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14 知らないこと

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 シリル様に助けてもらい、食事はなんとか終わった。
 食後に、今マフガルドで人気だという果物が入ったお茶を飲みながら、王子様達と話をした。話と言っても、王子様達の言われる事を聞いて頷くだけだったけど。
 第ハ王子ハリア様の番になり、ハリア様が名前を告げると、王様が「もういいだろう、今夜はコレで終わりにする」と言い、王子様達に先に部屋へ戻るようにと言われた。

「えーっ、何故ですか? 僕名前しか言ってません! もっと話したいです、リフテス王国の事とか、エリザベート様の好きな物とか聞きたいなぁ」

 ハリア様が笑みを浮かべ私を見る。
 その様子に、第二王子マルス様が眉を寄せた。

「……ハリア、リフテス王国の事はわかるが、エリザベート様の好きな物を知ってどうするんだ?」
「……もっと仲良くなろうと思って」

 その答えにシリル様が呟く。

「俺の……相手だ」
「分かってるよ、別に好きな物聞くぐらいいいと思うんだけどな? それにエリザベート様って第七王女でしょう? まだ六人もお姉さんがいるんだよね? 歳は近いの? お姉さん達は似てるの? 僕会って見たいなっ!」

 ハリア様は目を煌めかせている。

「本当に聞きたい事はそれか……」

 マルス様は呆れ顔だ。


「……えっ……と……」

 困ってしまった。六人いる王女様達は、ほとんど外に出られる事は無く、私は見たこともない。
 歳も知らない……私と王女様達は似ているのかしら?
 王様にはこの間会ったけど、王妃様も絵姿でしか見たことがない。

 しかし、何か答えなければ……。

 私が困惑していると、王妃様が「ハリア」と声を落とされた。

「ハリア、その話はまた今度にしなさい。あなた分からないの? 急に呼び出されて、大きな男達に囲まれて、面白くもない話を聞かされて。(王子様達は皆一様に目を見開いた)
それに、初めて会う人と食事をとることはとても疲れるのよ。女性のドレスはコルセットがキツいし、本当に大変なんだから。もう少し相手の気持ちを考えて」

 王妃様に嗜められたハリア様は、分かったと頷くとヒラヒラと手を振る。

「はい、母上。じゃあエリザベート様、また今度教えてね」

 王子様達が先に部屋へ戻ると「後で部屋へ来るように」とシリル様に告げ、王様と王妃様も部屋へと戻られた。



「では、俺達も戻ろう」

 そう言うと、シリル様は当然のように私を抱き抱えた。
 フワリと近くに感じる彼の匂いに、ドキリと胸が跳ねる。

「えっ、どうして?」

 戸惑う私に、彼は視線を合わせると、フッと見惚れるような笑みを浮かべた。

「慣れない高さの靴で歩きにくかっただろう? それともサイズが合ってなかったか、とにかく部屋まで俺が抱えて行く」
「そ、そんなっ、ダメです!」

 恥ずかしいと言う私に、シリル様は悪戯に笑う

「昨日も馬から下ろして、そのまま部屋まで抱えたが?」
「そうですが……」
「もしかして重さを気にしているのか? 大丈夫だ、エリザベートは軽い。ラビーの弟達と変わらない」
「……ラビー様の弟?」

「ああ、メイナードではない。アイツは重い」
「……ふふっ」

 真面目な顔をして言うから、メイナード様を抱き抱え、重そうな顔をするシリル様を想像してしまい、笑ってしまった。

「可笑しかったか?」
「はい」
「そうか」

 少し口角を上げたシリル様は、ラビー様にはメイナード様の他に七人の弟達がいると教えてくれた。
十一歳の双子にハ歳の三つ子、六歳の双子。

「シリル様もラビー様も兄弟が多いんですね」

 何気に言った私に、シリル様は怪訝な顔をする。

「エリザベートも多いだろう? 君は第七王女だし、王子も二人いると聞いている。兄弟は九人もいるじゃないか」

 忘れてた……。

「……そ、そうですね。ふふふ……」
「…………」

 笑って誤魔化したけど、大丈夫だった?







「お食事は如何でしたか?」

 モリーさんはすごく心配そうに聞いてきた。

 気づいていたんだ……私がマナーを知らないこと。

「シリル様が食べさせてくれました。他の王子様達からは白い目で見られちゃいましたけど」

 食べさせてくれたシリル様の顔を思い出し、自然と笑みが溢れた。

「まぁ!」
「それに、ここまで抱き抱えて運んでくれました」
「うふふ、シリル様はそうしたかったのでしょう」
「……そうでしょうか? 私が歩きにくそうだったからと言われましたが」
「まさか! 好きでもない相手に、そんな事はしませんよ。私は分かっております、シリル様はエリザベート様を好きでいらっしゃいます」

「好き? シリル様が私を?」

「はい、私にはそうとしか思えません」
「本当に……?」

 なぜだか急に顔が熱くなった。

 モリーさんは、隠す様に頬を手で押さえる私を、満面の笑みを浮かべて見ている。

「すぐにお風呂に入られますか? 用意は出来ておりますよ」
「はい、入らせていただきます」
「では、その間私は用事を済ませて参りますので、少し部屋を出ます。扉の鍵はしっかりと掛けておきますので、ご安心ください」
「分かりました」





 チャプン……チャプン

 手のひらで掬ったお湯が、指先を伝い落ちていく。
 広がる波紋を見ながら思い出すのは、今夜のシリル様の事。

 マフガルド王国の漆黒の王子様。

 手を差し伸べるシリル様は、キラキラと輝いて見えた。

 怖かったのは最初だけ、優しくかっこいい……私の結婚相手。


『大丈夫だ』

 そう言って優しく微笑むシリル様に、胸の鼓動は高まっていた。

 私へと向けられた、優しく細められた黄金の瞳が忘れられない。

 ……すごく素敵だった。
 あんな風に男の人から優しくされ、見つめられた事は、今まで一度もない。

 ずっと考えてしまっている。

 彼の少し掠れた低く優しい声が耳に残っている。


 モリーさんは、シリル様が私を好きだと言っていた。


 本当に?

 もし、そうだったら……。

 嬉しい。
 すごく嬉しいと思う


 けれど……。







 コンコン、と浴室の扉が叩かれた。

 モリーさんは先程部屋に鍵をかけて出た。
もう帰って来たの?

「はい」

 返事をすると、扉を開け入って来たのは、さっき私を睨みつけていたメイドだった。

「あなたは……」
「私はリフテス王国より遣わされた、あなたの監視役です」

「どうやってこの部屋に入ったの? モリーさんが鍵をかけて行ったはずよ⁈」

 私の言葉が気に入らなかったのか、メイドは態度を悪くする。

「入り口は一つとは限らないでしょう? バカな女ですね。それにお前、仮にもリフテス王国の王女として来ているのに、アレはなに⁈    歩き方もなっていなければ、マナーもなっていない。
何一つできないなんて……やはりどんなに王と、血の繋がりがあるとはいえ、しょせんは平民の娘でしかないわね」

 監視の女は私を蔑むような目で見る。

「そんな事をわざわざ言いに来たの?」

 私の物言いが気に入らなかったのだろう、耳を掴まれ引っ張られた。痛みに顔を歪めると、女は口角をあげる。

「エリザベート、お前まだ王子と寝ていないでしょう?」
「ね、寝ては」
「交わっていない、と言っているのよ。お前がこの国にきた目的は子供を生み連れ帰ること、それは分かっているの?」
「わ、分かっている……でも、そんな簡単には」
「出来るでしょう? お前の母親のように王子を誘惑すればいいだけ。相手は獣人、その気にさせれば簡単でしょう」
「そんな言い方しないで!」

 母さんにも、シリル様にも失礼な物言いをされて口ごたえをしたが、女は気にも留めず私が知らない話をペラペラとし始めた。

「リフテス王は、すでに側室二人を孕らせている。お前も一日も早く子を作るのね」

「……? リフテス王の子供と私の子供の何が関係あるの?」

 何の事か分からず尋ねた私に、呆れ顔をした女は、ずっと引っ張っていた耳を乱暴に離した。

「まさかそんな事も知らないの?……だったら教えてあげるわ。王様の生まれてくる子供とお前の魔力持ちの子供、その二人を一緒にし、生まれてくる子供こそが次のリフテス王になるのよ、魔力を持つリフテス王の誕生よ」

「えっ……王様の子供と私の子供?」

 リフテス王が、魔力を欲しがっている事は知っていたけど、まさかそんな方法で⁈

「お前の子では王にはなれない。半分平民のお前と獣人との子供など、リフテスの王族とは認められない」

「それなら……最初から、王女様達をこの国に寄越せばよかったじゃない。王女様達なら立派な王族何でしょう⁈ 」

「王女様達に獣人と交わり子供を持たせるなど、穢らわしい真似が出来るわけがないでしょう? だからお前が選ばれたのよ、半分だけ王族の血が混じるお前がね」

「穢らわしいって……」

「早く王子と交わりなさい。一日も早く子を作りリフテスへ帰らなければ、あの女が苦しむだけよ」
「あの女? メリーナの事? 苦しむってどういう事なの? 城で働いてもらうってリフテス王は言っていたのよ?」

 キッと女を睨みつけたが、湯に浸かったままの私は、逆に監視の女から冷たく見下ろされてしまった。

「お前は本当にバカね。そんなの嘘に決まっているでしょ。今、あの女は城の地下牢に入っているわ、陽も当たらない場所だけど、食事はでるから生きているでしょうけど」

「地下牢?」

「お前が子を連れて帰ればあの女も牢から出られる、分かったら早くすることね」

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