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第一部

跳び族での日々 8

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夜中には一層増した痛みにレフラは小さく唸りを上げた。ヘソよりも掌の分だけ下がった位置。その場所の奥がズキズキと鈍い痛みを訴えていた。

(やっぱりどこか悪いのかもしれない……)

今となっては日中に逃げ出すように医癒者の所を去ってしまった事が悔やまれる。ちゃんと身体を見て貰うべきだったのだ。

レフラは恐る恐る寝台から身体を起こした。それだけでも鈍い痛みに蹲りたくなる。でも少しでも動ける内にどうにかするしかない。

痛む場所へ手を添えて立ち上がれば、さらに増した痛みで思わず低い唸りを上げてしまう。でも今は真夜中なのだ。隣の部屋では兄弟達が、今日の疲れを明日へ持ち越さないよう休んでいる。レフラは唇を噛んで声を殺した。

フラフラと壁に手をついて外に出る。柵に手を付き、木に身体を支えながら、どうにか医癒者の小屋まで辿り着いた時には、身体は嫌な汗で冷たく濡れていた。

日中に運び込まれたイシュカの為なのか、小屋にはわずかな光りが灯っていた。

「誰か居るのか?」

運良く扉の開閉に気が付いて貰えたのだろう。ようやく辿り着けた安堵からか、入口でズルズルと座り込んでしまったレフラの耳に奥から誰かがやってくる音が聞こえてくる。

「レフラ、どうした!?」

噛み殺せない自分の唸り声に混ざって、医癒者の声が上から聞こえてきた。

「おい、すまない。来てくれ」

他にも看護手伝いの女性達や、イシュカに付き添っていた者が何名か居たのかもしれない。医癒者の顰め声での呼びかけに、さらに奥から数人の足音が聞こえてきた。

痛みの中で朦朧とするレフラの身体が運ばれる。イシュカの眠る寝台とは逆の方へだった事に、レフラは少しだけ安堵した。

痛む箇所を触診され、唾液の分泌を調べるという葉を含まされる。痛みを堪えながらの数分間は、酷く長く感じられた。

「そろそろ良いな、見せてみろ」

咥えていた葉を取り出した医癒者が、明かりの側で様子を確認する。跳び族にだけ密やかに受け継がれてきたという薬草は、緑一色だった葉がわずかに赤紫がかっていた。紫蘇を思わせるようなその色が、何かの結果を示していると言う事だ。

「あぁ、なるほど。これは性徴による痛みだな。レフラお前の身体の中に、胎が形成されようとしているって事だ。ほらここが赤いだろ。これは子を成す事ができる者の唾液にだけ反応してこう成るからな」

痛む箇所を指しながら説明する医癒者の顔には、ハッキリと安堵の表情が浮かんでいた。

「ただお前の場合は男性体の性徴も備わってしまった状況から、普通の女性体のような形成ができなかったんだろう。ただでさえ胎の形成時は陣痛のような痛みが生じるが、お前の場合は通常と違う状態での形成と成るせいでさらに痛みが強いのかもしれないな」

事態についていけないレフラの耳を医癒者の言葉が滑っていく。ただ胎が出来るのだと、そう言われた事だけはかろうじて理解は出来ていた。
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