転生先は王子様

五珠 izumi

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「くそっ、俺は何で呪いにしたんだ」

 光輝は小さなお爺さんとの転生設定で、香の男という設定を本来は女で呪いで男になったことにさせた。
その通り、カール王子は生まれた時、女の子だったのだ。しかしそこへ呪いを持った魔女が現れ、王女を王子へと変えた。その上カールが女で生まれた記憶も塗り替えられて、皆始めから王子だと思っているのだった。

「呪いを解きたければ私を見つけなさい、あなたが泣いて頼めば解いてあげる」

魔女はまだ生後二ヶ月のランディに向かってそう言うと消えた。

そして16年が経ち、カールの『彼女』の中にどうやら呪いを掛けた魔女がいるというところまで分かった。

カールが12人目の『彼女』を迎えた日、あの魔女がランディに言ったのだ。

「お久しぶりランディくーん、あなたの探している魔女ですよー」

 ランディはカール王子の部屋へ書類を届けに行く途中だった。昼間だが、何故かいつもいるはずの警備兵の姿も無くおかしいと思っていた時だ。
魔女は姿もなく、声だけがランディの耳に聞こえてくる。

「カール王子の『彼女』の中に私はいますよー、誰かなー?分かるかなー?カールに記憶が戻ったら一年以内に探し出してねー!もうすぐだよーっ」

「ふっふざけるなっ」

「約束したでしょう?私を見つけて泣いて頼めば解いてあ・げ・る、じゃあねー!」

 あれからカール王子がもう一人『彼女』を入れて、さらに二週間が過ぎた時彼女の記憶は戻った。
ダイアナ嬢に叩かれた時だった。

話し方も雰囲気も一瞬にして『香』になった。

「香」と言いたくなる自分を押さえつけた。

今、俺が光輝だと告げる訳にはいかない。
あの魔女はもう一つ俺に約束をしたのだ。

「香の呪いを解くその時までランディ、あなたが光輝だとバレたらダメよ?」

「それは…どうしてだ⁈ 」

「そんなの呪いの王道でしょ?よくあるパターンよ、そういうのがいいものなのよ!」

なんだよ、いいものって!


◇◇◇◇


「あれーっ?何でないんだろう?」
「何を探してるんだ?」
「ひいっ」

耳元の低音ボイスにまったく慣れない私はカール王子。

「おっお前はいつも近すぎるんだよっ」
「いつもはもっと近いだろう?」

ーひいっ、どうゆうこと⁈ すぐ横にいるのにこれ以上近いってどういうこと⁈ 
乳兄弟ってそんなに側にいるものだっけ?

まだ記憶が繋がらない私です。

 朝から私は探し物をしていた。
昨日スカーレットに貰ったあのカードだ。
確かにテーブルの下に隠しておいたのです。意外な盲点?多分気付かれにくいでしょ?
前世の私はヘソクリをこうやって隠してました。
光輝には一度も見つからなかったからね、自信ありなのですよ。

…が、しかし無いのだ。あのあやしい魔女の名前が書かれたカード。
そうこうしていたらランディが来ていた、という訳だ。

「…何でもない、何も探してない」

言いながら目が泳いでしまった。

「…ふうん、そうか」

おっ、ランディがすぐに引き下がった…と思ったら、やっぱり含み笑いをしていた。
……くうっ、ランディめーっ


◇◇◇◇


「私、悪女なんですの…カール王子様」

「…へぇ」

 今日は王立図書館にいる。
この国のことを思い出せない私。王宮の資料をとおもったが、記憶がない事を知られてはまずいと思い、他の調べ物があるふりをして此処へ来たのだ。

ランディと護衛2人を引き連れて来たところ、6人目の『彼女』カミーユ嬢に会ってしまった。

今、図書館内のサロンにてカミーユの話を聞いている。聞かされていると言う方が正しい…

そして彼女は自分の事を『悪女』と言った。

「読んで下さいませ、これ私の事ですの」

そう言うと一枚の切り抜きを渡された。

【カミーユ・ディラン男爵令嬢に心を奪われた令息たちの告白!】

……コレは自慢?って言うか、あなた私の『彼女』ですよね?

「私、ちょっと目が合っただけで好かれてしまって…沢山の殿方の心を奪う私は、悪女らしいのです」

カミーユ嬢は私を上目遣いで見ながら腕をワザと寄せ、胸を強調している。

…うーん、普通の男ならこれでクラクラといっちゃうのかな?確かにカミーユ嬢は小悪魔的な可愛さがあるのだが、私の好みでは無いなー。
さて…これはどう対処するべきなのだろうか…。

後方に立つ護衛騎士達は彼女のお胸をしっかりと凝視していたがランディは見ていないようだ。

…ランディは小さい方が好きなのかしら?

ーはっ違った。

私はとりあえずカミーユ嬢に曖昧な笑みを返した。

「私のこと、他の誰かに取られてしまっても構いませんの?」
「…ん?」
「私、カール王子様の婚約者になってもいいのですよ?」

そう来たか!まーそうだ、やっぱり王子様の婚約者になりたいよね。

さて、私はカミーユ嬢のことをどう思っていたのだろう?好き?では無さそうだ、何だかカミーユ嬢を見てもときめかないし…
うーん、何故この娘が『彼女』なのか…?

 考えていた時、サロンに一人の男が入ってきた。
青い髪の塩顔イケメンな彼は私(カール)に気付くと一礼した。
おや?カミーユ嬢がなんだか赤い顔をして彼をみている。

「カミーユ」
「…ジャスティン様」

ージャスティン!思い出した。彼だ、彼に頼まれたんだった。

ジャスティン・ガルシア辺境伯爵令息はカミーユ男爵令嬢が好きなのだ。しかし、父親のガルシア辺境伯爵が男爵令嬢じゃダメだと言った。
どこの世界でもいろいろあるなぁ…身分違いって奴か…
そこでジャスティン令息はカミーユ嬢を私の『彼女』に一度入れ、その後外れて貰うことで格上げしようと考えて頼みに来たんだった。

でも、ジャスティン令息はこの自称『悪女』令嬢でいいのだろうか?

「ジャスティン、一緒に座って話しをしないか?」

私が言うと彼は喜んでカミーユ嬢の隣に座った。
…ジャスティン…お前…何故そこに…

「…近すぎないか?」

私は呆れて、椅子の肘掛けに右手で頬杖をつきながら二人に言った。

「近いですか?」

そう言ってカミーユ嬢がジャスティン令息の方を向くと二人は鼻がつきそうな距離に居て…

「きゃっ」
「ああ、すまない…つい」

もう少しでキスするところだった二人は、赤くなって俯いている。

…何を私は見せられているのだろう…。

「羨ましいのか?」
「ひっ」
椅子の後ろから屈んで私の耳元に声を掛けるランディ、お前は何故毎度そうなんだよ!

キッと睨むと、何か?と余裕のある顔で微笑みを返してきた。

ーくそっ、ずるい!なんでランディは前世で私が一番好きだったアニメキャラに似てるんだよ!
氷の騎士様と呼ばれていたあの方にクリソツだっ!
ずるいっ私もそうすれば良かったー‼︎

私が悶えていると、俯いていたジャスティン令息が椅子に座り直し、何だか言いにくそうに話を切り出してきた。

「…カール王子様、実はもうそろそろ…」

……ああ、そういう事か!

「カミーユ嬢を『彼女』から外して欲しいのかな?」

ジャスティン令息はカミーユ令嬢の手をいつの間にかしっかりと握り合って私に頷いた。

「ガルシア殿は何と?」
「はい、私の変わらぬ熱い想いをやっと分かって貰え、結婚の許しが出ました」
「そうか、そういう事ならば私の『彼女』にして置かずともよいな。カミーユ嬢もそれでいいのかな?」

「はい、カール王子様には申し訳ありませんが…私のことは諦めて下さいませ」

ーおおっ、そう来たか!何だかよく分からんが私が振られた様な感じだ。
うーん、さすが『悪女』…なのか⁈


◇◇◇◇


「はあー、結局何にも分からなかった」

 部屋のソファーで横になる私。
このソファー、凄く気持ちがいい。さすが王子、家具も一級品ばかりだ。

 カミーユ嬢と別れ、城に戻ると『彼女』から外す為の手続きをとった。
これが結構な書類の量だった。サインして印を押しを繰り返し…何て大変なんだ。
しかし、これで二人が幸せに成るのなら私の努力も無駄にはならないからな。そう思って頑張りました。

 たしか前世でも結婚する時は大変だったなー。
何処の世界も書類ってあるんだなー…
婚姻届を書くときは緊張したし、その後銀行やら免許証なんかの細かい変更が、姓が変わる方はする事多かった。
何で私だけ?って思って勝手に光輝にムカついた事もあったなぁ。只の八つ当たりだったけど…
彼も住所変更なんかあったはずだしね…

ーはっ、また思い出してしまった。
せっかく生まれ変わったのに、それも王子!
プリンスだよ!

彼女も沢山いるし…
もうそろそろ誰かと婚約しよっかなぁ…

後、会っていないのは何人だっけ⁈
とりあえず全員に会わないと…

……うーん…眠い……。

コンコン、………ん…?

「また、こんな所で寝てる……ほら、あっちで寝るぞ…ったく、何で男なんだよ………り」

…ランディの声がする……何で男なんだよ?

どういう意味?……り?私はカール何だけど…。
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