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第一部

揺れる足元 7

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「体調を崩したとお伺いしましたが大丈夫ですか?」

ガチャガチャと重たそうな音が鳴る大きな麻袋を下へ置きながら、リランがレフラを見上げてくる。真っ直ぐに向けられた眼は純粋に心配してくれており、レフラは思わず言葉につまった。

「今日は無理をされない方が良いんじゃないでしょうか?」

「ただでさえ力仕事なので、体調が悪い時には休まれて、また回復されてからにした方が私も良いと思います」

あわせて声を掛けてきたラクーシュとエルフィルの気遣いも、事の真相が真相なだけに今は居たたまれなくて仕方がなかった。

だが下手をすれば彼らの身が危険にさらされてしまうのだ。そんな彼らの優しさを前に、今にも顔が引き攣るか、赤らみそうになるのをレフラは必死に堪えていた。

(心を乱したらダメです!彼らが処分されてしまいます…)

こんなことで処分だなんて…と思いながらも、本気だとギガイが言い放っていた以上はレフラも必死になるしかない。

(せっかくこうやって心配をしてくれる方達なんです)

話が長引けば長引くほどボロが出てしまいそうで、レフラは取りあえず体調の話を早く切り上げようと、ニコッと朗らかに笑って見せた。

「大丈夫ですよ。少し疲れていたので休んでいただけです。ギガイ様も休んだ後なら構わないと、こうやって作業しやすいように髪も結って下さいました」

ギガイのお墨付きのようなものなのだ。族長のお墨付きなんて彼等にとってこれ以上の保証はないだろう。だから大丈夫だと、もう一度微笑んでみせる。

「えっ?」

「…ギガイ様が?」

「……髪を結われたんですか?」

上手く互いの言葉を繋げていく3人の器用さに感心して、レフラは思わず笑ってしまった。

「はい、いつものように下に結ぶと邪魔だろうからと後ろの方に」

「そこまで考慮をされて……」

唖然とした声でラクーシュが呟き、そばに居る2人なんかは言葉も出ないようだった。
そんな3人の様子にレフラは思わず小首を傾げてしまう。特別なことなど何もない、日常のほんの一コマ程度のお話しなのだ。

起床の挨拶や就寝の挨拶と同じ程度の当たり前のやり取りとして「結ってやるからこっちを向け」と言う言葉にレフラはお願いしているだけだった。

何をそんなに驚いているのかとレフラまで無言になった中、ようやく気が付いた状況にあっ、と大きく目を見開いた。

「あっ、あのちゃんと私自身でも結べます!でもギガイ様が自分の方が紐の扱いに慣れているからと結んで下さっていて…実際にギガイ様の結び方だとなぜか解けにくくて…」

あまりに当たり前のように「結ってやる」と手を差し出されていたから、今の今まで気が付かなかった事が恥ずかしかった。

(これじゃあ、自分の世話さえろくにできないみたいです……)

だけど言い訳の必死ささえも格好悪くて、話せば話すほど言葉の勢いは消えてしまう。気が付けばそんなレフラに3人が苦笑を向けていた。

「申し訳ございません。そういった意味で驚いたわけではございません。あのギガイ様が結われたという事に驚いてしまっただけなんです」

ラクーシュが苦笑を浮かべて、申し訳なさそうに頭を下げた。

「レフラ様とご一緒をすると、我々には驚くことばかりです」

同感だと頷くリランやエルフィルの顔にも同じような苦笑が張り付いている。レフラと過ごすギガイの姿は、それだけ3人にとって驚くようなことなのだろう。それなら。

「黒族の方々へのギガイ様は、どんな感じでいらっしゃるんですか?」

逆にそのことがレフラにとっては気になった。
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