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戦い済んで、日が暮れて。

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 ミシェイル様は、赤い瞳をくるんとさせた美少女をそっと抱きしめた。

 ザッカーリャの身体は、薄くなった斑模様と岩がぶつかった痣や裂傷、こびりついた血液で汚れている。ミシェイル様はそれらを痛ましそうに、それから愛おしそうに見てそっと囁いた。

「ザッカーリャ様、僕の女神様。今生の生命いのち尽きるまで、おそばにおります」

 そしてミシェイル様は力尽きた。抱きしめていた腕から力が抜けて、ずるりと倒れそうになった。アリアンさんが造作もなく抱きとめて、ことなきを得る。

「ミシェイル」

 ザッカーリャが心細そうに呟いた。

 よかった、取り乱さない。

 邪気が抜けたから、瘴気を撒き散らすことはないけど、神様の力で暴れられたら、この至近距離じゃ一発アウトだもんね。

「大地の女神様、貴方様が心安く満ち足りたお気持ちでおそばにいてくだされば、ミシェイル殿下の病はじきに癒えますよ」

 アリアンさん、その通りだけどさ。単にザッカーリャが地震を発生させなきゃいい話しで、そばにいる必要はない⋯⋯って、言っちゃダメか。いや、でも、ミシェイル様の体調不良、地震酔いなんだもん。

 ザシャル先生の提案で、私たちはテントに移動した。倒れたミシェイル様とシーリアは、早く寝床に入れてあげなくちゃ。

 アリアンさんが立ち上がると、ミシェイル様を追うようにザッカーリャも立ち上がる。二本の白い脚がよろめいた。

 タタンがサッと視線を逸らした。

 あ、ザッカーリャ、すっぽんぽん。

 半人半蛇の時のたゆんたゆんはなくなったし、長い髪でほぼ全身覆われてるけど、見えそうで見えないのがけしからん。

「先生、外套貸してください!」

 もう、男ども、気が気が利かないわね。シーリアに上着を貸しちゃって、かけてあげるものがなくてオタオタしているタタンが一番紳士よ。

 ザシャル先生から高位魔術師の証である長い外套をひん剥くと、ザッカーリャの身体を覆った。

「⋯⋯いや、子どもだし」

「蛇の姫なので」


 子どもでも蛇の姫でも、女の子は女の子! 

 シーリアが起きてたら、師匠だろうと騎士様だろうと、がっつり説教待ったなし案件だわよ。そうなったら私もユンも止めないからね!

「おや、懐かしい姿だ。蛇の姫よ、正気に戻ったか」

 影が落ちて、頭上から声が降ってきた。見上げたそこにはバロライの守護龍さんがいて、地上に降り立つ寸前に人身に変化へんげした。

 バロライの民族衣装が目にも鮮やかなんだけど、守護龍さんは服を着てるのね。

「龍の君⋯⋯?」

「記憶も曖昧か。永きにわたる苦しみであったな。幼き神よ、我はそなたを滅せずに済んで嬉しく思う」

 人間ひとの手で鎮めることができなかったら、守護龍さんが滅するつもりだったのか。⋯⋯次は無いって言ってたものね。

「神同士、不可侵ではないのですか?」

 ザッカーリャが外套を羽織ったので、挙動が元に戻ったタタンが聞いた。

「神格が上の神が、世界のことわりに触れる前に、一瞬で刈るのだよ」

 あー、守護龍さん、ご自分が神の一柱って認めちゃったわぁ。もう『多分神様』って言えないわ。

 それからミシェイル様をテントに寝かせるときに一悶着。外套の下はすっぽんぽんのままのザッカーリャを、一緒のテントになんか入れられない。ミシェイル様もアリアンさんも紳士なのは信じてるけど、とってもとっても(重ねて言うわよ)居た堪れないの‼︎

 サイズ的にはユンの服が一番良さそうだけど、バロライの衣装は着方が独特だから、衣服に慣れてないザッカーリャにはハードルが高い。私の服を提供して身支度を整えてから、ようやくミシェイル様の隣に押し込めた。

 気付けば陽も落ちかかって、長い一日が終わろうとしている。今朝は薄暗いうちから起き出して、登山して神様と対峙して⋯⋯うん、めちゃくちゃハードだったわ。

「宝石姫」

「ロージーよ」

「ロージー、君の亡骸をガラスの棺に入れずに済んでほっとしている」

 ずこーーッ!

 アル従兄様、まだそのネタ続いていたの⁈ いい加減、やめてくれないかしら⁈

「従兄様、もう色々決着がついたんだもの、それはもう、忘れましょうよ」

「俺が忘れても、親父も叔父上も君の兄貴どもも忘れてないぞ」

 ⋯⋯そうだった。次兄様つぎのにいさまも、なんか黒い計画練ってるんだっけ。

 すっごい疲れてるのに、最後にもっともっと疲れることを聞いたわよ。

「それに俺も、忘れろと言われても忘れない」

 格好いいこと言ってるようだけど、ヤンデレ宣言だからね!

 ローゼウス領の帝国離脱危機は、なんとか回避したわ。あとは帝都に帰るだけよ!

 ん⋯⋯帰れるの?

 

 
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