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46 白い男

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 あの光を受けた私の体に、異変が起きてしまった。
 どんなに頑張っても体は言う事を聞かない。
 それに……。


「皆、王妃様に従って」

 口からは言いたくもない言葉が勝手に出ていく。

 いつもより低い声で話す私に「リラ」とメリーナが名前を呼んだ。

 私は笑いたくもないのに笑顔になる。

「私、分かったの」
「何を? 何が分かったの?」

 メリーナは不思議そうに聞いてくる。

「獣人はやっぱり危険だって事」

(………⁈    …………違うっ)


「どうしたの? リラ」

 メリーナが『私』に目を合わせ、何かを探る様に見る。


 伝えたい。
 思いもしない言葉が勝手に口から出て行くと、それに体の自由も効かないのだと。

 分かっているのに、どうにもできない。



「だって、悪いのは私達よ? 夜中に城に入りこんで、リフテス人には使えない魔法を使って兵達を縛り付けるなんて、卑怯者のする事だわ」

『私』は、ジョゼフィーヌ王妃の方へ顔を向け微笑む。

「そうですよね? お美しいジョゼフィーヌ王妃様」

 王妃は満足気にほくそ笑み、大きく頷いた。

「母親が平民とはいえ、さすがはリフテス王女だ。よく分かっているではないか『エリザベート』」


 すると『私』の口は、また勝手に話をする。

「野蛮な獣人達め、お前達の住むマフガルド王国も要らぬ国だ」

「ふふふ……エリザベート、それは少し言い過ぎというものだ。そこには、マフガルド王国の王子もいるのだぞ?」

『私』の話す言葉に、王妃は笑みを浮かべる。

「王子様? あれがか? 獣と同じ耳に尾まで持つ者が?」

 吐き捨てる様に話す『私』。


 ラビー姉様が悲しそうな顔で、暴言を吐く私を見ている。

(…………違うの……違うのに……)


「ちょっと待て、リラ」
 シリル様が声をかけ、私に手を伸ばす。

「おぞましい獣の分際で、私に触るな!」

 睨みつける『私』に、シリル様も悲しそうな顔になり、差し出そうとしていた手を下ろした。

「リラ……」
 シュンと折れた獣耳と下がった尻尾。

(違う、違うの……触るななんて本当は思ってない。シリル様……)


 心が千切れそう。
 シリル様に、皆にあんな顔をさせてしまっている。
 それなのに『私』からはまた思ってもいない言葉が出て行く。

「私はエリザベートだ。そんな名ではない」

(……もう、自分が嫌……)

『私』は皆を見回す。

 シリル様は私を見つめ、ラビー姉様とメイナード様は『私』から目を逸らした。
 ルシファ様はラビー姉様を心配そうに見ている。


 それらを確認した『私』の視線は部屋の扉のすぐ側に立つ男に向いた。

(……いつからあの男は居たの?)

 白い法衣のような衣装を着た背の高い男は、薄ら笑いを浮かべ此方を見ている。

 その男は、髪も肌も目の色までも白かった。けれど、その白さは第五王子デュオ様の様な美しい純白ではなく、色の抜け落ちた様な、艶のない死んだ様な白だ。

 きっとあの男が『クラッシュ』の『神』と呼ばれる人物だ、私はそう思った。

 そして……私はいつのまにか、あの男に言動を操られているのだと気が付いた。

「リラ、何かされたのね」

 探る様に見ていたメリーナは、私が操られている事に気づいたようで、解除を試みようとしたのだろう、体に触れる為に手を伸ばした。

 手が『私』に触れるその瞬間、バチッ! と音を立てメリーナへ光が走る。

「痛っ……これはシリルの防御魔法……でも組み直されている」

 メリーナはシリル様を見る。

「シリルあなた、リラに防御魔法をかけていたでしょう?」
「はい」
「それを上手く利用されたわ……そこにいる男に」

 シリル様がメリーナの指差す方を見ると、ラビー姉様、メイナード様、ルシファ様が空中に浮き上げられた。

「うわぁっ!」
「…………!」

 三人を浮き上がらせているのは、扉の前に立つ白い男だった。
 男は、怯えるラビー姉様の様子を見てククッと笑みを浮かべると目を移し、今度はシリル様を見て目を細めた。

「……これは珍しい、漆黒の毛を持つ者だ」

「お前『クラッシュ』の『神』と呼ばれる男か?」

 シリル様が白い男を睨み話した。

「そうだな、彼らは私をそう呼んでいる」

 白い男はそう言うと手をゆっくり動かし、空中に浮かべた三人を上下に動かし出した。

「ヤダっ! 気持ち悪いっ!」
 ラビー姉様は手で顔を覆っている。

 その様子を、ジョゼフィーヌ王妃は愉しげにみる。
 ふふと笑いながら、ラビー姉様、ルシファ様、それからメイナード様に目を留めると、ニヤリと笑い指を差した。

「神王様、そこの金色のウサギは私がもらいます」

 目を細めメイナード様を見る王妃。

 王妃に目を付けられたメイナード様は、両腕を抱きプルプルと震えている。

『神王様』と呼ばれたその男は「好きにしろ」と表情なく言うと、三人の動きを止め下ろした。

 気に入った物が手に入ると分かった王妃は、途端に上機嫌になり、次にリラに判断を仰ぐ。

「後の二人はどうする? エリザベート」

(……どうする? どうするって何?)

「要らないわ、始末して」

 恐ろしい言葉が口から出て行く。

(どうして……)

 王妃は満足気に微笑みを浮かべた。

「そうだな、エリザベートがそう言うのならば仕方がない。始末してやろう」


「リラにそんな言葉を言わせないで! それに、私の甥をあなたにあげるわけにはいかないわ」

 メリーナは指をクイッと動かして、ルシファ様をパッと転移させ、すぐにメイナード様を転移させた。

「ラビー、私達は大丈夫。必ず戻るから、帰り支度をしておきなさい」

 そう言って、ラビー姉様も転移させる。

「この女……よくも私のウサギを! そういえば、どうしてお前は拘束されない? そこの黒い獣も、神王様、何故ですか?」

 王妃に尋ねられた白い男は、メリーナをチラリと見ると目を弓のようにした。

「……その女は獣人だ。その上なぜか私の魔法が効かない」

 その言葉に、王妃は訝しむ。

「えっ? 獣人? どう見ても平凡な中年女だ」

 さっきからメリーナが魔法を使っている事を、どうやら分かっていない王妃は首を傾げている。

「平凡な女で悪かったわね、年増の淫婦のくせに」
「ーーーー何だと‼︎」

 王妃とメリーナが組み合って争いを始めてしまった。
 白い男は楽しげに、二人の様子を見ている。


 その隙に、シリル様が私の側へ近づいて来た。
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