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それが褒美なの?
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それから、何かとマリアナ王女がエリーゼ王女と会う機会を作ってくれた。
廊下ですれ違ったりする程度ではあったが……。
マリアナ王女は会う度に何かと話掛けてきて、俺がエリーゼ王女と言葉を交わせる様にしてくれていた。
何故かミリアリア王女にも、俺の気持ちはバレていた。
二人がどう考えているのか分からないが、王女達の協力もあって、以前よりエリーゼ王女との距離は縮まっていた。( と、思う)
**
俺は十八歳になった。
この頃には、魔獣術師としての力は、テス師匠を超えていた。師匠とは別に各地を飛び回り、魔獣捕獲や討伐に参加する毎日を送っていた。
もう訓練は必要ないが、その日は久しぶりに師匠と会うために、城の訓練所に向かった。
「ジーク、この前の魔獣捕獲良くやったなぁ」
「ありがとうございます、テス師匠」
「師匠は止めろ、もうお前の方が力も、使役できる魔獣の数も多いんだからよ」
「はい、じゃあテスって呼びます」
そう言うとテス師匠は眉間に皺を寄せた。
「やっぱダメだ。今まで通り師匠と呼べ、じゃなきゃテス様だ」
「……テス様はねぇよ」
「そうか? 以外と似合う気がすんだけどな、ガハハ!」
くだらない話をした後、師匠と別れ、館へ戻ろうと廊下を歩いていた。
前方から、普段ここを通る事がないエリーゼ王女が、侍女達と歩いて来る。
「あら、ジークじゃない……もう、帰るの?」
「……はい」
あきらかに不自然な態度をとるエリーゼ王女。そんな彼女を、俺はジッと見つめた。その後ろでは、侍女達が俺を見て頬を染めている。
「……そう、これから何かするのかしら?」
「館に戻るだけです。今日はもう何もすることも無いですし……」
俺が見つめていると、エリーゼは持っていた扇子を広げ、口元を隠し目を逸らした。
「じゃあ、お茶を飲ませてあげるから一緒に来なさい」
「……えっ?」
( 俺を誘ってくれてる?)
「私が言っているのよ、来ないとは言わないでしょうね」
何だか、エリーゼ王女の頬が赤くなっている様に見える。……赤い扇子の色が映っているだけだろうか……
「はい! 行きます!」
「そんな大きな声を出さないで!」
**
エリーゼ王女に連れて行かれたのは、城の二階にあるサロンだった。
エリーゼ王女と俺が席に着くと、侍女達はお茶をテーブルに並べ、部屋を出て行った。
二人きりだ……。
今まで、ほんの数回お茶に呼ばれた事はあったが、それはマリアナ王女様か、ミリアリア王女様が誘ってくれた時だけだ。こんな風にエリーゼ王女から誘われたのは初めてだ……。
それに、随分久しぶりに顔を見た気がする。
二ヶ月ぶりか……
俺の前に座るエリーゼ王女は、静かに紅茶を飲んでいる。
長い睫毛が縁取る綺麗な緑色の目。揃えられた白く繊細な指先に思わず見惚れてしまう。(……また、キレイになった )
「あなた、凄いんですってね……お父様が誉めていらしたわ」
「……ありがとうございます」
「……何か欲しい物はあるのかしら」
「欲しい物?」
( 何故急に欲しい物を聞いてくるんだ?)
「お父様が、あなたに褒美を与えるそうよ。それで何か欲しい物はないか、何故か私に聞いてくる様に言われたのよ」
(……ああ、そうか)
エリーゼ王女は、優雅な仕草でカップを口に運ぶ。
「何でもいいのですか?」
「いいわよ」
「じゃ……じゃあ、エリーゼ王女様の事を今から『エリーゼ』と呼ぶ様にする、というのでもいいでしょうか?」
ぐっ、エリーゼ王女は紅茶を喉に詰まらせた。
ケホケホと咳込み胸を叩く。
「そ、それが褒美なの⁈ 」
彼女は目を見開き、俺を見た。
「はい、俺にとっては……この上なく」
俺は微笑み、彼女を見る。エリーゼ王女はすぐに目を逸らし、なんだか恥ずかしそうに言った。
「エリーゼと呼ぶのはダメよ……他の呼び方なら……構わなくてよ」
「じゃあ『エリー』?」
「それもダメ」
「リーゼ?」
「それもダメよ、私だとすぐに分かってしまうわ」
「エリーゼ王女様を呼ぶのに分かるとダメって……」
( どう言う事だよ?)
「じゃあ……『リー』でもいいですか?」
「……いいわ、それで」
「敬語を止めても?」
「どうしてよっ」
「俺、稀代の魔獣術師だから、それに歳上だし」
「訳が分からないわ…………勝手にしなさい」
それから俺は、エリーゼ王女様を『リー』と呼ぶ様になった。
『リー』と呼ぶたびに、ツンと拗ねた様な顔をする彼女はめっちゃ可愛い。
**
今から一年程前だ。
偶然なのか、廊下ですれ違ったリーが足を止め俺に聞いて来た。
「ねぇジーク、あなた城の中に魔獣を呼び出せる?」
「……何するつもり?」
「今度のお茶会で、オスカー様とエスター様にショーをしてもらおうかと思っているの」
「ショー?」
オスカーなら瞬殺だし、問題はないか……そんな軽い気持ちで引き受けた。
( リーの頼みなら断ったりしない )
「出来るけど……必ず剣を持たせて置くんだよ、約束だからね」
「……分かったわ」
こうして王妃主催のお茶会で魔獣を召喚した。
オスカーとエスター令息もいる。多少獰猛な魔獣だが問題ないなと思っていたが、何故か彼等は剣帯していなかった。
( リー、なんて事を……)
見ている側で、通りかかったメイドの女の子が魔獣に傷つけられてしまった。
「ちょ……⁈ 」
こんなはずじゃない! けれどこの距離では、俺に魔獣を消す事は出来ない。側に行かないと……
( ピカリムぐらいの物なら移動させる事は出来るけど ……)
エスター令息がその子を抱え、凄い速さで城の中へ走っていく。
侍従が剣を運んでくると、オスカーがあっという間に魔獣を始末した。すると、王妃様が魔獣を退治したオスカーに、リーとの婚約を迫っている。
( 何だ、それが目的だったのか……王妃様も知らないのか、あの事)
*
怪我をしたメイドの子は助かった。しかし、完治する前に治療室から逃げる様に出て行った。( 何か訳あり?)
その後、今度はマリアナ王女が頼みがある、と言ってきた。
「俺はリーの頼みしか聞かないよ」
「そんなに難しい事じゃないわ、お姉様の知り合いとしての貴方に頼みたいの」
「何それ、知り合い?」
「そうよ、だって友達でも恋人でも婚約者でもないでしょう? たまにしか合わない人なら知り合いでしょう?」
「……そうだな」
「たまにでも会えたり、話が出来る様にして上げたのは誰のお陰かしら⁈ 」
「君……かな」
「そうよね? だったら私の頼みも聞きなさい」
マリアナ王女に強要され、俺はエスターの『花』を攫うことになった。
「簡単に見つからない所にして! 魔獣も出して、その女が魔獣に食べられちゃってもいいから!」
「……分かった」
竜獣人の『花』を攫うか……マリアナ王女は後の事は考えていないのか? そんな事したら、エスター令息に嫌われるだろう⁈
それに……ヤツらに見つけられない所なんてあるのかよ。
( いや、逆にすぐ見つけられる所にしてやる )
この間の茶会での事に、内心腹が立っていた俺が思いついたのは『北の塔』だった。
十年ほど前、ガイア公爵が軽々と登っていったあの塔。結局俺は一度も登って見た事が無かった。
どんな所か見てやろう、と下見がてらに入った北の塔の最上階は……
「ココって……もしかして竜獣人が『花』を連れ込む部屋だったりして」
そこは女受けしそうな部屋だった。
敷いてある絨毯はフカフカで、寝転んでも痛くは無いだろう。無駄に置いてあるクッションはどれも柔らかくカラフルな布で作られている。
「はっ? なんで風呂まであるんだ? 下には備蓄倉庫まであんのか……ここ、住めるんじゃねぇの?」
あの時見たガイア公爵は…………俺はまだ子供だったから分からなかったが……そういう事か……
俺は北の塔の噂の真相を理解した。
エスター令息の力量は分からないが、二体ぐらいは余裕だろうと魔獣を飛ばし、透明な鎖で塔の周りに繋いだ。
**
色々あった結果、マリアナ王女は隣国の王子と結婚した。まあ、お似合いだと思う。
マリアナ王女が旅立ったその日、偶然を装って俺はリーと会った。
「行っちゃったね、マリアナ王女様」
「……バカな子よね」
彼女は、少しだけ寂しそうな顔をして、庭園に咲く花を見ながら話す。
「リーは、まだ……オスカーの事、諦めないの?」
「そうね、オスカー様に『花』が現れたら、諦めるしか無いわね」
「諦めてどうするの」
「どうもしないわ」
「結婚は? しないの?」
彼女ももう二十歳になった。この国ならば、とうに結婚していてもおかしくは無い歳だ。
「私は、いずれ王位を継がなければならないもの……お父様が決めた相手と結婚するわ」
諦めた様な顔をして、エリーゼは言う。
「……知らないの? 君もシャーロット嬢誘拐の件に関わっているから、王位継承権はミリアリア王女に移ったんだよ。だから結婚は、誰としてもいいんだってさ」
「そんなの……知らないわ」
「聞いてなかったんだろ?」
「…………」
「王様が決めた相手と結婚してもいいのなら……俺と結婚しない? 実はもう、王様から許可も貰ってる」
一瞬目を見開いたリーは、俺の顔をジッと見た。
「ジークは……相変わらず私が好きなのね」
「知ってたの?」
「……知ってたわよ。誰だって気づくでしょう、最初にあった頃は女の子みたいだったのに……髪型もオスカー様と同じ様にするし、いつも……ジークは分かり易いのよ」
「バレてたのか」
「オスカー様に『花』が現れてしまったなら……考えてもいいわ」
「それって……俺と結婚してもいいって事?」
「……そうね、お父様が良いと言っているのなら……いいわ」
「……本当? 本当に? 本当⁈ 」
「本当、本当ってうるさいわっ」
あの時、少し頬を染めたリーはそう言った。
言った‼︎
**
そして現在にもどる。
「リーはそんなにオスカーがいいの?」
「……ずっと好きだったもの」
「俺もずっと君が好きだ」
「…………」
エリーゼは拗ねた様に何も話さない。
「分かったよ、リー、ちゃんと話をしよう」
ジークはいつもより少し低い声でそう言うと、エリーゼの手を取り外へ出た。
廊下ですれ違ったりする程度ではあったが……。
マリアナ王女は会う度に何かと話掛けてきて、俺がエリーゼ王女と言葉を交わせる様にしてくれていた。
何故かミリアリア王女にも、俺の気持ちはバレていた。
二人がどう考えているのか分からないが、王女達の協力もあって、以前よりエリーゼ王女との距離は縮まっていた。( と、思う)
**
俺は十八歳になった。
この頃には、魔獣術師としての力は、テス師匠を超えていた。師匠とは別に各地を飛び回り、魔獣捕獲や討伐に参加する毎日を送っていた。
もう訓練は必要ないが、その日は久しぶりに師匠と会うために、城の訓練所に向かった。
「ジーク、この前の魔獣捕獲良くやったなぁ」
「ありがとうございます、テス師匠」
「師匠は止めろ、もうお前の方が力も、使役できる魔獣の数も多いんだからよ」
「はい、じゃあテスって呼びます」
そう言うとテス師匠は眉間に皺を寄せた。
「やっぱダメだ。今まで通り師匠と呼べ、じゃなきゃテス様だ」
「……テス様はねぇよ」
「そうか? 以外と似合う気がすんだけどな、ガハハ!」
くだらない話をした後、師匠と別れ、館へ戻ろうと廊下を歩いていた。
前方から、普段ここを通る事がないエリーゼ王女が、侍女達と歩いて来る。
「あら、ジークじゃない……もう、帰るの?」
「……はい」
あきらかに不自然な態度をとるエリーゼ王女。そんな彼女を、俺はジッと見つめた。その後ろでは、侍女達が俺を見て頬を染めている。
「……そう、これから何かするのかしら?」
「館に戻るだけです。今日はもう何もすることも無いですし……」
俺が見つめていると、エリーゼは持っていた扇子を広げ、口元を隠し目を逸らした。
「じゃあ、お茶を飲ませてあげるから一緒に来なさい」
「……えっ?」
( 俺を誘ってくれてる?)
「私が言っているのよ、来ないとは言わないでしょうね」
何だか、エリーゼ王女の頬が赤くなっている様に見える。……赤い扇子の色が映っているだけだろうか……
「はい! 行きます!」
「そんな大きな声を出さないで!」
**
エリーゼ王女に連れて行かれたのは、城の二階にあるサロンだった。
エリーゼ王女と俺が席に着くと、侍女達はお茶をテーブルに並べ、部屋を出て行った。
二人きりだ……。
今まで、ほんの数回お茶に呼ばれた事はあったが、それはマリアナ王女様か、ミリアリア王女様が誘ってくれた時だけだ。こんな風にエリーゼ王女から誘われたのは初めてだ……。
それに、随分久しぶりに顔を見た気がする。
二ヶ月ぶりか……
俺の前に座るエリーゼ王女は、静かに紅茶を飲んでいる。
長い睫毛が縁取る綺麗な緑色の目。揃えられた白く繊細な指先に思わず見惚れてしまう。(……また、キレイになった )
「あなた、凄いんですってね……お父様が誉めていらしたわ」
「……ありがとうございます」
「……何か欲しい物はあるのかしら」
「欲しい物?」
( 何故急に欲しい物を聞いてくるんだ?)
「お父様が、あなたに褒美を与えるそうよ。それで何か欲しい物はないか、何故か私に聞いてくる様に言われたのよ」
(……ああ、そうか)
エリーゼ王女は、優雅な仕草でカップを口に運ぶ。
「何でもいいのですか?」
「いいわよ」
「じゃ……じゃあ、エリーゼ王女様の事を今から『エリーゼ』と呼ぶ様にする、というのでもいいでしょうか?」
ぐっ、エリーゼ王女は紅茶を喉に詰まらせた。
ケホケホと咳込み胸を叩く。
「そ、それが褒美なの⁈ 」
彼女は目を見開き、俺を見た。
「はい、俺にとっては……この上なく」
俺は微笑み、彼女を見る。エリーゼ王女はすぐに目を逸らし、なんだか恥ずかしそうに言った。
「エリーゼと呼ぶのはダメよ……他の呼び方なら……構わなくてよ」
「じゃあ『エリー』?」
「それもダメ」
「リーゼ?」
「それもダメよ、私だとすぐに分かってしまうわ」
「エリーゼ王女様を呼ぶのに分かるとダメって……」
( どう言う事だよ?)
「じゃあ……『リー』でもいいですか?」
「……いいわ、それで」
「敬語を止めても?」
「どうしてよっ」
「俺、稀代の魔獣術師だから、それに歳上だし」
「訳が分からないわ…………勝手にしなさい」
それから俺は、エリーゼ王女様を『リー』と呼ぶ様になった。
『リー』と呼ぶたびに、ツンと拗ねた様な顔をする彼女はめっちゃ可愛い。
**
今から一年程前だ。
偶然なのか、廊下ですれ違ったリーが足を止め俺に聞いて来た。
「ねぇジーク、あなた城の中に魔獣を呼び出せる?」
「……何するつもり?」
「今度のお茶会で、オスカー様とエスター様にショーをしてもらおうかと思っているの」
「ショー?」
オスカーなら瞬殺だし、問題はないか……そんな軽い気持ちで引き受けた。
( リーの頼みなら断ったりしない )
「出来るけど……必ず剣を持たせて置くんだよ、約束だからね」
「……分かったわ」
こうして王妃主催のお茶会で魔獣を召喚した。
オスカーとエスター令息もいる。多少獰猛な魔獣だが問題ないなと思っていたが、何故か彼等は剣帯していなかった。
( リー、なんて事を……)
見ている側で、通りかかったメイドの女の子が魔獣に傷つけられてしまった。
「ちょ……⁈ 」
こんなはずじゃない! けれどこの距離では、俺に魔獣を消す事は出来ない。側に行かないと……
( ピカリムぐらいの物なら移動させる事は出来るけど ……)
エスター令息がその子を抱え、凄い速さで城の中へ走っていく。
侍従が剣を運んでくると、オスカーがあっという間に魔獣を始末した。すると、王妃様が魔獣を退治したオスカーに、リーとの婚約を迫っている。
( 何だ、それが目的だったのか……王妃様も知らないのか、あの事)
*
怪我をしたメイドの子は助かった。しかし、完治する前に治療室から逃げる様に出て行った。( 何か訳あり?)
その後、今度はマリアナ王女が頼みがある、と言ってきた。
「俺はリーの頼みしか聞かないよ」
「そんなに難しい事じゃないわ、お姉様の知り合いとしての貴方に頼みたいの」
「何それ、知り合い?」
「そうよ、だって友達でも恋人でも婚約者でもないでしょう? たまにしか合わない人なら知り合いでしょう?」
「……そうだな」
「たまにでも会えたり、話が出来る様にして上げたのは誰のお陰かしら⁈ 」
「君……かな」
「そうよね? だったら私の頼みも聞きなさい」
マリアナ王女に強要され、俺はエスターの『花』を攫うことになった。
「簡単に見つからない所にして! 魔獣も出して、その女が魔獣に食べられちゃってもいいから!」
「……分かった」
竜獣人の『花』を攫うか……マリアナ王女は後の事は考えていないのか? そんな事したら、エスター令息に嫌われるだろう⁈
それに……ヤツらに見つけられない所なんてあるのかよ。
( いや、逆にすぐ見つけられる所にしてやる )
この間の茶会での事に、内心腹が立っていた俺が思いついたのは『北の塔』だった。
十年ほど前、ガイア公爵が軽々と登っていったあの塔。結局俺は一度も登って見た事が無かった。
どんな所か見てやろう、と下見がてらに入った北の塔の最上階は……
「ココって……もしかして竜獣人が『花』を連れ込む部屋だったりして」
そこは女受けしそうな部屋だった。
敷いてある絨毯はフカフカで、寝転んでも痛くは無いだろう。無駄に置いてあるクッションはどれも柔らかくカラフルな布で作られている。
「はっ? なんで風呂まであるんだ? 下には備蓄倉庫まであんのか……ここ、住めるんじゃねぇの?」
あの時見たガイア公爵は…………俺はまだ子供だったから分からなかったが……そういう事か……
俺は北の塔の噂の真相を理解した。
エスター令息の力量は分からないが、二体ぐらいは余裕だろうと魔獣を飛ばし、透明な鎖で塔の周りに繋いだ。
**
色々あった結果、マリアナ王女は隣国の王子と結婚した。まあ、お似合いだと思う。
マリアナ王女が旅立ったその日、偶然を装って俺はリーと会った。
「行っちゃったね、マリアナ王女様」
「……バカな子よね」
彼女は、少しだけ寂しそうな顔をして、庭園に咲く花を見ながら話す。
「リーは、まだ……オスカーの事、諦めないの?」
「そうね、オスカー様に『花』が現れたら、諦めるしか無いわね」
「諦めてどうするの」
「どうもしないわ」
「結婚は? しないの?」
彼女ももう二十歳になった。この国ならば、とうに結婚していてもおかしくは無い歳だ。
「私は、いずれ王位を継がなければならないもの……お父様が決めた相手と結婚するわ」
諦めた様な顔をして、エリーゼは言う。
「……知らないの? 君もシャーロット嬢誘拐の件に関わっているから、王位継承権はミリアリア王女に移ったんだよ。だから結婚は、誰としてもいいんだってさ」
「そんなの……知らないわ」
「聞いてなかったんだろ?」
「…………」
「王様が決めた相手と結婚してもいいのなら……俺と結婚しない? 実はもう、王様から許可も貰ってる」
一瞬目を見開いたリーは、俺の顔をジッと見た。
「ジークは……相変わらず私が好きなのね」
「知ってたの?」
「……知ってたわよ。誰だって気づくでしょう、最初にあった頃は女の子みたいだったのに……髪型もオスカー様と同じ様にするし、いつも……ジークは分かり易いのよ」
「バレてたのか」
「オスカー様に『花』が現れてしまったなら……考えてもいいわ」
「それって……俺と結婚してもいいって事?」
「……そうね、お父様が良いと言っているのなら……いいわ」
「……本当? 本当に? 本当⁈ 」
「本当、本当ってうるさいわっ」
あの時、少し頬を染めたリーはそう言った。
言った‼︎
**
そして現在にもどる。
「リーはそんなにオスカーがいいの?」
「……ずっと好きだったもの」
「俺もずっと君が好きだ」
「…………」
エリーゼは拗ねた様に何も話さない。
「分かったよ、リー、ちゃんと話をしよう」
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