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ものには順序というものが。

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 ラスボス戦は万全の準備を整えて、こちらからお伺いしたいと思うのですが。蛇神様はご自分の根城にどんと構えて、おとなしくお待ちいただけませんでしょうか?

 斑の蛇、禍ツ神、蛇神、呼び方はなんだっていい。とにかく討伐にあたり、こちらの準備はまったく整っていない。旅の終わりに総力戦もキツいけど、存在を認識したばかりでのラスボス戦はもっとキツい。

 あっちがラスボスなら、こっちも対策を練らなきゃいけない。いや、だって、取り憑かれてるヴィラード国王の生死いかんによっては、その後始末をしなくちゃならないじゃない。

 うっかりローゼウス領の内側で死なれたときには、マジもんで面倒くさいことになっちゃうわ。なにがなんでも国境を越えさせちゃならないの。

 白鷹騎士団から伝令が飛ばされて、城砦から大兄様おおにいさま次兄様つぎのにいさまがやってきた。私兵もけっこう連れてきたんだけど、城砦は大丈夫なのかしら。

「十日ぶりだね、我らの薔薇の宝石姫」

 大兄様は私をギュッとハグして、ほっぺたを擦り付けた。

「宝石姫、可愛い顔をよく見せて」

 次兄様は大兄様を引き離して、ほっぺたにキスをした。

「ユリウス、婚約者のディジー嬢に言いつけるぞ」

「兄上こそ、リリィ義姉上あねうえに言いつけますよ」

 妹と奥さんは別バラらしい。

「兄様たち、早く叔父様たちと合流してください」

 色々話し合うことは多い。

 姿勢を正した兄様たちは、すぐに叔父様たちのもとに向かい、ローゼウス一族の上層部と白鷹騎士団の上層部が揃った。三兄様さんのにいさまは騎士団側に座っている。腐っても副団長だもの。

 もうひとりの副団長、アリアンさんは城砦で白鷹騎士団の一部を率いて留守居をしている。ミシェイル様とカーラちゃんを蛇神の前に出さない方がいいって、守護龍さんのアドバイスがあったから、砦巡りにはこなかったの。

 アリアンさんがいてくれてたら、母様とお腹の大きい義姉様のことも安心だわ。

「砦の手前で押し留めている奴らに、一歩だけ足を踏み入れさせようか?」

 次兄様が地図をたたんだ扇で指して言った。

 侵犯させて返り討ちって、大義名分をつくるのね。んー、そんなだったら南端の砦が囲まれちゃった時点で国境は越えられちゃってるわけだから、既に大義名分できてるんじゃない?

 軍議を隅っこで聞いていた私が、よっぽど疑問を感じてる表情カオをしていたのか、となりにいたザシャル先生が説明してくれた。

「今まで浄化してきたのは、おんな子どもが中心の難民ですよ。しかもロージー・ローズ、あなたの力で既に正気に戻っています。武器も持たぬ者が国境をちょっと越えただけで侵略されたと、騒ぎ立てられのがオチですよ」

 そんなものなのか⋯⋯。

 あの人数でちょっとか。鎌や鍬は武器にならないのね。

「その点、このアイラン砦に押し寄せているのは、ヴィラード国王を守るためか知りませんが、市井の民ではなく軍の訓練を多少なりとも受けた者のようです。一歩でも入ってもらえれば、被害者として大手を振って仕返ししましょう」

 仕返しって。ザシャル先生、兄様たちと悪巧みしている間に、なんかお腹の中が黒くなってきてません?

「黄金の三枚羽たる私と、神の一柱ひとはしらたる龍の君が、侵犯の瞬間を見届けましょう」

 神位を持つ守護龍さんは当然として、高位の魔術師であるザシャル先生が見届けるなら、後から文句が出ても押さえつけられるってことか。

「それに、ザッカーリャのときと違って、相手に遠慮する必要がありません。私も全力で参りましょう」

 ザシャル先生が眠たげな目元で微笑んだ。

 ザッカーリャはまだ完全に堕ちていない、生まれたばかりの神様だった。ミシェイル様と言う神子もこっち側にいたから、できればしいさずに済ませたかったのよ。

 守護龍さんもヴィラード国王に憑いている蛇神のことは、一切擁護していないじゃない。それどころか禍ツ神とか言ってるし。

「三枚羽殿が全力と言ってくださるなら、これ程心強いことはありませんね」

 次兄様が可憐に微笑んだ。

 ダメだ、この軍議、顔面偏差値が高すぎる。

「宝石姫、兵士の浄化は最後に回す。先に禍ツ神を墜とすぞ」

「どうして?」

 大兄様に言われて首を傾げた。先頭から片っ端に浄化して進んじゃダメなの?

「難民と違って、兵士は飢えていなさそうなんだ。瘴気を払って正気を取り戻したら、兵士本来の力を取り戻してしまうだろう」

「うっわ、女子どもから食料徴収してたってこと?」

 兵士が飢えてないってことは、そう言うことよね。そしてそのあと、飢えてない兵士が上官の命令に従って剣を振るい始めるのね。浄化すると相手の戦力をアップさせてしまうらしい。

 てことは、マジで兵士相手に肩慣らしもなく、いきなりボス戦っすか⁈

 どんな無理ゲー⋯⋯。
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