43 / 58
43 本来の力
しおりを挟む
メリーナの言葉にシリル様が首を傾げた。
「俺がいるって、どう言う事ですか?」
「シリル、あなたの魔力はそんなものではないの。あの日、私が掛けた封印の魔法を今から解くわ、そうすれば……」
「メリーナ様、俺は既にかなり強い魔力を持っています。強すぎて上手く使えない魔法も多い……それなのに、これ以上……」
シリル様は驚いた顔でメリーナを見る。
「そうね、魔力は確かに強いわ。けれど、あなたの魔力はそれだけじゃないの。それに、あの時の封印の魔法で悪くなってしまった魔力の流れを戻さなければ、それが原因で微妙な調整が出来なくなっている。そもそも、魔力が強いのに生活魔法が使えないなんて事はあり得ないのよ」
「なぜ、俺が生活魔法を使えないと分かるのですか?」
メリーナはやっぱりね、と頷き「私、そういう事が分かるの」とだけ話した。
次にメリーナは、ラビー姉様達をじっくりと見る。
「あなた達もあの時、魔力が封印されちゃっているわね」
「……封印? 私たちも?」
「そう、確かあの時二人は城の中にいたわ。そのせいね。それに、ルシファも母親である王妃様が城にいた。だから封印されている可能性は高い。私の考えが正しければ、解けば皆、本来の姿に戻るわ」
「本来の姿?」
ラビー姉様達の疑問の声を聞き流し、メリーナは両手の指をバラバラと動かしながら、呪文を唱え出した。
それはとても不思議な声だった。
幾つもの鈴の音が重なるような、心地よく耳に響き渡る声。
しかし私の感じ方とは裏腹に、シリル様達は疼くまり苦しそうに呻き声を上げはじめた。
「メリーナ、皆は大丈夫なの⁈ 」
皆の様子に不安になり声をかけた私に、メリーナは呪文を唱えながら、大丈夫だとウインクをする。
メリーナの呪文の中、ルシファ様がかけていた変化の魔法が解ける。
シリル様達の体が徐々に変化していき、獣耳と尻尾が現れる。
「うわぁ、漆黒だ……」
バーナビーさんは大きな尻尾をフルフルと細かく動かし、シリル様を驚嘆のまなざしで見つめている。
狼獣人の姿に戻ったシリル様の毛は、艶やかな漆黒。
獣人の中でも漆黒の毛は珍しく、恐れをなす者がほとんどだ。
ただ、バーナビーさんの反応は恐れというより、憧れのように見える。
目の前のシリル様が元の姿に戻り、立ち上がった。
漆黒の獣耳がピンッと立ち、長い尻尾がファサリと揺れる。一つに束ねていた髪は解かれ、長い前髪の間から覗く黄金の双眸は、輝きを増しこちらをみている。
(……ううっ、カッコいい)
ラビー姉様の獣耳や尻尾の白かった毛色は、薄っすらとピンク色になっていた。
メイナード様は獣耳や尻尾は真っ白の毛色のままだが、全体的にキラキラとした輝きが強くなっている。
そして二人とも、短めだった尻尾が少し長くなっているようだ。
ルシファ様の氷のような水色の目には、金色が混じり、獣耳や尻尾の金の毛色は、長兄カイザー様と同じ黄金色へと変わった。顔立ちも、やや大人びた雰囲気になっている。
「あら、やっぱりそうだったのね」
メリーナは納得した様に頷く。
「メリーナ、やっぱりって何? 皆少しずつ違うみたいだけど、それはどうして?」
私の疑問に、メリーナは優しく応えてくれた。
「私と幼いシリルの魔力がぶつかった時、マフガルド城にいた全ての者に何らかの封印がかかってしまっているみたいなの。それを今解いたのよ。彼らは今、ようやく本来の魔力を取り戻した。特にルシファは、母親の体の一つでしかなかった。だからシリルやラビー達よりも多く封印されていたみたいね。本当なら、もっとちゃんとした変化の魔法が使えるはずなのよ」
横ではラビー姉様が指を回し、さっきメリーナが出した様にテーブルとお茶を出し喜んでいる。
「凄いな、僕」
そう言ってメイナード様は、部屋の中を綺麗に改装してしまった。
「これが本当の僕……」
ルシファ様は部屋の鏡を、マジマジと見ている。
シリル様は微動だにせず、黙って私を見つめていた。
「シリル様? 具合でも悪いですか?」
「……いや、そうじゃない」
「…………?」
スッとシリル様は私に近づき、優しく頬に手を添えた。
スリ、と指で撫で、甘く見つめてくる。
「リラ……」
ど、どうしたのだろう⁈
何だかシリル様の様子がおかしくなっちゃった、目が……正気じゃないと思う!
「俺の……」
「シ、シリル様?」
どんどん顔が近づいてくる。
……えっ、今そういう雰囲気ですか⁈
皆、見ているんですけど⁈
◇
…………キラキラ……キラキラ…………
メリーナに封印を解いてもらったシリルの目には、リラとの繋がりがハッキリと(輝いて)見えた。
あんなに深刻な話をしていたと云うのに、これから危険な場所へと向かわねばならないと云うのに、シリルの頭の中は今違うことを考えている。
(……リラ、俺の宿命の相手……)
見える繋がりは強いものだが、まだ完璧ではない。
完璧にしたい。
今すぐ、その繋がりを確固たるものにしたい衝動に駆られている。
(……せめて、口づけだけでも……今……)
シリルはリラに顔を寄せる。
「ちょっと! シリルっやめなさい! こんな所で私のリラに何するつもりよっ!」
メリーナ様がぎゃあぎゃあと口煩く言っているが、そんな事はどうでもいい。
(一度だけ……ほんの……ちょっと……)
◇
「えーっ、ちょっと宜しいですか?」
急にバーナビーさんが声をかけた。
男性の声に、シリル様がビクッと体を震わせる。
「これは私の想定ですが……」
バーナビーさんは、シリル様の行動を一切無視して、話を始める。
シリル様はハッとした顔をして、私に「すまない」と言うと近くの椅子に腰掛け顔を覆った。
「俺は、皆の前で、何を……」
正気に戻り落ち込むシリル様の横に、メイナード様が座り、彼の肩を叩くと「大丈夫だよ、僕ならやってた。お前は止めたんだから偉いよ」と慰めている。
「そうか……?」
「ああ、なんなら最後までやると思う」
「……俺もそうしたかった……」
「おおっ! シリルも封印が解けて大人になったんだ!」
(…………! 封印が解けて、変わってしまったんですね、シリル様……)
そんな二人のやり取りはまるで聞こえていないように、バーナビーさんは続きを話し始める。
「先ほどの話に出てきた『魔王』と呼ばれる者。今、リフテス王を操っていると思われる者ですが、それはマフガルド王国の者ではないですか?
実は『デフライト公爵』の名は、私がカダル山賊にいた頃、何度も耳に入れた事があるのです。その時一緒に『クラッシュ』の名も上がっていました。王妃は公爵の娘です。裏で繋がっている可能性が高いと、私は思うのですが」
『クラッシュ』……それはマフガルドの山道で、私達を襲って来た黒づくめの人達の組織名だ。
メリーナはその話に大きく頷き、知っている事を教えてくれた。
「『クラッシュ』という組織は、鷲獣人の男が作り、率いる組織です。そしてその者は、マフガルド家やラビッツ家に並ぶ魔力の持ち主と言われています。あの男は狡猾な男。……もしかして、リフテス王国を手に入れようとしているのかしら」
それを聞いたメイナード様が、それならと口を挟む。
「国を支配したいのなら簒奪すればいい事じゃないの? リフテス王族を滅ぼして、乗っとれば済む事じゃない?」
メイナード様はキラキラと輝きを放ちながら、長くなった真っ白な尻尾をフワッと揺らす。
「普通ならそうするわね、けれどあの男はそう言った手段は選ばないの。相手から求められ、崇められる事が好きなのよ」
「どうしてそんなに詳しいの?」
ラビー姉様が不思議そうに尋ねた。
メリーナは、もう長い間リフテス王国にいる。
マフガルド王国にいた時間よりも長いのだ。それに、戦地に向かったことのあるシリル様が知っているのは分かるが、メリーナは公爵令嬢で、この国ではメイドとして暮らしていた。そういった組織と関わる事はなく、詳しく知ることはないはずだ。
「私の幼い頃、お祖父様が話してくれたの。自分の事を『神』と呼ばせている悪い男がいるから気をつけろってね。どうやっているかは知らないけれど、その男は三百年以上生きているんだって言っていたわ」
「「「三百年ーーっ⁈」」」
皆、思わず叫んでしまった。
リフテス人の寿命はせいぜい八十年、獣人でも百五十年生きれば長生きと言われているらしい。
それを越える年数を、どうやったら生きられるのだろう⁉︎
「本当らしいわよ、お祖父様が子供の頃から居たと言っていたもの」
その男は、『ラビッツマフガルド王国』を乗っとろうと革命を起こした。
始まりは、ただ単調に過ぎていく平和な日々がつまらなくなっただけだった。
当時のマフガルド王とラビッツ王は類稀なる魔力を持っていた。
にも関わらず、彼らは戦う事を好まない。
自由と平和が一番いいのだと言っていた。
しかし、それだけでは国は裕福にはならない。
それに不満を持つ、野心家な鳥獣人達が集まり、革命を起こす事に決めたのだ。
自分達ならば、隣国を全て自国の傘下に置き、獣人が崇められる国にする。
代表となった鷲獣人の男の魔力は、当時の王達と引いては劣らないほどだった。
だが、成功すると思われていた革命は、仲間の裏切りによって失敗に終わる。
仲間だと信じていた鳥獣人達が、戦況を見極め、鷲獣人の男では勝てないと判断すると、王達の方へ寝返った。
鷲獣人の男は、裏切られたと分かった瞬間、革命を止めた。
そして、自分を貶めた者達から全てを奪い、姿を消した。
ーーーーが数年後、その男は、魔力が高く攻撃魔法を得意とする獣人達を集め、組織を作りあげる。
それが、『クラッシュ』である。
彼らは鷲獣人の男を『神』と呼び、その者の言葉を信念とした。
それがどんな悪意に満ちた言葉であっても、彼らにはそれが正義だった。
『神』は信念の為に動いた者には、分け隔てなく恵を与えた。
それは金品であったり、土地や名誉といった物であったりした。
その者が欲しがる物、全てを与えるのだ。
その上『神』は、病気や怪我を治す力を持っており、命までも操るのだと言われていた。
その力は、まさしく『神』そのものだったのだ。
弱者は神に救いを求め、強者は蟻の如く群がった。
強者の中には欲にまみれた人々が多い。
争いが生じる事で、莫大な利益を生む者も少なくなかった。
『クラッシュ』は、そういった者達からの依頼を受け、火種を生み、事を起こさせる。
マフガルド王国とリフテス王国の争いでも、『クラッシュ』はどちらにも味方をし、戦いを長引かせる為に暗躍していたのだ。
「もし『魔王』がその男なら、相当気をつけなければならないわ。私は話にしか聞いた事はないけど、一筋縄ではいかないと思う。それに一人では行動をしないはず、近くに仲間もいるとすれば……」
メリーナは、シリル様達に魔法の使い方を教えると言い、彼らを奥の部屋に呼び話しを始めた。
その間私は、ニコくんから詳しく糸の使い方を教わった。
「俺がいるって、どう言う事ですか?」
「シリル、あなたの魔力はそんなものではないの。あの日、私が掛けた封印の魔法を今から解くわ、そうすれば……」
「メリーナ様、俺は既にかなり強い魔力を持っています。強すぎて上手く使えない魔法も多い……それなのに、これ以上……」
シリル様は驚いた顔でメリーナを見る。
「そうね、魔力は確かに強いわ。けれど、あなたの魔力はそれだけじゃないの。それに、あの時の封印の魔法で悪くなってしまった魔力の流れを戻さなければ、それが原因で微妙な調整が出来なくなっている。そもそも、魔力が強いのに生活魔法が使えないなんて事はあり得ないのよ」
「なぜ、俺が生活魔法を使えないと分かるのですか?」
メリーナはやっぱりね、と頷き「私、そういう事が分かるの」とだけ話した。
次にメリーナは、ラビー姉様達をじっくりと見る。
「あなた達もあの時、魔力が封印されちゃっているわね」
「……封印? 私たちも?」
「そう、確かあの時二人は城の中にいたわ。そのせいね。それに、ルシファも母親である王妃様が城にいた。だから封印されている可能性は高い。私の考えが正しければ、解けば皆、本来の姿に戻るわ」
「本来の姿?」
ラビー姉様達の疑問の声を聞き流し、メリーナは両手の指をバラバラと動かしながら、呪文を唱え出した。
それはとても不思議な声だった。
幾つもの鈴の音が重なるような、心地よく耳に響き渡る声。
しかし私の感じ方とは裏腹に、シリル様達は疼くまり苦しそうに呻き声を上げはじめた。
「メリーナ、皆は大丈夫なの⁈ 」
皆の様子に不安になり声をかけた私に、メリーナは呪文を唱えながら、大丈夫だとウインクをする。
メリーナの呪文の中、ルシファ様がかけていた変化の魔法が解ける。
シリル様達の体が徐々に変化していき、獣耳と尻尾が現れる。
「うわぁ、漆黒だ……」
バーナビーさんは大きな尻尾をフルフルと細かく動かし、シリル様を驚嘆のまなざしで見つめている。
狼獣人の姿に戻ったシリル様の毛は、艶やかな漆黒。
獣人の中でも漆黒の毛は珍しく、恐れをなす者がほとんどだ。
ただ、バーナビーさんの反応は恐れというより、憧れのように見える。
目の前のシリル様が元の姿に戻り、立ち上がった。
漆黒の獣耳がピンッと立ち、長い尻尾がファサリと揺れる。一つに束ねていた髪は解かれ、長い前髪の間から覗く黄金の双眸は、輝きを増しこちらをみている。
(……ううっ、カッコいい)
ラビー姉様の獣耳や尻尾の白かった毛色は、薄っすらとピンク色になっていた。
メイナード様は獣耳や尻尾は真っ白の毛色のままだが、全体的にキラキラとした輝きが強くなっている。
そして二人とも、短めだった尻尾が少し長くなっているようだ。
ルシファ様の氷のような水色の目には、金色が混じり、獣耳や尻尾の金の毛色は、長兄カイザー様と同じ黄金色へと変わった。顔立ちも、やや大人びた雰囲気になっている。
「あら、やっぱりそうだったのね」
メリーナは納得した様に頷く。
「メリーナ、やっぱりって何? 皆少しずつ違うみたいだけど、それはどうして?」
私の疑問に、メリーナは優しく応えてくれた。
「私と幼いシリルの魔力がぶつかった時、マフガルド城にいた全ての者に何らかの封印がかかってしまっているみたいなの。それを今解いたのよ。彼らは今、ようやく本来の魔力を取り戻した。特にルシファは、母親の体の一つでしかなかった。だからシリルやラビー達よりも多く封印されていたみたいね。本当なら、もっとちゃんとした変化の魔法が使えるはずなのよ」
横ではラビー姉様が指を回し、さっきメリーナが出した様にテーブルとお茶を出し喜んでいる。
「凄いな、僕」
そう言ってメイナード様は、部屋の中を綺麗に改装してしまった。
「これが本当の僕……」
ルシファ様は部屋の鏡を、マジマジと見ている。
シリル様は微動だにせず、黙って私を見つめていた。
「シリル様? 具合でも悪いですか?」
「……いや、そうじゃない」
「…………?」
スッとシリル様は私に近づき、優しく頬に手を添えた。
スリ、と指で撫で、甘く見つめてくる。
「リラ……」
ど、どうしたのだろう⁈
何だかシリル様の様子がおかしくなっちゃった、目が……正気じゃないと思う!
「俺の……」
「シ、シリル様?」
どんどん顔が近づいてくる。
……えっ、今そういう雰囲気ですか⁈
皆、見ているんですけど⁈
◇
…………キラキラ……キラキラ…………
メリーナに封印を解いてもらったシリルの目には、リラとの繋がりがハッキリと(輝いて)見えた。
あんなに深刻な話をしていたと云うのに、これから危険な場所へと向かわねばならないと云うのに、シリルの頭の中は今違うことを考えている。
(……リラ、俺の宿命の相手……)
見える繋がりは強いものだが、まだ完璧ではない。
完璧にしたい。
今すぐ、その繋がりを確固たるものにしたい衝動に駆られている。
(……せめて、口づけだけでも……今……)
シリルはリラに顔を寄せる。
「ちょっと! シリルっやめなさい! こんな所で私のリラに何するつもりよっ!」
メリーナ様がぎゃあぎゃあと口煩く言っているが、そんな事はどうでもいい。
(一度だけ……ほんの……ちょっと……)
◇
「えーっ、ちょっと宜しいですか?」
急にバーナビーさんが声をかけた。
男性の声に、シリル様がビクッと体を震わせる。
「これは私の想定ですが……」
バーナビーさんは、シリル様の行動を一切無視して、話を始める。
シリル様はハッとした顔をして、私に「すまない」と言うと近くの椅子に腰掛け顔を覆った。
「俺は、皆の前で、何を……」
正気に戻り落ち込むシリル様の横に、メイナード様が座り、彼の肩を叩くと「大丈夫だよ、僕ならやってた。お前は止めたんだから偉いよ」と慰めている。
「そうか……?」
「ああ、なんなら最後までやると思う」
「……俺もそうしたかった……」
「おおっ! シリルも封印が解けて大人になったんだ!」
(…………! 封印が解けて、変わってしまったんですね、シリル様……)
そんな二人のやり取りはまるで聞こえていないように、バーナビーさんは続きを話し始める。
「先ほどの話に出てきた『魔王』と呼ばれる者。今、リフテス王を操っていると思われる者ですが、それはマフガルド王国の者ではないですか?
実は『デフライト公爵』の名は、私がカダル山賊にいた頃、何度も耳に入れた事があるのです。その時一緒に『クラッシュ』の名も上がっていました。王妃は公爵の娘です。裏で繋がっている可能性が高いと、私は思うのですが」
『クラッシュ』……それはマフガルドの山道で、私達を襲って来た黒づくめの人達の組織名だ。
メリーナはその話に大きく頷き、知っている事を教えてくれた。
「『クラッシュ』という組織は、鷲獣人の男が作り、率いる組織です。そしてその者は、マフガルド家やラビッツ家に並ぶ魔力の持ち主と言われています。あの男は狡猾な男。……もしかして、リフテス王国を手に入れようとしているのかしら」
それを聞いたメイナード様が、それならと口を挟む。
「国を支配したいのなら簒奪すればいい事じゃないの? リフテス王族を滅ぼして、乗っとれば済む事じゃない?」
メイナード様はキラキラと輝きを放ちながら、長くなった真っ白な尻尾をフワッと揺らす。
「普通ならそうするわね、けれどあの男はそう言った手段は選ばないの。相手から求められ、崇められる事が好きなのよ」
「どうしてそんなに詳しいの?」
ラビー姉様が不思議そうに尋ねた。
メリーナは、もう長い間リフテス王国にいる。
マフガルド王国にいた時間よりも長いのだ。それに、戦地に向かったことのあるシリル様が知っているのは分かるが、メリーナは公爵令嬢で、この国ではメイドとして暮らしていた。そういった組織と関わる事はなく、詳しく知ることはないはずだ。
「私の幼い頃、お祖父様が話してくれたの。自分の事を『神』と呼ばせている悪い男がいるから気をつけろってね。どうやっているかは知らないけれど、その男は三百年以上生きているんだって言っていたわ」
「「「三百年ーーっ⁈」」」
皆、思わず叫んでしまった。
リフテス人の寿命はせいぜい八十年、獣人でも百五十年生きれば長生きと言われているらしい。
それを越える年数を、どうやったら生きられるのだろう⁉︎
「本当らしいわよ、お祖父様が子供の頃から居たと言っていたもの」
その男は、『ラビッツマフガルド王国』を乗っとろうと革命を起こした。
始まりは、ただ単調に過ぎていく平和な日々がつまらなくなっただけだった。
当時のマフガルド王とラビッツ王は類稀なる魔力を持っていた。
にも関わらず、彼らは戦う事を好まない。
自由と平和が一番いいのだと言っていた。
しかし、それだけでは国は裕福にはならない。
それに不満を持つ、野心家な鳥獣人達が集まり、革命を起こす事に決めたのだ。
自分達ならば、隣国を全て自国の傘下に置き、獣人が崇められる国にする。
代表となった鷲獣人の男の魔力は、当時の王達と引いては劣らないほどだった。
だが、成功すると思われていた革命は、仲間の裏切りによって失敗に終わる。
仲間だと信じていた鳥獣人達が、戦況を見極め、鷲獣人の男では勝てないと判断すると、王達の方へ寝返った。
鷲獣人の男は、裏切られたと分かった瞬間、革命を止めた。
そして、自分を貶めた者達から全てを奪い、姿を消した。
ーーーーが数年後、その男は、魔力が高く攻撃魔法を得意とする獣人達を集め、組織を作りあげる。
それが、『クラッシュ』である。
彼らは鷲獣人の男を『神』と呼び、その者の言葉を信念とした。
それがどんな悪意に満ちた言葉であっても、彼らにはそれが正義だった。
『神』は信念の為に動いた者には、分け隔てなく恵を与えた。
それは金品であったり、土地や名誉といった物であったりした。
その者が欲しがる物、全てを与えるのだ。
その上『神』は、病気や怪我を治す力を持っており、命までも操るのだと言われていた。
その力は、まさしく『神』そのものだったのだ。
弱者は神に救いを求め、強者は蟻の如く群がった。
強者の中には欲にまみれた人々が多い。
争いが生じる事で、莫大な利益を生む者も少なくなかった。
『クラッシュ』は、そういった者達からの依頼を受け、火種を生み、事を起こさせる。
マフガルド王国とリフテス王国の争いでも、『クラッシュ』はどちらにも味方をし、戦いを長引かせる為に暗躍していたのだ。
「もし『魔王』がその男なら、相当気をつけなければならないわ。私は話にしか聞いた事はないけど、一筋縄ではいかないと思う。それに一人では行動をしないはず、近くに仲間もいるとすれば……」
メリーナは、シリル様達に魔法の使い方を教えると言い、彼らを奥の部屋に呼び話しを始めた。
その間私は、ニコくんから詳しく糸の使い方を教わった。
0
お気に入りに追加
195
あなたにおすすめの小説
王様とお妃様は今日も蜜月中~一目惚れから始まる溺愛生活~
花乃 なたね
恋愛
貴族令嬢のエリーズは幼いうちに両親を亡くし、新たな家族からは使用人扱いを受け孤独に過ごしていた。
しかし彼女はとあるきっかけで、優れた政の手腕、更には人間離れした美貌を持つ若き国王ヴィオルの誕生日を祝う夜会に出席することになる。
エリーズは初めて見るヴィオルの姿に魅せられるが、叶わぬ恋として想いを胸に秘めたままにしておこうとした。
…が、エリーズのもとに舞い降りたのはヴィオルからのダンスの誘い、そしてまさかの求婚。なんとヴィオルも彼女に一目惚れをしたのだという。
とんとん拍子に話は進み、ヴィオルの元へ嫁ぎ晴れて王妃となったエリーズ。彼女を待っていたのは砂糖菓子よりも甘い溺愛生活だった。
可愛い妻をとにかくベタベタに可愛がりたい王様と、夫につり合う女性になりたいと頑張る健気な王妃様の、好感度最大から始まる物語。
※1色々と都合の良いファンタジー世界が舞台です。
※2直接的な性描写はありませんが、情事を匂わせる表現が多々出てきますためご注意ください。
ぼくは悪役令嬢の弟〜大好きな姉の為に、姉を虐める令嬢に片っ端から復讐するつもりが、いつの間にか姉のファンクラブができてるんだけど何で?〜
水都 ミナト
恋愛
「ルイーゼ・ヴァンブルク!!今この時をもって、俺はお前との婚約を破棄する!!」
ヒューリヒ王立学園の進級パーティで第二王子に婚約破棄を突きつけられたルイーゼ。
彼女は周囲の好奇の目に晒されながらも毅然とした態度でその場を後にする。
人前で笑顔を見せないルイーゼは、氷のようだ、周囲を馬鹿にしているのだ、傲慢だと他の令嬢令息から蔑まれる存在であった。
そのため、婚約破棄されて当然だと、ルイーゼに同情する者は誰一人といなかった。
いや、唯一彼女を心配する者がいた。
それは彼女の弟であるアレン・ヴァンブルクである。
「ーーー姉さんを悲しませる奴は、僕が許さない」
本当は優しくて慈愛に満ちたルイーゼ。
そんなルイーゼが大好きなアレンは、彼女を傷つけた第二王子や取り巻き令嬢への報復を誓うのだが……
「〜〜〜〜っハァァ尊いっ!!!」
シスコンを拗らせているアレンが色々暗躍し、ルイーゼの身の回りの環境が変化していくお話。
★全14話★
※なろう様、カクヨム様でも投稿しています。
※正式名称:『ぼくは悪役令嬢の弟 〜大好きな姉さんのために、姉さんをいじめる令嬢を片っ端から落として復讐するつもりが、いつの間にか姉さんのファンクラブができてるんだけどどういうこと?〜』
中将閣下は御下賜品となった令嬢を溺愛する
cyaru
恋愛
幼い頃から仲睦まじいと言われてきた侯爵令息クラウドと侯爵令嬢のセレティア。
18歳となりそろそろ婚約かと思われていたが、長引く隣国との戦争に少年兵士としてクラウドが徴兵されてしまった。
帰りを待ち続けるが、22歳になったある日クラウドの戦死が告げられた。
泣き崩れるセレティアだったが、ほどなくして戦争が終わる。敗戦したのである。
戦勝国の国王は好色王としても有名で王女を差し出せと通達があったが王女は逃げた所を衛兵に斬り殺されてしまう。仕方なく高位貴族の令嬢があてがわれる事になったが次々に純潔を婚約者や、急遽婚約者を立ててしまう他の貴族たち。選ばれてしまったセレティアは貢物として隣国へ送られた。
奴隷のような扱いを受けるのだろうと思っていたが、豪華な部屋に通され、好色王と言われた王には一途に愛する王妃がいた。
セレティアは武功を挙げた将兵に下賜されるために呼ばれたのだった。
そしてその将兵は‥‥。
※作品の都合上、うわぁと思うような残酷なシーンがございます。
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
※頑張って更新します。
【完結】バッドエンドの落ちこぼれ令嬢、巻き戻りの人生は好きにさせて貰います!
白雨 音
恋愛
伯爵令嬢エレノアは、容姿端麗で優秀な兄姉とは違い、容姿は平凡、
ピアノや刺繍も苦手で、得意な事といえば庭仕事だけ。
家族や周囲からは「出来損ない」と言われてきた。
十九歳を迎えたエレノアは、侯爵家の跡取り子息ネイサンと婚約した。
次期侯爵夫人という事で、厳しい教育を受ける事になったが、
両親の為、ネイサンの為にと、エレノアは自分を殺し耐えてきた。
だが、結婚式の日、ネイサンの浮気を目撃してしまう。
愚行を侯爵に知られたくないネイサンにより、エレノアは階段から突き落とされた___
『死んだ』と思ったエレノアだったが、目を覚ますと、十九歳の誕生日に戻っていた。
与えられたチャンス、次こそは自分らしく生きる!と誓うエレノアに、曾祖母の遺言が届く。
遺言に従い、オースグリーン館を相続したエレノアを、隣人は神・精霊と思っているらしく…??
異世界恋愛☆ ※元さやではありません。《完結しました》
「お前を愛するつもりはない」な仮面の騎士様と結婚しました~でも白い結婚のはずなのに溺愛してきます!~
卯月ミント
恋愛
「お前を愛するつもりはない」
絵を描くのが趣味の侯爵令嬢ソールーナは、仮面の英雄騎士リュクレスと結婚した。
だが初夜で「お前を愛するつもりはない」なんて言われてしまい……。
ソールーナだって好きでもないのにした結婚である。二人はお互いカタチだけの夫婦となろう、とその夜は取り決めたのだが。
なのに「キスしないと出られない部屋」に閉じ込められて!?
「目を閉じてくれるか?」「えっ?」「仮面とるから……」
書き溜めがある内は、1日1~話更新します
それ以降の更新は、ある程度書き溜めてからの投稿となります
*仮面の俺様ナルシスト騎士×絵描き熱中令嬢の溺愛ラブコメです。
*ゆるふわ異世界ファンタジー設定です。
*コメディ強めです。
*hotランキング14位行きました!お読みいただき&お気に入り登録していただきまして、本当にありがとうございます!
【完結】余命三年ですが、怖いと評判の宰相様と契約結婚します
佐倉えび
恋愛
断罪→偽装結婚(離婚)→契約結婚
不遇の人生を繰り返してきた令嬢の物語。
私はきっとまた、二十歳を越えられないーー
一周目、王立学園にて、第二王子ヴィヴィアン殿下の婚約者である公爵令嬢マイナに罪を被せたという、身に覚えのない罪で断罪され、修道院へ。
二周目、学園卒業後、夜会で助けてくれた公爵令息レイと結婚するも「あなたを愛することはない」と初夜を拒否された偽装結婚だった。後に離婚。
三周目、学園への入学は回避。しかし評判の悪い王太子の妾にされる。その後、下賜されることになったが、手渡された契約書を見て、契約結婚だと理解する。そうして、怖いと評判の宰相との結婚生活が始まったのだが――?
*ムーンライトノベルズにも掲載
二度目の結婚は異世界で。~誰とも出会わずひっそり一人で生きたかったのに!!~
すずなり。
恋愛
夫から暴力を振るわれていた『小坂井 紗菜』は、ある日、夫の怒りを買って殺されてしまう。
そして目を開けた時、そこには知らない世界が広がっていて赤ちゃんの姿に・・・!
赤ちゃんの紗菜を拾ってくれた老婆に聞いたこの世界は『魔法』が存在する世界だった。
「お前の瞳は金色だろ?それはとても珍しいものなんだ。誰かに会うときはその色を変えるように。」
そう言われていたのに森でばったり人に出会ってしまってーーーー!?
「一生大事にする。だから俺と・・・・」
※お話は全て想像の世界です。現実世界と何の関係もございません。
※小説大賞に出すために書き始めた作品になります。貯文字は全くありませんので気長に更新を待っていただけたら幸いです。(完結までの道筋はできてるので完結はすると思います。)
※メンタルが薄氷の為、コメントを受け付けることができません。ご了承くださいませ。
ただただすずなり。の世界を楽しんでいただけたら幸いです。
【完結】中継ぎ聖女だとぞんざいに扱われているのですが、守護騎士様の呪いを解いたら聖女ですらなくなりました。
氷雨そら
恋愛
聖女召喚されたのに、100年後まで魔人襲来はないらしい。
聖女として異世界に召喚された私は、中継ぎ聖女としてぞんざいに扱われていた。そんな私をいつも守ってくれる、守護騎士様。
でも、なぜか予言が大幅にずれて、私たちの目の前に、魔人が現れる。私を庇った守護騎士様が、魔神から受けた呪いを解いたら、私は聖女ですらなくなってしまって……。
「婚約してほしい」
「いえ、責任を取らせるわけには」
守護騎士様の誘いを断り、誰にも迷惑をかけないよう、王都から逃げ出した私は、辺境に引きこもる。けれど、私を探し当てた、聖女様と呼んで、私と一定の距離を置いていたはずの守護騎士様の様子は、どこか以前と違っているのだった。
元守護騎士と元聖女の溺愛のち少しヤンデレ物語。
小説家になろう様にも、投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる