ちょっと不運な私を助けてくれた騎士様が溺愛してきます

五珠 izumi

文字の大きさ
上 下
20 / 68

どこにも行かないで

しおりを挟む
 エスターが魔獣討伐しごとに行くようになって一週間が過ぎた。



ーーーーーー*


 
 朝日に煌めく銀の髪、目覚めればそこには、青い目のエスターが凄艶な顔で私を覗き込んでいる。
( はぁ……なんてカッコいいの……)

「おはよう、シャーロット」
彼は私の頬に軽いキスをして、優しく髪を撫でる。

「……エスターおはよう、もう起きてたの?」

「うん、シャーロットの寝顔を見ていたかったから」
「うっ……」
( 私の寝顔……おかしくない?)


 エスターは今、沿岸に出た魔獣討伐に行っている。魔獣は直ぐに処分されたが、その後、新たに見つかった魔獣の巣穴の処理や後片付けで忙しくしていた。

 昨夜も帰りは遅く……本来なら、彼方で寝泊まりをしながら終わらせるらしいのだが、彼だけは毎日帰って来ていた。

( 一緒に行っているオスカー様は、ずっと向こうにいらっしゃるのに……いいの? )



ふと髪を撫でていたエスターの手が止まった。

「シャーロット……」

エスターはジッと私の目を見つめる。
( これは……まさか…… )


 

 彼の瞳は、今はまだ青い。

 私達が結ばれてから二週間程過ぎた頃、エスターは瞳の色をコントロール出来る様になっていた。
 普段の青い瞳も、心を奪われるほど美しいのだけれど、『わたし』にだけ向けられる金色の瞳で見つめられると、彼の事以外何も考えられなくなってしまう。

……それを、エスターは巧みに操るようになった。


ふっと微笑んだエスターは何故か目を閉じる。

「エスター、やっぱり眠いの?」
「……いや」

そう言ってゆっくりと開かれた彼の瞳は金色に輝いていて……

「シャーロット……愛してる」
「……え……」

 エスターの顔が近づき唇が重ねられる。
彼の舌先が私の唇を開きそのまま奥深く入ってくる。髪を撫でていた温かな手は、胸元へと降りていき、薄いネグリジェの上からやわ柔と胸を包み込んだ。
「……はっ……あ………っ……」
切なく漏れ出す吐息混じりの嬌声が、余計に彼を刺激したのか、エスターの手の動きは止まることを知らない。

「このまま続けていい?」

情欲を孕んだ甘く掠れた彼の声に、私は思わず頷きかけた。

( ダメだ……あの瞳で見つめられると……でも、朝なのに…… )



ドンドンドンッ!

大きな音を立てて部屋の扉が叩かれた。

「エスター様!今日もお仕事ですからねっ!大概になさい」

 カミラさんの声が聞こえて、恥ずかしくなった私は真っ赤になって頬を押さえた。
 エスターは、まだ金色の目のままそんな私を見てクスッと笑い、髪にキスを落とす。

「……仕方ない支度するか、続きは帰ってからね」そう言うと、出掛ける支度をする為に部屋から出て行った。




ーーーーーー*




 レイナルド公爵家は騎士団を持っている。
同じく竜獣人のガイア公爵家の持つ騎士団と王立騎士団とで、王国を魔獣や侵略者から守っていた。
 現王とヴィクトール様、ガイア公爵閣下は親友なのだとエスターが話をしてくれた。
色々と経緯があるようだけれど、私には分からない。

 オスカー様とエスターは15歳になると騎士団に入った。
 ヴィクトール様は、公爵の息子だからと優遇は決してせず、他の騎士達と同等に扱っている。従騎士から始まり、今オスカー様は隊長に、エスターは副隊長になっているのだと教えてくれた。それ故に、二人は公爵令息とはいえ率先して討伐へ向かう事になる。

……それに二人は力も強く、体力も底なしだ。




ーーーーーー*




「シャーロット……絶対どこにも行かないで……」
「はい、行きません」

 先程からエスターは、玄関で私の手を握り青い瞳を潤ませている。

 毎朝繰り返されるこのやり取りを、ヴィクトール様とローズ様が呆れ顔で見ていた。

「やっぱり心配だ……置いて行けない。父上、僕はやはり」
「シャーロットは私達が守るから大丈夫だ、さっさと行け」
「シャーロット……」
「行ってらっしゃいませ、私ちゃんと待っていますから」

 エスターは、後ろ髪を引かれるように馬に乗り、迎えにきた騎士と共に沿岸地域へと向かった。



 今、私はエスターと共にレイナルド公爵家に住んでいる。
ヴィクトール様はエスターに、二人でここから少し離れた公爵家の持つ屋敷を渡すから、そこに住むといいと言って下さったが、昼間私を一人にしては置けないと、彼が心配したのだ。

 公爵家ならば、ヴィクトール様が大抵在宅しており、その『花』である元騎士のローズ様も居るから安心なのだとエスターは言っていた。
 ローズ様は「元騎士と言っても訓練の時にヴィクトールに出会って、そのまま連れて行かれちゃったから、名ばかりよ」と笑っていた。


 私はエスターがいない間、ローズ様やカミラさんに色々な事を教えて貰っていた。
公爵家の事、竜獣人の事、『花』の事。
 その他に礼儀作法やダンスなど、しばらくの間メイドとして働いていた私には覚える事がたくさんあった。

「そんなに頑張らなくていいのよ、シャーロットちゃんはただ、エスターに愛されていればそれで充分なのよ」
「それで、いいのでしょうか……」


 ここに来てからというもの、私は何もしていない気がする。
 

 荒れていた手も蜜月の間に、スッカリ綺麗になっていた。

( ……それに、自分で言うのも何だけど……少しだけ綺麗になれた気がする……ほんの少しだけ ) 





ーーーーーー*




 その招待状は、エスターが出掛けた後、ヴィクトール様が急遽、王都の端にいる騎士隊長に呼び出され出掛けられたタイミングで届いた。


「エリーゼ王女様からですか……」

 突然のお茶会の招待だった。
それも本日昼、16歳から18歳迄の伯爵位以上の令嬢限定。

「怪しすぎるわ、それにコレは半ば強制的な招待状だわ、出席しなければ……罰金⁈ それもこんなに高額な……あり得ない、何なのよコレは!」

ローズ様は招待状を握り、立腹していた。

「伯爵以上なのに、何故私にも届けられたのでしょうか?」

 私はまだエスターとは婚約している身だ。だから爵位は男爵なのだけど……。

「レイナルド公爵の婚約者だから特別だと書いてあるわ、困ったわね。エスターがいない時を狙ったのかしら……ヴィクトールも昼まで戻れないし……そうだ、お金払ってしまいましょう!」

「だ、ダメです!お金払うなんてやめて下さい」
 ( これ以上、私にお金を使わせられない!)
レイナルド公爵家からは私の高額な治療費と、ディーバン男爵家に支度金として多額のお金を支払って貰っている。( 叔父夫婦からはウエディングドレスが仕立てられて来る予定だが……それだけなの?) 
エスターにも、ドレスを何着も買ってもらっている。



「でも……」
「きっと大丈夫です。お城ですし、メイドに知り合いもいますから、何かあれば助けて貰えると思います。それに他にもたくさんの御令嬢が来られる様ですし、お茶会と書いてありますから、心配する様な事は何もありませんよ」

私はローズ様を安心させようと微笑んだ。

「きっと私、エスターに怒られるわよ……」

 急遽呼び出されたお茶会に、ローズ様はエスターの名前入りのドレスを着て行くようにと言われた。
( 古代文字を読める人がいないといいけど……素敵なドレスだけど知ってしまったら、ちょっと恥ずかしい……)


 招待状には装飾品は一切禁止の旨が記載されていた。髪型も決まっており、不思議に思ったがその通りにする。

 ローズ様の心配する声を後にして、私は城へと向かった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

廃妃の再婚

束原ミヤコ
恋愛
伯爵家の令嬢としてうまれたフィアナは、母を亡くしてからというもの 父にも第二夫人にも、そして腹違いの妹にも邪険に扱われていた。 ある日フィアナは、川で倒れている青年を助ける。 それから四年後、フィアナの元に国王から結婚の申し込みがくる。 身分差を気にしながらも断ることができず、フィアナは王妃となった。 あの時助けた青年は、国王になっていたのである。 「君を永遠に愛する」と約束をした国王カトル・エスタニアは 結婚してすぐに辺境にて部族の反乱が起こり、平定戦に向かう。 帰還したカトルは、族長の娘であり『精霊の愛し子』と呼ばれている美しい女性イルサナを連れていた。 カトルはイルサナを寵愛しはじめる。 王城にて居場所を失ったフィアナは、聖騎士ユリシアスに下賜されることになる。 ユリシアスは先の戦いで怪我を負い、顔の半分を包帯で覆っている寡黙な男だった。 引け目を感じながらフィアナはユリシアスと過ごすことになる。 ユリシアスと過ごすうち、フィアナは彼と惹かれ合っていく。 だがユリシアスは何かを隠しているようだ。 それはカトルの抱える、真実だった──。

【完結】魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜

光城 朱純
ファンタジー
魔力が強いはずの見た目に生まれた王女リーゼロッテ。 それにも拘わらず、魔力の片鱗すらみえないリーゼロッテは家族中から疎まれ、ある日辺境伯との結婚を決められる。 自分のあざを隠す為に仮面をつけて生活する辺境伯は、龍を操ることができると噂の伯爵。 隣に魔獣の出る森を持ち、雪深い辺境地での冷たい辺境伯との新婚生活は、身も心も凍えそう。 それでも国の端でひっそり生きていくから、もう放っておいて下さい。 私のことは私で何とかします。 ですから、国のことは国王が何とかすればいいのです。 魔力が使えない私に、魔力石を作り出せだなんて、そんなの無茶です。 もし作り出すことができたとしても、やすやすと渡したりしませんよ? これまで虐げられた分、ちゃんと返して下さいね。 表紙はPhoto AC様よりお借りしております。

【完結】お見合いに現れたのは、昨日一緒に食事をした上司でした

楠結衣
恋愛
王立医務局の調剤師として働くローズ。自分の仕事にやりがいを持っているが、行き遅れになることを家族から心配されて休日はお見合いする日々を過ごしている。 仕事量が多い連休明けは、なぜか上司のレオナルド様と二人きりで仕事をすることを不思議に思ったローズはレオナルドに質問しようとするとはぐらかされてしまう。さらに夕食を一緒にしようと誘われて……。 ◇表紙のイラストは、ありま氷炎さまに描いていただきました♪ ◇全三話予約投稿済みです

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

取り巻き令嬢Aは覚醒いたしましたので

モンドール
恋愛
揶揄うような微笑みで少女を見つめる貴公子。それに向き合うのは、可憐さの中に少々気の強さを秘めた美少女。 貴公子の周りに集う取り巻きの令嬢たち。 ──まるでロマンス小説のワンシーンのようだわ。 ……え、もしかして、わたくしはかませ犬にもなれない取り巻き!? 公爵令嬢アリシアは、初恋の人の取り巻きA卒業を決意した。 (『小説家になろう』にも同一名義で投稿しています。)

【完】嫁き遅れの伯爵令嬢は逃げられ公爵に熱愛される

えとう蜜夏☆コミカライズ中
恋愛
 リリエラは母を亡くし弟の養育や領地の執務の手伝いをしていて貴族令嬢としての適齢期をやや逃してしまっていた。ところが弟の成人と婚約を機に家を追い出されることになり、住み込みの働き口を探していたところ教会のシスターから公爵との契約婚を勧められた。  お相手は公爵家当主となったばかりで、さらに彼は婚約者に立て続けに逃げられるといういわくつきの物件だったのだ。  少し辛辣なところがあるもののお人好しでお節介なリリエラに公爵も心惹かれていて……。  22.4.7女性向けホットランキングに入っておりました。ありがとうございます 22.4.9.9位,4.10.5位,4.11.3位,4.12.2位  Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.  ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)

【完結】元お飾り聖女はなぜか腹黒宰相様に溺愛されています!?

雨宮羽那
恋愛
 元社畜聖女×笑顔の腹黒宰相のラブストーリー。 ◇◇◇◇  名も無きお飾り聖女だった私は、過労で倒れたその日、思い出した。  自分が前世、疲れきった新卒社会人・花菱桔梗(はなびし ききょう)という日本人女性だったことに。    運良く婚約者の王子から婚約破棄を告げられたので、前世の教訓を活かし私は逃げることに決めました!  なのに、宰相閣下から求婚されて!? 何故か甘やかされているんですけど、何か裏があったりしますか!? ◇◇◇◇ お気に入り登録、エールありがとうございます♡ ※ざまぁはゆっくりじわじわと進行します。 ※「小説家になろう」「エブリスタ」様にも掲載しております(アルファポリス先行)。 ※この作品はフィクションです。特定の政治思想を肯定または否定するものではありません(_ _*))

関係を終わらせる勢いで留学して数年後、犬猿の仲の狼王子がおかしいことになっている

百門一新
恋愛
人族貴族の公爵令嬢であるシェスティと、獣人族であり六歳年上の第一王子カディオが、出会った時からずっと犬猿の仲なのは有名な話だった。賢い彼女はある日、それを終わらせるべく(全部捨てる勢いで)隣国へ保留学した。だが、それから数年、彼女のもとに「――カディオが、私を見ないと動機息切れが収まらないので来てくれ、というお願いはなんなの?」という変な手紙か実家から来て、帰国することに。そうしたら、彼の様子が変で……? ※さくっと読める短篇です、お楽しみいだたけましたら幸いです! ※他サイト様にも掲載

処理中です...