上 下
26 / 68

家まで待てない

しおりを挟む
「何してたの」

 気が付いた時には後ろから強く抱きすくめられていた。
耳元で聞こえるエスターの声は恐ろしい程冷たく鋭さを感じさせる。

「……何も」
つい素っ気ない返事をしてしまった。


「シャーロット」

 くるりと体を向けさせられ、指で顎を持ち目を合わせてくるエスターは、これまで見たことのない凍りつく様な青い瞳で私を刺す様に見下ろしている。

「ねぇ、あの男とキスしてた?」
「えっ?」
( ……あの男? カイン様と? する訳ない……! )

「……してない」
ちょっと怒って、彼から目を逸らした。


「シャーロットなぜ目を逸らすの? 本当は僕に言えない様なことしていたんじゃないの? さっきも……ドレス、はだけていたしね」

エスターは私からそっと手を離す。

「心配して来たのに……なぜ勝手に何処かへ行くの? どこにも行かないでと言っておいたのに家から出るし、僕の言う事聞けない?」

優しい口調で私を責め立てるエスターは……凄く怒っている様だ。


多分私が悪い……言う事を聞かずに、お茶会に出かけた。エスターに何も言わずにカイン様について此処まで来てしまった。
彼は居なくなった私を探して来てくれたんだろう……。

でも……


「……エスターは?」
「今は僕の話じゃないだろう⁈ 」
「エスターはマリアナ王女様の寝室に入ったんでしょう? 何も無かったの? 何をしていたか私に言えるの? あんなに匂いが付くほど近くにいたんでしょう⁈ さっきだって……」

次々と出てくる私の言葉に、エスターは驚愕の表情をしていた。


それに……私と見つめ合う彼の瞳は未だ青いままだ。

「私はあなたの『花』じゃないのよ……」
「……は? 何言って」
「マリアナ王女様が『花』なのよ」
「何でいつもマリアナが出てくるんだ」
( ……また…… )


〈 名前呼びなんてどうでもいいんだよ 〉

カイン様は言っていたけど……私はやっぱり気になる。気になるよ……


「マリアナって呼ぶのね、王女様の事エスターは」

「シャーロット?」

「私聞いていたの、エスターのマリアナ王女様を見る瞳が金色だったって、さっき私といた時はずっと青い瞳のままだったのに」

「それはマリアナの嘘だよ! そんな訳ないんだ。それより」
( ……ほら、また…… )

「エスター

背の高い彼を見上げてワザとそう呼んだ。

「だからその言い方はヤメ……」

「嫌? エスターって呼ばれるの嫌いなの?」

そう言っている私の目には涙が浮かび、頬を伝って流れ落ちていく。


「私も……あなたが王女様をマリアナって呼ぶのは……嫌なの」

「シャーロット……」

「ずっと嫌だった……」
エスターは私の涙を拭う様に頬を撫でていく。


「……ごめん」
 
 切なげに告げた彼の瞳が、瞬き一つで金色に変わった。
顔を近づけてもう一度「ごめん」と囁きながら、エスターは私に軽く啄む様なキスをした。

「私も、ごめんなさい」
「うん」
「それから……迎えに来てくれてありがとう」
「そんなの当たり前だ」

 エスターは優しい笑顔を見せた後、私の頭を抱え込み唇を重ねた。
「んっ…………!」
深く激しく吸いあげられる様な口づけに息苦しくて彼の胸を手で押した。
しかしその手はすぐに取られ後ろ手にされる。
はっと息を吸ったと同時に貪る様に口づけられた。

少しだけ唇を離すと
「僕に嫉妬させたシャーロットが悪い」
「あっ……」
そのまま覆い被さる様に彼はまた唇を重ねた。
甘く痺れる口づけに力が抜けそうになる。
エスターは唇を離し、突然ヒョイと私を横抱きにした。

「エスター?」
「……家まで待てない」

「…………えっ?」

 ダンッ!と地面を蹴ったかと思うと、彼は私を抱え、あの北の塔へと向かった。

 さっきまで空を茜色に染め上げていた太陽はその姿を隠し、暗くなっていく空には星が数を増していた。

 普通の人では簡単には入れないと云われるその場所に、彼はいとも容易く私を抱えたまま登って行く。
 何故か塔の窓は開いていて、そこから中へと入り込むと、あっという間にクッションの谷間に組み敷かれた。
金色の瞳のエスターが激しい欲情を孕み私を見据える。

「……ちょっと待って、話はまだ」
「シャーロット、君が求めたんだ。金色の瞳の僕が欲しいと」
「違っ、そんな事は言って無い」

エスターは何も言わずに蕩けるような金色の瞳で見つめてくる。

……ああ、そうだった……この瞳で見つめられると……

「今朝、約束したからね。それにさっきサラに三本貰ってきたから……二人きりでじっくり話合おうか……シャーロット」

サラ様に……三本って、まさか……⁈

 彼の端麗な顔に欲望が色濃く浮かぶ
目を見開く私を膝立ちで見下ろし、満足そうに口角を上げるエスター。
その手には見覚えのある小瓶が握られていた。
それを少し離れた場所へと置くと
「そうだ……さっきから嫌な匂いがするんだった」
エスターは近くに置いてあった布を取り、私の指をゴシゴシと拭きあげた。

……そこはさっきカイン様に軽くキスをされたところ……

拭き上げると、パクッと指を口に含む
「えっ、エスター?」

 指を彼の舌が絡め取る様に舐め上げていく。
一本一本ゆっくりと舐められるその感覚に体は粟立ち、声が漏れる。

「やっ、やめ……」
「僕のなのに……猫に舐められてる……」

ダメだよ、とエスターは手のひらに口づけてそのまま腕の内側につっと舌先を這わせていく。
「やっ……エスター……」
くすぐったい様なもどかしいその刺激に身を捩ると、肩口を強く吸われた。
「やっ……あっ……」

「ああ、そうだ」

 知らない男に触られたドレスは要らない、とその場で真紅のドレスは引き裂かれ、窓から投げ捨てられた。
下着姿になったけれど、エスター相手に防御魔法が発動するはずもなく、そのまま下着も簡単に取り払われてしまう。
 肢体を見下ろす彼の目は獣欲にまみれているようだ。
おもわず両手で前を隠すと、その手首は彼に捕らえられ開かされた。
彼の顔が胸に近づき熱い唇が落とされる。
煌めく銀の髪が首筋に触れる。
私の唇から漏れ出す甘くせつない声は、次々と彼の中へ閉じ込められていった。

「もう二度と『花』じゃないなんて言わせない……」

身体中隙なく口づけられ、肌の薄い部分には花の様な痕が無数に散らされる。
「やぁっ……もう……」
体中を甘く痺れる感覚が襲ってくる。
耐えられないと首を振る私の頬をそっと撫で、エスターはさらに深いところまで入り込んでいく。

「シャーロット、もっと僕を欲しがって……」
「もう……これ以上は……」
 ( お願い……休ませて )

 そうねだる様な声を出した私に、彼は口移しで回復薬を飲ませてくる。

「ああ、僕も少し飲んじゃった」
「…………!」
( エスターは飲まなくてもいいから! )

 彼の手によってドロドロに蕩けさせられたニ日後。
そう言えば、何のジュースで酔っていたのかと聞かれ、ぶどうジュースだと答えると、エスターは私が寝ている間に何処からか手に入れてきて……飲まされてしまった。

確かカイン様は薬も影響していると言っていたのに……。

「どーしてっ?」
「あー……かわいいよ、その話し方も、甘えた声も可愛いよシャーロット」
「いやっ、エシュターのいぢわるっ」
「うん、そうだね! もっとイジワルしてあげる」

 結局、私はぶどうジュースで酔ってしまう体質のようだ。

 妖艶な笑みを浮かべる金色の瞳のエスターは、そのまま私を五日も北の塔へ閉じ込めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・

青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。 婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。 「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」 妹の言葉を肯定する家族達。 そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。 ※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。

告白さえできずに失恋したので、酒場でやけ酒しています。目が覚めたら、なぜか夜会の前夜に戻っていました。

石河 翠
恋愛
ほんのり想いを寄せていたイケメン文官に、告白する間もなく失恋した主人公。その夜、彼女は親友の魔導士にくだを巻きながら、酒場でやけ酒をしていた。見事に酔いつぶれる彼女。 いつもならば二日酔いとともに目が覚めるはずが、不思議なほど爽やかな気持ちで起き上がる。なんと彼女は、失恋する前の日の晩に戻ってきていたのだ。 前回の失敗をすべて回避すれば、好きなひとと付き合うこともできるはず。そう考えて動き始める彼女だったが……。 ちょっとがさつだけれどまっすぐで優しいヒロインと、そんな彼女のことを一途に思っていた魔導士の恋物語。ハッピーエンドです。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタにも投稿しております。

取り巻き令嬢Aは覚醒いたしましたので

モンドール
恋愛
揶揄うような微笑みで少女を見つめる貴公子。それに向き合うのは、可憐さの中に少々気の強さを秘めた美少女。 貴公子の周りに集う取り巻きの令嬢たち。 ──まるでロマンス小説のワンシーンのようだわ。 ……え、もしかして、わたくしはかませ犬にもなれない取り巻き!? 公爵令嬢アリシアは、初恋の人の取り巻きA卒業を決意した。 (『小説家になろう』にも同一名義で投稿しています。)

『えっ! 私が貴方の番?! そんなの無理ですっ! 私、動物アレルギーなんですっ!』

伊織愁
恋愛
 人族であるリジィーは、幼い頃、狼獣人の国であるシェラン国へ両親に連れられて来た。 家が没落したため、リジィーを育てられなくなった両親は、泣いてすがるリジィーを修道院へ預ける事にしたのだ。  実は動物アレルギーのあるリジィ―には、シェラン国で暮らす事が日に日に辛くなって来ていた。 子供だった頃とは違い、成人すれば自由に国を出ていける。 15になり成人を迎える年、リジィーはシェラン国から出ていく事を決心する。 しかし、シェラン国から出ていく矢先に事件に巻き込まれ、シェラン国の近衛騎士に助けられる。  二人が出会った瞬間、頭上から光の粒が降り注ぎ、番の刻印が刻まれた。 狼獣人の近衛騎士に『私の番っ』と熱い眼差しを受け、リジィ―は内心で叫んだ。 『私、動物アレルギーなんですけどっ! そんなのありーっ?!』

大好きだけど、結婚はできません!〜強面彼氏に強引に溺愛されて、困っています〜

楠結衣
恋愛
冷たい川に落ちてしまったリス獣人のミーナは、薄れゆく意識の中、水中を飛ぶような速さで泳いできた一人の青年に助け出される。 ミーナを助けてくれた鍛冶屋のリュークは、鋭く睨むワイルドな人で。思わず身をすくませたけど、見た目と違って優しいリュークに次第に心惹かれていく。 さらに結婚を前提の告白をされてしまうのだけど、リュークの夢は故郷で鍛冶屋をひらくことだと告げられて。 (リュークのことは好きだけど、彼が住むのは北にある氷の国。寒すぎると冬眠してしまう私には無理!) と断ったのに、なぜか諦めないリュークと期限付きでお試しの恋人に?! 「泊まっていい?」 「今日、泊まってけ」 「俺の故郷で結婚してほしい!」 あまく溺愛してくるリュークに、ミーナの好きの気持ちは加速していく。 やっぱり、氷の国に一緒に行きたい!寒さに慣れると決意したミーナはある行動に出る……。 ミーナの一途な想いの行方は?二人の恋の結末は?! 健気でかわいいリス獣人と、見た目が怖いのに甘々なペンギン獣人の恋物語。 一途で溺愛なハッピーエンドストーリーです。 *小説家になろう様でも掲載しています

【完結】男の美醜が逆転した世界で私は貴方に恋をした

梅干しおにぎり
恋愛
私の感覚は間違っていなかった。貴方の格好良さは私にしか分からない。 過去の作品の加筆修正版です。

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

麗しの王様は愛を込めて私を攫う

五珠 izumi
恋愛
王様は私を拐って来たのだと言った。 はじめて、この人と出会ったのはまだ、王様が王子様だった頃。 私はこの人から狩られそうになったのだ。 性格に問題がある王子が、一目惚れした女の子を妻に迎える為に王様になり、彼女を王妃にしようとするのですが……。 * 一話追加しました。

処理中です...