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何故か私は、また攫われてしまった。
突然、部屋に華美な服を着た太った男が入ってきた。
その男は部屋に入るなり大声で怒鳴りだした。
「ディック、出てこい! お前がいる事は分かっているんだぞ!」
男が言うと、何処からか全身黒い衣装を着たスラリとした男が現れた。
「ザイオン様分かってますか? 俺、今リシウス陛下の影なんですよ? 王様に雇われてるんですけど」
「ふん、お前は何処へ行っても公爵家のモノなんだよ。ほら、コイツをサッサと連れて行くぞ」
男は、私に手を伸ばそうとする。
「ちょっと、あなた誰なのよ!」
私は男をキッと睨みながら、できる限り後退りをした。
無理矢理連れて行こうとしている『ザイオン』という男は、私を舐めるように見ると、いやらしく目を細めた。
「へぇ、なかなかいい女だな」
「ザイオン様、悪い事は言いません。この女はやめといた方がいいです」
「いいんだよ」
「知りませんよ? あの王様、この女に触れるだけでもヤバいんですから」
そう言いながら、ディックは私の口に布を噛ませ声が出ない様にした。
「んーんー」
ザイオンは抵抗しようと声を出す私の様子を見てニヤついている。
「ヤツは今朝議に出ている。暫く来ないから大丈夫だ。それにしても、他に警護も付けずお前だけに任せているとはな、ホラ」
ザイオンは笑みを浮かべながら、ディックに何かを放り投げた。
「コレ、どうやって手に入れたんです?」
受け取ったディックが、目の前に掲げて見ていた物は鍵だ。
フッと思い出したようにザイオンは笑った。
「この足枷を作ったのは公爵家に縁のある所だったんだよ。俺が鍵を寄越せと言ったらすぐに渡してきた。リシウスもまだ青いってことさ」
ディックは私の両手をきつく縛ると、嵌められていた足枷の鍵を外した。
せっかく足が自由になったのに今度は両手が縛られるとは。
「よし、いくぞ!」
ザイオンは、その体からは想像出来ない程素早く動き、ディックと共に私を部屋から連れ出した。
◇◇
そうやって連れて来られたこの場所は、ザイオンの住む屋敷。
ザイオンは俺の家と言っていたから、公爵家の中だろう。
私は、やたらと豪華な部屋に連れ込まれた。そこにあった本棚の奥に隠し扉があり、その先の暗く狭い部屋に閉じ込められた。
部屋に入るとザイオンは口枷を外した。
「いいか? 騒げばその顔に傷を入れるからな」
ザイオンに脅された私は、コクコクと頷く。
痛いのは嫌だ……。
口枷は外してもらえたが、その代わりに自由になっていた足首に、長めの鎖を繋がれた。鎖の先は部屋の壁にある手摺りに繋がれている。
貴族という人達は、拐ったり縛ったりするのが好きらしい。
……ジェームスも貴族になっちゃったからこんな事するのかしら。
そんな事を考えながら、誰もいなくなった部屋の中で、私は手に結ばれている縄を解こうと頑張っていた。
逃げられるなら逃げたい。
ザイオンは、見た目もだけど何だか怖い。
気持ち悪い。
縄を鎖に擦り付ければ切れないだろうか。
そう思い、実行してみた。
(ああ、喉が渇いた……)
ここへ来てからどれぐらいの時間が過ぎただろう。
私は、朝から何も飲んでいない。
昨夜食べた時間が遅かったからか、お腹は空いていないけれど、喉は渇いていた。
朝、部屋を訪れた侍女は、私が起きているのを見てすぐに「お食事をお持ち致しますね。少々お待ちください」と出て行った。
その直後にザイオンがやって来た。
今頃、侍女さん達は部屋からいなくなってしまった私を探しているかも知れない。
ザイオンに攫われるまでは逃げ出そうと考えていたのに、彼女達の心配をするなんて……。
でも、私の為に彼女達が叱られたりするのは嫌なのだ。
何としてもここから逃げ出さなければ。
鎖に縄を当てて擦っていると、壁の向こうから話し声が聞こえてきた。
その声は、ザイオンと聞いたことのない女の人の声。
「ザイオン、本当にリシウス陛下はいらっしゃるの? その捕まえて来たみすぼらしい女の為に?」
「来るさ。アイツ足枷までして捕まえていたんだぜ、よっぽどだろ? 返して欲しければイザベル姉さんと結婚しろって言ってやる」
「そんな条件をリシウス陛下が呑むかしら?」
「呑ませればいいだろ? まだ王になって数日だ、あんな若い王に従えている奴らも少ないだろうからな。それに妃を公爵家から娶れるんだ。アイツにとってうまい話でしかないだろう」
「そうね、私なら不相応では無いものね」
そう言って、高らかに笑う二人。
「ところで、父上はどうしてる?」
「お父様は明日までは帰らないはずよ」
「……だったら大丈夫だな。それまでにはアイツが来るはずだから」
二人は姉弟のようだ。
彼らは私を使ってリシウス陛下を呼び出したかっただけなの?
その為に、私は囚われ鎖で繋がれているの?
擦り付けるが、縄は全く切れる様子はない。ただ時間だけが過ぎていった。
(体が……辛い……)
ずっと同じ格好をしているからなのか、体が痛くなってきた。
ああ、こんな事ならリシウス陛下に捕まっていた方がまだよかった。
あの人ちょっと変だけど、私に触れる手は優しかったもの。
ザイオンが言っている様に、私を助けに来てくれるの?
一国の王様が?
こんな何の得にもならない平民を助けるの?
……何のために?
突然、部屋に華美な服を着た太った男が入ってきた。
その男は部屋に入るなり大声で怒鳴りだした。
「ディック、出てこい! お前がいる事は分かっているんだぞ!」
男が言うと、何処からか全身黒い衣装を着たスラリとした男が現れた。
「ザイオン様分かってますか? 俺、今リシウス陛下の影なんですよ? 王様に雇われてるんですけど」
「ふん、お前は何処へ行っても公爵家のモノなんだよ。ほら、コイツをサッサと連れて行くぞ」
男は、私に手を伸ばそうとする。
「ちょっと、あなた誰なのよ!」
私は男をキッと睨みながら、できる限り後退りをした。
無理矢理連れて行こうとしている『ザイオン』という男は、私を舐めるように見ると、いやらしく目を細めた。
「へぇ、なかなかいい女だな」
「ザイオン様、悪い事は言いません。この女はやめといた方がいいです」
「いいんだよ」
「知りませんよ? あの王様、この女に触れるだけでもヤバいんですから」
そう言いながら、ディックは私の口に布を噛ませ声が出ない様にした。
「んーんー」
ザイオンは抵抗しようと声を出す私の様子を見てニヤついている。
「ヤツは今朝議に出ている。暫く来ないから大丈夫だ。それにしても、他に警護も付けずお前だけに任せているとはな、ホラ」
ザイオンは笑みを浮かべながら、ディックに何かを放り投げた。
「コレ、どうやって手に入れたんです?」
受け取ったディックが、目の前に掲げて見ていた物は鍵だ。
フッと思い出したようにザイオンは笑った。
「この足枷を作ったのは公爵家に縁のある所だったんだよ。俺が鍵を寄越せと言ったらすぐに渡してきた。リシウスもまだ青いってことさ」
ディックは私の両手をきつく縛ると、嵌められていた足枷の鍵を外した。
せっかく足が自由になったのに今度は両手が縛られるとは。
「よし、いくぞ!」
ザイオンは、その体からは想像出来ない程素早く動き、ディックと共に私を部屋から連れ出した。
◇◇
そうやって連れて来られたこの場所は、ザイオンの住む屋敷。
ザイオンは俺の家と言っていたから、公爵家の中だろう。
私は、やたらと豪華な部屋に連れ込まれた。そこにあった本棚の奥に隠し扉があり、その先の暗く狭い部屋に閉じ込められた。
部屋に入るとザイオンは口枷を外した。
「いいか? 騒げばその顔に傷を入れるからな」
ザイオンに脅された私は、コクコクと頷く。
痛いのは嫌だ……。
口枷は外してもらえたが、その代わりに自由になっていた足首に、長めの鎖を繋がれた。鎖の先は部屋の壁にある手摺りに繋がれている。
貴族という人達は、拐ったり縛ったりするのが好きらしい。
……ジェームスも貴族になっちゃったからこんな事するのかしら。
そんな事を考えながら、誰もいなくなった部屋の中で、私は手に結ばれている縄を解こうと頑張っていた。
逃げられるなら逃げたい。
ザイオンは、見た目もだけど何だか怖い。
気持ち悪い。
縄を鎖に擦り付ければ切れないだろうか。
そう思い、実行してみた。
(ああ、喉が渇いた……)
ここへ来てからどれぐらいの時間が過ぎただろう。
私は、朝から何も飲んでいない。
昨夜食べた時間が遅かったからか、お腹は空いていないけれど、喉は渇いていた。
朝、部屋を訪れた侍女は、私が起きているのを見てすぐに「お食事をお持ち致しますね。少々お待ちください」と出て行った。
その直後にザイオンがやって来た。
今頃、侍女さん達は部屋からいなくなってしまった私を探しているかも知れない。
ザイオンに攫われるまでは逃げ出そうと考えていたのに、彼女達の心配をするなんて……。
でも、私の為に彼女達が叱られたりするのは嫌なのだ。
何としてもここから逃げ出さなければ。
鎖に縄を当てて擦っていると、壁の向こうから話し声が聞こえてきた。
その声は、ザイオンと聞いたことのない女の人の声。
「ザイオン、本当にリシウス陛下はいらっしゃるの? その捕まえて来たみすぼらしい女の為に?」
「来るさ。アイツ足枷までして捕まえていたんだぜ、よっぽどだろ? 返して欲しければイザベル姉さんと結婚しろって言ってやる」
「そんな条件をリシウス陛下が呑むかしら?」
「呑ませればいいだろ? まだ王になって数日だ、あんな若い王に従えている奴らも少ないだろうからな。それに妃を公爵家から娶れるんだ。アイツにとってうまい話でしかないだろう」
「そうね、私なら不相応では無いものね」
そう言って、高らかに笑う二人。
「ところで、父上はどうしてる?」
「お父様は明日までは帰らないはずよ」
「……だったら大丈夫だな。それまでにはアイツが来るはずだから」
二人は姉弟のようだ。
彼らは私を使ってリシウス陛下を呼び出したかっただけなの?
その為に、私は囚われ鎖で繋がれているの?
擦り付けるが、縄は全く切れる様子はない。ただ時間だけが過ぎていった。
(体が……辛い……)
ずっと同じ格好をしているからなのか、体が痛くなってきた。
ああ、こんな事ならリシウス陛下に捕まっていた方がまだよかった。
あの人ちょっと変だけど、私に触れる手は優しかったもの。
ザイオンが言っている様に、私を助けに来てくれるの?
一国の王様が?
こんな何の得にもならない平民を助けるの?
……何のために?
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