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第一部

陽光の中 6

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「少し歩くか?」

弾かれたように見上げれば、苦笑を浮かべたギガイが琥珀色の目を向けていた。胸がまた締め付けるような痛みを訴えて言葉がとっさに出なくなる。さっきまでとは全然違う甘い痛みを感じながら、レフラは何度も頷いた。

ギガイの腕から下ろされたレフラの靴裏に石畳の固い感触が伝わってくる。自分の足で立って歩く。そんな当たり前の行動が、ギガイが傍に居る時にするとなると不思議な感覚だった。

共に居る時は、移動さえもレフラはギガイの腕の中なのだ。初めて横に並んで見上げたギガイは、精悍な顎のラインしか見る事が出来ない。体格差に隠れてしまった表情が、ギガイを遠く感じさせる。

遠い存在の人だという事は分かっていても、一緒に居る時ぐらいは、出来るだけその距離を感じたくなかった。レフラは躊躇いながら近くにあるギガイの手を眺めた。

向けられた優しさに甘える事もギガイが初めてなら、誰かに優しさを求めた事も記憶には無い。それでもこの主が言っていたのだ。甘えても良いのだと。ダメだと言う事はないのだと。

心臓が早鐘のように鳴って、傍に居るギガイにも聞こえているような気がしてしまう。緊張で震える手で握りしめる事が出来たのは、せいぜい指2本分だけだった。

「ククッ」

頭上から聞こえた小さな笑い声と共に手を握り直される。受け入れて貰えた手が嬉しくて、また潤みそうになった目をレフラはしきりに瞬かせた。

(泣いた事なんて、もうずっと無かったのに……)

幸福感に浸りながらも、どんどんと脆くなっていく自分に不安になってしまう。こんな事では務めを果たして、御饌としての役割を終える日が来た時に独りでしっかりと立って居られるのだろうか。

(その為にもめそめそと腑抜けていないで、生きていく術をちゃんと身につけておかないとダメですよね)

畑や狩りの技術もない。レフラの持つ歌や踊りの技術程度じゃ食べていくには難しい事も分かっている。

(頑張らないと)

そう思いながら見上げたギガイがこちらに目線を向けていた。口角を上げるだけの微笑だったが、目が合って微笑まれた状況に胸の中が温かくなる。

「で、どこに向かいたい?もうあまり長居はできないが、少しぐらいなら散策もできるぞ」

休憩としてギガイがここに来てからそれなりに時間が経っていた。もしかしたら、時間を押して付き合ってくれようとしているのかもしれない。そうじゃなくても、残された時間はもうそんなに無いだろう。レフラは慌てて周りを見回した。
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