姿を認めてホッとする様子のレフラに、ギガイがさすがに苦笑をした。
「お前は怪奇的なものは、だいぶ苦手なのか?」
「えっ……そ、そんなことはありません……平気です……」
「……」
話にならないぐらいの明らかな嘘だった。ギガイが一瞬絶句した後、大きな溜息を吐き出した。
「前も言っただろ。正直に告げないならば、考慮はいらないという事でいいな?」
そのままレフラの身体を脚の間から横へとどかして、ギガイがおもむろに立ち上がる。
「今日は自分で洗って入ってこい」
「待ってください!!」
そのまま立ち上がって歩き始めたギガイの手を、レフラが慌てた様子で捕まえた。
「どうした? 先に浸かっているだけだ、お前もさっさと来い。そうでなければ、先に出るぞ」
「……待って……置いていかないでください……」
ギガイを見上げる目が不安げに揺れていた。そんな様子にギガイがもう1度大きく溜息を吐き出した。
「……もう1度だけ聞いてやる。苦手なのか?」
「……はい……」
小さく情けなさそうな声でそう言ったレフラの身体を抱え上げ、ギガイがさっきまでの姿勢に戻った。
途端に身体に回した腕を、レフラがしっかりと抱え込む。離さないとでもいうようなその力に、ギガイは正直呆れかえった。
「お前は何でそこまで苦手なくせに、わざわざ嘘を吐いたんだ」
「……だって……子どもみたいで、みっともないでしょう……だから、ギガイ様に呆れられてしまいそうで……」
声音は落ち込んでいるようだった。それでも抱えた腕だけは、やっぱり離す気は全く見られない。
「いや、私には分からない感覚だが、苦手とする者は大人であっても、それなりにいるぞ」
「えっ!? そうなんですか??」
ギガイの言葉に本気で驚いているのか、声が大きく跳ね上がる。その勢いのままギガイの方へ振り返ったレフラの目もまた、とても大きく見開かれていた。
いつものように宮の浴室の中。洗い場にあるベンチのような大理石製の石段に腰を掛けて、脚の間にレフラの身体を座らせる。
恐らくいつもの3人から、この時期によく報告にあがる詰所の怪談話を聞いてしまった、といったところだろう。
『小さな子どもでもないんですから、自分でやります』
いつもならそう言って、ギガイが洗おうとする都度にささやかな抵抗を見せるレフラが、今日はいたく聞き分けが良い。ギガイの言葉のままに、素直に目を閉じた姿は、無防備でいたいけな姿に見えていた。
本人に言えばムキになる上に、身構えられると知っているから言わないが。いつもは自分を律しがちのレフラから、時折垣間見える不安定さや幼さが、ギガイの庇護欲を駆り立てるのだ。
(必死に取り繕っていたが、宮の入口に居たのも1人が怖くなって私の帰りを待っていた、というところだろうしな)
そんなレフラの姿に、思わず口許が綻んでしまう。ギガイはレフラに気付かれないように、音を立てずにクツクツ笑った。
そんな風に観察をしたり思い出していたせいで、わずかに間が空いてしまったのか。
「ギガイ様?」
目を閉じたまま素直に待っていたレフラから、不安げな声が聞こえてくる。手を横へ彷徨わせて、ギガイの脚に触れればホッと安堵する様子が見て取れた。
「あぁ、悪かった。今からかけるぞ。そのまま目を瞑っていろ」
後ろに備え付けられた湯が溜まった槽の中から湯を掬う。レフラの顔にかからないよう気を配りながら、頭の上からゆっくりとかけていく。そのまま手早く髪を洗い上げてやれば、水を切った直後にレフラが目を開いて、ギガイの方を振り返った。
たった今まで触れていたのに、姿が見えないせいで不安になってしまったのだろう。ギガイの姿を認めてホッとする様子のレフラに、ギガイがさすがに苦笑をした。
「お前は怪奇的なものは、だいぶ苦手なのか?」
「えっ……そ、そんなことはありません……平気です……」
「……」
話にならないぐらいの明らかな嘘だった。ギガイが一瞬絶句した後、大きな溜息を吐き出した。
「前も言っただろ。正直に告げないならば、考慮はいらないという事でいいな?」
そのままレフラの身体を脚の間から横へとどかして、ギガイがおもむろに立ち上がる。
「今日は自分で洗って入ってこい」
「待ってください!!」
そのまま立ち上がって歩き始めたギガイの手を、レフラが慌てた様子で捕まえた。
「どうした? 先に浸かっているだけだ、お前もさっさと来い。そうでなければ、先に出るぞ」
「……待って……置いていかないでください……」
ギガイを見上げる目が不安げに揺れていた。そんな様子にギガイがもう1度大きく溜息を吐き出した。
「……もう1度だけ聞いてやる。苦手なのか?」
「……はい……」
小さく情けなさそうな声でそう言ったレフラの身体を抱え上げ、ギガイがさっきまでの姿勢に戻った。
途端に身体に回した腕を、レフラがしっかりと抱え込む。離さないとでもいうようなその力に、ギガイは正直呆れかえった。
「お前は何でそこまで苦手なくせに、わざわざ嘘を吐いたんだ」
「……だって……子どもみたいで、みっともないでしょう……だから、ギガイ様に呆れられてしまいそうで……」
声音は落ち込んでいるようだった。それでも抱えた腕だけは、やっぱり離す気は全く見られない。
「いや、私には分からない感覚だが、苦手とする者は大人であっても、それなりにいるぞ」
「えっ!? そうなんですか??」
ギガイの言葉に本気で驚いているのか、声が大きく跳ね上がる。その勢いのままギガイの方へ振り返ったレフラの目もまた、とても大きく見開かれていた。
10
お気に入りに追加
2,453
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
お嬢様、お仕置の時間です。
moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。
両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。
私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。
私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。
両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。
新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。
私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。
海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。
しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。
海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。
しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。
男子中学生から女子校生になった僕
葵
大衆娯楽
僕はある日突然、母と姉に強制的に女の子として育てられる事になった。
普通に男の子として過ごしていた主人公がJKで過ごした高校3年間のお話し。
強制女装、女性と性行為、男性と性行為、羞恥、屈辱などが好きな方は是非読んでみてください!
【R-18】クリしつけ
蛙鳴蝉噪
恋愛
男尊女卑な社会で女の子がクリトリスを使って淫らに教育されていく日常の一コマ。クリ責め。クリリード。なんでもありでアブノーマルな内容なので、精神ともに18歳以上でなんでも許せる方のみどうぞ。
社長の奴隷
星野しずく
恋愛
セクシー系の商品を販売するネットショップを経営する若手イケメン社長、茂手木寛成のもとで、大のイケメン好き藤巻美緒は仕事と称して、毎日エッチな人体実験をされていた。そんな二人だけの空間にある日、こちらもイケメン大学生である信楽誠之助がアルバイトとして入社する。ただでさえ異常な空間だった社内は、信楽が入ったことでさらに混乱を極めていくことに・・・。(途中、ごくごく軽いBL要素が入ります。念のため)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる