泡沫のゆりかご 三部 ～獣王の溺愛～

本編

第14話 積もる言葉、溜まる熱 ２

　ギガイが意図して煽った熱で、レフラの小ぶりの茎は勃っていた。わずかに触れた場所からそれは、ギガイにもしっかり伝わっていた。だが、当の本人は、それをまだ気付かれていないと思っているのか、どうにかギガイの身体に触れないように、腕の中で必死に腰を引こうとしているようだった。

（さて、どこまで我慢できるか？）

　取りあえず、素知らぬフリを続けながら、ギガイはレフラの腰を引き寄せた。

「……っひぁ……」
「どうした？ 大丈夫か？」

　そして、上がった甘い声に、わざと訝しげな目を向けてみる。それだけで、ますます居たたまれなくなったのか、レフラが目を潤ませながら「何でもないです！」と大きく首を振っていた。
　熱くなる身体をずっと腕の中に閉じ込められて、しかもこれだけ密着した状態なのだ。どれだけ上手く振る舞ったとして、遅かれ早かれ、気付かれないはずがない。

（どうにか隠し通せると思っているのか？）

　もし、そうだとしたら、あまりに愚かな判断だった。
　隠し通せる状況でなければ、そもそもレフラがギガイへ隠し事をしようとする事も好ましくない。

　今回の組紐の件に関しては、さすがに目を瞑るとしても、隠し事自体は控えさせたい。いや、本音を言うならば、許し難い事だった。暴くわけにはいかない組紐の件と相まって、意地悪い気持ちがよりいっそう湧き上がる。

（それならば、今日はお前が素直になるまで、待つことにしよう）

　ギガイの求めに応じる形で、欲しがる言葉を言わせた事は何度もあった。だが、レフラ自身から求めさせた事はほとんど無い。それが身体を重ねる行為の始めからとなれば、なおさらだった。

（強引に求め応えさせる事だけが、啼かせる方法ではないからな）

　もとより今日は啼いてもらうつもりだったのだ。当然そんな事を知らないレフラは、まだ今は集まった熱と、羞恥に１人戸惑っているだけだった。この後、さんざん鳴き声を上げるだろう唇に、ギガイがそっと指を当てた。

「呼吸が少し熱を帯びているが、大丈夫か？」
「大丈夫、です」
「そうか、ムリはするな」

　まるで体調を気遣うように声を掛けながら、さっきまでと同じように唇をなぞる。そして、時折その隙間を広げるように、指先へわずかに力を込めた。いつもレフラを気遣う時とは違う、どこか悪戯染みた行為だが、取り繕う事に必死なレフラは、そんな違いに気が付く様子はなかった。

「は、い……ありがとう、ございます……」

　合間に熱い吐息を漏らしながら、引き寄せられて当たってしまっている茎への刺激を、レフラはひたすら耐えている。腰を抱え込まれたせいで、少しの身じろぎでも、ギガイの身体に茎は擦り付けられてしまうのだから。
　疼いたまま、下手に動くことも出来ず、たまらないのか。レフラが当たる熱をどうにかしようとするほど、ギガイの身体で熱が煽られていく様は、まるで自慰でもしているようだった。

「っふ……ぅ……」

　再び熱い吐息が漏れたタイミングで、口先に指先を押し込んでみる。さすがにギガイの意図に気付かれるかと思ったが、熱に浮かされたレフラは、トロリとした表情で舌先を指へ伸ばしてくるだけだった。

　初めは恐る恐る触れるだけだった舌先が、すぐに舐めとるように動き出す。だがその動きは、愛撫というよりは、飴でも舐めているようであどけない。

　夢中なレフラに口元に笑みを浮かべて、指をまたさらに勧めれば、今度は甘噛みしながら吸い付いてくる。

「……っ……ゅ……」

　微かに湿った音だけが、すっかり静かになった部屋のなかで、時折聞こえていた。様変わりした雰囲気に、レフラは相変わらず気が付かない。ギガイは抱えていたレフラの腰から腕を外して、頭をクシャッと撫でてやる。

「どうした？ 今日はだいぶ甘えただな」

　声が思った以上に甘くなっていた。その声と頭を撫でられた感触に、ようやく我に返ったレフラは、バッと跳ね起きた。

「あっ、あの……これは……」

　ギガイの方を見つめる顔は、すっかり真っ赤になっている。固くなった茎を隠すために上着の裾を引っ張りながら、レフラが何かを言い繕うとする。

「疲れているのかもしれないな。どれ、身体を解してやろう」

　だが、ギガイはその言葉を遮って、熱が疼いたままのレフラの身体を抱え上げた。