上 下
12 / 12
孤独な旅、歓迎のニアメア王国

12

しおりを挟む
(それでも……僕は彼女を助けたい)

 アレキサンダー王子は試行錯誤した。
 フローレンスの力を頼りに全軍を突撃させて一気に魔物を撃退する方法も、死傷者が出ることを覚悟でフローレンスには休んでもらう方法も、せめて自分だけでも戦場に出続けること方法も。王子として、戦闘員として、一人の人間としてどう判断すればいいのか悩んだ。そして、現にこれから軍団長や大臣達とも話し合いをするつもりでいる。

 ただ、フローレンスの姿を見てしまった彼は、自分の様々な立場もあったけれど、一人の人……というよりも男として、彼女の支えになりたいと思った。アレキサンダー王子は勇者のパーティーとして魔王討伐をしたフローレンスを尊敬しているし、現に今も多くの兵のために誰よりも頑張ってくれている彼女に尊敬の念を抱かずにはいられない。その尊敬の念の中に敬服と敬愛が入っており、アレキサンダー王子は自分の感情を整理できる人間だったので、さらにその敬愛の中に異性としての愛が含まれていることも自覚していた。

 一人の女性のために今まで自分に尽くしてきた国民を裏切るわけにはいかない。アレキサンダー王子は自身、王子としての判断としても、フローレンスに回復師を付けることは間違いでないと思いつつも、彼女をひいきしてしまっているかもしれないとも思っていた。聡明なアレキサンダー王子でも、初めての感情に戸惑ってしまっていた。

(無理強いはしない……協力が得られなければ……僕が彼女を……)

 アレキサンダー王子は拳を握り締める。神の領域に等しい彼女であっても、必死に兵の安全のため回復等を行っていた彼女の背中は小さくか細かった。そんな彼女を自分だけでも支えになりたいと思っても、全権を担っている彼がその職務を全うしないわけにはいかない。

「……わかりました。私が行きます」

 先ほど、手を上げた女性の回復師が再び手を上げてくれた。

「じゃあ、私も行こう」

「じゃあ、私も」

 アレキサンダー王子が顔を上げると、5名の回復師が手を上げてくれた。それを見て、アレキサンダー王子は目頭が熱くなりながら、

「ありがとう」

 と言って、もう一度頭を下げた。
 それから、アレキサンダー王子とフレイア、そして5名の回復師はフローレンスのいる場所へと向かった。

「こんな遠くで、いいんですか?」

「あぁ」

 戦場から遠いことがわかった回復師たちはホッとして安堵の声を漏らす。

「でも、凄い……この距離を届かせるなんて……」

 一人の回復師がフローレンスの回復を目の当たりにして、唖然とする。今まで戦場に行くと言ったものの、戦場に行くのが怖い、という感情で埋め尽くされていた回復師たちは、ようやくフローレンスの凄さに気づく。

「いいえ、万を超える人数の方が」

「それよりも、全ての状況を把握していることの方が」

 回復師たちも世界で考えれば、上から10パーセントもしくは5パーセントに入るレベルの回復師たちだった。だが、そんな彼女達であっても、回復師の頂点に立つであろうフローレンスの実力ははるか雲の上の存在だった。

「みんな、彼女の補助を頼む」

 アレキサンダー王子に言われて、我に返った回復師たちは慌てて、フローレンスに回復をかけ始めた。すると、汗をかいて、険しい顔をしていたフローレンスの顔が徐々に健やかな顔になっていく。

「ありがとうございます……みなさん。そして………アレキサンダー王子」

 大規模な回復・強化・弱体化に慣れてきて、魔物の弱体化も進み、アレキサンダー王子が連れてきた回復師たちの回復と強化でようやく喋る余裕ができたフローレンスは皆に、そして、アレキサンダー王子にようやくお礼をいうことができた。

「ああっ」

 アレキサンダー王子はフローレンスが元気になったのを見て、嬉しい気持ちになりながら、笑顔で返事をした。

(この気持ちは……)

「よし、待たせたなフレイア。行こう」

「はいっ」

 国民一人一人が自ら考え行動し、魔王城の近くであっても生き延びてきた。当然、アレキサンダー王子やフレイアが居なくても、すでに軍団長や大臣達を始めている。アレキサンダー王子はフローレンスの傍に居たいと思う気持ちがありながらも、それでも王子として、知略を発揮できる者として、軍議に急いで向かった。

(この気持ちは……この戦が終わったら伝えよう)
 
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

時間が戻った令嬢は新しい婚約者が出来ました。

屋月 トム伽
恋愛
ifとして、時間が戻る前の半年間を時々入れます。(リディアとオズワルド以外はなかった事になっているのでifとしてます。) 私は、リディア・ウォード侯爵令嬢19歳だ。 婚約者のレオンハルト・グラディオ様はこの国の第2王子だ。 レオン様の誕生日パーティーで、私はエスコートなしで行くと、婚約者のレオン様はアリシア男爵令嬢と仲睦まじい姿を見せつけられた。 一人壁の花になっていると、レオン様の兄のアレク様のご友人オズワルド様と知り合う。 話が弾み、つい地がでそうになるが…。 そして、パーティーの控室で私は襲われ、倒れてしまった。 朦朧とする意識の中、最後に見えたのはオズワルド様が私の名前を叫びながら控室に飛び込んでくる姿だった…。 そして、目が覚めると、オズワルド様と半年前に時間が戻っていた。 レオン様との婚約を避ける為に、オズワルド様と婚約することになり、二人の日常が始まる。 ifとして、時間が戻る前の半年間を時々入れます。 第14回恋愛小説大賞にて奨励賞受賞

【完結】没落しましたが何か?婚約を再びって…。二番煎じに興味はありません。

BBやっこ
恋愛
没落、それは貴族社会においてその存在を貶めるー その理由には王の命令、領地を治める能力がないと認められてしまう。まtしゃ 賠償金。私の家は、船の沈没により その荷物が王族への上納品だったため…不興を買ってしまった。領地は半分にされ、爵位も落とされ… 婚約破棄。あっさりと捨てられた。許さない、見返すわ!

ぽっちゃりな私は妹に婚約者を取られましたが、嫁ぎ先での溺愛がとまりません~冷酷な伯爵様とは誰のこと?~

柊木 ひなき
恋愛
「メリーナ、お前との婚約を破棄する!」夜会の最中に婚約者の第一王子から婚約破棄を告げられ、妹からは馬鹿にされ、貴族達の笑い者になった。 その時、思い出したのだ。(私の前世、美容部員だった!)この体型、ドレス、確かにやばい!  この世界の美の基準は、スリム体型が前提。まずはダイエットを……え、もう次の結婚? お相手は、超絶美形の伯爵様!? からの溺愛!? なんで!? ※シリアス展開もわりとあります。

旦那様、そんなに彼女が大切なら私は邸を出ていきます

おてんば松尾
恋愛
彼女は二十歳という若さで、領主の妻として領地と領民を守ってきた。二年後戦地から夫が戻ると、そこには見知らぬ女性の姿があった。連れ帰った親友の恋人とその子供の面倒を見続ける旦那様に、妻のソフィアはとうとう離婚届を突き付ける。 if 主人公の性格が変わります(元サヤ編になります) ※こちらの作品カクヨムにも掲載します

婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな

カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界 魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた 「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね? それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」 小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く 塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう 一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが…… ◇◇◇ 親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります (『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です) ◇◇◇ ようやく一区切りへの目処がついてきました 拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです

婚約破棄されたショックですっ転び記憶喪失になったので、第二の人生を歩みたいと思います

ととせ
恋愛
「本日この時をもってアリシア・レンホルムとの婚約を解消する」 公爵令嬢アリシアは反論する気力もなくその場を立ち去ろうとするが…見事にすっ転び、記憶喪失になってしまう。 本当に思い出せないのよね。貴方たち、誰ですか? 元婚約者の王子? 私、婚約してたんですか? 義理の妹に取られた? 別にいいです。知ったこっちゃないので。 不遇な立場も過去も忘れてしまったので、心機一転新しい人生を歩みます! この作品は小説家になろうでも掲載しています

捨てられた侯爵夫人の二度目の人生は皇帝の末の娘でした。

クロユキ
恋愛
「俺と離婚して欲しい、君の妹が俺の子を身籠った」 パルリス侯爵家に嫁いだソフィア・ルモア伯爵令嬢は結婚生活一年目でソフィアの夫、アレック・パルリス侯爵に離婚を告げられた。結婚をして一度も寝床を共にした事がないソフィアは白いまま離婚を言われた。 夫の良き妻として尽くして来たと思っていたソフィアは悲しみのあまり自害をする事になる…… 誤字、脱字があります。不定期ですがよろしくお願いします。

処理中です...