ちょっと不運な私を助けてくれた騎士様が溺愛してきます

五珠 izumi

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竜獣人の体力は

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 エスターを待つ様にと言われた隣の部屋は、壁掛けの明かりが灯され、室内を仄かに照らしていた。

 ここは彼の部屋なのだろうか……青を基調としたカーテンや絨毯が敷いてあり、壁には剣が掛けてある。作り付けの本棚は半分程埋まっていた。家具はダークウッドで統一されていて、部屋の中央には、一人掛けのソファーに丸い小さめのテーブルが置いてある。

 窓際に大きめのベッドとサイドテーブルがあり、その上に、サラ様から渡された回復薬入りの箱が置いてあった。

( 回復薬はエスターの物だったのね、そうか……彼は騎士だから。魔獣討伐は大変なお仕事だもの、疲れるよね……)
 
 私はベッドの近くの出窓から外を眺めて彼を待つことにした。

 この部屋は三階にあり、離れの様になっている。本邸は一つ下の渡り廊下の先に見えていた。さすが、レイナルド公爵邸だ、まるでお城の様に広い。

昨日まで、ディーバン男爵家でメイドをしていた私が、今ここにいるなんて、信じられない……。
( それも、エスターの『花』なんて……)


 さっき、カミラさんはエスターは怒らないと言ったけれど……怒ったよね?
北の塔で、名前呼んでって子供みたいに怒ってた。

名前……


「エスター……」

「うん」

不意に後ろから抱きすくめられた。

「ビックリした……」
「ごめん、驚かせるつもりじゃなかった」

急いで来たのだろうか、まだ濡れた銀の髪が私の肩に触れる。

「シャーロット、何か僕に聞きたい事があるんだって?」
「どうして……それ」
「さっきカミラに会って言われた、ちゃんと話しろって」

カミラは母上と同様の存在で、子供の頃はよく怒られたんだ、そう柔らかく話すエスター。

まだ青い瞳のエスターが、窓ガラス越しに私を見つめている。
( なんてカッコいいんだろう……)

「シャーロット、何か不安がある?」

彼は私の髪にチュッと音を立ててキスを落とした。

「話して、ちゃんと答えるから」

( 本当に聞いてもいいの?)

「……マリアナ王女様と」
「えっ?   マリアナ⁈ 」

エスターは驚いて私を抱く腕を離した。

(『マリアナ』? 呼び捨て?  やっぱりそういう関係なの?)


「今日……何してたの……?」
疑ってしまう私の声は、少し低くなった。

「今日?   いや、何も……特には」

何でも答えると言ったのに、エスターは何故か口籠る。それに上擦った様な声……。

(……やっぱり二人は……)


聞くのが怖くなった私は、彼から少し離れて背を向けた。


「シャーロット、どうしたの?   怒ってるよね?」

エスターが私の前に来て顔を覗き込む。
目と目が合い、彼の青かった瞳はスッと金色に変わった。


「キス……」
( 聞きたかった事……)

「キス?   え……する?」

彼の顔がスッと近づいてきて、私は手で口を覆った。

「違うのっ……エスターが、キス……慣れていたから……」
「慣れてた……?」
「もしかして、ううん……経験あるよね、私初めてだったから」
「初めて……」

「エスターはマリアナ王女様と……キスした事あるんだろうなって」

「何でマリアナ……」

( ……また、呼び捨てた……)

「本当は……二人は付き合ってたんじゃないの?」
「違うよ、そんなんじゃ無い」
「だって……」

私は、やはり聞かなければよかったと後悔していた。彼が、困った様な顔をしている。


「はぁ………」
エスターは深くため息を吐くと、私の手を取り、指先にキスをした。

「キス……よかった?」
クスッと悪戯にわらって、今度は手のひらにキスをする。

「竜獣人はね、目が良いんだよ。それでね、レオンのやり方をしっかり見てたから、下手だと思われたくないし……」

彼は目を細め、私をそっと抱きしめた。

「そうか……シャーロットは嫉妬してるんだね……」
「……そ、それは」
「王女とは何も無いよ、ある訳ない……でも、こうして可愛く嫉妬する君を見れた訳だ」
「……でも」

「どうしたら、僕が愛してるのは君だけだと分かってもらえるかな……」

 そう話すエスターの私を見つめる瞳は、欲を孕んでいるように見えた。

 いつの間にかガウンが脱がされ、パサッと床に落ちた。そのままスッと横抱きにされベッドの縁に座らされる。

横に座ったエスターに、髪のリボンもスルリと解かれた。私の髪に彼の長い指が通る。

「ねぇ、シャーロット」
「はい……」
エスターは手櫛で髪をゆっくりと梳いていく。

「僕のこと、好き?」

髪を一房持ち上げそこにキスをしながら彼は艶のある目で私を見つめる。

「……好き……です」

 エスターは嬉しそうに微笑むと、私の頬に手を添えた。

 蕩ける様な金色の双眸に捕らえられ動けない。
頬を撫でる彼の手の指先が、今度は首筋をつうっと這うように鎖骨へと降りていく。
ネグリジェの胸元に結ばれていた細いリボンが、いつの間にか解かれていた。

「初めてだよね?」

「……なっ何が……?」
エスターは、くすっと笑うと「良かった」と小さな声で言った。

「僕もそうだから、比べられたら何か嫌だし……」

「比べるって……」

「シャーロット……」

「は……はい」

怖いほどの欲望に満ちた視線で、私の体は粟立ち、微かに震えてしまっていた。

「なるべく優しくするけど……自信ないんだ。今まで我慢していたから……もう、君が欲しくて仕方ない……」

エスターは静かに私をベッドに倒して、嬉しそうに笑った。

「少し震えてるね……大丈夫だから、僕に委ねて……」

エスターの優しく甘いキスが髪に、額に、頬に、チュッと小さな音を立てながら落とされていく。

「全部、僕のものになって……」

 彼は理性を失わせる様な、甘く切なげな声で私の耳元に囁いた。
そのまま首筋に這わされた唇は、仰反る私の喉元を少し強く吸い上げる。

「……はぁ……っ」

切なげに吐息を漏らす私の唇に、彼は優しく唇を重ねた……



静かな部屋の中には、
二人の甘い声だけが響いていた。


 



 それから直ぐに、私はサラ様がくれた回復薬の意味を知ることになる。

 竜獣人の体力は無尽蔵で、彼は疲れる事を知らなかった。その上『花』と出会った竜獣人は更に力が増すらしい。
回復薬は私の物だったのだ……。

 食事も入浴も、全てエスターが側に付いて何もかも世話を焼いてくれる。私はただされるがまま、ひと時も離れる事を許さないエスターの、深い愛に溺れていた。


 そのまま二ヶ月が過ぎ、さすがにこのままでは私の体力がもたないと、ヴィクトール様が部屋の前に来てエスターに出てくる様に声を掛けた。
……が、私との時間を邪魔をされたエスターは、ヴィクトール様を扉ごと吹き飛ばしてしまった。

「やり過ぎだ! この、ばか息子!」
「僕のシャーロットに近づくな!」

 ヴィクトール様とエスターが邸を壊さんばかりの攻防を繰り返している中、私はローズ様とカミラさんに部屋から連れ出してもらった。

もう、回復薬も無く、眠ることも碌に出来ず……私の体力は限界だった。城から駆け付けてくれたサラ様が、全身に治癒魔法を施してくれた。

「だから言ったでしょう! 優しくしなさいって‼︎ 」


サラ様に怒られたエスターは、一日私と会う事を禁止されていたらしい。

 私はグッスリ眠っていて知らなかったのだけれど。






ーーーーー*




……シャーロットに今日は会えない。
サラが、一日会ってはいけないと僕に言った。


二ヶ月も片時も離れずに過ごしていたのに……。

……耐えられない。

シャーロット、君は平気なの?

「シャーロット……」

そっと部屋を出ようとした僕の服が引っ張られた。

「エスター、何処へ行こうとしてるんだよ」
「……ちょっと……僕の部屋へ」
「お前の部屋は、お前達が壊しただろう⁈  」

オスカーに止められて、仕方なく椅子に腰掛ける。

 昨日、父上が出てくる様に声を掛けて来て、僕は扉ごと「邪魔をするな!」と蹴り上げた。『花』と出会う事で力が増すのは身を持って分かっていたが、『花』と結ばれた事で更に何倍も力が増すとは知らなかった。あの父上を吹っ飛ばす程強くなっているとは……自分でも驚いている。

結局、父上と争っている間に、僕のシャーロットは母上とカミラに連れ出されてしまった。
それで余計に苛立った僕と父上が争いをした結果……今、僕の部屋は住める状況では無くなっている。

僕達の甘い思い出の詰まった部屋は、見るも無惨な状態だ。

そして今日は彼女と会う事を禁止され、僕が会いに行かない様に、オスカーに監視されていた。

 今の僕ならオスカーを振り切ることは簡単だが、それをしたら更に会えなくなりそうだ。

我慢するしかない。

シャーロットがどの部屋に居るかも教えてくれない……が、僕は分かっている。
感じるんだ……。だから我慢する。


オスカーは呆れたように僕を見ていた。

「エスター、お前さ彼女に『結婚しよう』とちゃんと伝えているのか?」
「何で? 今更」
「いや、大事なことだろ?」

そうか……好きだとか愛してるは毎日の様に伝えたけど……


 僕とシャーロットは既に婚約をしている。僕達が部屋に籠っている間に、父が手続きを済ませてくれていた。
直ぐに結婚したいけれど、この国の貴族は婚約をして更に三ヶ月過ぎないと結婚出来ない決まりになっていた。


「結婚、言った……ん? ディーバン男爵には婚姻させてと言ったけど……」
「うわーっ、それでいいのかよ⁈ 」
「……後でちゃんと言う。彼女も分かってくれる筈だ。オスカーも『花』に出会えばわかるよ、とにかく余裕なんてなくなるんだ」
「……そういうものか?」
「ああ、そうだよ」

ふうん、と素っ気なく言ったオスカーの顔は、少し羨ましそうにしている様に見えた。


「ああ、そうだ。明日から沿岸の魔獣討伐に行くからな」
「え、僕も?」
「当たり前だろ、お前二ヶ月も休んでるんだぞ、獣人の蜜月休暇は大体、ひと月なんだよ。竜獣人だけは半月足してあるけど、それでもお前は長すぎたんだ」

「……全然足りない……」
「本気か?」
「足りないよ……」




ーーーーーー*




次の日から、僕は魔獣討伐しごとへ行くことになった。
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