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第一部
病中の甘え 10
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「…レフ…フラ……レフラ……」
ずっと聞こえていたギガイの、でも自分だけへ向けられた柔らかな声が聞こえてくる。水の中から浮かび上がるようにゆっくりと覚醒していく意識に伴って、くぐもりながら微かに聞こえていた周りの音がハッキリとした音に成っていく。
「ギガ、イ様……?」
目を開いた先にあったのは琥珀の瞳。どうして顔を覗き込まれているのか分からなかった。ボンヤリとその顔を見つめ返していれば、フワッと微笑んだギガイがレフラの頬を撫でてくる。その感触が心地良くてスルリと擦り寄って目を閉じる。
「こら、せっかく起こしたのに眠るな。薬もあるからな、少しでも腹に物を入れろ」
「……ゆう、げ?」
このまま寝てしまいたかったのに。どうにか閉じてしまいそうな目蓋を持ち上げて、あれ?とレフラはかすかに首を傾げた。
「おしごとは?おわったんですか?」
「あぁ。いつも頑張っているからな、たまには早く終わるのも良いだろう」
覚えのある言葉と共にククッと笑ったギガイの顔は、どこか悪戯めいている。そんな珍しい表情に目を奪われるよりも先に、レフラの頭が冷水を浴びせられたように覚醒して、一気に血の気が引いていく。
あれは夢の出来事だったはずだ。そう思うのに、思い返せば自信がない。それどころか常と違うギガイの表情を見る限り、あの出来事は現実なのだと言葉がないまま伝えられる。
ガバッと起き上がった身体は急な動きに付いてこれず、レフラの身体が後へグラリと揺れた。
「こら、危ないぞ」
その腕をパッと捕まえたギガイが、身体を持ち上げ抱え込む。
「あ、あの、違うんです!あんな事、ギガイ様に言うつもりはなくて!本当に、間違えてしまって!夢だと思っててーーー」
胸元に手を置いてギガイの方へ向かい合いながら、一生懸命言葉を紡ぐレフラの頭の中は、もうパニックに近かった。
よりにもよって黒族長であるギガイを子ども扱いするなど、不敬にも程がある。レフラ自身が不興を買うだけでは済まない可能性だってある事だった。本気で言ったわけではない…いや、本気ではあった。でもそんな失礼な振る舞いをするつもりは無かった事をどうにか知って欲しかった。
だけど唇にギガイの指を当てられてしまえば、それ以上の言葉を紡ぐ事は出来なくなる。
仕置きを受けるのだろうか。甘く優しかった時間はもう終わるのだろうか。
不安に感じるレフラに反して指先は唇を何度かなぞって感触を楽しんだ様子の後、スルリと頬を包む掌へとなった。
「怒っていない、大丈夫だから落ち着け」
フッと苦笑を浮かべたギガイの目は蜂蜜色を湛えたまま、レフラを真っ直ぐに見つめていた。
「それよりも、現実の私は頑張っていないのか?」
「えっ?」
「夢の私だけがお前に認められるというのはどうなんだ?」
「そ、そんな事は。現実のギガイ様の方が………」
「なら、現実の私自身も労られても良いのではないか?」
「えっ、ええ、えええ??」
予想もしていなかった事態にレフラの口から出てきたのは、意味のない音だけだった。そんなレフラをククッと面白そうに笑うギガイは、どこまでが本気なのか分からなかった。それでも一向に取り消されない言葉にレフラが恐る恐る膝立ちになって、ギガイの方へ向き直る。
何も言わないギガイを見つめながら、レフラがそっと指先をギガイの頭へと伸ばしていった。それはまるで野生の猛獣へ手を伸ばしていくような光景で、ギガイを知る臣下が誰か居るならば、それこそ全力で止められるだろう。だけど2人きりのこの部屋では止めるような者は居らず、レフラの指はギガイの髪へついに触れた。
ずっと聞こえていたギガイの、でも自分だけへ向けられた柔らかな声が聞こえてくる。水の中から浮かび上がるようにゆっくりと覚醒していく意識に伴って、くぐもりながら微かに聞こえていた周りの音がハッキリとした音に成っていく。
「ギガ、イ様……?」
目を開いた先にあったのは琥珀の瞳。どうして顔を覗き込まれているのか分からなかった。ボンヤリとその顔を見つめ返していれば、フワッと微笑んだギガイがレフラの頬を撫でてくる。その感触が心地良くてスルリと擦り寄って目を閉じる。
「こら、せっかく起こしたのに眠るな。薬もあるからな、少しでも腹に物を入れろ」
「……ゆう、げ?」
このまま寝てしまいたかったのに。どうにか閉じてしまいそうな目蓋を持ち上げて、あれ?とレフラはかすかに首を傾げた。
「おしごとは?おわったんですか?」
「あぁ。いつも頑張っているからな、たまには早く終わるのも良いだろう」
覚えのある言葉と共にククッと笑ったギガイの顔は、どこか悪戯めいている。そんな珍しい表情に目を奪われるよりも先に、レフラの頭が冷水を浴びせられたように覚醒して、一気に血の気が引いていく。
あれは夢の出来事だったはずだ。そう思うのに、思い返せば自信がない。それどころか常と違うギガイの表情を見る限り、あの出来事は現実なのだと言葉がないまま伝えられる。
ガバッと起き上がった身体は急な動きに付いてこれず、レフラの身体が後へグラリと揺れた。
「こら、危ないぞ」
その腕をパッと捕まえたギガイが、身体を持ち上げ抱え込む。
「あ、あの、違うんです!あんな事、ギガイ様に言うつもりはなくて!本当に、間違えてしまって!夢だと思っててーーー」
胸元に手を置いてギガイの方へ向かい合いながら、一生懸命言葉を紡ぐレフラの頭の中は、もうパニックに近かった。
よりにもよって黒族長であるギガイを子ども扱いするなど、不敬にも程がある。レフラ自身が不興を買うだけでは済まない可能性だってある事だった。本気で言ったわけではない…いや、本気ではあった。でもそんな失礼な振る舞いをするつもりは無かった事をどうにか知って欲しかった。
だけど唇にギガイの指を当てられてしまえば、それ以上の言葉を紡ぐ事は出来なくなる。
仕置きを受けるのだろうか。甘く優しかった時間はもう終わるのだろうか。
不安に感じるレフラに反して指先は唇を何度かなぞって感触を楽しんだ様子の後、スルリと頬を包む掌へとなった。
「怒っていない、大丈夫だから落ち着け」
フッと苦笑を浮かべたギガイの目は蜂蜜色を湛えたまま、レフラを真っ直ぐに見つめていた。
「それよりも、現実の私は頑張っていないのか?」
「えっ?」
「夢の私だけがお前に認められるというのはどうなんだ?」
「そ、そんな事は。現実のギガイ様の方が………」
「なら、現実の私自身も労られても良いのではないか?」
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何も言わないギガイを見つめながら、レフラがそっと指先をギガイの頭へと伸ばしていった。それはまるで野生の猛獣へ手を伸ばしていくような光景で、ギガイを知る臣下が誰か居るならば、それこそ全力で止められるだろう。だけど2人きりのこの部屋では止めるような者は居らず、レフラの指はギガイの髪へついに触れた。
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