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どうか婚約を解消して欲しい
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「でね、エミリーがパーティー会場で婚約破棄されちゃったの」
僕の愛しい婚約者は、先日友人と行ったパーティーでの出来事を話している。
「公爵様が『お前との婚約は破棄だ! 私はこの愛らしいマリエルと婚約をする!』って言ったらね、エミリーが怒って、この浮気者ーってワインボトルを投げたの!」
「……すごいね」
「そうなの、エミリーったら上手に投げるのよ、二人に当たらない様に真ん中をワインボトルは飛んでいってね」
……いや、それは偶然じゃないかな⁈
「そうしたら、そこで笑い声がして、それが第二王子様だったの」
「それで?」
僕は隣に座って楽しそうに話すアリスの長く綺麗な髪を一房掬い取ると、そこに口付けを落とした。
「……もう、リアム……ちゃんと聞いていないでしょ?」
アリスが頬を染めて拗ねた顔で僕に言う。
「いや、ちゃんと聞いてるよ、君のかわいい声を聞き逃す訳がないだろう?……でも、もうそろそろ、僕だけに集中して欲しいと思ってる」
僕たちは愛し合っていた。
よくある婚約破棄など、無縁だと思っていた。
だから、まさか自分からその言葉を口にする日が来るなどとは、考えてもみなかった。
*
僕は第三王子の側近として常に王子の側にいた。
この間、アリスが話していた公爵令息とも付き合いがあったし、彼の浮気も知っていた。
あのパーティーも裏から見ていた。仕事はもちろん、アリスを見守る為でもあったけれど……。
僕がよく見る婚約破棄では、女性たちは泣く事もあまりなく気丈に帰って行く。
……離れてから涙を浮かべる姿は何度となく見たが、相手の前では殆ど泣くことはなかった。貴族として育てられ、人前で感情を露わにすることを禁じられているからだろう。
そしてその後、割とすぐに新たな相手と結婚をする。そんな女性達を幾度となく見てきた。
だから……アリスもきっと大丈夫だろうと思う。
彼女に気がある男達がいる事も知っている。
僕がいなくなったら直ぐにでも近づいてくるだろう。
そう、自分に言い聞かせているが……本心は……。
僕以外の男が君に触れる……僕が君を幸せにしてやる事が出来ない……それを思うといたたまらない。
*
先日、僕は王子を庇い 体に毒を受けた。
右の顔から首、腕に受けてしまった毒のせいで何日も熱に侵され、やっと起き上がれた時には、僕の右目と右耳は機能しなくなっていた。
そして、毒の付いた部分の皮膚は赤黒く変色してしまった。
王子に毒を浴びせようとした者はその場で断罪された。処刑されたのは他国からの移民だった。この国での暮らしがままならず、王族なら誰でもいいとの浅はかな犯行だった。その者の家族はその者が単独で行った事だと、自分達は知らない事だと命乞いをしたが、王子は許さなかった。
自分の為に犠牲になった臣下の事を思って罪人の親族もすべて処刑した。
普段から王族は何かと狙われていた。それから守ることも側近としての務めだ。
そう考えていた。それは間違いではないだろう。
僕の……毒に侵された体は元に戻る事はない。
国からは一生遊んで暮らすほどの財を貰った。名誉ある勲章も、王子が所有していた海沿いの豊かな領地も渡された。
しかし、この姿では貴族の社会で生きていくことは難しい。表に立つことは出来ない。
また、僕の両親もそれを望まなかった。
家督は弟が継ぎ、僕は王都から離れ、貰い受けた海沿いの領地に移り住む事にした。
僕には、王都を離れるその前に、やらなければならない事がある。
何度も手紙で伝えたが、受け入れて貰えなかった。
僕は、彼女との婚約を解消する。
彼女は、今の僕の姿をまだ見ていない。
見せていない……。
だから……。
まだ、愛していると……言ってくれるのだ。
けれど、実際会って僕を見たら
その言葉を口にしてくれるだろうか……。
もう、片方でしか聴くことの出来なくなった僕の耳に、愛らしい君の声で『愛してる』と言ってくれるだろうか……。
ーー僕は胸の奥でその言葉を聴きたいと願いながら……。
君に婚約を解消したいと申し出る。
二人で よく出掛けた公園で
子供の頃からの思い出があるあの場所で
アリス、君と会えるのはこれが最後だ。
……最後なんだ。
*
「……来てくれたんだ……元気にしていたかい?」
かわいいアリスは少しやつれた様だった。
僕の変わってしまった姿を見て驚いているようだ。
「……おかしいだろう」
僕は顔を仮面で隠していた。変色した皮膚を見せないようにマフラーと手袋もしている。
まるで、怪人のようだ。
アリスは小さく首を横に振った。
「リアム……私」
「僕は君との婚約を解消したい」
「……どうして?」
「……僕は」
「リアムは私を嫌いなの?」
(……嫌いなんて……)
「……僕はもう君を幸せに出来ない」
「私はあなたと居ればそれだけで幸せだわ」
(……僕だって……)
「君は……分かっていない」
「分かるわ、分かるものっ!」
「僕の今の姿を見ても?」
彼女を怖がらせたくなくて
彼女から嫌われたくなくて
僕は仮面をつけ、マフラーをし、手袋をはめていた。
最後まで……君の中の記憶は、以前の僕のままで、君が愛してくれた僕の姿のままで別れたかった。
手袋を外し、マフラーをとる。
一つ一つ取っていく度に、彼女の顔色が悪くなる。
仮面を外すと、アリスは両手で口を押さえていた。悲鳴を上げそうになったのだろう。
僕の見えなくなった右の瞳は白く濁り、顔の半分はまるで死人のようだと、自分でも思うんだ。
「婚約を解消……しよう……してほしい」
これ以上、君に嫌われたくないと僕はなるべく顔を見せないように俯いて言った。
「…… んっ……」
(…… ん?)
「う……うっ……」
(……何だか返事がおかしいな……)
そう思って顔を上げてアリスを見ると
彼女は
「うわーんっ! いやっいやっいやだーっ!」
号泣していた。
顔を真っ赤にして、大きな目からはボロボロと涙を流しながら僕を見つめている。
「いやだっなんでっ……うっ……なんっ……うっ」
(……こんな姿を見ても?)
「……気持ち悪いだろう?」
アリスは首を横に振る。
「でも……僕は王都を離れるから」
「いかないでぇっ……」
(……えっと……)
「そうじゃなくて……僕と一緒では社交界にも出られないよ?」
「私……ダンス……好きじゃないもの」
「……僕は……君の踊る姿が好きだよ」
「……うわーんっ……そんなことっ……リアム」
(泣かないで、泣かないでほしい。こんな僕の為に泣いたりしないで……)
ーー今、僕は後悔している。
何故 あの時、王子を庇ったんだろう
どうしてこんな姿になってしまったんだろう
なぜ……。
しかし、それはもう過ぎてしまった事だ
考えても時が戻る事は無い。
「アリス……君には幸せになって欲しい」
(頼むから……もう、そんなに泣かないで)
「僕のことは忘れてほしい」
(ほら、そんなに目を擦ると腫れてしまうよ……。
ごめんね、僕はハンカチを持って来ていなかった。君が泣くとは思わなかったんだ)
「君のご両親には伝えてあるから」
(泣いてくれるとは思っていなかった……。
アリス、君と一緒に過ごした日々は……ずっと忘れないよ……)
僕は君に不愉快な思いをさせたくない。
このまま僕と居れば、僕の事で辛い思いをする筈だ。貴族の社会は能力だけではない、容姿も重要だから。それに僕は違う場所に行く、今までとは暮らしも変わる。不自由な思いをするかも知れないそこに、君を連れてはいけない。
だから、僕は君との別れを決めたんだ。
「もう、帰ってくれないか」
「……え?」
急に冷たく言った僕を涙に濡れた顔でアリスは見上げる。
「どうして……」
(そんな顔をさせて……ごめん)
「もう、帰ってくれ……話は終わった」
(……せめて見送らせてほしい……)
「いや、まだ私は婚約解消なんて認めてないわ」
アリスは潤んだ瞳で震えながら僕を見つめる
(……ああ、 これ以上は……無理だ)
「君のご両親は了承してくれている」
(……僕は……)
精一杯の笑顔を浮かべて君に別れを告げた。
「さよなら、アリス」
すぐに彼女に背を向けた。
もう限界だった。
これ以上、彼女を見ていられない
僕の左目からは涙が溢れていた。
仮面をつけて手袋とマフラーをはめる。
しばらくそのままでいると、後ろから遠ざかる足音が聞こえた。
「…… みっともないところを見せずに済んだな」
僕は今から王都を発ち、海沿いの領地へと向かう。
そこは気候も良く、海産物は体にもいいらしい。
領地をくれた王子は何度も僕に頭を下げてくれた。王族が臣下に頭を下げるなどあってはならないのに、それに彼だけが悪い訳では無いのだ。まだ、これから先も王子はいろいろな危機に出会うだろう。僕はその一つを守れたに過ぎない。
そんなことを考えながら、公園の端に待たせていた馬車に乗り込んだ。
父も母も姉も弟も僕の為を思ってたくさんの荷物を持たせてくれている。
「……この箱、大き過ぎるな」
人が入れそうなほどの大きさの箱が片側の座席を埋めている。
何が入っているのだろう……?
母が「あなたが一人で寂しくならないように入れておくからね」と言っていたが、何なのか?
気になるが、向こうに着くまでは決して開けるなと言われていた。
僕の愛しい婚約者は、先日友人と行ったパーティーでの出来事を話している。
「公爵様が『お前との婚約は破棄だ! 私はこの愛らしいマリエルと婚約をする!』って言ったらね、エミリーが怒って、この浮気者ーってワインボトルを投げたの!」
「……すごいね」
「そうなの、エミリーったら上手に投げるのよ、二人に当たらない様に真ん中をワインボトルは飛んでいってね」
……いや、それは偶然じゃないかな⁈
「そうしたら、そこで笑い声がして、それが第二王子様だったの」
「それで?」
僕は隣に座って楽しそうに話すアリスの長く綺麗な髪を一房掬い取ると、そこに口付けを落とした。
「……もう、リアム……ちゃんと聞いていないでしょ?」
アリスが頬を染めて拗ねた顔で僕に言う。
「いや、ちゃんと聞いてるよ、君のかわいい声を聞き逃す訳がないだろう?……でも、もうそろそろ、僕だけに集中して欲しいと思ってる」
僕たちは愛し合っていた。
よくある婚約破棄など、無縁だと思っていた。
だから、まさか自分からその言葉を口にする日が来るなどとは、考えてもみなかった。
*
僕は第三王子の側近として常に王子の側にいた。
この間、アリスが話していた公爵令息とも付き合いがあったし、彼の浮気も知っていた。
あのパーティーも裏から見ていた。仕事はもちろん、アリスを見守る為でもあったけれど……。
僕がよく見る婚約破棄では、女性たちは泣く事もあまりなく気丈に帰って行く。
……離れてから涙を浮かべる姿は何度となく見たが、相手の前では殆ど泣くことはなかった。貴族として育てられ、人前で感情を露わにすることを禁じられているからだろう。
そしてその後、割とすぐに新たな相手と結婚をする。そんな女性達を幾度となく見てきた。
だから……アリスもきっと大丈夫だろうと思う。
彼女に気がある男達がいる事も知っている。
僕がいなくなったら直ぐにでも近づいてくるだろう。
そう、自分に言い聞かせているが……本心は……。
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先日、僕は王子を庇い 体に毒を受けた。
右の顔から首、腕に受けてしまった毒のせいで何日も熱に侵され、やっと起き上がれた時には、僕の右目と右耳は機能しなくなっていた。
そして、毒の付いた部分の皮膚は赤黒く変色してしまった。
王子に毒を浴びせようとした者はその場で断罪された。処刑されたのは他国からの移民だった。この国での暮らしがままならず、王族なら誰でもいいとの浅はかな犯行だった。その者の家族はその者が単独で行った事だと、自分達は知らない事だと命乞いをしたが、王子は許さなかった。
自分の為に犠牲になった臣下の事を思って罪人の親族もすべて処刑した。
普段から王族は何かと狙われていた。それから守ることも側近としての務めだ。
そう考えていた。それは間違いではないだろう。
僕の……毒に侵された体は元に戻る事はない。
国からは一生遊んで暮らすほどの財を貰った。名誉ある勲章も、王子が所有していた海沿いの豊かな領地も渡された。
しかし、この姿では貴族の社会で生きていくことは難しい。表に立つことは出来ない。
また、僕の両親もそれを望まなかった。
家督は弟が継ぎ、僕は王都から離れ、貰い受けた海沿いの領地に移り住む事にした。
僕には、王都を離れるその前に、やらなければならない事がある。
何度も手紙で伝えたが、受け入れて貰えなかった。
僕は、彼女との婚約を解消する。
彼女は、今の僕の姿をまだ見ていない。
見せていない……。
だから……。
まだ、愛していると……言ってくれるのだ。
けれど、実際会って僕を見たら
その言葉を口にしてくれるだろうか……。
もう、片方でしか聴くことの出来なくなった僕の耳に、愛らしい君の声で『愛してる』と言ってくれるだろうか……。
ーー僕は胸の奥でその言葉を聴きたいと願いながら……。
君に婚約を解消したいと申し出る。
二人で よく出掛けた公園で
子供の頃からの思い出があるあの場所で
アリス、君と会えるのはこれが最後だ。
……最後なんだ。
*
「……来てくれたんだ……元気にしていたかい?」
かわいいアリスは少しやつれた様だった。
僕の変わってしまった姿を見て驚いているようだ。
「……おかしいだろう」
僕は顔を仮面で隠していた。変色した皮膚を見せないようにマフラーと手袋もしている。
まるで、怪人のようだ。
アリスは小さく首を横に振った。
「リアム……私」
「僕は君との婚約を解消したい」
「……どうして?」
「……僕は」
「リアムは私を嫌いなの?」
(……嫌いなんて……)
「……僕はもう君を幸せに出来ない」
「私はあなたと居ればそれだけで幸せだわ」
(……僕だって……)
「君は……分かっていない」
「分かるわ、分かるものっ!」
「僕の今の姿を見ても?」
彼女を怖がらせたくなくて
彼女から嫌われたくなくて
僕は仮面をつけ、マフラーをし、手袋をはめていた。
最後まで……君の中の記憶は、以前の僕のままで、君が愛してくれた僕の姿のままで別れたかった。
手袋を外し、マフラーをとる。
一つ一つ取っていく度に、彼女の顔色が悪くなる。
仮面を外すと、アリスは両手で口を押さえていた。悲鳴を上げそうになったのだろう。
僕の見えなくなった右の瞳は白く濁り、顔の半分はまるで死人のようだと、自分でも思うんだ。
「婚約を解消……しよう……してほしい」
これ以上、君に嫌われたくないと僕はなるべく顔を見せないように俯いて言った。
「…… んっ……」
(…… ん?)
「う……うっ……」
(……何だか返事がおかしいな……)
そう思って顔を上げてアリスを見ると
彼女は
「うわーんっ! いやっいやっいやだーっ!」
号泣していた。
顔を真っ赤にして、大きな目からはボロボロと涙を流しながら僕を見つめている。
「いやだっなんでっ……うっ……なんっ……うっ」
(……こんな姿を見ても?)
「……気持ち悪いだろう?」
アリスは首を横に振る。
「でも……僕は王都を離れるから」
「いかないでぇっ……」
(……えっと……)
「そうじゃなくて……僕と一緒では社交界にも出られないよ?」
「私……ダンス……好きじゃないもの」
「……僕は……君の踊る姿が好きだよ」
「……うわーんっ……そんなことっ……リアム」
(泣かないで、泣かないでほしい。こんな僕の為に泣いたりしないで……)
ーー今、僕は後悔している。
何故 あの時、王子を庇ったんだろう
どうしてこんな姿になってしまったんだろう
なぜ……。
しかし、それはもう過ぎてしまった事だ
考えても時が戻る事は無い。
「アリス……君には幸せになって欲しい」
(頼むから……もう、そんなに泣かないで)
「僕のことは忘れてほしい」
(ほら、そんなに目を擦ると腫れてしまうよ……。
ごめんね、僕はハンカチを持って来ていなかった。君が泣くとは思わなかったんだ)
「君のご両親には伝えてあるから」
(泣いてくれるとは思っていなかった……。
アリス、君と一緒に過ごした日々は……ずっと忘れないよ……)
僕は君に不愉快な思いをさせたくない。
このまま僕と居れば、僕の事で辛い思いをする筈だ。貴族の社会は能力だけではない、容姿も重要だから。それに僕は違う場所に行く、今までとは暮らしも変わる。不自由な思いをするかも知れないそこに、君を連れてはいけない。
だから、僕は君との別れを決めたんだ。
「もう、帰ってくれないか」
「……え?」
急に冷たく言った僕を涙に濡れた顔でアリスは見上げる。
「どうして……」
(そんな顔をさせて……ごめん)
「もう、帰ってくれ……話は終わった」
(……せめて見送らせてほしい……)
「いや、まだ私は婚約解消なんて認めてないわ」
アリスは潤んだ瞳で震えながら僕を見つめる
(……ああ、 これ以上は……無理だ)
「君のご両親は了承してくれている」
(……僕は……)
精一杯の笑顔を浮かべて君に別れを告げた。
「さよなら、アリス」
すぐに彼女に背を向けた。
もう限界だった。
これ以上、彼女を見ていられない
僕の左目からは涙が溢れていた。
仮面をつけて手袋とマフラーをはめる。
しばらくそのままでいると、後ろから遠ざかる足音が聞こえた。
「…… みっともないところを見せずに済んだな」
僕は今から王都を発ち、海沿いの領地へと向かう。
そこは気候も良く、海産物は体にもいいらしい。
領地をくれた王子は何度も僕に頭を下げてくれた。王族が臣下に頭を下げるなどあってはならないのに、それに彼だけが悪い訳では無いのだ。まだ、これから先も王子はいろいろな危機に出会うだろう。僕はその一つを守れたに過ぎない。
そんなことを考えながら、公園の端に待たせていた馬車に乗り込んだ。
父も母も姉も弟も僕の為を思ってたくさんの荷物を持たせてくれている。
「……この箱、大き過ぎるな」
人が入れそうなほどの大きさの箱が片側の座席を埋めている。
何が入っているのだろう……?
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