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第一部
揺れる足元 11
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「どういうことだ。なぜケガを負わせている」
頭を下げる3人へ向けられた視線や声の冷たさにレフラが目を瞬いた。
「待って下さいギガイ様!」
「お前は今は黙っていろ」
3人に向けたものよりは柔らかさを持った声だったが、逆らうことはマズイと感じるような冷たさは含んだような声だった。
それでも力を振り絞るようにレフラはギガイの肩を揺すった。
「ま、前に約束しました!次は先に私の言葉を確認して頂けるって!」
「……」
「それに、私のワガママで他の方が咎められてしまうのなら、始めにダメだと仰って下さい…」
「…はぁ…、分かった。この者達には何も言わん。だが私はお前にもケガをしないよう気をつけろと言ったはずだ」
盛大な溜息を吐き出したギガイが冷たい空気を離散させる。その代わりレフラの手を取ったギガイの表情は不快そうに眉間に深いシワが寄っていた。
「違います。これはケガじゃありません」
「皮が剥けて肉が見えるような状態をケガではない、というならばお前は何をケガだと言うんだ」
ますます不快さが増したのだろう。下手な言い訳をして怒らせてしまった時のギガイの怖さは知っていた。
(でもこれは言い訳じゃないんです……)
だからこそちゃんとギガイにも分かって欲しくて、気力を奮い立たせて鋭さを増した眼光を見つめ返す。
後ろめたさで逸らされることがない目に、ちゃんと理由を聞いてくれる気が湧いたのか。
「どういうことか言ってみろ」
言葉を促す声は少し柔らかくなっていた。
「…ギガイ様の手も何度も剣を振るわれて、豆を作りながら固くなったのでしょ。自分で何かを成し遂げてきたギガイ様のこの手が好きです」
レフラがおもむろにギガイの掌を握り締めて口付ける。
「…それに比べて私の手はたったこれぐらいですぐダメになるような柔な手です。跳び族でもケガをしかねない行為という事で私は何もさせてもらえなかった。
そんな何も作り上げきれない自分の手が私は好きではありません……」
誰にも受け入れてもらえなかった手は、レフラ自身でさえも受け入れがたく感じていた。
「だからこのままやらせて欲しいです……それでもこうやって傷付くことはダメですか……?」
このままでは生きぬく事さえできない手だった。
そうなればレフラがこの手を好きになる日は、きっと生涯存在しない。
ギガイが苦虫をかみつぶしたような顔を浮かべながら、自分の額に手を添えた。しばらく考え込んだあと、何かを堪えるように太く長い溜息を吐き出していく。
「……お前がやりたい事にはダメだとは言わん。ただ頼むから無理はしてくれるな」
「はい!ありがとうございます!」
レフラがぎゅっとギガイの首に抱きついて、首筋に頬をスリッと擦り寄せる。その頭を仕方がない、と言うようにポンポンと叩いてギガイがレフラを解放した。
「お前達も頭を上げろ」
ギガイの言葉に伏せられたままだった3人の顔が上げられる。
「もう分かってはいるだろうが、無茶をしがちな御饌だ。お前達も見張ってろ」
「はい、かしこまりました!」
ワガママに3人を巻き込んだ事を申し訳なく感じながらも、「見張ってろ、だなんて……」レフラは不満げに唇を尖らせた。だが3人にしても思う所があるのだろう。そんなレフラの横に控えている3人の顔にはハッキリと苦笑いが浮かんでいた。
そんな表情を目の当たりにすれば、レフラも何も言えなくなってしまう。レフラは諦めたように力を抜いた。
「で、どこからどこまで耕す気だ?」
「ここからあそこまでですが?」
言葉とともにレフラの方へ伸びてくるギガイの手をジッと見つめてみる。
この手の意図は何なのだろう。
分からないまま目の前の手を、レフラはキュッと握り返す。途端にパチッと視線が重なったギガイがおかしな表情を向けてくるのを、レフラも理解できないまま小首を傾げて見つめ返した。
頭を下げる3人へ向けられた視線や声の冷たさにレフラが目を瞬いた。
「待って下さいギガイ様!」
「お前は今は黙っていろ」
3人に向けたものよりは柔らかさを持った声だったが、逆らうことはマズイと感じるような冷たさは含んだような声だった。
それでも力を振り絞るようにレフラはギガイの肩を揺すった。
「ま、前に約束しました!次は先に私の言葉を確認して頂けるって!」
「……」
「それに、私のワガママで他の方が咎められてしまうのなら、始めにダメだと仰って下さい…」
「…はぁ…、分かった。この者達には何も言わん。だが私はお前にもケガをしないよう気をつけろと言ったはずだ」
盛大な溜息を吐き出したギガイが冷たい空気を離散させる。その代わりレフラの手を取ったギガイの表情は不快そうに眉間に深いシワが寄っていた。
「違います。これはケガじゃありません」
「皮が剥けて肉が見えるような状態をケガではない、というならばお前は何をケガだと言うんだ」
ますます不快さが増したのだろう。下手な言い訳をして怒らせてしまった時のギガイの怖さは知っていた。
(でもこれは言い訳じゃないんです……)
だからこそちゃんとギガイにも分かって欲しくて、気力を奮い立たせて鋭さを増した眼光を見つめ返す。
後ろめたさで逸らされることがない目に、ちゃんと理由を聞いてくれる気が湧いたのか。
「どういうことか言ってみろ」
言葉を促す声は少し柔らかくなっていた。
「…ギガイ様の手も何度も剣を振るわれて、豆を作りながら固くなったのでしょ。自分で何かを成し遂げてきたギガイ様のこの手が好きです」
レフラがおもむろにギガイの掌を握り締めて口付ける。
「…それに比べて私の手はたったこれぐらいですぐダメになるような柔な手です。跳び族でもケガをしかねない行為という事で私は何もさせてもらえなかった。
そんな何も作り上げきれない自分の手が私は好きではありません……」
誰にも受け入れてもらえなかった手は、レフラ自身でさえも受け入れがたく感じていた。
「だからこのままやらせて欲しいです……それでもこうやって傷付くことはダメですか……?」
このままでは生きぬく事さえできない手だった。
そうなればレフラがこの手を好きになる日は、きっと生涯存在しない。
ギガイが苦虫をかみつぶしたような顔を浮かべながら、自分の額に手を添えた。しばらく考え込んだあと、何かを堪えるように太く長い溜息を吐き出していく。
「……お前がやりたい事にはダメだとは言わん。ただ頼むから無理はしてくれるな」
「はい!ありがとうございます!」
レフラがぎゅっとギガイの首に抱きついて、首筋に頬をスリッと擦り寄せる。その頭を仕方がない、と言うようにポンポンと叩いてギガイがレフラを解放した。
「お前達も頭を上げろ」
ギガイの言葉に伏せられたままだった3人の顔が上げられる。
「もう分かってはいるだろうが、無茶をしがちな御饌だ。お前達も見張ってろ」
「はい、かしこまりました!」
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そんな表情を目の当たりにすれば、レフラも何も言えなくなってしまう。レフラは諦めたように力を抜いた。
「で、どこからどこまで耕す気だ?」
「ここからあそこまでですが?」
言葉とともにレフラの方へ伸びてくるギガイの手をジッと見つめてみる。
この手の意図は何なのだろう。
分からないまま目の前の手を、レフラはキュッと握り返す。途端にパチッと視線が重なったギガイがおかしな表情を向けてくるのを、レフラも理解できないまま小首を傾げて見つめ返した。
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