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「はあーっはっはっはっ」

 魔王は元気に笑いながら、私のところ、というか王座へと向かって歩いてくる。

「はっはっはっはっははは・・・・・・っ」

 しかし、階段を登るごとにその笑い声は乾いていき、私も階段を降りて迎えに行く。
 そして、私と魔王は向き合う。
 私の方が身長は小さくて、2段上にいてもまだ彼の方が大きいけれど、いつもより、顔が近い。だから、私は彼の兜を取ってあげる。重たいけれど、彼の大事な頭と顔を守る重要な防具だ。

「よいしょっと・・・。あらあら」

 さっきまで、笑っていたとは思えない男が悲しい顔をして目を伏せていた。

「はいはい、ちょっとごめんなさいね」

 私はハンカチで彼の顔を拭く。
 土やほこりを払ったけれど、乾ききった部分は乾いたハンカチでは全然落ちない。何か水分を含ませないと・・・。そうそうこんな感じで・・・。

 私のハンカチに彼の涙が染み込む。
 私は彼の顔を少しだけ拭いて、

「よしよし、頑張ったね」

 私は彼の頭を撫でた。
 
 本当は褒めていいのかもわからない。
 でも、私は彼を褒めることに決めている。

 彼は元勇者だったそうだ。
 志高く、人々を平和に導こうと頑張った。
 けれど、あとわずかで世の中がみんな幸せになれそうになったところで、人々は喧嘩をしだした。
 
 理由は簡単なことだ。
 平和になった世の中で誰が上に立つのか、下に立つのか。
 彼の知らない所で朝から晩まで口ゲンカが起こり、派閥ができて、武力を伴う争いが起きたそうだ。

 そして、彼のいないところで各地で権力を持った王や貴族は、彼を魔王として敵に祭り上げた。
 巨悪を討った人が悪になるなんてどこかで聞いたことがある話だし、私はだからと言って、復讐をしても誰も幸せになれないなんて、偉そうなことを彼の苦しみの一部を思えば、言うことができなかった。

「やっぱり・・・キミは聖女だ・・・。偉大なる聖女だ・・・」

「そうね・・・、あなたにとっては聖女かもね」

 しかし、権力者から見れば、悪女でしかない。
 私が、彼のところに来てから、聖なる術で食料を確保したり、彼の心の支えになっているのだから、魔王軍の活動は飛躍的に拡大した。

(ねぇ・・・神様、聞こえる?)

 私は目を閉じて、神様を呼ぶ。

『うーむ』

(久しぶりね。神様)

 この頃は聖なる術で話しかけても、食料は与えてくれても、返事は与えてくれていなかった。

(元気そうでよかったわ)

『お主もな・・・』

(ねぇ、私たちは地獄に落ちるのかしら?それとも、この世界の救世主になれるのかしら?)

『それは・・・』

 神様は重い口を動かした。
 
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