83 / 229
第一部
跳び族での日々 8
しおりを挟む
夜中には一層増した痛みにレフラは小さく唸りを上げた。ヘソよりも掌の分だけ下がった位置。その場所の奥がズキズキと鈍い痛みを訴えていた。
(やっぱりどこか悪いのかもしれない……)
今となっては日中に逃げ出すように医癒者の所を去ってしまった事が悔やまれる。ちゃんと身体を見て貰うべきだったのだ。
レフラは恐る恐る寝台から身体を起こした。それだけでも鈍い痛みに蹲りたくなる。でも少しでも動ける内にどうにかするしかない。
痛む場所へ手を添えて立ち上がれば、さらに増した痛みで思わず低い唸りを上げてしまう。でも今は真夜中なのだ。隣の部屋では兄弟達が、今日の疲れを明日へ持ち越さないよう休んでいる。レフラは唇を噛んで声を殺した。
フラフラと壁に手をついて外に出る。柵に手を付き、木に身体を支えながら、どうにか医癒者の小屋まで辿り着いた時には、身体は嫌な汗で冷たく濡れていた。
日中に運び込まれたイシュカの為なのか、小屋にはわずかな光りが灯っていた。
「誰か居るのか?」
運良く扉の開閉に気が付いて貰えたのだろう。ようやく辿り着けた安堵からか、入口でズルズルと座り込んでしまったレフラの耳に奥から誰かがやってくる音が聞こえてくる。
「レフラ、どうした!?」
噛み殺せない自分の唸り声に混ざって、医癒者の声が上から聞こえてきた。
「おい、すまない。来てくれ」
他にも看護手伝いの女性達や、イシュカに付き添っていた者が何名か居たのかもしれない。医癒者の顰め声での呼びかけに、さらに奥から数人の足音が聞こえてきた。
痛みの中で朦朧とするレフラの身体が運ばれる。イシュカの眠る寝台とは逆の方へだった事に、レフラは少しだけ安堵した。
痛む箇所を触診され、唾液の分泌を調べるという葉を含まされる。痛みを堪えながらの数分間は、酷く長く感じられた。
「そろそろ良いな、見せてみろ」
咥えていた葉を取り出した医癒者が、明かりの側で様子を確認する。跳び族にだけ密やかに受け継がれてきたという薬草は、緑一色だった葉がわずかに赤紫がかっていた。紫蘇を思わせるようなその色が、何かの結果を示していると言う事だ。
「あぁ、なるほど。これは性徴による痛みだな。レフラお前の身体の中に、胎が形成されようとしているって事だ。ほらここが赤いだろ。これは子を成す事ができる者の唾液にだけ反応してこう成るからな」
痛む箇所を指しながら説明する医癒者の顔には、ハッキリと安堵の表情が浮かんでいた。
「ただお前の場合は男性体の性徴も備わってしまった状況から、普通の女性体のような形成ができなかったんだろう。ただでさえ胎の形成時は陣痛のような痛みが生じるが、お前の場合は通常と違う状態での形成と成るせいでさらに痛みが強いのかもしれないな」
事態についていけないレフラの耳を医癒者の言葉が滑っていく。ただ胎が出来るのだと、そう言われた事だけはかろうじて理解は出来ていた。
(やっぱりどこか悪いのかもしれない……)
今となっては日中に逃げ出すように医癒者の所を去ってしまった事が悔やまれる。ちゃんと身体を見て貰うべきだったのだ。
レフラは恐る恐る寝台から身体を起こした。それだけでも鈍い痛みに蹲りたくなる。でも少しでも動ける内にどうにかするしかない。
痛む場所へ手を添えて立ち上がれば、さらに増した痛みで思わず低い唸りを上げてしまう。でも今は真夜中なのだ。隣の部屋では兄弟達が、今日の疲れを明日へ持ち越さないよう休んでいる。レフラは唇を噛んで声を殺した。
フラフラと壁に手をついて外に出る。柵に手を付き、木に身体を支えながら、どうにか医癒者の小屋まで辿り着いた時には、身体は嫌な汗で冷たく濡れていた。
日中に運び込まれたイシュカの為なのか、小屋にはわずかな光りが灯っていた。
「誰か居るのか?」
運良く扉の開閉に気が付いて貰えたのだろう。ようやく辿り着けた安堵からか、入口でズルズルと座り込んでしまったレフラの耳に奥から誰かがやってくる音が聞こえてくる。
「レフラ、どうした!?」
噛み殺せない自分の唸り声に混ざって、医癒者の声が上から聞こえてきた。
「おい、すまない。来てくれ」
他にも看護手伝いの女性達や、イシュカに付き添っていた者が何名か居たのかもしれない。医癒者の顰め声での呼びかけに、さらに奥から数人の足音が聞こえてきた。
痛みの中で朦朧とするレフラの身体が運ばれる。イシュカの眠る寝台とは逆の方へだった事に、レフラは少しだけ安堵した。
痛む箇所を触診され、唾液の分泌を調べるという葉を含まされる。痛みを堪えながらの数分間は、酷く長く感じられた。
「そろそろ良いな、見せてみろ」
咥えていた葉を取り出した医癒者が、明かりの側で様子を確認する。跳び族にだけ密やかに受け継がれてきたという薬草は、緑一色だった葉がわずかに赤紫がかっていた。紫蘇を思わせるようなその色が、何かの結果を示していると言う事だ。
「あぁ、なるほど。これは性徴による痛みだな。レフラお前の身体の中に、胎が形成されようとしているって事だ。ほらここが赤いだろ。これは子を成す事ができる者の唾液にだけ反応してこう成るからな」
痛む箇所を指しながら説明する医癒者の顔には、ハッキリと安堵の表情が浮かんでいた。
「ただお前の場合は男性体の性徴も備わってしまった状況から、普通の女性体のような形成ができなかったんだろう。ただでさえ胎の形成時は陣痛のような痛みが生じるが、お前の場合は通常と違う状態での形成と成るせいでさらに痛みが強いのかもしれないな」
事態についていけないレフラの耳を医癒者の言葉が滑っていく。ただ胎が出来るのだと、そう言われた事だけはかろうじて理解は出来ていた。
10
お気に入りに追加
2,454
あなたにおすすめの小説
【完結(続編)ほかに相手がいるのに】
もえこ
恋愛
恋愛小説大賞に参加中、投票いただけると嬉しいです。
遂に、杉崎への気持ちを完全に自覚した葉月。
理性に抗えずに杉崎と再び身体を重ねた葉月は、出張先から帰るまさにその日に、遠距離恋愛中である恋人の拓海が自身の自宅まで来ている事を知り、動揺する…。
拓海は空港まで迎えにくるというが…
男女間の性描写があるため、苦手な方は読むのをお控えください。
こちらは、既に公開・完結済みの「ほかに相手がいるのに」の続編となります。
よろしければそちらを先にご覧ください。
獣医さんのお仕事 in異世界
蒼空チョコ@モノカキ獣医
ファンタジー
とある辺境伯の兄弟ゲンカに巻き込まれ、風見心悟は異世界に召喚されてしまった。目的は”領地を栄えさせてくれ”ということらしい。つまるところ、一般的な異世界召喚モノ――そう思っていた時期が風見にもありました。
「いや、だからただの獣医なんだって」
しかしながら異世界ファンタジーをなめてはいけない。こちらはドラゴン、魔物もいれば異種族だっている。地球との差は言語、魔法、生物、宗教、常識などなど果てしない。
そんな世界でも公務員獣医さんはとりあえず解剖したり、薬を作ったり、農業を改善していこうとします。
普通の勇者とも、医者とも違う獣医としての生き方で彼は異世界でも頑張って生き抜いていきます。
※書籍版よりも序盤の設定がハードになっております。
※書籍版第一巻とは三分の二のストーリーを変更しているため、第一章はダイジェスト禁止となる九月以降も残します。
わかりあえない、わかれたい・12
あかね
恋愛
好きあって付き合ったのに、縁あって巡り逢ったのに。
人格・趣味・思考…分かり合えないならサヨナラするしかない。
振ったり振られたり、恋人と別れて前に進む女性の話。
12・広い世界を知って、夢から覚めた女性の話。
(全13話)
*シリーズ全編、独立した話です。
【完結】結婚式当日、婚約者と姉に裏切られて惨めに捨てられた花嫁ですが
Rohdea
恋愛
結婚式の当日、花婿となる人は式には来ませんでした───
伯爵家の次女のセアラは、結婚式を控えて幸せな気持ちで過ごしていた。
しかし結婚式当日、夫になるはずの婚約者マイルズは式には現れず、
さらに同時にセアラの二歳年上の姉、シビルも行方知れずに。
どうやら、二人は駆け落ちをしたらしい。
そんな婚約者と姉の二人に裏切られ惨めに捨てられたセアラの前に現れたのは、
シビルの婚約者で、冷酷だの薄情だのと聞かされていた侯爵令息ジョエル。
身勝手に消えた姉の代わりとして、
セアラはジョエルと新たに婚約を結ぶことになってしまう。
そして一方、駆け落ちしたというマイルズとシビル。
二人の思惑は───……
物語のようにはいかない
わらびもち
恋愛
転生したら「お前を愛することはない」と夫に向かって言ってしまった『妻』だった。
そう、言われる方ではなく『言う』方。
しかも言ってしまってから一年は経過している。
そして案の定、夫婦関係はもうキンキンに冷え切っていた。
え? これ、どうやって関係を修復したらいいの?
いや、そもそも修復可能なの?
発言直後ならまだしも、一年も経っているのに今更仲直りとか無理じゃない?
せめて失言『前』に転生していればよかったのに!
自分が言われた側なら、初夜でこんな阿呆な事を言う相手と夫婦関係を続けるなど無理だ。諦めて夫に離婚を申し出たのだが、彼は婚姻継続を望んだ。
夫が望むならと婚姻継続を受け入れたレイチェル。これから少しずつでも仲を改善出来たらいいなと希望を持つのだが、現実はそう上手くいかなかった……。
吸血鬼公爵に嫁いだ私は血を吸われることもなく、もふもふ堪能しながら溺愛されまくってます
リオール
恋愛
吸血鬼公爵に嫁ぐこととなったフィーリアラはとても嬉しかった。
金を食い潰すだけの両親に妹。売り飛ばすような形で自分を嫁に出そうとする家族にウンザリ!
おまけに婚約者と妹の裏切りも発覚。こんな連中はこっちから捨ててやる!と家を出たのはいいけれど。
逃げるつもりが逃げれなくて恐る恐る吸血鬼の元へと嫁ぐのだった。
結果、血なんて吸われることもなく、吸血鬼公爵にひたすら愛されて愛されて溺愛されてイチャイチャしちゃって。
いつの間にか実家にざまぁしてました。
そんなイチャラブざまぁコメディ?なお話しです。R15は保険です。
=====
2020/12月某日
第二部を執筆中でしたが、続きが書けそうにないので、一旦非公開にして第一部で完結と致しました。
楽しみにしていただいてた方、申し訳ありません。
また何かの形で公開出来たらいいのですが…完全に未定です。
お読みいただきありがとうございました。
魔力ゼロの出来損ない貴族、四大精霊王に溺愛される
日之影ソラ
ファンタジー
魔法使いの名門マスタローグ家の次男として生をうけたアスク。兄のように優れた才能を期待されたアスクには何もなかった。魔法使いとしての才能はおろか、誰もが持って生まれる魔力すらない。加えて感情も欠落していた彼は、両親から拒絶され別宅で一人暮らす。
そんなある日、アスクは一冊の不思議な本を見つけた。本に誘われた世界で四大精霊王と邂逅し、自らの才能と可能性を知る。そして精霊王の契約者となったアスクは感情も取り戻し、これまで自分を馬鹿にしてきた周囲を見返していく。
HOTランキング&ファンタジーランキング1位達成!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる