162 / 229
第一部
揺れる足元 15 ※
しおりを挟む
「今後…?」
何のことを言われているのだろう。
分からないまま聞こえてきた言葉を、レフラはただ繰り返す。このまま触れてもらえると思っていた所で解放された身体が甘く疼いていた。
「お前の事だ。先に約束をしておかなければ、また無茶をされかねないから言っておく」
突然向かい合うように身体を返されて目をパチパチと瞬かせた。
改まっていったい何の約束なのかは分からない。それでもギガイの雰囲気に圧されるように、身体の熱がわずかに静まる。
「明日、明後日は休め、分かったな」
そんな中で聞こえた言葉にレフラは目を丸くした。
「そんな!大丈夫です、やらせて下さい!」
「大丈夫なはずがないだろう、ダメだ」
「でも!」
湯に浸けないように気をつけていた両手をギガイの手が掴み上げ、眉をひそめる態度は日中の時以上に固かった。
「私はゆっくりやれと言ったはずだ。そんな手でなぜ無理を重ねようとする?」
「…無理などしておりません」
「何をそんなに急いでいる?」
声がどんどんいつもの温もりを無くしている状況に、これ以上はマズイとレフラの中でも警告染みた思いはあった。それでも募る焦りがもう少しだけ…そんな思いを生んでしまう。
「本当に何もーー」
「いい加減にしろ」
耳に届いた声は本気で不快そうな響きを持っていた。
その声にレフラの肩がビクッと跳ねる。そんな声で咎められてしまえば、もうこれ以上はレフラも意地を通す事が難しくなる。
「制止も聞かず、理由も言わない。どういうつもりだ。そんな上辺の言葉で取り繕えると思っているのか。だいぶ私も侮られたものだな」
「…そういうつもりではなかったんです。申し訳ございません…ただ、どうしてもやりたくて…」
「だからなぜだと聞いている」
「……」
本当のことなんて言えなかった。そうなると何を言えば良いのか分からずに、レフラは必死に言葉を探していた。だけどこの沈黙が最後のギガイの温情を無下にしてしまったのだろう。
「…もう良い」
苛立ちも全て消えてしまったような声は平淡で何を考えているのか分からなかった。その声に心臓がドクッと大きく跳ね上がる。
「そんなにやりたいのならば、やれば良い」
冷たい声以上に不安を煽る声なのだ。
見放されてしまったようなギガイの言葉に、きっと向けた顔には隠しきれない不安が浮かんでいる。だけど交わったギガイの眼光は、今までのように和らいでレフラの不安を癒してくれる様子は少しもなかった。
「ただし、やれるものならな」
「…ギガイ、さ、ま…」
「私は言ったはずだ。お前自身であっても勝手に傷付ける事は許さないとな」
「ーーーーッ!!」
それは初めて交わった日に伝えられた言葉だった。
さんざん与えられた痛みや恐怖が蘇り身体がカタカタと震え出す。不安に跳ね上がる心臓は、今にも破裂しそうに痛んでいた。
何のことを言われているのだろう。
分からないまま聞こえてきた言葉を、レフラはただ繰り返す。このまま触れてもらえると思っていた所で解放された身体が甘く疼いていた。
「お前の事だ。先に約束をしておかなければ、また無茶をされかねないから言っておく」
突然向かい合うように身体を返されて目をパチパチと瞬かせた。
改まっていったい何の約束なのかは分からない。それでもギガイの雰囲気に圧されるように、身体の熱がわずかに静まる。
「明日、明後日は休め、分かったな」
そんな中で聞こえた言葉にレフラは目を丸くした。
「そんな!大丈夫です、やらせて下さい!」
「大丈夫なはずがないだろう、ダメだ」
「でも!」
湯に浸けないように気をつけていた両手をギガイの手が掴み上げ、眉をひそめる態度は日中の時以上に固かった。
「私はゆっくりやれと言ったはずだ。そんな手でなぜ無理を重ねようとする?」
「…無理などしておりません」
「何をそんなに急いでいる?」
声がどんどんいつもの温もりを無くしている状況に、これ以上はマズイとレフラの中でも警告染みた思いはあった。それでも募る焦りがもう少しだけ…そんな思いを生んでしまう。
「本当に何もーー」
「いい加減にしろ」
耳に届いた声は本気で不快そうな響きを持っていた。
その声にレフラの肩がビクッと跳ねる。そんな声で咎められてしまえば、もうこれ以上はレフラも意地を通す事が難しくなる。
「制止も聞かず、理由も言わない。どういうつもりだ。そんな上辺の言葉で取り繕えると思っているのか。だいぶ私も侮られたものだな」
「…そういうつもりではなかったんです。申し訳ございません…ただ、どうしてもやりたくて…」
「だからなぜだと聞いている」
「……」
本当のことなんて言えなかった。そうなると何を言えば良いのか分からずに、レフラは必死に言葉を探していた。だけどこの沈黙が最後のギガイの温情を無下にしてしまったのだろう。
「…もう良い」
苛立ちも全て消えてしまったような声は平淡で何を考えているのか分からなかった。その声に心臓がドクッと大きく跳ね上がる。
「そんなにやりたいのならば、やれば良い」
冷たい声以上に不安を煽る声なのだ。
見放されてしまったようなギガイの言葉に、きっと向けた顔には隠しきれない不安が浮かんでいる。だけど交わったギガイの眼光は、今までのように和らいでレフラの不安を癒してくれる様子は少しもなかった。
「ただし、やれるものならな」
「…ギガイ、さ、ま…」
「私は言ったはずだ。お前自身であっても勝手に傷付ける事は許さないとな」
「ーーーーッ!!」
それは初めて交わった日に伝えられた言葉だった。
さんざん与えられた痛みや恐怖が蘇り身体がカタカタと震え出す。不安に跳ね上がる心臓は、今にも破裂しそうに痛んでいた。
10
お気に入りに追加
2,454
あなたにおすすめの小説
【完結(続編)ほかに相手がいるのに】
もえこ
恋愛
恋愛小説大賞に参加中、投票いただけると嬉しいです。
遂に、杉崎への気持ちを完全に自覚した葉月。
理性に抗えずに杉崎と再び身体を重ねた葉月は、出張先から帰るまさにその日に、遠距離恋愛中である恋人の拓海が自身の自宅まで来ている事を知り、動揺する…。
拓海は空港まで迎えにくるというが…
男女間の性描写があるため、苦手な方は読むのをお控えください。
こちらは、既に公開・完結済みの「ほかに相手がいるのに」の続編となります。
よろしければそちらを先にご覧ください。
獣医さんのお仕事 in異世界
蒼空チョコ@モノカキ獣医
ファンタジー
とある辺境伯の兄弟ゲンカに巻き込まれ、風見心悟は異世界に召喚されてしまった。目的は”領地を栄えさせてくれ”ということらしい。つまるところ、一般的な異世界召喚モノ――そう思っていた時期が風見にもありました。
「いや、だからただの獣医なんだって」
しかしながら異世界ファンタジーをなめてはいけない。こちらはドラゴン、魔物もいれば異種族だっている。地球との差は言語、魔法、生物、宗教、常識などなど果てしない。
そんな世界でも公務員獣医さんはとりあえず解剖したり、薬を作ったり、農業を改善していこうとします。
普通の勇者とも、医者とも違う獣医としての生き方で彼は異世界でも頑張って生き抜いていきます。
※書籍版よりも序盤の設定がハードになっております。
※書籍版第一巻とは三分の二のストーリーを変更しているため、第一章はダイジェスト禁止となる九月以降も残します。
わかりあえない、わかれたい・12
あかね
恋愛
好きあって付き合ったのに、縁あって巡り逢ったのに。
人格・趣味・思考…分かり合えないならサヨナラするしかない。
振ったり振られたり、恋人と別れて前に進む女性の話。
12・広い世界を知って、夢から覚めた女性の話。
(全13話)
*シリーズ全編、独立した話です。
【完結】結婚式当日、婚約者と姉に裏切られて惨めに捨てられた花嫁ですが
Rohdea
恋愛
結婚式の当日、花婿となる人は式には来ませんでした───
伯爵家の次女のセアラは、結婚式を控えて幸せな気持ちで過ごしていた。
しかし結婚式当日、夫になるはずの婚約者マイルズは式には現れず、
さらに同時にセアラの二歳年上の姉、シビルも行方知れずに。
どうやら、二人は駆け落ちをしたらしい。
そんな婚約者と姉の二人に裏切られ惨めに捨てられたセアラの前に現れたのは、
シビルの婚約者で、冷酷だの薄情だのと聞かされていた侯爵令息ジョエル。
身勝手に消えた姉の代わりとして、
セアラはジョエルと新たに婚約を結ぶことになってしまう。
そして一方、駆け落ちしたというマイルズとシビル。
二人の思惑は───……
物語のようにはいかない
わらびもち
恋愛
転生したら「お前を愛することはない」と夫に向かって言ってしまった『妻』だった。
そう、言われる方ではなく『言う』方。
しかも言ってしまってから一年は経過している。
そして案の定、夫婦関係はもうキンキンに冷え切っていた。
え? これ、どうやって関係を修復したらいいの?
いや、そもそも修復可能なの?
発言直後ならまだしも、一年も経っているのに今更仲直りとか無理じゃない?
せめて失言『前』に転生していればよかったのに!
自分が言われた側なら、初夜でこんな阿呆な事を言う相手と夫婦関係を続けるなど無理だ。諦めて夫に離婚を申し出たのだが、彼は婚姻継続を望んだ。
夫が望むならと婚姻継続を受け入れたレイチェル。これから少しずつでも仲を改善出来たらいいなと希望を持つのだが、現実はそう上手くいかなかった……。
吸血鬼公爵に嫁いだ私は血を吸われることもなく、もふもふ堪能しながら溺愛されまくってます
リオール
恋愛
吸血鬼公爵に嫁ぐこととなったフィーリアラはとても嬉しかった。
金を食い潰すだけの両親に妹。売り飛ばすような形で自分を嫁に出そうとする家族にウンザリ!
おまけに婚約者と妹の裏切りも発覚。こんな連中はこっちから捨ててやる!と家を出たのはいいけれど。
逃げるつもりが逃げれなくて恐る恐る吸血鬼の元へと嫁ぐのだった。
結果、血なんて吸われることもなく、吸血鬼公爵にひたすら愛されて愛されて溺愛されてイチャイチャしちゃって。
いつの間にか実家にざまぁしてました。
そんなイチャラブざまぁコメディ?なお話しです。R15は保険です。
=====
2020/12月某日
第二部を執筆中でしたが、続きが書けそうにないので、一旦非公開にして第一部で完結と致しました。
楽しみにしていただいてた方、申し訳ありません。
また何かの形で公開出来たらいいのですが…完全に未定です。
お読みいただきありがとうございました。
魔力ゼロの出来損ない貴族、四大精霊王に溺愛される
日之影ソラ
ファンタジー
魔法使いの名門マスタローグ家の次男として生をうけたアスク。兄のように優れた才能を期待されたアスクには何もなかった。魔法使いとしての才能はおろか、誰もが持って生まれる魔力すらない。加えて感情も欠落していた彼は、両親から拒絶され別宅で一人暮らす。
そんなある日、アスクは一冊の不思議な本を見つけた。本に誘われた世界で四大精霊王と邂逅し、自らの才能と可能性を知る。そして精霊王の契約者となったアスクは感情も取り戻し、これまで自分を馬鹿にしてきた周囲を見返していく。
HOTランキング&ファンタジーランキング1位達成!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる