ママは乳がん二年生!

織緒こん

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よん。

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 保健室でボーッとしてたら、ママが迎えにきたって保健の先生に声をかけられた。

「発熱とかではないんですが、ちょっと授業に出られる感じじゃなくて」

「納得させたと思ってたんですけど、ダメでしたか。騒ぎにしちゃって相手のお子さん、大丈夫ですか? 教室でバツの悪い思いしてません?」

「授業変更して『命の話』をしましたから、なにか感じるものはあったみたいです」

 新谷先生とママの話し声が聞こえる。ママの姿が見えると、いてもたってもいられなくて飛びついた。

「うおっ。ママは意外とB B Aだ! 支えられないから加減してちょーだい」

 ママはよろけて、懸命に踏ん張った。背中をポンポンしてくれて、ちょっと落ち着く。

「シフトお休み?」

「うん。お迎え、パパがよかった?」、

「ママがいいけど、寝てなくてよかった?」

「そうです、お母さん。体調はいかがですか?」

 先生が思い出したように言った。

「自覚症状がないので、手術するまでは元気ですよ。高橋君、ですっけ? あんまり大事にはしないでくださいね。ステージで言ったらゼロとか一ですもん。お空に行く方が難しいと思います」

 ママはあっけらかんと言った。

「ただ、揺れる年頃ですから、私の病気のことで不安定なんですね。机をなぎ倒したって聞いてびっくりしました。なにしろウチのスズ、面倒くさがりのインドアなもので、そんな情熱があるなんて主人もめちゃくちゃ驚いています」

「あぁ、まぁ。教室でも普段は本ばかり読んでいますね。あんなことする子じゃないので電話をしてしまいました」

「いいえ~、ありがとうございます。今日は早退させますね」

 ママと一緒に教室まで行って、ランドセルをとってくる。廊下で待っているママをクラスの子たちがチラチラ見ていて、高橋がマナちゃんに肘で突かれていた。

「木村! ⋯⋯あの、ごめん」

「⋯⋯うん」

 それから高橋は廊下まで走って行って、ママの前でペコリと頭を下げた。

「木村の母ちゃ⋯⋯、じゃない、木村さんのお母さん、すみませんでした!」

 ママは一瞬、目をぱちくりさせて笑った。

「やっだ、素直でかわいい! ちゃんと謝れる子はおばちゃん好きだよ。 でもね、生きるとか死ぬとかは、人が好き勝手に言っていいものじゃないからね。あと、おばちゃん、まだまだお空に行く気はないから気に病まないでね」

「⋯⋯うん、じゃない、はい!」

 高橋はそのあとどうしたらいいのかわからないみたいだった。ママは私を呼ぶと「帰るよ」と言って、高橋に手を振った。

「スズも机を倒したの、謝んなさいよ」

「⋯⋯⋯⋯机、ごめんね」

 いつものスズなら、あの程度の軽口、適当に笑ってたんだろうなって、中学生になった今なら思う。でも、ママのがんを知ったばかりの小学五年生のスズは、訳もわからず混乱してた。

 あの日の帰り道、トロトロ歩きながらママが言った。

「ママのために怒ってくれてありがとね。ウチのかわい子ちゃんがかわいすぎて困っちゃうなぁ。でもゴジラを産んだつもりはないからね。暴れちゃダメだよ」
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