転生先は王子様

五珠 izumi

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 ランディは自室のベッドに寝転び考えていた。 

ノエミ様、やっぱり聖女だけあって感が鋭いようだ。アイツ絶対カールが変わった事を分かっていたよな…それに俺が誰かを探していることも。

 それから、コーディ神官に調べて貰ったあのカード。書いてあった名前の人物は魔女だった。
きちんと魔女登録してあったから、悪い魔女ではない様だ。
しかし、登録者にカール王子の『彼女』達の名前は無かった。…当然か、調べて分かれば簡単過ぎるしな。

 スカーレット嬢のカードに書かれていた魔女の名前は『シシリア・ドルバ』
この魔女〈何でもお見通し〉という魔法を使うらしい。何だよそれ。

カールの呪いも俺のことも見通せてしまうって事か?
…それってつまり、魔女が誰かもすぐ分かるってことにもなるのか?


「おい、リーいるんだろう?」

ランディは天井に向けて声を掛けた。すると、上からコンコンと音がする。

「シシリア・ドルバという魔女の所へ行って、残りの『彼女』の誰が黒か聞いてこい」
すぐにコンと音がした。

 カールの中に香が戻ってから、会っていない『彼女』は後3人。

早く探し出したい…そして…。


◇◇◇


「シシリア・ドルバと申します。初めましてカール王子様」

きつくウェーブのかかった腰まである黒髪の女性が、ランディの横に立ち、私に微笑みながら挨拶をする。

「初めまして、シシリア嬢。ランディの幼なじみなんだって?」

「ええ…そうなんです」

ねっ、とシシリア嬢はランディに可愛らしく笑いかけているのだが、ランディは何故か引き攣った様な笑い顔で応えていた。

…ランディに幼なじみ…そんな人いたのか、それも女の人。

 なんだろう、胸がモヤモヤする。
まるで女の子みたいだ、今の私は男なのに。
こんな気持ちになるなんて…香の記憶が戻ってから心は女性のままだ。
結局、ハーモニー嬢にキュンとしたのも、可愛い物にときめく感じと同じだったし。

このままじゃヤバいよね、ランディに変な気持ちを感じるなんて…。
…もう、誰かと婚約しよう。そして、その人を大好きになろう。そうでもしないと…。

なんて思っていた私の顔を、目を見開いてシシリア嬢が覗き込んでいた。

「ど、どうかした?」
「んふっ、カール王子様って…最近、婚約しようかな?とか考えていらっしゃいますの?」

「あ、ああ、そうなんだ。最近私の『彼女』達が次々と婚約してしまってね、私の彼女のはずなのに…。まぁ私が悪いんだよ、婚約者を中々決めないしね。だけど、もうそろそろ誰か一人を決めて、婚約するのもいいかと思っているんだ」

…思ってはいるが問題は山積みなのだが。
しかし、何で私の考えは周りに分かるんだよ…そんなに顔に出てるのかな?

「そうなんですか…ランディ様にも心に決めた方がいらっしゃいますしね、カール王子様も一人の人を決められても宜しいかも知れませんね。ああそう、ランディ様のお好きな方は私ではありませんよ、これだけは言っておきます、ほほほ」

シシリア嬢は横目でランディを見ながら、ワザとらしく口に手を当てて笑っていた。

「…はは、そうなんだね」

…初めて知った、ランディって好きな人いたんだ。

ランディはシシリア嬢を何故か突き刺す様な目で睨んでいた。
もしかして好きな人がいる事を、私に知られたくなかったのかも…。

その後、ムスッとした顔をしたままのランディは
「本日は午後より休ませて頂きます」
と言って、シシリア嬢を連れ何処かへ行った。

 二人が去っていく後ろ姿を見ている私…何でこんなにモヤモヤした気持ちになるんだろう。

…これじゃ、恋する女の子みたいじゃないか…

◇◇◇


 午後から私には用事も公務も入っていなかった。
部屋に戻ってのんびりしようかなぁと考えていると、3人目の『彼女』、ナターシャ・ミレオン伯爵令嬢が訪ねてきた。

彼女は来るなり謝ってきた。

「…ごめんなさい、カール王子様」
「ど、どうしたんだナターシャ嬢」

「私、好きな人が出来てしまいましたの」

そう言うと彼女は俯いてしまった。

「好きな人…そうか」
「…ごめんなさい」

 私の『彼女』達は最近次々と他に好きな人が出来るなぁ。
私はただの格上げ?…いや、何人かはちゃんと私と婚約したいと言ってくれたな、うん。自信を持とう!

「それで、誰を好きになったの?」
「…怒らないんですの?」
「怒らないよ」

ナターシャ嬢は、顔を上げて私を見つめた。彼女の綺麗な瞳が少し潤んでいる。

「…私、リロイ・フロンティナ伯爵を好きになってしまったのです」

「リロイ?ダイアナ嬢の兄さんの?」

「はい」コクリと頷くと、ナターシャ嬢の頬はほんのりと赤くなった。

私の12人目の『彼女』ダイアナ・フロンティナ伯爵令嬢の8歳年上の兄が確かリロイ令息だった。

「私『彼女』会でダイアナ様と仲良くなって、互いの家を訪ねる様になったのです。それで…」

「…好きになったのか」

 ナターシャは申し訳無さそうに目を伏せた。
髪色と同じ黄金色の長い睫毛が夜空色の瞳に影を落とす。

 この人はカールが4歳の頃、一目惚れした初恋の人だ。しかし全く相手にされず、いつしか恋心は憧れの気持ちへと変わっていった。
…まぁ、他にも好きだと思う女の子が出来ただけだが、子供の恋心とはそういうものだろう…。

その後、『彼女』の制度を作った頃にカールが頼み込んで入って貰っている。

「ナターシャ嬢、私の『彼女』に入ってよ」
「私、カール王子様のことは、弟の様にしか思えませんの」
「それでいいから、君を大切にしてくれる人が現れるまででいいから」
「今まで通り、お友達ではいけませんの?」
「だって『彼女』であれば守れるから、私はあなたを守りたいんだ」

…守る⁈ あれ、何から守るんだっけ?

うーん、と考え込んでいる私にナターシャ嬢は柔らかく微笑みながら言った。

「カール王子様、私はもう守って貰わなくとも大丈夫です。弟も生まれましたし、お義母様とも上手くいっていますわ、『彼女』にして頂いたおかげで虐められる事も無くなって、本当に感謝していますの」

「そうか…」

 そうだった、ナターシャ嬢が10歳の頃、彼女の母親であるミレオン伯爵夫人が病で亡くなった。
その2年後、伯爵が後妻に迎えた女性が、前妻に瓜二つのナターシャを、伯爵の気付かぬところで虐めるようになっていた。それは些細な事の積み重ねであったが、多感な時期のナターシャ嬢にとっては大きな問題となっていた。

彼女は父親を悲しませたくないと誰にも言わず耐えていたのだが、私(カール)はそんな彼女の異変に気付いたのだ。

「私の『彼女』になって、そうすればきっと大切にされる、王子様の彼女だからね、誰も下手な事はできないだろう?」

そう言ってナターシャ嬢を『彼女』へと入れた。

案の定、王子の『彼女』になった途端に義母の虐めは収まった。
…うーん、前妻に似てる娘に嫉妬⁈ 見たいな感じだったのかな?、と私は思う。女心は複雑だからな、つまんない事で憎んだりしてしまうこともあるだろう。

「それで、リロイ令息にはもう気持ちを伝えているの?」
「…はい、お互いに…その」
「…そう」

 カール王子、私だけどさぁ本当、モテないよねー⁈
私も本気で思う人がいないのも悪いんだけどさ

…ランディだって…心に決めた人がいるらしいのに。


 その後、私はナターシャ嬢と『彼女』としての最後のお茶会を2人きりでした。
その間、私はランディの好きな人は誰なんだろうとそればかり考えてしまっていた。


◇◇◇


その頃、ランディは自室に連れてきたシシリアに怒っていた。

「お前なぁ、何でカールに会わなきゃなんねーんだよっ!その上あんな事言いやがって!」

「あらあら、意外に短気さんですのねっこ・う・きさんは」

 シシリアはランディが怒っているのが面白くてケラケラ笑っていた。

彼女の魔法〈何でもお見通し〉でランディに光輝の記憶があることはとっくにバレている。

「私はこの目で見ない事には分からないんですのよ?言いましたでしょ?」

「……くそっ!」

「まぁまぁ、此処に来る前に偶然にもナターシャ嬢をお見掛けしましたの、彼女は魔女ではありませんわ」

「じゃあ、後の二人のどちらかが魔女という事か」
「二人共お呼びになったら?私が見て教えますわよ」
「…いや、残りの二人は、城に呼ぶのはダメだ。一人ずつ会いに行く」

「あら、会いに行った方がよろしいのかしら?…そうですわね、ランディ様の事もありますものね…ふふふ」

 昨夜、魔女シシリアに会いに行くよう頼んだリーは、会った時に自身の正体がバレて逆にそれを盾にされランディの下へ彼女を連れてくる事になったのだ。

〈何でもお見通し〉を甘く見ていたランディが悪いのだが。
シシリアに『呪いを掛けた魔女』を探していると話すと、何故かランディの幼なじみとしてカール王子に会わせろと言ってきた。
カールに残る魔法の力を見ればそれを掛けた魔女が分かると言われ、ランディは嫌々ながら会わせる事にしたのだった。

しかし、シシリアを紹介した時のカールの表情が、何故か切なげでランディはそれが気になっていた。
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