上 下
158 / 229
第一部

揺れる足元 11

しおりを挟む
「どういうことだ。なぜケガを負わせている」

頭を下げる3人へ向けられた視線や声の冷たさにレフラが目を瞬いた。

「待って下さいギガイ様!」

「お前は今は黙っていろ」

3人に向けたものよりは柔らかさを持った声だったが、逆らうことはマズイと感じるような冷たさは含んだような声だった。

それでも力を振り絞るようにレフラはギガイの肩を揺すった。

「ま、前に約束しました!次は先に私の言葉を確認して頂けるって!」

「……」

「それに、私のワガママで他の方が咎められてしまうのなら、始めにダメだと仰って下さい…」

「…はぁ…、分かった。この者達には何も言わん。だが私はお前にもケガをしないよう気をつけろと言ったはずだ」

盛大な溜息を吐き出したギガイが冷たい空気を離散させる。その代わりレフラの手を取ったギガイの表情は不快そうに眉間に深いシワが寄っていた。

「違います。これはケガじゃありません」

「皮が剥けて肉が見えるような状態をケガではない、というならばお前は何をケガだと言うんだ」

ますます不快さが増したのだろう。下手な言い訳をして怒らせてしまった時のギガイの怖さは知っていた。

(でもこれは言い訳じゃないんです……)

だからこそちゃんとギガイにも分かって欲しくて、気力を奮い立たせて鋭さを増した眼光を見つめ返す。
後ろめたさで逸らされることがない目に、ちゃんと理由を聞いてくれる気が湧いたのか。

「どういうことか言ってみろ」

言葉を促す声は少し柔らかくなっていた。

「…ギガイ様の手も何度も剣を振るわれて、豆を作りながら固くなったのでしょ。自分で何かを成し遂げてきたギガイ様のこの手が好きです」

レフラがおもむろにギガイの掌を握り締めて口付ける。

「…それに比べて私の手はたったこれぐらいですぐダメになるような柔な手です。跳び族でもケガをしかねない行為という事で私は何もさせてもらえなかった。
そんな何も作り上げきれない自分の手が私は好きではありません……」

誰にも受け入れてもらえなかった手は、レフラ自身でさえも受け入れがたく感じていた。

「だからこのままやらせて欲しいです……それでもこうやって傷付くことはダメですか……?」

このままでは生きぬく事さえできない手だった。
そうなればレフラがこの手を好きになる日は、きっと生涯存在しない。

ギガイが苦虫をかみつぶしたような顔を浮かべながら、自分の額に手を添えた。しばらく考え込んだあと、何かを堪えるように太く長い溜息を吐き出していく。

「……お前がやりたい事にはダメだとは言わん。ただ頼むから無理はしてくれるな」

「はい!ありがとうございます!」

レフラがぎゅっとギガイの首に抱きついて、首筋に頬をスリッと擦り寄せる。その頭を仕方がない、と言うようにポンポンと叩いてギガイがレフラを解放した。

「お前達も頭を上げろ」

ギガイの言葉に伏せられたままだった3人の顔が上げられる。

「もう分かってはいるだろうが、無茶をしがちな御饌だ。お前達も見張ってろ」

「はい、かしこまりました!」

ワガママに3人を巻き込んだ事を申し訳なく感じながらも、「見張ってろ、だなんて……」レフラは不満げに唇を尖らせた。だが3人にしても思う所があるのだろう。そんなレフラの横に控えている3人の顔にはハッキリと苦笑いが浮かんでいた。

そんな表情を目の当たりにすれば、レフラも何も言えなくなってしまう。レフラは諦めたように力を抜いた。

「で、どこからどこまで耕す気だ?」

「ここからあそこまでですが?」

言葉とともにレフラの方へ伸びてくるギガイの手をジッと見つめてみる。

この手の意図は何なのだろう。
分からないまま目の前の手を、レフラはキュッと握り返す。途端にパチッと視線が重なったギガイがおかしな表情を向けてくるのを、レフラも理解できないまま小首を傾げて見つめ返した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

【R-18】クリしつけ

蛙鳴蝉噪
恋愛
男尊女卑な社会で女の子がクリトリスを使って淫らに教育されていく日常の一コマ。クリ責め。クリリード。なんでもありでアブノーマルな内容なので、精神ともに18歳以上でなんでも許せる方のみどうぞ。

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

膀胱を虐められる男の子の話

煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ 男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話 膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)

調教専門学校の奴隷…

ノノ
恋愛
調教師を育てるこの学校で、教材の奴隷として売られ、調教師訓練生徒に調教されていくお話

【R18】かわいいペットの躾け方。

春宮ともみ
恋愛
ドS ‪✕ ‬ドM・主従関係カップルの夜事情。 彼氏兼ご主人様の命令を破った彼女がお仕置きに玩具で弄ばれ、ご褒美を貰うまでのお話。  *** ※タグを必ずご確認ください ※作者が読みたいだけの性癖を詰め込んだ書きなぐり短編です ※表紙はpixabay様よりお借りしました

双葉病院小児病棟

moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。 病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。 この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。 すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。 メンタル面のケアも大事になってくる。 当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。 親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。 【集中して治療をして早く治す】 それがこの病院のモットーです。 ※この物語はフィクションです。 実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。

処理中です...