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飛びました

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 ああ、私はやっぱり運が悪い。

 絶望的な状況の中、シャーロットは冷静にそう思っていた。

 彼女は今、魔獣に背中を引き裂かれ空中を飛んでいる。

 とんでもなく痛いはずなのに何も感じない体。飛び散る血、何故かゆっくりと時が過ぎていっている気もする。


 こんな状況下なのにちょっとだけ良かった事がある。

 私を助けようと必死な顔で手を伸ばしている銀髪の美少年を見れた事。

 人生最後に目に映ったのが美少年で良かった。


 だってめちゃくちゃカッコいい……。

 シャーロットはそう思い目を閉じた。


ーーーーーー*


「うわああっ! 魔獣だぁっ!」
「きゃああっ!」

 晴れ渡る空の下、アルバ王国では三人の姫の婚約者を決めるのが主な目的であるパーティーが城の庭園で開かれていた。

 その会場上空に、蜥蜴に翼の生えたような姿の魔獣が現れたのだ。城には結界が張ってあり、魔獣など入るはずも無かったのだが、何故かそれは現れた。

 庭園には多くの若い令息、令嬢達がいる。


 その中に魔獣を見据える青い目、銀の髪の二人の兄弟がいた。

「エスター、剣は持ってない……よな」
「侍従に預けています、オスカー兄さんは?」
「俺もだ」

 そう話すと二人はとりあえず魔獣めがけて走り出した。

 オスカーとエスター兄弟は、竜獣人で王国最強騎士と名高いヴィクトール・レイナルド公爵の息子達だ。

 本来なら二人はパーティーなど好まないし、ましてや王女の婚約者など興味もなかった。だが、王女達は二人を好ましく思っており、それを知る王がレイナルド公爵に是非参加させて欲しいと直々に頼み込んで来たのだ。
 今日二人は、父親の命で仕方なく参加していた。

 騎士である二人は普段、剣を携帯している。だが、この日は控室に待つ侍従に預けていた。
 その内、優秀な侍従が騒ぎを聞きつけ持ってくるだろう、そう考え二人は空から襲いかかる魔獣の気を自分達へ引きつけ、攻撃を交わしながら人のいない庭園の奥へと誘き寄せた。

 庭園の端まで来た時、魔獣がエスター目掛けて突撃して来た。

「バカなヤツ」

 ひらりと攻撃を交わしたその先、生垣の向こう側にある細道を、洗濯カゴを持って歩くメイドがいた事にエスターは気付いていなかった。

「危ないっ!」

 エスターがその子に向け叫んだ時には、魔獣の長く鋭い爪が生垣を突き抜け、彼女の体を空高く舞い上げた。

 背中を切り裂かれ、力なく堕ちていくそのメイドを、オスカーが手を伸ばし受け止めている。

 魔獣は一旦上空へと飛びあがりこちらを見据えている。そこへようやく城の近衛騎士達が弓を携えやって来て、一斉に魔獣へ向け矢を放った。
 しかし、矢は魔獣の口から吐き出された炎により一瞬で焼け落ち塵となった。

「エスター! この子を治癒魔法士の所へ! 魔獣は俺が仕留める!」

 血まみれの女の子をエスターに抱き抱えさせると、オスカーは侍従が持ってきた剣を片手に地面を蹴った。

 空から襲いかかる魔獣。オスカーは口から吐き出された炎ごと、剣で真っ二つに切り裂いていく。魔獣はゴアアーッという呻き声を上げ、剣から発する聖なる炎に身を焼き消された。

 魔獣を倒したオスカーにそこに居た人が々集まり、賞賛を述べ始めた。大変な事が起きたにも関わらず、王妃はそんな事はどうでもいいと云うように、彼に第一王女エリーゼの婚約者になって欲しいと言い出した。

(コイツら何を言ってるんだ? 今、一人の女の子が死にかけているんだぞ⁈)

 オスカーは言い寄る王妃やエリーゼ王女を腹ただしく思いながら、あの子の怪我が気になるから様子を見に行く、と話す。

 すると、あちらは貴方の弟がついているから大丈夫だと引き留めてくる。一体どう言う神経をしているんだ、怒りが湧いていた所へ第二王女ミリアリアが声をかけて来た。

「お母様、エリーゼお姉様、オスカー様はまずお着物を召し替えられた方が宜しいかとおもいますわ。私が案内します」

 ミリアリア王女はそう言うと、オスカーの手を取り、王妃達に有無を言わせずこの場から連れ去った。

「いいのですか?」

「大丈夫です。さぁ、オスカー様は治療室の方へ、先程のメイドが気になられているでしょう? 会場の後始末は私にお任せください」

 王族の中で唯一の常識人であるミリアリア王女に言われ、オスカーは城の治療室へと急いだ。


 オスカーの服にはかなりの血が付いている。すべて今、治療中のはずのあの子のものだった。
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